少子高齢化の波が加速している現代において、観光マーケティングによる誘致が地域活性における様々な問題を解決する鍵となってきます。国内だけではなく海外からの観光客にも目を向けた取り組みが必要とされており、地域活性化のために行われた数多くの活動報告事例があります。

マーケティングの基本プロセスを理解し、正しく実践していくことで地域独自の強みを発見し構築できるでしょう。観光マーケティングにおける一連の流れや利点、起こりえる問題など、様々な側面について解説していきます。



観光マーケティングとは何か




観光マーケティングの意味と、一連の流れについて見ていきましょう。


観光マーケティングとは

観光マーケティングとは、観光客の誘致を目的にして行うマーケティングのことで、観光地やホテルなど地域のことを知ってもらうための戦略を立てます。

企業や団体だけでなく地域住民も加えた観光に関わるすべての事業が協力することで、観光客のニーズに答え地域の発展、利益を達成できます。

近年では新型コロナウイルスの影響から、インターネットやアプリなどを利用したデジタルマーケティングも重要視されています。


マーケティングの基本プロセスとは

基本となるプロセスには「マーケティングプロセス」と呼ばれる重要な戦略の流れがあり、6つの分野に分けられています。


市場分析

マーケティングでは市場や顧客の視点に立ち、業界の環境を調査・分析することが重要です。地域の強みや商品、問題点などの内部的要因と外部環境要因を調査することで様々な側面が見えてきます。


​​セグメンテーション

顧客や市場などを細分化し、特徴ごとにグループ分けし分析を行うことで、地域のビジネスが最も適した市場を見つけられます。


ターゲティング

セグメンテーションによって細分化された市場のニーズを検討し、商品やサービスなどの強みを引き出される場所を選ぶことです。

セグメントとは分類という意味がありますが、ターゲティングはどの対象に行うかを絞り込む役割があります。


ポジショニング

ポジショニングでは社会情勢を考慮した市場動向と他との差別化を意識する必要があり、地域特性を活かした立ち位置を考え、顧客のニーズに合った方法を選定します。


マーケティングミックス

製品やサービス、価格、立地、広告などを組み合わせて具体的にどのような戦略をとるか各項目を策定することで、顧客にとっての付加価値に目を向けて定める必要があります。


実行と評価

ここでは集まったデータに目を向けたPDCAサイクルを回すことが重要です。計画・行動・評価・改善を正しく実践することで更なる発展が期待できます。 一時的な流行ではなく、将来的にも持続する観光地域を作るために一つ一つを丁寧に実行することが重要です。



観光マーケティングの事例




岐阜県では「岐阜の宝もの認定プロジェクト」として身近にある様々な観光資源を情報発信すし地域の特性を活かしたふるさとづくりを目指す取り組みを開始しました。

岐阜の宝ものに認定されると、組織の体制づくりや国内外へのPRなど多くのサポートが受けられます。「地歌舞伎」「小坂の滝めぐり」「中山道ぎふ17宿」「乗鞍山麓五色ヶ原の森」などが観光において岐阜県の魅力となっています。岐阜県は2009年から「飛騨・美濃じまん海外戦略プロジェクト」と題し海外プロモーションをアジアでスタートさせ、その後は欧州、米国、豪州など、多くの地で展開してきました。

自治体が先陣を切ったとしても、民間の理解が得られなければ失敗します。岐阜県における観光マーケティングの成功は、自治体が政策として事業に落とし込んだことにあります。


参考:サスティナブル・ツーリズムの国内先進事例として、岐阜県の取組をご紹介 日本政府観光局より



観光マーケティングを成功させるポイント




ここからは観光マーケティングにおけるポイントについて紹介します。


地域ならではの強みを構築する

地域の強みを構築するとは、「この地域でしか体験できない」ものを作り出すことです。独自の資源に目を向けることが必要ですが、商品やサービスなどは時が経てば真似されてしまうでしょう。しかし地域の歴史や文化といったご当地ものは決して真似することはできません。他では真似することができない分野の独自性を追求することで、新たなストーリーが生まれるでしょう。


顧客ターゲットを決める

顧客の対象を絞ることで、何が地域振興に繋がるか検討できます。

ターゲットを決めることで、観光客を呼びこみ、移住者の増やし方、地域産品開発など 豊かな地域作りを目指せます。セグメンテーションによって市場を分析し地域にとっての強みを見つけられたとしても、顧客ターゲットが疎かであればコンセプトが定まることはないでしょう。全ての人をターゲットにする考えは、競合が増えてしまう結果に繋がるため失敗を招く可能性が高くなるでしょう。


本や論文を参考に戦略を学ぶ

観光マーケティングにおいても様々な書籍や論文が発売、発表されており、観光マーケティングを使った集客方法など、多くの戦略を学ぶことが可能です。

日本知能情報ファジィ学会誌より発表された「観光マーケティングにおける新たな分析手法の提案」では伊豆半島の観光魅力度に関するテキストマイニング分析から、観光施策の考察やアプローチ手法に対する有効性の確認などが報告されています。

女性や団体客に対してのデータでは「高速バス」がアクセス手段として重要なキーワードになっており、男性の場合はアウトドア型の観光魅力度の訴求が有効であると考えられています。

一例を紹介しましたが、様々な本や論文を参考にして、地域発展に役立つ情報を取り入れることが必要です。


参考:日本知能情報ファジィ学会誌 知能と情報より



観光マーケティングを行う利点




観光マーケティングを行うことで得られる利点について見ていきましょう。


仕事・求人が増える

観光客が増えることで経済が豊かになり雇用が生まれます。観光マーケティングにおいては国内だけでなく海外からの旅行者にも目を向けることが必要です。

少子高齢化社会のため将来的にも労働人口は減少すると見込まれており、結果として消費者も少なくなると懸念されています。しかし観光マーケティングによって訪日外国人が増えることで、インバウンド消費が促進され地域全体の経済発展へと繋がるでしょう。

観光におけるインバウンドとは外国人の訪日旅行を意味しており、国が掲げる政策においても重要視されています。


観光客が増加し国際交流にも繋がる

近年では新型コロナウイルスによって世界的に観光客は激減していますが、2019年での訪日外国人観光客は過去最高の3,188万人を記録しています。

日本を理解してもらう上で国際交流は欠かせませんが、外国人観光客の対応を巡っては課題も多い現状です。言語や宗教、食べ物などそれぞれの違いがあり、早急に対応を模索する必要があります。


地方創生へと繋がる

地方創生のため国や地方自治体が行なっている動きにはインフラなど生活環境の整備や産業の振興などがありますが、海外からの集客による地域活性化は特に重要な政策として位置付けられており、観光マーケティングがその鍵を担っています。

地域資源の発掘や、美しい景観など、地域独自を強みを活かしたビジネスモデルを構築し、国内外に向けて情報発信をすることが重要です。



観光マーケティングによって起こる問題




観光マーケティングは利点だけではなく、弊害も起こり得ます。その一例を見ていきましょう。


オーバーツーリズムが生じる可能性がある

オーバーツーリズムとは、観光地のキャパシティを大きく超える観光客が訪れることによっておこる現象のことです。観光公害とも呼ばれており、日本だけでなく世界中の観光地で問題になっています。

格安の航空会社が普及されたり、安価な宿泊施設が誕生したり、海外への旅行・宿泊費用が安くなり観光客が激増したことが原因の一つとされています。


交通渋滞・騒音問題が発生する

オーバーツーリズムが観光地にもたらす課題として、多くの車両が増加することによる交通渋滞の悪化や、騒音問題などが挙げられます。無断駐車も増え、地域住民への生活に悪影響を及ぼします。

対処法として入場規制や交通規制を行い観光客数を制限することや、周辺の観光地へと分散させる対策などがあります。


迷惑行為などが増える

ゴミ問題をはじめとしたマナーの悪さによる自然環境の破壊や汚染など取り返しのつかない事態を招く可能性もあります。結果として観光客が地域住民に歓迎されなくなり、旅行客へのサービスの質や満足度も低下することになるでしょう。

対処法としてさまざまな言語やイラストを使いマナーに関する内容を掲示し、配布するマナー啓発を行うことが挙げられます。



まとめ

観光マーケティングについての内容でした。マーケティングプロセスを理解し正しく実践することが成功への鍵です。地域ならではの歴史や文化などから強みを構築しターゲットを決めることで、独自のストーリーが生まれます。

観光マーケティングによる誘致が成功した後にも様々な問題が発生する可能性がありますが、事前に対処法を知ることで問題の発生率や規模を抑えられます。

観光マーケティングにおける戦略を正しく実践することで多くの利点が生まれ、地域全体が活性化するでしょう。



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