近年、地方で起業したいという人が多く見受けられるようになりました。都心ではなく、あえて地方を選択するメリットはあるのでしょうか?
今回の記事では、地方で起業するメリットとデメリットや、起業する際の注意点を解説します。事業に失敗しないために、ポイントをしっかりと踏まえて、準備を進めることが大切です。地方での起業に向いている職種や起業の方法についても紹介しますので、ぜひ参考にしてみましょう。
地方での起業が注目されている背景
地方で起業する人が増加したのはどうしてでしょうか?ここでは、地方での起業が注目されている背景について確認しましょう。
リモートワークの推奨
新型コロナウイルス感染拡大防止対策として、リモートワークを導入する企業が増えています。
多くの企業がリモートワークの体制を整えた結果、都心部から離れた田舎で事業を始めやすくなりました。Web会議システムやチャットツールの導入など、遠方にいる人でもやり取りできる環境が整備されたことで、取引先と会議を行う際にわざわざ会社に出向く必要がなくなり、地方から業務を行うことが可能になりました。
将来的にもリモートワークは多くの企業で定着していくことが予想されており、地方での起業に対するハードルが低くなっています。
都会のストレス
人口が集中する都心部では、満員電車で通勤することや、交通量の多さなどによって、ストレスを感じやすい傾向にあります。
メンタルヘルスに注目が集まっている現在、ストレスを軽減させるために地方での起業を選ぶ人が多く見受けられるようになりました。 人口が少ない地方に移住することで、通勤等によるストレスを減らすことができます。
また、都心部には山などの自然が少なく、リラックスできる場所が多くありません。
自然の多い地方に拠点を構えることで、ストレスフリーな生活を送ることができます。
一極集中による問題
国土交通省の調査※1によると、現在は国民の3割が東京都に住んでおり、一極集中による問題の改善が求められています。新型コロナウイルスの影響により、一時は緩和傾向にあったものの、東京都に住む人口の割合は上昇傾向にあるのが現状です。
人口が集中することによって、災害時のリスクが高まるなど、様々な問題が生じるため、地方移住やテレワークを促進する動きが見られるようになりました。実際に、地方で起業する人を支援する起業支援金や、サテライトオフィスなどが設けられ、一極集中による問題を改善しようとする取り組みが増えています。
参照 ※1 企業等の東京一極集中に関する懇談会とりまとめ
都会での起業との違い
地方で起業することでどのような利点があるのでしょうか?ここでは、都会での起業との違いを紹介します。
支援を受けることができる
政府は地方から東京圏への人口流出を問題視しており、地方創生への取り組みを積極的に実施しています。
その取り組みの一環として、地方で起業する人を支援する「起業支援金」の制度が設置されました。起業支援金とは、地域の課題解決に関する事業を始める人を対象にした支援金制度であり、最大200万円の助成金を受けることができ、起業のための資金に活用することができます。対象者の条件や支援金の概要について、以下のURLから確認できますので、ご参照ください。
コミュニティが狭い
人口が多い都心部に比べると、地方におけるコミュニティの範囲は限られています。 そのため、悪い噂や口コミが広がる可能性があり、地域コミュニティとの関係づくりに注意が必要です。
例えば、新しいビジネスによって、すでに地方に住む人々が営んでいる事業が低迷してしまうなどの事態は避ける必要があります。地域コミュニティに貢献できるようなビジネスを展開することが大切です。
地方ならではの事業を始められる
地方には地方創生をテーマにしたビジネスチャンスが満ち溢れています。
都心部では、すでに多くのビジネスモデルが存在しており、新しい事業をスタートすることは決して簡単なことではありません。しかし、都会ではできない地方に特化した事業を始めることで、自己実現だけでなく、地域に貢献するビジネスを展開できます。
例えば、人口が少ない地方で問題視されている介護事業所の不足や、漁師や農家の後継者問題、雇用機会の減少などに焦点をあてることで、地方における課題を改善できます。
地方での起業に向いている業種
地方で起業するのに向いている事業には何が挙げられるでしょうか?ここでは、地方における起業におすすめの業種を紹介します。
IT関係
上記で紹介した国土交通省の調査※1では、修学や就職のために東京へ移住する20代前後の層が多いことが明らかになりました。ITサービスに親しみのある若者が流出することにより、地方におけるIT関連の整備が遅れています。
そこで、地方で通信環境や必要な機器を提供するビジネスを展開することで、労働者が地方からテレワークできる環境を作ることができ、地域課題の改善が可能です。実際に大手IT企業も地方創生を目的にしたビジネスを展開しており、地方におけるIT関連のビジネスは注目を集めています。
飲食店
現在は、地域経済の縮小や人口減少、高齢化により、地域コミュニティの衰退が懸念されています。そこで、レストランやカフェ、居酒屋など、地方に住む人々が交流できる場所を作ることで、新しいコミュニティの形成が可能です。
また、地方の特産物を使うことで、農業や漁業等の支援にも繋がります。さらに、観光客などの一時滞在者にも地域の魅力が伝わるようなサービスを展開することで、都心部から移住したいと思う人を増やすことができます。
農業
地方の農家と連携したサービスを立ち上げる起業家も多く見受けられます。都心部に対してどのように農産物を販売していいか分からないという農家に向けて、都市と農家を繋ぐネットワークを提供することで、地方の農家を支援することができるのです。
サスティナブルやエシカルな価値観を重視する人々が増加するのに伴って、現在はトレーサビリティへの注目が高まっています。そのため、地方と都市を繋ぐネットワークは、地方の農家だけでなく、都心部に住む人々にとっても有益です。
観光業
地方創生への取り組みの一つとして、観光による町おこしが実施されています。
観光客によって域外資金の流入がもたらされることで、地域経済の活性化が期待できるためです。実際に、観光客を呼び込むためのPR活動を行う事業や、魅力的な観光地を目指すための支援事業などをスタートする起業家が見受けられるようになりました。
近年はテレワークの普及に伴って、旅行と仕事を両立する働き方のワーケーションにも注目が集まっており、ワーケーション関連のサービスを提供するビジネスも増えています。
ネットショップ
地方でEC関連サービスを展開するビジネスモデルも見られ始めています。 魅力的な伝統商品や特産物などがあるにも関わらず、オンラインショッピングへの対応ができておらず、販売機会を逃しているのが地方の現状です。
そこで、通信環境や機器、オンラインサイトなどを代行して用意することで、地方の商品を都心部に販売することができます。ECサービスの立ち上げと併せて、Webマーケティングなどのコンサルティング等を行なっている企業も増えています。
地方で起業する方法
地方で起業するには何から準備すればいいのでしょうか?ここでは、地方で起業する方法を紹介します。
起業の目的を考える
まず起業の目的を考えるところから始めましょう。法人を設立する際は、定款に事業目的を分かりやすく記す必要があります。
・なぜ地方で起業したいのか
・なぜその地域なのか
・起業を通して地域に貢献できることはあるか
・都心部における起業では得られない利点は何か
上記のような観点から目的を考えることが大切です。起業の目的は事業計画やターゲット層の設定、資金額などを考える上でベースになる部分なので、熟考する必要があります。
情報収集をする
起業の目的が定まったら、次は情報収集を行ないましょう。考えているビジネスが地方のニーズに合っているのか確認する必要があり、インターネットで情報を集めるだけでなく、実際に地域を訪れてヒアリングすることも重要です。
ニーズに合っていない事業をスタートさせても、上手く行かずに失敗してしまう可能性があります。起業を考えている地域でどのような潜在ニーズがあるか、効果的なサービスは何か、しっかりと調査を進めましょう。
事業内容を具体的に決める
起業の目的や地域の情報を収集できたら、続いては事業内容を具体的に決めていきましょう。どのようなサービスをどのターゲット層に向けて展開するのか、具体的に明文化していきます。
また、いつまでにどれくらいの成長が見込めるかなど、売上予想や経費の計算なども併せて行うと良いでしょう。他にも、従業員やオフィスの設置場所、税金関係の処理など、詳細事項を確認していくことが大切です。
資金を集める
具体的な事業プランが決まった後は、資金集めを行いましょう。ビジネスをスタートするのに十分な資金を用意する必要があります。
自己資金だけで足りない場合は、地方で起業する人を対象にした支援金や助成金制度を活用するのがおすすめです。他にも、日本政策金融公庫や金融機関からの融資、投資家からの援助などの方法が考えられます。
近年は、インターネット活用したクラウドファンディングによる資金集めも主流になってきています。
手続きを行う
最後に起業に必要な手続きを完了させましょう。設立する組織の形態によって、必要な書類や手続きの方法が変わるので注意が必要です。例えば、会社を設立する場合、登記申請書や定款、振込証明証など複数の書類を用意する必要があります。
また、会社を設立する際は、定款の謄本手数料や定款の認証手数料、収入印紙代などの設立費用がかかることも覚えておきましょう。個人事業主の場合は開業届を提出するだけで手続きは完了しますが、売上によっては法人の方が節税効果を得られる可能性があるので、ビジネスプランに適した組織の形態を選択することが大切です。
地方での起業を成功させるポイント
地方での起業を失敗しないためにはどのような点に注意する必要があるのでしょうか?ここでは、地方での起業を成功させるポイントを紹介します。
既存のビジネスと被らないようにする
地方で起業する際、事業内容が既存のビジネスと被らないように注意する必要があります。既存のビジネスと似通った事業内容だと差異化を図るのが難しく、市場で負けてしまう可能性が高いためです。
さらに、すでに地域で事業を営んでいる人々からの反感を買う恐れがあります。地域コミュニティが重視される地方では、既存のビジネスと連携して相乗効果を得る、地方の課題を改善するなど、地方創生に役立つビジネスを展開することが重要です。
地域の人々との関係に注意する
新しいビジネスを展開する際は、地域に住む人々との関係づくりに気をつけましょう。伝統を重んじる地方では、新しいサービスや製品などが受け入れられないことがあります。そのため、新しいビジネスがどのようなメリットをもたらし、地域に貢献するのか分かりやすく伝えて、理解してもらうことが大切です。
新規事業に関する悪い噂が地域コミュニティ内で広まってしまうと、サービスを利用する人が減ってしまい、事業を軌道に乗せることが難しくなります。
起業の意志を強く持つ
複雑な手続きや精度の高いビジネスプラン、周りとの関係づくりなど、起業するには様々な準備を行う必要があります。ある程度の時間とお金を必要とする起業を成功させるには、起業の意思を強く持つことが重要です。
これまで、ビジネス内容が地方創生にとって重要なものである必要性を述べてきましたが、同時に自己実現に適した事業を展開する必要があります。自分にとっても地域にとっても有益なビジネスであれば、手間がかかる準備へのモチベーションを保つことができます。
まとめ
今回の記事では、地方で起業を考えている人に向けて、地方での起業が注目されている背景や地方での起業を成功させる方法やポイントを解説しました。
近年は、一極集中による問題や都心部に住むことで生じるストレスなどが課題として捉えられており、地方で起業したいという人が増加しています。新型コロナウイルスの感染防止対策としてリモートワークが普及したこともあり、地方での起業に拍車がかかりました。
地方で起業を成功させるためには、既存のビジネスを配慮しながら、地域の問題を改善するようなビジネスを展開することが大切です。
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