新宿からJR青梅線に乗り約1時間半。奥多摩より2つ手前に「鳩ノ巣」という名前の駅があります。電車を降り、風の吹くまま気の向くままに歩いていくと、「民宿雲仙屋」の看板を発見。
レトロな雰囲気に誘われて坂道を下ると、民宿の建物に「酒処雲仙」の文字が見えます。
どうやらこの民宿は、居酒屋としても営業されているよう。外観から漂う大人な雰囲気に、あまりお酒を知らない若造がお邪魔してよいものか悩みましたが、勇気を出して入ってみることにしました。
次々と目に飛び込んでくるお酒と缶詰に感動
「こんにちは!どうぞお座りください」
笑顔で迎えてくださったのは、店主の若林さん。民宿雲仙屋のご主人であり、奥多摩観光協会の副会長も務めています。「観光協会の副会長」という肩書きを聞いて、かしこまってしまった私ですが、実際は大変気さくなお人柄。ほんの数分で心を許してしまうほど、話しやすい方でした。
さっそくカウンターに着席。目の前に並べられた全国各地の缶詰に、興奮と感動が止まりません。あれこれ眺めていると、おすすめの商品を紹介してくれました。
「秋田のいぶりがっこ缶は、予想以上にパリッパリで美味いんですよ~!」
「おなじみのカルディにもオリジナルの缶詰がいろいろあって、ハンバーグなんかおすすめですよ」
ネットや実店舗で買い付けては実食し、納得のいくものだけを並べているという若林さん。質問をすれば、より美味しい食べ方も教えてくれます。実際、店内で販売されている缶詰の中にも「温泉卵のせ」や「クリームチーズ付き」といったトッピング付きのものがありました。ベストな状態で提供してもらえるのは嬉しいですね。
後ろの棚に目を向けると、焼酎もまたぎゅうぎゅうに並べられています。本数は250本ほど。米、麦、芋、黒糖といった種類を扱っているそうですが、素人が見ても分かるほど、一般的な居酒屋では見かけないものばかりです。
まるでワインのような見た目のこのボトルは、鹿児島県・八千代伝酒造の芋焼酎「八千代伝(黒)タンクNO.101 」。2年連続、鹿児島県の本格焼酎鑑評会で「総裁賞代表」を受賞していて、高品質な香味バランスが素晴らしいそう。「小さな個人店だからこそ、数に限りのある焼酎をたくさん扱える」とのことで、知られざる名品をたくさん紹介していただきました。ちなみに焼酎もご自身で買い付けをし、納得したものだけを並べています。
「知り合いの酒屋さんに電話して、面白いものがあったら送っておいてと頼むこともあります」
自分自身も発見を楽しみながら、商品選定を行っているのですね。
酒処雲仙には、生ビール、和リキュール、サワー、日本酒も充実しています。焼酎に負けず劣らず、珍しいボトルを扱っているのが魅力です。リスのイラストが可愛いこちらのお酒は、なんとレモンサワーの素。グレープフルーツミックスの「沖縄んブルー」と、レモンティーの味わいが楽しめる「りすイエロー」は、どちらも国産レモンを100%使用して作られています。
おつまみには、北海道や東北を中心とした焼き魚も用意。もちろんどれも、若林さんのお墨付きです。
心ゆくまでお酒を楽しんでもらうために
しばらくお話を聞いていて感じたのは、酒処雲仙には「お酒を楽しんでもらうためのサービス」が多いこと。例えば「シズル」というこちらの酒器。日本酒を注文すると運ばれてくるのですが……
片口になみなみ注いでくれるので、おちょこにお酒が流れていく様子を楽しむことができます。初めての体験に、私は声を上げて喜んでしまいました。
焼酎が苦手な方のために、“味変”のサービスを行っているのも魅力的。まずはロックで提供し、焼酎本来の風味を感じてもらったあと、お客様の反応を見て炭酸や水を追加してくださるそうです。独特の焼酎臭さに苦手意識を持っている方でも、割り方を変えるだけで美味しく飲めてしまうそう。個人店だからこその計らいが嬉しいですね。
構想から5年 酒処雲仙をオープンして
まるで“大人の秘密基地”にいるような酒処雲仙。
ー これだけ完成されているところをみると、構想にも商品集めにも、かなりの時間がかかったのではないでしょうか?
「そうですね。実は5年ほどかかりました」
若林さんは、鳩ノ巣生まれの鳩ノ巣育ち。大学で新潟へ行き、一度は就職をしましたが、民宿雲仙屋の跡を継ぐため、この地に戻ってきました。ちなみに民宿雲仙屋は、若林さんの実家ではありません。もともとは「鳩ノ巣バンガロー」というキャンプ場の次男ですが、すぐ近くでお世話になってきた雲仙屋に跡継ぎがいないことを知り、養子に入る決意をしたそうです。そこから30年は懸命に働き、子育てに奮闘。学生の頃からお酒好きだったものの、送り迎えなどもあり、当時はほとんど飲めなかったといいます。だからこそ、お子さんが巣立つタイミングで、居酒屋を始めようと心に秘めていました。
5年もの構想期間に行なったのは、商品集めと「缶詰居酒屋めぐり」。シールの色でお代を決めるシステムなど、参考になることがたくさんあったそうです。焼酎はもとより、缶詰をメインにしようと思ったのは、フードロスなどの観点からでした。
「缶詰は長く保存できるから、ほとんど無駄になりません。自分のためにも、地球のためにもいいですよね。災害が起きたときの非常食として活用できるところにも魅力を感じました」
民宿のお土産コーナーを改装し、酒処雲仙として営業を始めたのは2021年3月22日のこと。新型コロナウイルスの影響で営業ができず苦しい日々でしたが、何とかそれを乗り越えました。今となっては常連さんがつくほどに成長。なかには若い世代も増えているそうです。移住してきた方がお店に来ることもあり、その度に相談役を務めています。
「この前は鳩ノ巣で民泊を始める子が遊びにきてくれました。新しい子、若い子たちが頑張っている話を聞けるのは、とても嬉しいことですね。奥多摩観光協会の副会長として、みんなの意見が聞けるのも面白いです。これからの観光事業にもしっかり役立てていきたいと思います」
まだまだ始まったばかりの酒処雲仙。最後に今後の展望を伺いました。
「たくさんの人に来てほしいというよりは、好きな人が来てくれればいいかなと思っています。ただ観光客の方にも気軽に利用してほしいので、平日は簡単なランチメニューも検討しているところです。閑散期にお客様がいないのは、うちだけでなく奥多摩全体の課題です。みんなで町全体をもっと盛り上げていけるように、今後も頑張っていきます」
都心から決して近くない奥多摩・鳩ノ巣。しかしそこには、移動時間など気にさせないほど魅力的な居酒屋がありました。珍しいお酒や缶詰はもちろんのこと、ご主人の人柄を理由に再訪したくなること間違いなし。都会の喧騒に疲れたら、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
■ 酒処雲仙
住所
〒198-0106
東京都西多摩郡奥多摩町棚澤369
電話番号
042-885-2223
営業時間
月・水-土
17:00-23:00
日
11:00-17:00
※ コロナ禍により変更する場合があります。
定休日
火曜日
アクセス
JR鳩ノ巣駅より徒歩3分
関連記事