そもそも焼師ってどんな職業なの?

焼師という職業は、耳馴染みがありませんよね。求人情報誌にはどこにもそんな名前の職業は載っていません。それもそのはず。焼師とは、起業した中村圭一さんが生み出した言葉なんです。では、焼師とはどんな仕事をしているのでしょうか。


結論から言うと、焼師の仕事は一つ。ズバリ、BBQで肉や野菜などを焼くことです!いわゆる出張BBQのような仕事を思い浮かべてもらえれば、イメージしやすいでしょう。BBQをしたくなったとき、彼の力が必要になってきます。


海やバーベキュー場で自分たちだけでBBQをしたことがある人なら誰しも、その準備や片付けが大変だと感じたことがあるのではないでしょうか。


事前に炭をホームセンターで購入して、大量の肉や野菜をスーパーで買い揃えておく必要があります。食材の量はなんとなく予想できますが、慣れない方だと炭をどれくらい買ったらいいか判断が難しいですよね。余った炭は他に使い道がなく、去年の夏に買ったものが部屋の隅に置かれたまま一年ずっと放置されているケースもあるでしょう。


当日はもっと大変です!火がつかなければ何も始まらないので、自分たちで火起こしをする必要があります。火がついても、それを効率よく燃やすための炭の組み方なんてよく分からないですよね。肉を焼く前から一苦労です。さらに大変なのが、終わった後の片付け。炭の処理は面倒ですし、やはり楽しんだ後の片付けに気分が滅入る人もいるでしょう。 これらの手間を一気に解決してくれるのが、焼師の仕事。しかしそれだけなら、ただの出張BBQと同じじゃないかと考える人もいるでしょう。そう、焼師の力が発揮されるのはここからなんです!


その話に入る前に、まずは焼師こと中村圭一さんがなぜこの仕事を始めるに至ったのか、という点をクローズアップしてみましょう。



一時期はホームレス生活も!地元に戻って一念発起

2022年夏のとある日。福岡市内のカフェで中村圭一さんに、話をうかがいました。


お決まりのビーサンスタイルで取材に応じてもらいました


コロナ禍がおさまりかけたかと思いきや、第7波が拡大してきたタイミング。BBQの予約はほとんどキャンセルになってしまっているとのこと。「かなり苦しい状況ですよね」と問いかけると、コロナ禍に入って同じような状況が何度も起こっていることで、心構えはできているようでした。


また、肝が据わっていると感じたのには理由がありました。それは焼師として起業する前、壮絶な経験を彼はしていたからです。

7年前。中村さんは東京で出張BBQの仕事をしていました。しかし仕事を失い、一時期ホームレス生活を余儀なくされます。その現状を知った友達が心配して中村さんの親に連絡。福岡の実家へと呼び戻されます。福岡で一度就職したものの、自分が本来したいことはまた別だと感じていた中村さん。その時に感じていたのは「やっぱBBQしたい!」という気持ち。厳しいながらも話は聞いてくれる父からは「事業計画書を出せ!」と言われ、そこから彼の新たな道は開けていったのです。 


起業当時は32歳。名刺は作っておらず、手に持っていたのはトングくらいでした。しかしここから焼師としての活動が始まります。知り合いや友達を作るところから始まり、そこで彼の活動を知った人からBBQの予約が来るようになったのです。



BBQで縁が繋がり、仕事になっていく


実は中村さん、BBQの受付を公に行わず、知り合いの予約だけを受ける形で活動しています。そこには彼がこれまで築きあげてきた、人と人との繋がりが感じられます。例えば、シンガポールでの活動。中村さんはこれまで縁がなかったシンガポールにおいて、焼師としての活動を精力的に展開していきます。中村さんはこう語ります。


「日本とシンガポールではBBQの頻度が全然違うんですよ。シンガポールでは明日空いてるかと聞かれて、すぐに焼きに行くスタイル。そこで人を紹介してもらって、また次の仕事が入っていきました」


現場に行けば行くほど、人との繋がりが増えていったそうです。それは彼がBBQにおいて、人と人とのコミュニケーションを大事にしており、また「彼をBBQに呼びたい」、「友達のBBQに彼を紹介したい」と思われていたからでしょう。


「BBQはコミュニケーションのツールだと思っています。BBQをやるのは屋外で、非日常な空間。ランチや飲み会でも他人とご飯を食べる機会はありますが、同じ一時間を使っててもBBQの方が断然仲良くなれると思うんです。最初は見知らぬ人同士で、少しよそよそしい雰囲気だったとしても、そこから1時間くらいすると仲良くなっていくんですね。僕は肉を焼きながら、その雰囲気を見渡すのが大好きなんです。これがBBQをやる醍醐味だと感じています」



BBQでみんなの笑顔を見られるのがやりがい


焼師の活動をしている中村さんは、オフィスを持たない個人事業主という形態で活動しているため、出社や同僚という概念がありません。しかしBBQは一人ではできず、ゲストがいるからこそ成り立つイベント。そこで彼は自分が肉を焼くBBQの場を職場と称し、一緒にBBQをする人たちのことをまるで同僚のように感じているそうです。今の時代、会社勤めでストレスを感じている方は少なくないでしょう。しかし中村さんのBBQという、自分の職場に集ってくる人たちの笑顔率は100%。みんな笑って過ごしています。お酒を飲み過ぎて、酔って吐いているおっちゃん。転んで泣いている、子ども。でも、どちらも次の瞬間には笑顔を見せているのです。そういった瞬間を見るのが、中村さんの幸せだと言います。


もし彼がいなければ、小さなお子さんがいる家庭だとお父さんは肉を焼くのに精一杯で、我が子とゆっくりコミュニケーションを取れないかもしれません。油断すると危険があるので、なかなか気が休まりませんね。中村さんは特に心強い存在なのです。 このように中村さんがいるBBQでは、危険や面倒な手間がなく、さらに楽しめる空間作りができています。この点が従来の出張BBQにはなかなかない点であり、友だちからの口コミで徐々に縁がつながっている由縁だと言えます。



SNSの投稿内容がおもしろい!トレードマークはビーサン


中村さんが持っているサンダル(ごく一部!)


中村さんの人柄は、彼のインスタグラムを覗いてみるとよく分かります。クスリと笑えるストーリーや投稿をたびたびアップしているのです。 彼の特徴をよく表しているのが、足元のビーチサンダル。靴を履くのは冠婚葬祭の時くらいで、あとは「ビーサンが正装」というのが彼のスタイルです。冬も毎日ビーサンを履いている彼が一番嫌いな感覚は「寒い」なのだとか。


いつも明るい話題を振りまいてくれる中村さん。投稿やストーリーの雰囲気からも、彼が周囲の人から愛されているのだろうなということが伝わってきます。



焼師が語る今後のビジョンは専用のBBQ場を作ること!

そんな中村さんに、今後のビジョンを語ってもらいました。コロナ禍がなかなか落ち着かない中、今後の活動の方向性がなかなか定まらないというのもありますが、彼には一つの大きな野望がありました。


それは専用のBBQ場を持つこと!そもそもBBQができる場所が少ないと中村さんは感じているそうですが、どういったBBQ場を作りたいかといったところにも具体的なビジョンがあるようです。


「BBQ場で働くスタッフは全員、焼師にします。僕が焼くための講座を開いて、焼師を育てていきたいですね。 学校の勉強では火起こしのやり方って習わないじゃないですか。自分たちでBBQをしている人の中には見様見真似でやっている人もいますが、あれって結構危なかったりするんですよ。 他に炭の組み方など、専門的な知識もどんどん教えていきたいですね。松ぼっくりは着火剤になるなどの豆知識なども含めて。そういった人たちが増えて、楽しいBBQができるところを作っていきたいです」


いずれ中村さんが思い描くような、みんなが気軽に集えるBBQ場がオープンしていくとよいですね。これからの中村さんの焼師としての活動がどうなっていくのか、とても楽しみです。



焼師 中村圭一さん


Instagram

@kei039


予約受付は知り合いのみ 



関連記事