南足柄市は周囲を山に囲まれた穏やかな街。ふくらんは2013年に南足柄市にオープンした、障害者の就労支援をする洋菓子店です。障害者の方々が働く上での工夫や地域での活動、「福祉だから」を言い訳にしない商品へのこだわりなどを、店長の大賀さんに伺いました。



ふくらんの運営母体は社会福祉法人

神奈川県南足柄市にある「ふくらん」は、働く障害者を支援する洋菓子店。社会福祉法人の「県西福祉会」が運営母体で、現在は20名ほどの利用者 ※1 が働いています。


※1 本記事の中で使用する「利用者」という言葉は、ふくらんで働いている障害を抱えたスタッフの皆さまのことを指します。



ふくらんのお菓子はどれも絶品。


ふくらんは、プレアデスという障害福祉サービスを提供する施設の中にある1つのユニット。プレアデスでは、施設内でスティックのりの封入や箱詰めといった作業も同時に行われています。そのため、利用者全員がふくらんで作業をしているわけではなく、利用者に合わせた作業が提供されています。

ふくらんで提供している障害福祉サービスは、就労継続支援B型 ※2 。利用者がふくらんまで通い、洋菓子を製造する作業に従事するという形をとっています。


※2 就労継続支援B型

障害や難病を抱えている方のうち、年齢や体力などの理由から企業などで雇用契約を結んで働くことが困難な方が、軽作業などの就労訓練を行うことができる福祉サービスのこと。



利用者さんが得られる工賃への問題意識が開設のきっかけ

障害者の就労支援では珍しい、生菓子を扱うお店のふくらん。前例が少ない生菓子を扱うお店の開設に至った理由は、利用者が得られる工賃への問題意識からでした。


南足柄市にあるふくらんの店舗。20名ほどの障害を抱える方が従事しています。


「利用者さんに支払われる工賃を改善したいというのが、ふくらん開設の大きな理由の1つでした。」


プレアデスでは、もともとはボールペンの組み立てなど外部からの受注作業がメインだったのだそう。ただ、受注作業のみでは、利用者の方に支払われる工賃が上がりづらいという現実も。全国的に見ても、令和2年度の就労継続支援B型の平均賃金は月額15,776円となっています。


参考:厚労省 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000859590.pdf


さらに「福祉とはいえお金を頂くわけですから」と話す大賀さん。平均工賃を上げるためには商品の質にもこだわる必要があると、開設当時から考えていたのだそう。製菓の専門学校に通った経験がない福祉の職員であった大賀さんたちは、長野県佐久市にまで修行に出かけます。


「ふくらんで使用している卵は、長野県佐久市のブラウンエッグファームから購入しています。開設前に、当時の製造担当スタッフ3名でブラウンエッグファームが運営している洋菓子店まで出向き、お菓子作りのノウハウを教えて頂きました。」


修行を終えた大賀さんたちは、自分たちでできるもの、美味しいと思うものをチョイスしてレシピを改良。素材や製法にこだわった商品が完成しました。



地域に根差したお店を目指す

ふくらんは、地元の人であれば知らない人はいないほど人気のお店。地域に密着したお店を目指すことも、こだわりの1つなのだそう。


自治会の夏祭りでの様子。地域での活動にも力を入れている。


「自治会の夏祭りへの出店など、地域との交流も積極的に行っています。今ではオープンして10年近くになりますが、地元の皆さんにはふくらんを受け入れて頂いていると感じていますね。」


近隣の小学校の社会科見学や、中学校の職場体験の受け入れも行っているふくらん。その際には福祉の話をしているそうで「少しでも福祉に興味を持ってくれる学生さんが増えれば嬉しいですね」と大賀さんは言います。


また、小田原短期大学と合同で行ったイベント「たまごスイーツコンテスト」では、実際にふくらんで商品化されたレシピもあるのだとか。


「『梅ゼリー』という商品のレシピは、小田原短期大学の学生さんがそのときに考えてくれたレシピなんですよ。」



小田原短期大学の学生さんも真剣そのもの!


大賀さんはさらに、商品へのこだわりも地域に受け入れられた要因の1つなのではないかと語ります。


「ふくらんは障害者を応援するお店ですが、消費者の観点から言えば、町にある洋菓子屋さんと変わらない感覚で見る方もいらっしゃるはず。そのため、『福祉だからこれぐらいの味で仕方ない』ということではなく、材料や商品を作る過程にもこだわって、美味しいものを提供するという想いも大事にしています。」


地域での活動の一環として、地産地消の観点でも商品開発を行っているというふくらん。南足柄市のお隣、山北町にある「薫る野牧場」とのコラボ商品である「薫る野プリン」は、テレビでも紹介され話題に。



ふくらんの大人気商品「薫る野プリン」。


「地産地消の商品ができないかと考えていたときに、薫る野牧場さんとお話をさせていただきました。薫る野牧場さんの牛乳を活かすために、何種類かプリンのサンプルを作ったり、シュークリームに使うカスタードクリームを作ったりと、いろいろと試したなかで完成したのが薫る野プリンです。」


これらの努力が実って、一時期は平均工賃25,000円を達成。就労継続支援B型の平均賃金を大きく上回る成果を上げました。



週5日働く利用者さんが最も多い

ふくらんで働く利用者は、知的障害や精神疾患を抱えた人たち。障害を抱えながら働く利用者の働き方は、どのようなものなのでしょうか。


こだわりの卵を陳列する様子。


「勤務時間は5時間ぐらいです。朝10時からスタートして、午前中は12時までの2時間。午後は13時からスタートして、16時頃に帰宅となります。ふくらんは年末年始以外は基本営業していて、土日も営業しています。週1日のみ働きに来る利用者さんもいますが、週5日働いている人が1番多いですね。」


また、養護学校に通っていた利用者の方は、学校に通っていたころのルーティンがそのままふくらんでの仕事にも活かされているのだそう。


「たとえば、学校は月曜日から金曜日の週5日間通うじゃないですか。人により多少異なりますが、決まったルーティンの中で生活されている方が多いですよ。」


精神科病院で働いた経験もある筆者は、働くことが難しい障害者の方と接することが多々ありました。そのため、週5日間働いている人が1番多いというお話には、驚きを隠せませんでした。


ただ、利用者の障害特性から、調子の波があるのも事実。こまめに調子を確認して、働き方の調整をする必要もあるとのことでした。


「1日5時間という枠の中で、午前中に調子が悪い場合は、別室でお休みしていただいて、調子が戻ったら午後からお仕事を再開しようか、というときもあります。月単位での調子の波もありますね。その方なりのペースや障害の特性を考える必要があるので、なるべくそこに合わせて支援するように心がけています。」



障害特性を踏まえた作業環境を提供

障害者が働くうえで、調子の波だけではなく、スムーズに作業をこなせるような工夫も必要になってきます。



個々の障害特性を踏まえた作業環境となるよう工夫している。


誰にでも得意・不得意はありますが、知的障害や精神疾患の障害特性を考えると、障害者の場合は得意・不得意が顕著な場合が多くなります。ふくらんではこの障害特性を的確に捉え、なるべく得意な方法で作業ができるよう環境を整えているとのこと。


「たとえば、耳で指示を聞くよりも目で見た方がスムーズに理解できる場合があります。プリンを容器に注ぐときには、注ぐ量のグラム数を決めて、デジタルの秤を使って数字で理解できるようにしています。」


ふくらんでは大賀さんをはじめ、支援員と呼ばれる職員の方が利用者と一緒に働いています。現場での様子を見て「こういう方法はどうだろうか?」と、常に話し合いをしながら、利用者が迷わないように工夫しているとのことでした。



シュークリームやプリンを作るのはあくまでも「作業」

ふくらん開設時は、職員にとっても利用者さんにとっても初めて尽くしの連続だったと語る大賀さん。障害者の就労支援という枠組みの中で、苦労することもあったとのこと。


「障害者の就労支援」が最優先事項。


「何か新しいことを始めるときに、一般のお店であれば『このやり方で統一しましょう』と決めることができます。ただ、我々の場合『利用者さんがどうやったらできるのか』という段階を踏む必要がある。一般のお店と比べると、こういったところがうちの違うところですね。シュークリームを作ったりプリンを作ったりといったことも、もちろん我々の仕事ですけれど、それはあくまでも作業。利用者さんに来ていただいて、利用者さんを支援するというのが本質的な仕事です。」


忙しい中で、商品の製造と利用者の方への支援のバランスを取ることには苦労したとも語る大賀さん。美味しいお菓子が作られるまでの、福祉の現場のリアルも垣間見ることができました。



店舗を飛び出して参加するイベントは、利用者にとっての良い刺激に

ふくらんでは店舗での販売のほかに、近隣で開催されるイベントの出店も積極的に行っています。外でのイベント時には、消費者の声をダイレクトに聞くことができ、利用者の方にとって良い刺激になっているのだそう。


消費者からの声が利用者さんの励みに。


「自分たちが作ったものがどのように売れているのかを知ったり、自分たちが作ったものでお客さんに喜んでもらったりという体験は、製造しているだけではわからない。こんなに喜ばれているんだという光景が、利用者さんたちの励みになっています。」


ボールペンの組み立て作業やスティックのりの袋詰め作業では、完成品はお店で売られますが、お客さんが喜んでいる姿を見る機会はほとんど得られません。


「一緒に販売に行けば、実際にお客さんと話しながら、『この間これ買ったけど美味しかったよ』といったお話を聞けるのが、対面での販売の良いところですよね。」



「ふくらんで働いていて良かった」と思ってもらえることが1番大事

1人1人がやりがいを持った働き方を。


ただ、コロナ禍により外部でのイベントが制限されたり、売り上げが下がってしまったりといった変化にも直面。その中でも、様々な可能性を模索しながら運営をしていきたいと大賀さんは語ります。


「最近はオンラインでの販売を開始したり、南足柄市のふるさと納税の返礼品になったりといったポジティブな変化もありました。ふくらんでは、新しいことに取り組んで様々な可能性を探っていきたいと考えています。」


工賃の改善や、商品へのこだわりなど、多くのお話を聞かせてくれた大賀さん。ただ、インタビューの最後には、利用者の方のやりがいが1番大事だと話してくれました。


「様々な可能性を探ることで、利用者さんができる仕事が増えたり、県西福祉会の活動を知ってもらえたりしたら良いなと思っています。ただ、それだけじゃなくて、やりがいというか、ふくらんで働いていてよかったなと思ってもらうことが、やはり1番大事だと考えています。」



■ ふくらん

社会福祉法人「県西福祉会」が運営する、働く障害者を応援する洋菓子店。素材にこだわったお菓子や、季節ごとの新商品が魅力。ふくらんという名前は、ふくらんの住所である「福泉」のふく、幸福のふく、福祉のふくに加え、卵のらんを合わせて付けられた。


ホームページ

https://fukuran.jimdofree.com/

  

住所

〒250-0133

神奈川県南足柄市福泉130-1

 


電話番号

0465-74-0141


営業時間

10:00-17:30


定休日

水曜日・年末年始


アクセス

伊豆箱根鉄道大雄山線 大雄山駅より県道78号経由で15分


Instagram

@fukuran_



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