鎌倉駅から御成通りを抜け、左手の踏切を渡ると、本日の取材先「THE ENTRANCE YUIGAHAMA(ザ エントランス 由比ヶ浜)」が見えてきます。指定の時間より早く着いてしまったため、お店の前をうろうろしていると、スタッフの方が温かく出迎えてくださいました。
中に入ると、植物と木々に包まれた温もり溢れる空間が。それと同時に鎌倉ではあまりイメージできない、アットホームな雰囲気が漂っています。どうやらここは、普通のカフェとはひと味違っているようです。
THE ENTRANCE YUIGAHAMA がもつ3つの機能
THE ENTRANCE YUIGAHAMAができたのは2022年2月のこと。
「地域の方も、初めて鎌倉を訪れた方も、一緒に集える場所」
「誰かが何かを始めるきっかけの場所」
というコンセプトのもと、カフェ&シェアスペースとして運営を始めました。シェアスペースには主に3つの機能があります。
誰もが街のシェフになれる「チャレンジキッチン」
シェアスペースの1つ目の機能は「チャレンジキッチン」。
時間と曜日を指定してキッチンスペースをレンタルし、自分のお店を開くことができます。
チャレンジャーが用意するものは、食材とテイクアウト用の容器のみ。調理器具や電化製品、食器類など調理に必要なものはほとんど揃っています。「せっかくチャレンジしてもらうのだから、敷居の高い場所にはしたくない」というお店側の想いから、キッチンのレンタル料金は1時間1,000円に設定(2022年3月時点)。
オープンから1ヶ月弱で、ヴィーガン料理を提供する方や、アスリートに食事指導を行っている方、地元の飲食店で働いている方などが続々と出店しているそうです。もちろんお客様側として料理を食べに来たり、テイクアウトしたりすることも可能。毎日違うものが同じ場所で食べられるとあり非常に好評を得ています。
チャレンジキッチンでは、料理教室を開催することも可能。小規模・少人数なので、教える側も教わる側も肩肘張らずに挑戦することができます。和気あいあいと作ったお料理は、店内で実食。食べ終わった頃には、みんなすっかり打ち解けているそうです。料理教室には早くもリピーターがついており、次回の開催が待ち望まれています。
使い方は千差万別「レンタルスペース」
シェアスペースの2つ目の機能は「レンタルスペース」。
10畳ほどあるレンタルスペースでは、身体測定やヨガ、ワークショップ、ミーティング、上映会、お食事などさまざまな使い方ができます。1時間1,500円で貸切にできるほか、キッチンと併せたレンタルも可能。使い方は千差万別です。
大きなヨギボーや座り心地のよいクッションが各テーブルに配置されているため、リラックスして快適に使えます。
レンタルスペースの一角には、鎌倉駅周辺にはほとんどないという「授乳室」を完備。赤ちゃん連れの方でも安心です。
仕事も休憩もお買い物もできる「ギャラリー&カフェ」
シェアスペースの3つ目の機能は、「ギャラリー&カフェ」。
すべての席にコンセントを完備し、自由にWi-Fiを使うことができます。「細かいお釣りを渡さなくてもいいように」と、コーヒーやソフトドリンクの料金は一律300円。喉を潤しながら仕事をしたり、気軽に休憩をしたりすることができます。
「チャレンジボックス」では、ローカルアーティストの作品や雑貨の展示販売も。町の人に見てもらえるひとつの空間として、さまざまな方が商品を置いています。プロモーションを兼ねた使い方をする方も多いのだそうです。
THE ENTRANCE YUIGAHAMAに込めた想い
さまざまな機能を併せ持つTHE ENTRANCE YUIGAHAMA。中心となってコンセプトを考えたのは、マネージャーの山本 丈さんです。
山本さんは以前、某アウトドアブランドに勤務していました。順調にキャリアを重ねていく中で、いつしか若手の育成側に回っている自分に気が付きます。「このままでは自分の成長が止まってしまう」と考えた山本さんは、転職を決意。そのタイミングで今の会社の佐藤社長に声をかけられ、株式会社テラに入社。THE ENTRANCE YUIGAHAMAを含む鎌倉プロジェクトの立ち上げに携わることとなりました。
「正直このためだけに前の会社を辞めました。本当はファッションのプレス会社に転職しようと思っていたんですけどね(笑)。これだけアドバンテージが強い街で、尊敬する社長のもと、人のためになる仕事ができるということがすごく魅力的だったんです。」
毎日誰かと一緒にいたいというほど、“人”が好きだという山本さん。だからこそ、THE ENTRANCE YUIGAHAMAの立ち上げにあたっては、強い想いを抱いていたと言います。
「もともとは逗子鎌倉エリアに住んでいて、鎌倉には母親に連れてきてもらっていました。実はそのときから感じていたことがあって。鎌倉はローカル色が強すぎると思ったんです。この町には昔から住んでいる人がたくさんいます。あと、サーフィンをする人も。それは全然悪いことではないんですけど、『どこどこのだれだれ知っているよね』が当たり前になってしまっていて、その風習がお店の中にまで入ってしまっているんですよね。
それって、新しく自分の居場所を見つけようとしている人にとっては気持ちのよくないもので……。みんながサーフィンしなきゃ、行きつけのお店がなきゃ、みたいなことを無くしたいと思ったんです。その風習を変えるのは、結局“人”の力じゃないとできない。
だからこそ、THE ENTRANCE YUIGAHAMAでいろいろな人同士をつないで、変革を起こしたいと考えました。この場所から、鎌倉をもっといい場所にしていきたい。『THE ENTRANCE』という名前をつけたのは、そういう意味もあるんです。」
「ENTRANCE」とは、「入口」という意味。THE ENTRANCE YUIGAHAMAは、由比ヶ浜の入口にあるということだけではなく、“みんなの心の入口になるように”という願いも込められていたのですね。
そういえば、店名の後ろに“5”が隠れているのが気になります。もしかして、これにも何か意味があるのでしょうか?
「実はこれもちょっとしたこだわりのひとつなんです。4丁目までしかない由比ヶ浜のニューノーマルなスポットになるように、あとは、ENTRANCEの頭文字“E”がアルファベットの5番目にくることから、“5”を描きました。」
細かい設定までこだわり抜いているところからも、山本さんの強い想いが感じられます。
「お客様」ではなく「人」として見る
とにかく“人”を第一に考える山本さんは、THE ENTRANCE YUIGAHAMAに来る方を「お客様」と呼びません。
「『お客様』として見ると、『お客様』という幅でしか見れません。『人』として見ると、相手を見る幅がもっと広がる気がしています。この場所に来る方とは、マニュアル的な関係ではなく、オリジナルな関係性をもちたいんですよね。」
お客様を“人”として見たいというこだわりは、お店の料金設定からも感じられます。例えばシェアスペースの料金。キッチンは1時間1,000円、レンタルスペースは1時間1,500円という料金ですが、鎌倉の立地としては格安です。
「『鎌倉』というブランドを使えば、本当はいくらでも料金を上げることができるんです。それでもここを使う“人”のことを考えると、そうはできなかったんですよね。カフェで販売するコーヒーやソフトドリンクも、うちは300円で統一しています。珈琲のレベルが高いこともありますが、1杯600円~700円という価格設定が当たり前の鎌倉だからこそ、街の人に優しい値段はこのくらいだろうということで、300円になりました。」
“人”に区別はないため、お店のターゲットも全員だと語る山本さん。インテリアや設備といったハード面も、みんなが使いやすくなるように心掛けています。
子どもがぶつかってもケガをしないように棚の角を丸く削ったり、ワークスペースの上だけはフェイクグリーンを使って、葉っぱが落ちてこないようにしていたり。
また店内は「リーフ感」を意識し、リラックス感を演出しています。近所のおしゃれな園芸店「鎌倉ロコマート&ガーデン」の植物を置いたり、壁紙をやわらかな緑色にしたりしているそうです。トイレにだけビーチの絵を飾る遊び心は、元ディスプレイヤーならではですね。
THE ENTRANCE YUIGAHAMAのこれからの展望とは
お店に込められた想いを聞いていると、THE ENTRANCE YUIGAHAMAのこれからの発展が非常に期待できます。山本さんとしては、今後の展望をどのように考えているのでしょうか?
「まずは鎌倉のいいものをミックスさせたオリジナルメニューを販売していこうと考えています。現時点では、鎌倉野菜を使ったスムージーや、近くにあるKIBIYAベーカリーさんのパンを使ったホットサンドを販売することが決まっています。地元のもの同士を融合させることで、地元の人同士がつながったら嬉しいですし、観光客の方にも鎌倉のよさを分かっていただけると思います。THE ENTRANCE YUIGAHAMAがこの街にもっと浸透したら、オリジナルグッズも制作してみたいですね。
チャレンジキッチンやレンタルスペースについても、利用者の方が使いやすくなるように、もっと精度を高めていくつもりです。誰のどんな挑戦でも受け止めて、お手伝いできたらいいなと思います。
また今後は長谷でも古民家のオープンを予定しているので、そちらも同じ熱量で頑張ります!」
コロナ禍において、観光客や移住者、地元住民との間で物理的にも距離が広がってきている昨今。THE ENTRANCE YUIGAHAMAが鎌倉の新しい風となり、人と人を温かく結んでくれることを期待して止みません。THE ENTRANCE YUIGAHAMAや山本さんが抱く想いに共感した方は、カフェの利用から気軽に始めてみてはいかがでしょうか?
■ THE ENTRANCE YUIGAHAMA
「地域の方々や初めて鎌倉を訪れた方々が集い、何かを始めるきっかけとなるような場となるように」との願いを込めて誕生。チャレンジキッチンやカフェ、レンタルスペースなど、さまざまな機能を併せ持つシェアスペースを提供することで、誰かの活動を後押しし、人と人をつなげることを目指す。
住所
〒248-0014
神奈川県鎌倉市由比ガ浜2-2-37
電話番号
070-5562-7029
開館時間
10:00-18:00
定休日
不定休
アクセス
JR 鎌倉駅から徒歩約6分
下馬交差点から徒歩約1分。由比ヶ浜大通りの一角にあるビル1階
山本さんのInstagram
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