宝塚市には宝塚歌劇団のほかに手塚治虫記念館があり、温泉地としても知られているため、普段は観光客でにぎわう華やかな雰囲気のある街です。

「KONA TKZ」は、食パン専門店として2019年6月14日に開店しました。運営会社は大阪府大阪市にある野菜の仲卸会社で、パン屋を経営するのは初めての挑戦でした。店長の日浦理沙さんは徳島県でダンススクールを経営していたといいますから、これまたパン屋経営とは無縁の人でした。  

「この店を開くために、大阪の職人さんのもとでパンづくりを学びました」と話す日浦さんと、食パン専門店「KONA TKZ」を取材しました。



「KONA TKZ宝塚本店」の店内。


「料理はあまりやらない」という店長。みっちり仕込まれたパンづくり。  


生地を丸める日浦店長。


宝塚市を南北に流れる武庫川のほとり、宝塚大劇場と宝塚音楽学校から国道16号線を挟んだビルの1階に食パン専門店「KONA TKZ」があります。


徳島県でダンススクールを経営していた日浦さんは、2018年12月の暮れも押し迫っていたとき、宝塚市に住んでいた弟さんからこんな誘いを受けました。

「一緒にパン屋をやらない?」

弟さんも、大阪の会社から「新たに食パン専門店をオープンさせたいから、やってみないか?」と誘いを受けていたのです。

その会社というのが、大阪市内で野菜の仲卸を業とする山留商店でした。山留商店の社長と日浦さんの弟さんとは日ごろから親交があったため、声がかかったというわけです。日浦さんも40歳を迎える歳になり、何か違うことをやろうかと考えていました。高級食パンがブームになり、専門店が相次いでオープンしていた時期でもあり、弟さんからの誘いに応じることにしました。


宝塚大劇場のすぐ近くに店舗が決まって、開店準備が進み始めました。日浦さんも自らパンを焼くことになり、大阪府寝屋川市に店を構えるパン職人さんのもとで1カ月間、みっちりと研修をうけたそうです。

「料理もほとんどやらないんですけど、弟夫婦と一緒に必死で頑張りました」

研修中は、やはり何もかもが初めての経験ばかりで精神的にも肉体的にも大変だったといいます。

「粉を触るのも初めてだし、窯も熱いです。重さが10kg以上ある生地はミキサーで捏ねますが、取り出すのは手作業で力仕事です」



焼きあがったパンを型から外す。  


取り出した生地を小分けにして型に入れるあいだにも発酵が進むため、動作を早くしなければなりません。ひとつ600gの型を60個窯入れする作業は、さながら筋トレのようだといいます。



サクッとした歯触りと、ふんわりした食感と香ばしさ。  

2019年6月14日、「KONA TKZ」がオープンしました。店名の由来は「KONAは小麦粉の『粉』と、山留商店の社長はハワイが好きでKONAコーヒーから取ったと聞いています」とのこと。

オープン当日は、前もって周辺地域に住む人たちへ開店の告知を出していた効果もあり、店の前には開店時刻前から行列ができていました。

「橋の向こうまで行列が伸びていました。お客さんが来てくれて嬉しいというより、私もスタッフも、人の多さに圧倒されてしまって……」



オープン初日、大行列ができた店前の歩道。  


お店から約100メートル南に、武庫川を渡る「宝塚大橋」という全長約150メートルの橋があります。つまり250メートルもの行列ができるほどのお客さんが押し寄せたわけです。

「はじめの3カ月は、想定外に多くのお客さんに来ていただきました。商品の供給が全然追いつかないから『すみません』と頭を下げて、お断りせざるを得ませんでした」


「KONA TKZ」で扱う食パンは4種類で、すべて店内で焼いています。一般的なベーカリーで見かけるような、菓子パンや惣菜パンの類はありません。他には、コーヒー豆、ジャム、餡子、ジュースがあるだけで、商品構成はいたってシンプルです。



パンとコーヒーのほかには、国産フルーツのジャムや粒あんなど無添加の商品が並ぶ。


食パンには「花」「月」「空」「星」と名前が付けられて、それぞれ味と食感に特徴があります。実食した感想を交えて紹介しましょう。


「花」(定番商品)  

国産無塩バターと濃厚生クリームを生地にたっぷり練り込んであり、柔らかく、ミルクの風味が立っています。


「月」(定番商品)  

4種類の中では、いちばん小麦の味が生きています。軽くトーストすればサクサクした食感を楽しめますが、そのままでももっちりした食感があります。


「空」(火曜・土曜の販売)  

オーガニックレーズンとクルミを練り込んであり、生地の柔らかさと甘みにプラスしてクルミの香ばしさを楽しめます。トーストせず、そのまま食べるのがお勧めです。


「星」(金曜・日曜の販売)

北海道産の小豆とビートグラニュー糖で練り上げられた粒餡を、生地にまんべんなく練り込んであります。トーストせずそのまま口に入れると、さっぱりした甘みが広がります。


開店準備の研修では、「花」と「月」でパンづくりの工程を憶えたといいます。 

 「空と星は師匠に尋ねたり、自分たちで試行錯誤したりしながらつくりました」



パンを焼く環境条件のデータを秒単位で記録して、工夫と研究を重ねる。  

研修期間の1カ月間が長いか短いかは、判断が分かれるところでしょう。

「当時は、教わったことをただひたすら一生懸命やるだけでした」


日浦さんは、お店がオープンした後も試行錯誤を繰り返しながら、さらに美味しいパンを追及して研究と工夫を重ねています。

「オープン当初と今とを比べたら、パンの味は全然違うと思います。オープンしてから1年くらいかけて、スタッフと一緒にデータをとりました」

生地の発酵時間を10秒単位で変えてみて膨らみ方の変化を観察したり、水温と気温などがどう影響するかを試したりして細かく記録したといいます。 また、小麦は農産物のため、産地や収穫された年によって質が異なります。

「同じレシピでつくっても、全く同じものができるわけではありません。日によって微妙に変わりますから、焼き上がりをなるべく安定させるために微調整が必要なのです」

とりわけ季節の変わり目には気を遣うそうです。

「冬場は5分の発酵で1センチ膨らむとして、夏場だと5分も置いたら膨らみすぎてすごいことになってしまいます」



カウンターの後ろに並ぶ「月」と「花」。


もちろん水温や気温も無視できません。わざわざ水を加熱したりエアコンで気温を調節したりしながら、生地の温度も温度計で細かく管理しながら、なるべく同じ環境下で同じ状態のものを出せるように意識しているのだそうです。

「たとえば、今日は寒いから水の温度を少し上げて混ぜる時間を変えてみるとか。混ぜる時間が長くなると生地の温度が上がって発酵が早くなります。定休日はエアコンを切りますから、粉が冷たくなっています。だから、いつもは50度の温水を使うけれど、定休日の翌日は54度くらいまで上げてミキサーを回そうとか。そういう細かい調整にも気を遣っています」

計測できる条件は詳細に記録していますが、日浦さんがいうには「数値化できない勘どころ」があるそうで、毎日完全に同じパンは焼けないというのが結論とのことです。



左から「ブルーベリージャム」「キウイジャム」「オレンジマーマレード」「粒あん」「さつまいもバタージャム」「あまおう苺ジャム」



窯から出しても完成じゃない。柔らかいパンに仕上げる絶妙なタイミング。

「KONA TKZ」の食パンは、耳まで柔らかいのが特徴です。ここにも職人技が発揮されていました。

「焼き時間が長いと表面が固くなりますから、焼きすぎないように調整しています。でも焼きが足りないと中まで火が通りませんし、季節ごとに焼き時間も変えています」  

日浦さんの言葉をそのまま借りると「“いい具合に”窯から出してあげると、ふんわりします」というのが、まさに「数値化できない勘どころ」なのでしょう。


焼きあがったパンを窯から出しても、まだ完成ではありません。店頭では透明のビニール袋に入れて売られていますが、袋に入れるタイミングを間違えると、せっかく焼き上げたパンが台無しになりかねないとか。



袋に入れるタイミングにも気を遣うといいます。  


「完全に冷ましてしまうと表面がパサパサになってしまいますから、冷え切るちょっと前に袋に入れます。わずかに残る余熱が表面にほんのりと湿り気を与えて滑らかになります。逆に袋に入れるのが早いと、水蒸気が袋の内側で結露してベチャベチャになってしまうのです。夏場だと、窯から出して30~60分くらい。冬場はもっと早めに入れます。スタッフには『これくらいの温度』という感覚を、手で触って憶えてもらいます」



「コーヒーがちょっと……」。お客さんの声に応えて、専用コーヒーを開発。  

パンのお供といえばコーヒーです。「KONA TKZ」のイートインでもコーヒーが提供されています。ある日、日浦さんは男性客からこんな感想を聞きました。

「パンは美味しいけど、コーヒーがちょっとね……」



イートインのカウンター内。


食パンのクオリティには自信があった日浦さん。パンに合わせるコーヒーが美味しくなければ、パンの味が生きてきません。

「せっかくなら、この店でしか味わえない特別なコーヒーを提供したいと考えました」


そこで声をかけたのが、異業種交流会で日浦さんの弟さんと面識のあったコーヒー専門店「LANDMADE(ランドメイド)」代表取締役の上野真人さんでした。上野さんは神戸ポートアイランドでスペシャルティコーヒーの専門店を経営する、コーヒーの専門家です。



トーストに合うスペシャルティコーヒーをもつ上野さん(左)と日浦店長。  


スペシャルティコーヒーとは、世界で流通しているコーヒー豆のうち上位5%のランクに入る上質のコーヒーを指します。

上野さんは、コーヒーの香ばしさとパンの香ばしさがマッチするように豆の焙煎を調節し、食パン専用コーヒー「トーストに合うスペシャルティコーヒー」をつくりあげました。コーヒーの味と香りはしっかり立っているけれど、パンの味を邪魔しない絶妙な味わい。そして口の中に雑味が残らない、さっぱりした後味が新鮮な感覚のコーヒーです。

これを2020年3月からイートインで提供し始めたところ、告知していなかったのにお客さんから「コーヒーが美味しくなったね」という感想をいただいたそうです。この2年間はイートインでしか味わえませんでしたが、今年2月10日から店頭で豆の販売を始めました。



左から「月」「花」「トーストに合うスペシャルティコーヒー」



徹底した無添加材料を追及するため、新商品の開発は添加物が障害に。

コロナ禍で人通りが激減し、宝塚大劇場の出待ちも禁止になって、お店を訪れるお客さんの数がガクッと減ったと話す日浦さん。

「でもオープン直後が異常な多さでしたから、最近はむしろ『うまく回るようになってきたね』という感じです」

お客さんが減ったとはいえ、日浦さんは今でも1日に100~200本の食パンを焼くそうです。取材中にもテイクアウトのお客さんや、イートインを利用するお客さんが訪れていました。

「大劇場で公演をやっている日とか、天気がよくて暖かい日はお客さんが多くなりますね」


「KONA TKZ」のこだわりは、徹底して無添加の原材料を追及していることです。カナダ産の粉はもちろん、生クリーム、バター、餡子などすべて無添加。そして卵とハチミツを使っていないので、小さな子供でも安心して食べられることが、この地域のお客さんに知れ渡って来ました。



イートインで提供される「あんバタートースト」。関西でトーストといえば、この厚さが普通。


「食パンブームが下火になったといわれていますが、本当においしくて安心して食べられるパンが残ってきたんじゃないでしょうか」

日浦さんは新商品の案をいろいろ考えるそうですが、添加物が障害になって先へ進めなくなることがあるとか。たとえばチーズをカッティングする刃に塗布する潤滑剤に微量の添加物が入っていると、それだけでボツになることがあったといいます。添加物を完全に排除するのは、想像以上に難しいのです。そこまで徹底的に無添加を追及しているからこそ、お客さんも安心して買うことができるのでしょう。



イートインでトーストと専用コーヒーをいただく。


オープンから3年足らずで、地域にしっかり根付いた「KONA TKZ」。よりおいしいパンを焼くために、今も工夫と研究に余念がありません。完全無添加という条件をクリアして、どんな新商品を出してくれるのか、今から楽しみです。



■ KONA TKZ宝塚本店


ホームページ

https://kona-tkz.com

  

住所

〒665-0844

兵庫県宝塚市武庫川町2-10


電話番号

0797-86-3685


営業時間

10:00-18:00(売り切れ次第終了)


定休日

水曜日


アクセス

阪急今津線宝塚南口駅から徒歩6分

JR宝塚駅から花のみち経由で徒歩12分


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