新潟大学からそう遠くなく、近隣に住む学生も多い内野駅周辺ですが、このあたりは昔ながらのお店が多い地域。ふらりと入れる雑貨屋やカフェはほとんどありませんでした。しかし、ここ数年で、新しいお店が少しずつ増え、注目されつつある町です。



そんな内野駅の小さなセレクト文具屋さん。こじんまりとした入口ですが、一歩足を踏み入れると、文具や雑貨好きの心をくすぐる空間がぶわっと広がります。外から見る印象よりも、ずっとずっと広いです。

店主の神林さんは、愛媛県松山市生まれ。結婚をきっかけに新潟へ移住してきたそう。



愛媛から新潟へ、結婚を機に移住


— 新潟は、全国でも特に東京へ行く人が多いと言われていて、新潟を離れる人の多くは、新潟に愛着はあるものの「新潟には何もない」と言いがちです。例にもれず、筆者もそのひとりなのですが、愛媛から新潟へ、移住に抵抗はなかったのでしょうか。


「抵抗はなかったです。あまり新潟に来たこともなかったし、新潟のことをあまり知りませんでした。たまたま主人が新潟出身で新潟だっただけで、住む場所にはそれほどこだわらないので、それが外国だったとしても抵抗はなかったと思います。」


— 新潟の暮らしはどうですか?


「新潟は自然が雄大ですよね。特に、日本海を見て感動しました。四国の海は瀬戸内海なのですが、島がたくさんで地平線が見えない。新潟に来て、初めて見渡す限りまっすぐな海を見ました。あとは、新潟は水が美味しい。雪国ならではの雪解け水のおかげで、お水が全然違います。愛媛はずっと日照りが続くので、水不足になったりしますから。お水が美味しいので、お米、野菜、お酒、全部美味しいです。関西と関東、西と東、味のギャップがおもしろいなぁと思います。」




— ツバキ舎があるのは、「内野」という町です。新潟の中心街から離れていて、ベッドタウンでもある西区の端っこ。なぜここで雑貨や文具を扱うお店をしようと思ったのでしょうか。


「もともと、この建物は空き店舗を利用したシェアアトリエとしてものづくりが好きな人たちが集まって作業をしたりする場所でした。天井を張ったり、窓のサッシをみんなで塗ったりするDIYを行ったりもしていて……私もよく参加していたんです。参加メンバーの中には個人店の店主さんもいたりして、お店のお話も聞いたりしていました。

そうして色々な方と一緒に作業を通してお話をしていく中で、自分もお店を開いてみようかな? 挑戦してみようかな? と考えるようになりました。お店を開くとすれば、大好きな文具や紙雑貨で……と思い、どうせなら新潟でなかなか取り扱ってない紙雑貨を置けたらいいなと考えました。

文具がお好きな方は東京などの大きなイベントや店舗さまに行けば買えるのをご存知なのですが、学生さんや主婦の方などは気軽に県外へ行けない方も沢山いらっしゃるだろうし、こんなにかわいい物がこの世の中にある!というのをまだご存知ない方もいらっしゃるだろうなと。

そこでツバキ舎が、まだ知られていない素敵なものを知るきっかけになったら嬉しいなと思い、セレクト文具のお店を開く決意をしました。お世話になっていたこのシェアアトリエのスペースの手前部分をお借りして、まずはチャレンジショップからツバキ舎を始めたんです。」



こんな店があったらいいのに……。「ないなら自分で作ろう」

 

— 「内野のあのへんが栄え始めているらしい」と、トレンドに敏感な若者の間で噂になりはじめたのが、2016年くらいですかね……? 最近の内野は、素敵なお店が増えてきましたよね。


「最近は大学生が増えました。ここ1年くらいの間に、ぐっと増えた感じがあります。」


— 内野は新潟大学に近い地域。お店が増えるにつれ、若者がやってくるのは納得です。少しずつ増えているとは言え、まだまだ発展途上。神林さんは紙雑貨が特に好きだと言いますが、内野駅周辺に限らず、新潟には紙雑貨屋さんが現在でも少ないです。


「東京ならお店も多いしイベントもあるけど、じゃあ新潟から東京に行こうと思ったら、移動も大変、お金も大変、時間も大変……新潟にあったらいいのにな、近くにあったらいいのにな、ないなら作ろう!で作ったんです。前職は事務で、お店を運営した経験もなかったので不安だらけでした。でも、できる範囲からやってみよう、と。最初はチャレンジショップとして、1年間、平日はOLをして、週末だけお店を開きました。場所だけ借りて、その都度商品を並べてまた片付けて……。OLとしての収入を、お店の仕入れに充てていました。1年経ったくらいに、本格的に場所を借りて、今のお店の形になりました。」


仕入れについての業界のルールもわからないため、当たって砕けろの精神で、自ら仕入れの問い合わせをしているそう。ひとりでやっているので、何もかも手探り。今も業界のルールはわからないけれど、と笑う神林さん。やわらかい雰囲気でありながら、紙雑貨への熱い情熱を感じました。熱意は形になるんですね。


「お店の什器も手作りです。古道具が好きで、捨てられる廃材をDIYしています。障子の枠や、捨てられるはずの家のサッシをパーテーションにしています。お店の間取りに合わせて、『ここにこの商品を置くためにこれをつくる!』『この商品をこうやって置きたいからこういうものを作る!』と、商品にあわせて什器を作っています。」


— 並ぶ商品から什器まで、店中が神林さんのこだわりでいっぱいのお店。住み着きたくなるほど居心地の良い店内ですが、どのようなお客さんが多いですか?


「お客さんの層は幅が広いです。小学校が近いので、下校の時間になると小学生も来ます。男性も女性も、カップルも、ご年配も、本当に様々。あ、写真好きの方も多いです。界隈の路地を散歩していて、たまたま見つける、みたいな。偶然通りかかった人がなんかあるよ~って入ってきてくれます。あまりメディアに露出していないので、隠れ家のような、そんな感覚で見つけてもらえるのはうれしいです。」



店主が見つけた「お気に入り」だけ並ぶお店

OLをこなしながらお店をはじめた神林さん。仕事をしながら、子育てをしながら、セレクト文具屋を営む。夜な夜な仕入れの商品を探して、「お気に入りだけ」をとことん集めているそう。神林さんがときめいたものだけが並ぶ店内は、どこを見てもワクワクが止まらない!


— どの商品も魅力的ですが、特に人気のアイテムを教えてください。


「活版印刷で作品制作をされている九ポ堂さんはすごく人気です。ご夫婦でやっているのですが、架空の商店街や郵便局などをテーマにして紙雑貨を作られています。ご主人がポストカードやレターセットのモチーフになる「お話」をつくって、それをもとに奥さまがデザインしたり、イラスト描いたりしているんです。ジブリのような世界観が好きな方は好きだと思います。皆さん、少しずつ集めて楽しんでいます。」



九ポ堂のレターパッド。表紙を開くとユーモアたっぷりの工夫が。


「あとは、BOOKSOUNDSの『何者からかの手紙』。これは本当に人気です。だいたい皆さん「何者からかの手紙」を買っていきます。通販もやっているんですけど、全種類購入するお客様もいます。毎週1通ずつのお届けを希望されるお客様もいて、通販ならではの楽しみ方ですよね。」



封筒に入った、手紙のような小説。封をあけるまで何が書いてあるかわかりません。  


 「女性から人気なのが、大森木綿子さんのポストカード。絵具だったりクレヨンだったり、画材を使い分けてイラストを描いている作家さんです。カードとして使うのも良いですが、お部屋に飾るのも良いですよね。または、何か送るときや、プレゼントに一筆添えるのにもちょうどいいです。送る相手のイメージで選んだり、季節に合わせて選んだり、選ぶ時間もまた楽しいですよ。」



大森木綿子さんのカード。読書好きの方は、栞にして使うのもよさそう。



新潟に限定すると、恐らく8割の商品がここでしか買えない


— ツバキ舎でしか買えない商品はありますか?


「新潟というくくりで話すと、お店の8割の商品はここでしか買えないと思います。シーリングスタンプも最近入荷したばかりなんですけど、新潟の店舗で実際に売っているのはあまり見かけません。」


シーリングスタンプとは、蝋(シーリングワックス)を垂らして紋章やモチーフを押すスタンプのこと。日本では封蝋(ふうろう)と呼ばれています。

スタンプや蝋の色がとっても豊富なので、ハマる人が続出している注目アイテムなのです。手紙の封のほか、ラッピングや手帳のノートのデコレーションなどにも使えるため、紙モノ好きにとってはたまらないアイテム。ツバキ舎に行くと、500円でシーリングスタンプ体験ができます。気になる方は一度お試ししてみてはいかがでしょうか。


とことんこだわって仕入れた商品のほかに、また違った佇まいで目を引く、ツバキ舎オリジナルの商品。鉛筆、しおり、シールなど、神林さんの「好き」をそのまま形にしたようなアイテムたちが並びます。


「正岡子規の俳句を鉛筆にしました。出身の愛媛は、町の中に俳句ポストがあったりして、俳句に馴染みがある地域なんです。私自身、俳句は好きなもののひとつでもあるので、春夏秋冬を選句して鉛筆に入れました。」



神林さんが作る、ツバキ舎オリジナルのやさしい色合いの鉛筆。

  

やりたいことはたくさんあるけれど、ゆっくりと。

シーリングスタンプにハマっていて、いつかシーリングワックスの色を豊富にそろえて並べたいと言う神林さん。


「売上金をもとに仕入れているので、そんなにドカッと入荷はできないんです。それこそ、じわじわと……。個人の小さな店なので、細々とやっていけたら。今月はこれとこれ、みたいな感じで、少しずつ、お気に入りを増やしていきたいです。」


すぐに商品が入れ替わって、どんどん新作が入ってくることは、必ずしもメリットではない。変わってしまうよりも、そこにいけば、いつでも「お気に入り」があるような、少しずつ「お気に入り」を増やして、お店と一緒に暮らしていくような、そんな感覚は、個人のお店ならではのあたたかさです。


神林さんの密かな目標は、レターセットバイキングだそう。参加してくれる作家さんを募り、便箋と封筒を並べ、「便箋何枚、封筒何枚、好きに選んで●●円」という、紙モノ好きにはたまらないレターセットバイキング。

環境が整えばいつかやりたい……と、柔らかな雰囲気の中にメラメラと燃える情熱を神林さんに感じたのでした。



■ ツバキ舎


住所

〒950-2112

新潟県新潟市西区内野町1356 又蔵ベース内



営業日

火・木・金・土


営業時間

火・木・金

10:00-17:00

10:00-18:00


アクセス

JR越後線 内野駅南口から徒歩8分


オンラインショップ

https://tubakisya.stores.jp/


Twitter

@tubakisya


Instagram

@tubakisya



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