東京・四ツ谷駅から15分、都会の住宅地の中にポツンと佇む静かなお寺、陽運寺(よううんじ)。「東海道四谷怪談」のお岩様を祀るそのお寺の一角に、寺カフェ「うくらいま食堂」があります。伺った日は初夏の陽気だったため、日陰が気持ちよくテラス日和。お寺ならではの香の香りも漂い、まさに都会のオアシス的な空間です。
食堂を始めるきっかけはお寺への「一目惚れ」
うくらいま食堂を切り盛りするのは、オーナーで料理人のうすいさん。お1人で始めた “寺カフェ” のきっかけは、お寺への一目惚れだったと言います。
「陽運寺さんの、京都にいるかのようなこの素晴らしい空間に、私が一目惚れしたんです」
住宅街の中に風情のある空間が広がる、陽運寺。
以前、京都のお店で料理の勉強をしていたうすいさん。重ねてお寺巡りが大好きだった為、陽運寺を訪れた際その美しいお庭に一目惚れ。「このお寺で大好きな和食を提供したい!」と、当時面識のなかった陽運寺のご住職に直接連絡を取り、その思いの丈を伝えたと言います。
綺麗に手入れされた手水社と紫陽花。
「見ず知らずの私の話を聞いてくださったご住職には本当に感謝しています」
元々何か繋がりがあって寺カフェを始めた訳ではなく、自らの想いでご縁を繋いだうすいさん。寺カフェ「うくらいま食堂」のスタートはまさかの「一目惚れ」と、その気持ちをご住職へ伝えたうすいさんのまっすぐな想いでした。
想定外のコロナ禍でできた、「お寺ご飯のお弁当」
うくらいま食堂がオープンしたのは2年前の2020年、新型コロナウィルスがまん延し始めた頃。オープン直前に緊急事態宣言を受け、オープン延期を余儀なくされます。
「1年目はかき氷も出せる状況になかったです」とうすいさん。
「本当に、人一人歩いていませんでした。今はこんなにも多くの方に来店いただいて本当に嬉しいです」
コロナ禍に入ってすぐの四谷はもちろん自粛ムード。当時、四谷の街は人一人歩いていなかったと言います。当時の不安な思いを吐露しつつ、取材中にも絶えず来店されるお客様へテキパキと接客するうすいさん。お寺にお参りにいらした方や、近所のお散歩ついでの喫茶、赤ちゃん連れやワンチャンも。参拝者だけでなく、すでに地域の方々の憩いの場になっている様でした。
当初、うくらいま食堂では「六波羅蜜(ろくはらみつ)※のおばんざい」をワンプレートで提供する予定でした。
※ 大乗仏教における6つの修行法のこと。
緊急事態宣言中、自粛で外食を気にされる方にも「お寺ご飯」を提供したいと、うすいさんは考えます。そんな思いを詰め込み、お弁当として販売したのが「お寺ごはんのお弁当」(要予約)。緊急事態宣言が解除され、改めて新店としてオープンする6月まで試行錯誤を重ね、2年が経った現在もメニューを変えながらお弁当を提供し続けています。
無添加で具沢山のお弁当は宝石箱のよう。写真は豚のしゃぶしゃぶ弁当。
丸いわっぱに美しく詰め込まれたおばんざいは色とりどりで惚れ惚れするほど。十六穀米のごはんに野菜やお魚、出汁の利いた和えものなど、発酵食品を使ったメニューも並びます。まさに心も身体も喜ぶ、無添加の手作りお弁当です。全ての素材が活きる素晴らしい味付けと風味に、本当に感動しました。
食堂という名前ですが、うくらいま食堂は喫茶メニューもそろえます。お弁当以外にも甘味や甘酒、ほうじ茶ラテなどもあるため、喫茶スペースとして利用することが可能です。
麹たっぷりのレモン甘酒。「下に麹があるのでよかったら召し上がってくださいね」とスプーンをつけてくれました。
今回、お弁当と一緒に頼んだのは「レモン甘酒」。麹が粒を残したまま湯呑みの下にあり、少しもぐもぐしながらいただきます。今まで飲んでいた甘酒とは一線を画すスッキリとした軽い美味しさに驚きです。先日まではイチゴ甘酒だったそうで、季節で色々楽しむことができそうです。
お弁当に次ぐ看板商品の「ご縁餅セット」。お客様に喜んで頂けるようにと、五円が入った開運お守りをつける予定とのこと。(写真は夏の器のご縁餅)
他にもあんバタートーストや限定でサンドなども提供しているとのこと。お弁当の予約をしていなくても、フラッと立ち寄りたい時は軽食でも楽しめます。
2022年春、姉妹店『うくらいまcafe』をオープン
オープン当初、不安に駆られていたうすいさんですがこの2年を乗り切り、お寺が別院を建てる練馬に姉妹店の『うくらいまcafe』を、今年4月16日にオープンする事になりました。カフェには全長2.5mのお釈迦様が鎮座し見護っているそうで、唯一無二の空間なんだとか。うくらいまcafeでは洋食メニュー、ランチプレートでパンとお野菜のタルティーヌやポタージュなどを提供。スタッフの方を迎え、四谷の食堂と練馬のcafeを切り盛りしています。
カフェメニューの一例。
ちなみに「うくらいま」という言葉には意味がないそう。うすいさんのお子さんたちが幼く、言葉を覚え始めた頃に意味のないこの「うくらいま」を言っては笑い、遊んでおり、その幸せな時間をお客さんにも共有したいという思いから「うくらいま食堂」と名付けたんだとか。
いらしてくれたお客様が幸せな気持ちになる様なお店に
陽運寺に一目惚れし、ご住職にダメ元で連絡してから2年と3ヶ月。姉妹店を別の土地にオープンするに至ったのも、うすいさんの行動力が生んだご縁。人の心を動かす、不思議な魅力がある方なのかもしれません。
昨今では地域のコミュニティが乏しく、都心ならずともご近所付き合いも減少傾向。人々が縁遠くなりがちな風潮の中、東京都心の真ん中でお客様に喜んでもらいたい!と癒しを届けるうすいさん。
「来て下さったお客様が幸せな気持ちになる様な、そんなお店にしたい」と話します。きっと新店の練馬でも地域の方に素敵な空間を提供し、幸せな時間とご縁を作ってくれるはずです。
■ うくらいま食堂
住所
〒160-0017
東京都新宿区左門町18
営業時間
水-日 11:30-16:30(L.O 16:00)
お弁当(水木金限定予約制)
予約 ukuraima.kitchen@gmail.com
またはインスタのDMにて
アクセス
地下鉄丸ノ内線 四谷三丁目駅より徒歩5分
JR中央・総武線 信濃町駅より徒歩8分
・うくらいまcafe
住所
〒179-0074
東京都練馬区春日町2-3-3
営業時間
毎週土日(偶数月のみ第3・4土日営業)
11:00-16:30(L.O 16:00)
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