埼玉県大宮市にある結婚式場「ベルヴィ大宮サンパレス/GLANZ(グランツ)」は昨年暮れ、ショートケーキをスケルトンの缶に詰めたショートケーキ缶を自動販売機で売りはじめました。

数時間で完売するほどの人気商品になり、今では1日100個つくっても足りないほど。コロナ禍で利用者が減った結婚式場が復活をかけて挑んだプロジェクトを、支配人の慶野寛之さんに聞きました。



「ショートケーキ缶なんてつくったことがない」ノウハウがなく手探りで始まった 

2021年8月2日に出された緊急事態宣言は9月30日に解除されましたが、その後も飲食店や劇場など不特定多数の人が密集しやすい施設は、新型コロナウィルス感染症を予防する観点から、営業を自粛したり営業時間を短縮したりしていました。その後、営業を再開してもいったん離れたお客さんが戻ってこないため、店をたたんでしまう事例は少なくありませんでした。


結婚式場も同じく、利用者が激減したといいます。それでも結婚式場の経営陣は従業員たちの生活を守らねばなりません。

「今もっている技術を活用して、何か新しいことができないか」

スタッフが一丸となって「今できること」を模索していたとき、社内で出てきたアイデアがショートケーキ缶でした。

「ショートケーキ缶は、韓国で『ケーキの断面が見えるのがかわいい』と評判になっていて、日本にも入ってきました」

ショートケーキ缶を買える自販機は北海道、東京、大阪などに設置され、メディアにも取り上げられて時代のトレンドになっていました。また、ケーキ缶ではありませんが、ケーキの自販機そのものは、大阪、神戸、愛知、金沢などですでに稼働しており、いずれも人気を集めていたのです。

「埼玉ではまだなかったので、弊社が最初になります」


しかし、実際に「やりましょう」と決まってからが苦労の始まりでした。一口に「ショートケーキ缶」といっても、たんにケーキをそのまま缶に詰めるという簡単な作業ではありません。できあがったショートケーキを缶に詰めるのではなく、実際には缶の中にショートケーキをつくりこんでいく作業になるわけですが、これが思っていたより難しかったのです。しかも、ひとつひとつが完全な手作業です。ノウハウもありませんから、何度も試作を繰り返しながら工程を確認していったそうです。


底にスポンジを敷いてイチゴを貼り付ける


「工程を簡単に申しますと、イチゴショートケーキの場合は、まず缶の底に、サイズぴったりにカットしたスポンジを敷きます。『円』の状態では入らないので半分にカットして、ピンセットを使って埋め込む細かい作業です。次に輪切りにしたイチゴを、これもピンセットを使って缶の内側に貼り付けます。これがズレないように、クリームを隙間なく充填するという作業になります」


ちなみに、使用する缶はブリキやアルミではなく、スケルトンの樹脂製です。缶の内側に貼り付けたフルーツとスポンジの層が透けておいしそうに見え、ラベル代わりにもなっています。

クリームをたっぷり詰める 



自販機の特性上、ちょっとした工夫が必要だった

クリームを隙間なくぎっしり充填するのは、理由がありました。

「自販機で提供する際に、取り出し口まで上から落とす格好になります。中がスカスカだと、中身が崩れてしまいます」

ぎっしり詰め込んでいるのは、型崩れを防ぐための工夫でもあったわけです。蓋は手で簡単に開けられて、スプーンですくって食べます。


ー 手作業でつくっているそうですが、どのような体制で1日に何個できるのでしょう。

「販売を始めた当初は1日25個でした。すぐ売り切れるので数を増やして、今はだいたい100個です。これには3人のシェフが携わっています」

そうです、ショートケーキ缶をつくっているのはパティシエではなく、料理担当のシェフなのです。自販機でショートケーキ缶を販売することと、中身商品を自社で製造することを聞いたときは少なからず戸惑いがあったと話します。しかし、販売を開始してみると喜んで買っていくお客様が多いため今は「お客様が喜んでくださるなら」と、励みになっているそうです。


ただ、やはり手作業の限界があって、1日100個までとのこと。しかも必ず100個というわけではなく、本業である結婚式場の利用が多い日には製造数がやや少なめになることもあります。「とにかく手間がかかります」という慶野支配人。初めの頃は、1缶つくるのに15分くらいかかったそうです。慣れてきたとはいえ、今でも10分はかかるとか。また50個分の材料を仕込むのに、1時間ほどかかるそうです。1日100個つくることが、どんなに大変な作業であるか分かります。


さて、これまで「ショートケーキ缶」とご紹介してきましたが、ほかにもフレーバーがあります。モンブラン、フルーツ杏仁、シャインマスカット、ティラミスなどを同時に発売してみて、圧倒的に人気商品となったのがイチゴのショートケーキでした。どんな人が買っていくのかが気になりますが、慶野支配人曰く「対面販売ではないため、正確な分析はできておりませんが、女性のお客様が多いかなという印象をもっております」とのこと。


自販機への商品の補充は、結婚式場の営業開始前に1回目が行われます。このとき補充した分は夕方には完売しているので、夜の時間帯に買いに来るお客様のために、閉館時間前にもういちど補充しておくそうです。この分も、朝には完売しています。




缶の大きさと形をリニューアルして食べきれるサイズに

すっかり人気商品となったショートケーキ缶が、この春にリニューアルしました。従来の缶は、一般的な飲料と同じ大きさの330mlでした。330ml缶に中身をぎっしり詰めると、通常のショートケーキの約2倍のボリュームになるそうです。そうなると、やはり「量が多い」「最後のほうが重くなる」「飽きる」という感想が寄せられていたため、缶の大きさと形状を変更することが検討されました。「食べやすい」「食べきれる」「いちばんおいしい状態で完食できる大きさ」ということで、候補がいくつかあがったそうです。

「楕円形やタンブラー型も検討しました。でも、どれも容量が350ml以上あって食べきりサイズには大きすぎました」

そういうわけで、今販売されている、ぷくっと丸味を帯びた外観の210ml缶に変更されました。スケルトンで中身が見えるのは、従来と変わっていません。


上・左からフルーツMIXゼリー、イチゴショートケーキ、下・左からマンゴーゼリー、イチゴゼリー


「小さくなったことで、価格も下げました」

従来の330ml缶では850円でしたが、210ml缶では650円に設定されています。ラインナップは、一番人気のイチゴショートケーキをはじめ、イチゴゼリー、マンゴーゼリー、フルーツMIXゼリーのスイーツ缶をあわせて4種類。ゼリーの中に小さくカットされたフルーツが入って、フルーツのほどよい酸味が口の中に広がり、ゼリーの甘みとの相性が絶妙です。また、風鈴を思わせる涼しげな外観も夏向きです。


しかもこれらの商品は、夏季になると賞味期限が1日かぎりだといいます。

「保存料を一切使っていませんから、1日に設定しています」 


今後の展開がどうなるのかも聞いてみました。自販機は結婚式場の前に1台だけ設置されていて、その横に花の自販機も設置されています。気軽に花を買えるため、こちらも人気だとか。ショートケーキ缶の自販機は、今後台数を増やす構想があるものの、商品をひとつひとつ手作業でつくっているため、簡単に増やすことが難しいのが現状です。

「製造数を増やすためにはどうするかが課題でしょう」

これがクリアできたら、もっとたくさんのお客様に買っていただけるし、売り切れでガッカリさせてしまうこともないはずだといいます。

ベルヴィ大宮サンパレス/GLANZの外観 


新しいフレーバーの開発も検討されています。季節ごとに旬のフルーツを使った商品として、秋に向けて栗や柿を使った商品が検討段階に入っているといい、今から楽しみです。



■ ベルヴィ大宮サンパレス/GLANZ


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