関西航空少年団の団員・加藤咲さん(高校2年生)の夢は「ブルーインパルスに大阪の空を飛んでほしい」ということ。2019年に参加した地元の子ども議会で提案したときは、周囲の大人から「発想は面白いけど、実現は難しい」と一蹴されました。しかし、ここ1年のあいだに状況が変わって、実現しそうな方向で話が進んでいるといいます。 


ブルーインパルスに憧れ、大阪の空に呼びたいと思ったきっかけや、プロジェクトリーダーとしての役割などについて、加藤さんと関西航空少年団顧問の大和屋貴彦さんに聞きました。

プロジェクトリーダー・加藤咲さん(高2・左)と副リーダー・畑部陽菜乃さん(高1)



子供が参加する模擬議会で「ブルーインパルスを大阪に」を提案

航空少年団とは、航空と宇宙に関する知識を学び、団体活動を通して楽しみながら規律やリーダーシップ、問題解決力を養う青少年団体です。一般財団法人「空港振興・環境整備支援機構」に本部が置かれ、全国にある18団体のうち13団体が活動しています。5団体は団員の減少その他の事情により、活動を休止しています。


関西航空少年団は、関西国際空港が開港した同じ年の1994年に発足。大阪府泉佐野市と関西国際空港エリアを中心に、小型飛行機やヘリコプターでの飛行体験、パラグライダー飛行体験、雪上スポーツ体験、水上スポーツ体験、キャンプ合宿、航空施設見学、茶道研修、奉仕活動、ハイキングなどの活動を行っています。


関西航空少年団の活動の一環として泉州航空神社を参拝(画像提供:関西航空少年団)


小学校6年生のときに入団した加藤咲さんは、現在高校2年生。今年で5年目の中堅団員です。加藤さんの夢は、航空自衛隊第4航空団第11飛行隊「ブルーインパルス」を大阪の空に呼ぶこと。そのきっかけになった出来事がありました。


2019年8月25日に、地元の泉佐野市で行われた「第3回みらい泉佐野こども議会」に参加することになった加藤さんは飛行機が好きなのでブルーインパルスを泉佐野市に呼びたいと提案しました。「みらい泉佐野こども議会」は、子供が提案したことに対して本職の市会議員が答弁する模擬議会です。加藤さんの父親が航空機好きで、咲さんも航空自衛隊の広報活動を描いた小説「空飛ぶ広報室」を読んで、ブルーインパルスに強い関心をもっていました。模擬議会では「ダメでもともと」と、夢を語ったわけです。


松島基地上空を飛ぶブルーインパルス(画像提供:関西航空少年団)


それに対する議員さんの反応は、案の定「頻繁に離着陸が行われている関空の航空交通管制圏(空港から半径9km以内範囲)において、これを許可することは、飛行機の運航の支障になる」という答弁でした。

「画期的なイベントになるだろうとは言ってくださったんですが……」


ときは新型コロナウィルスによる感染症が蔓延する前で、大阪の空は関西空港、伊丹空港、神戸空港の3空港を発着する航空機で混みあっていました。ブルーインパルスが曲技飛行を行うには、空域にも時間にも制約が多すぎました。


大阪上空を飛ぶには制約が多い(画像提供:関西航空少年団)



河野太郎防衛大臣あてに手紙と要望書を出した

2020年の初め頃に最初の患者が確認された新型コロナウィルスは、世界中で猛威を振るい始めました。日本では入国と出国が制限され、関西空港を発着する航空機がほぼ姿を消しました。


関西航空少年団は、4月に予定していた新入団員の入団式を延期。同時に団の活動として、コロナ禍が終息し航空業界と地域が元気を取り戻すまで、様々なエールを矢の如く放ち続ける「空のエールプロジェクト」が発足しました。このプロジェクトでは、航空業界で働く人たちを応援する動画を配信したり、LCC「Peach Aviation」(以下Peach)の機体を1機借り切って遊覧飛行を行ったりするなど10個の活動を設定。その一環として、大阪の空にブルーインパルスを呼ぶ構想もありました。同じ年の5月29日、コロナ対策に携わる医療関係者への感謝を表すため、ブルーインパルスが東京上空を飛行。


「やっぱり大阪でも飛んでほしい」

加藤さんら航空少年団の団員は、河野太郎防衛大臣(当時)に宛てて「大阪にもブルーインパルスを」の熱い気持ちを手紙にしたため、6月5日に防衛省へ送付しました。「その手紙に対する回答はありませんでした」と、大和屋さんは振り返ります。


それからしばらくして、6月27日付けの読売新聞に、加藤さんが取材を受けた記事が掲載されました。その記事には、河野防衛大臣が6月2日の記者会見で語った「他の都市での飛行も検討する考えを明らかにしている」と、再飛行を前向きに検討している発言も出ていたのです。大阪にも、まだ望みがありました。今度は大阪国際空港(伊丹空港)を拠点に活動する大阪航空少年団と連名で、河野防衛大臣あてに要望書を出したのです。



航空幕僚監部の広報室長からメールが来た

11月29日、関西航空少年団は「空飛ぶ航空教室」と銘打って、Peachの旅客機を1機借り切って、チャーターフライトを実施しました。関西空港を離陸したのち西へ向かい、福岡上空で進路を南へとり、四国の南側を飛んで関西空港へ戻ってくるコースを飛びながら、Peachのスタッフから飛行機の換気の仕組みや感染症対策についてレクチャーを受けたり、地元企業とのコラボで誕生した機内食を味わったりする内容でした。また、このフライトでは、奇跡的な出会いもありました。


「Peachの副操縦士が、元ブルーインパルスのパイロットだったんです」(大和屋さん)

副操縦士曰く「関西航空少年団の皆さんが大阪にブルーインパルスを呼ぼうとしていることを、ホームページを見て知っています。大臣に手紙を書いてくれたそうですね。現役のブルーインパルスのパイロットたちも、大阪で飛ばしたいという話をしているんですよ」とのこと。


ブルーインパルスの現役パイロットたちが、みんなの夢を知ってくれていました。団員たちにとって、その事実だけでも最高に嬉しいことだったといいます。


Peachの旅客機を借り切ってチャーターフライト(画像提供:関西航空少年団)


2021年が明けると、関西航空少年団はチャーターフライトの記念誌をつくりました。

「それを5月15日に、全国の航空業界と航空自衛隊の各基地へ送りました」(大和屋さん)


それから間もなくして、宮崎県にある新田原(にゅうたばる)基地の広報から、大和屋さんへ連絡が入りました。「空のエールプロジェクトに関して、基地として何か協力できることはありませんか?」というのです。その際「空幕(くうばく)に話したほうがいいのでは?」と助言もあったそうです。空幕とは「航空幕僚監部(こうくうばくりょうかんぶ)」といい、航空幕僚長をトップに航空自衛隊全体を司る機関です。


「やっぱり子供たちの夢を実現させてあげたい」

大和屋さんは、防衛大臣、副大臣、政務官に繋いでもらうために政府とパイプの太い地元の政治家へ連絡することを決めました。その矢先のことです。

「空幕の広報室長から僕宛に、メールが来たんです」

そのメールには「団員の皆さんが河野防衛大臣に送ってくれた手紙をもっています」ということと、7月24日に大阪で講演会があるので、そのタイミングで子供たち、もしくは団の役員さんとお会いしたい旨が書かれていたそうです。広報室長からは、さらに嬉しい知らせもありました。大阪にブルーインパルスを呼ぼうとしている関西航空少年団の取り組みを航空幕僚長が知ってくださっているというのです。


「夢が現実になるかもしれない」

手応えを感じた大和屋さんは10月15日、関西航空少年団ブルーインパルス展示飛行招致プロジェクトチーム「TEAM dreamers」を5人の団員で発足させ、「Blue Project」として取り組むことを決意しました。プロジェクトリーダーは、最初に夢を語った加藤咲さん。

「指名されたわけじゃなく、自然にリーダーになっていました。いい出しっぺですから(笑)」


Blue Projectのポロシャツ



Blue Project始動! 加藤さんは堺市以南9市4町の首長に協力のお願い行脚

Blue Projectは「ブルーインパルスを大阪の空に」という趣旨ですが、実際に想定されている飛行エリアは、大阪府南部の泉州と呼ばれる地域の上空です。Blue Project最初のミッションは、地元、泉佐野市の千代松大耕(ちよまつひろやす)市長から大阪府知事あてに、ブルーインパルスを招致してほしいという要望書を出してもらうことでした。千代松市長は、関西航空少年団の名誉顧問でもあります。


千代松市長との面談が叶ったのは12月24日。世間はクリスマスイブですが、浮かれてはいられませんでした。顧問の大和屋さんが同行していましたが、加藤さんが自分の言葉で話さなくてはならないのです。高校生になっていた加藤さんは、市長から見ればまだ子供。しかし行政を動かす話となれば、さすがに子供扱いはされなかったといいます。

「結構厳しいやり取りがあって、大変でした」(加藤さん)

「千代松市長から大阪府知事あての要望書は出してもらえたのですが、まだ知事と直接お会いすることはできなくて、大阪府で空港行政のトップである空港政策監に泉佐野市の副市長と政策推進担当理事とともに要望させていただきました」(大和屋さん)


2022年が明けると、航空幕僚監部とオンラインで面談したり、大阪市内にある自衛隊大阪地方協力本部へ本部長を訪ねたりして、自衛隊側への協力要請も行いました。4月には東京・市ヶ谷にある防衛省まで出向いて、航空幕僚長を直接訪ねています。


ついに防衛省までやってきました(画像提供:関西航空少年団)


ブルーインパルスがスモークで描く円ひとつでも、直径が2kmにおよぶといいます。

「6機が縦横に飛び回って曲技飛行を行うには、かなり広域的な範囲になります。そのため、泉州の各自治体の合意が必要ですから、かなり丁寧に全部まわりました」(大和屋さん)

「堺市以南の9市4町の首長に協力を仰ぐために、春休みを利用して集中的に1週間ぐらいかけて訪問しました」(加藤さん)


そして今年7月26日、ブルーインパルスの本拠地である松島基地(宮城県)の見学が叶いました。パイロットは国家公務員である自衛官ですから、休暇を取ったり勤務の都合で休日になっていたりして、6機揃って訓練できない日が多くありますが、この日は6機揃って飛べる日でした。

「私たちのためだけに飛んでくれたんです」


松島基地でブルーインパルスを見学(画像提供:関西航空少年団)


じつは関西航空少年団の団員ほとんどが、ブルーインパルスを間近で見たことがなく、自衛隊の基地を訪れることすら初めての体験でした。曲技飛行仕様に改造された練習機「T-4」が、格納庫前に駐機している状態から滑走路へ進入、真っ白いスモークを引きながらの編隊離陸、そして一糸乱れぬ曲技飛行を目の当たりにして、団員たちは「大阪の空を飛んでほしい」との想いをさらに強くしたそうです。

初めて見る曲技飛行に興奮冷めやらぬ団員たち(画像提供:関西航空少年団) 



関西空港からの発着は無理? でもなんとかなりそう……。

もし本当にブルーインパルスを大阪で飛ばす夢が叶うとなれば、残る問題は「いつ?」「どうやって?」ということ。関西空港から離陸すればいいじゃないかと思われがちですが、大人の事情により現状ではほぼ不可能だそうです。

「関西には飛行場のある基地がありません。関空からの発着もできないので、浜松基地から飛んできて、和歌山のほうから進入してくるコースになると思います」


加藤さんは、2020年に東京を飛んだときのように、大阪の上空を飛んでくれたら満足だといいます。しかし、大和屋さんの考えは少し違っているようです。

「加藤さん的には、6本線を引いて飛んでもらうだけでも満足という話だったんですけど、大人たちは関空からの離発着も視野に入れて、最大限のことをやりましょうという考えになっています」

それでも加藤さんは「ルールとの折り合いがかなり難しいから、どうなるかわからないけど」と、過度な期待を抱かないよう自制している印象を受けました。


松島基地の見学から帰ってきて報告会(画像提供:関西航空少年団)



プロジェクトリーダーとしての今と将来の夢

現在高校2年生の加藤さんは、約30分にわたるインタビューのあいだ正座を崩さず、しっかりとした口調で受け答えをしていました。関西航空少年団の活動で培った責任感だけでなく、きっと御両親も立派な方なのでしょう。


ー 言い出しっぺとはいえ、プロジェクトリーダーとなればそうとうな重責のはず。どんな苦労があるのでしょうか。

「大人を相手にプロジェクトのプレゼンをしたり、質疑応答をしたりします。たとえば航空幕僚長とか、3月には自治体の首長さんを訪問したときは、プロジェクトメンバーで動けるのが私だけのときがありました。大和屋さんと私だけで訪問して、これまでの経緯を含めて自分ですべてお話をしないといけません。発案者の自分がいちばん多くの情報をもっていますし、実現させたい気持ちが誰よりも強いのも私だと思うので、苦労といいつつ楽しんでいます」


新しく入ってきた団員へプロジェクトの趣旨を伝えるのも、もちろん加藤さんの役目です。5人の団員で発足したTEAM dreamersは、8月下旬の取材時、8人に増えていました。団の中でさらにプロジェクトメンバーを募集しているといいます。


ー ところで加藤さんは、将来どんな進路を考えているのでしょうか。

「たくさんの人を笑顔にしたり、役に立ったりする仕事がしたいと思っています。実際の仕事や将来はどうあれ、航空少年団活動で得た経験は私のこれからの人生に大いに役立つと思います。体力などを考慮して、パイロットや自衛隊の道に進むのは厳しいと思っていますが、興味はあります! 飛行機の運用や広報、今後の国防や自衛隊の在り方など、考えたいことは尽きません」


夢が本当に叶うかも……(画像提供:関西航空少年団)


大阪の空にブルーインパルスが華麗に舞う日は、そう遠くないかもしれません。空へ向かって熱い情熱を抱く、加藤さんの将来も楽しみですね。



■ 関西航空少年団


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松島基地見学の様子