宮脇ご夫妻は、ご主人は南足柄市内の企業で、奥様はキャンプ場で働きながら、兼業農家として野菜の販売やSNSでの農業情報の発信など、精力的に活動されています。そんなお2人に兼業農家の魅力や南足柄市での農業、耕作放棄地など農業に関する課題に対してのお考えを伺いました。
兼業農家にとって魅力的な南足柄市の農業参入システム
「農業で心が癒される」と語ってくれたご主人。
お2人の活動についてお話しする前に、まずは南足柄市の農業参入システムを簡単にご紹介します。
南足柄市に確認したところ、農業参入システムは以下の3つに分けられるとのことでした。
・「南足柄市新規就農基準」による就農
・「市民農業者制度」による就農
・市民農園を利用したレクリエーション的な就農
神奈川県で正式に農家として活動するには、各県の農業大学校と同様の役割を担う「神奈川県立かながわ農業アカデミー」に通う必要があります。同アカデミーには、1 年以上の研修を受けるなどの要件があり、社会人が新規就農者になるためには、時間的・経済的な負担が少なくないという側面も。
「(奥様):知り合いの中には、農業アカデミーに通ったけれどお金ばかりかかってしまい、実践で学ぶ機会が少ないと話していた人もいました」
南足柄市は就農希望者を柔軟に受け入れるため、市の農業委員会のサポートを受けながら農業を行い、正式な農家として申請できる「南足柄市新規就農基準」を2008 年 10 月 1 日から施行しました。そして「市民農業者制度」は、南足柄市新規就農基準の補完的な役割として位置づけられた制度。3年間の耕作経験を積むことで正式な農家としてステップアップすることも可能となっています。
宮脇ご夫妻はこの「市民農業者制度」を利用し、兼業農家として活動。お2人によると「南足柄市の農業参入システムは、兼業農家に最適な制度」なのだとか。元々は南足柄市に隣接する小田原市内の市民農園を借りていたというお2人。2人で食べるには多すぎる収穫量となり「これ売ってみようか」と考えていたところ、時間的・経済的負担を解決してくれる南足柄市の市民農業者制度を知り、利用を開始したと話してくれました。
兼業の魅力は「心が癒される
楽しそうに作業をする奥様。
2024年に農家としての資格を得るために、日々奮闘している宮脇ご夫妻。そんなお2人に兼業農家の魅力について語っていただくと「心が癒されることですね(笑)」という回答が。
「(ご主人):居酒屋を経営していた時期があったのですが、当時はお客様の反応を見ていて常に気を張っていました。野菜だったら『元気か?』と語りかけてあげるだけで良いので、とにかく心が癒されます」
「(奥様):お日様を浴びて、土を触って、植物の生命力に影響を受けています。兼業だと休む暇が無くて大変なのではと考える人もいますが、作る品種さえ気を遣えば、マメに面倒見なければいけないということもないし、兼業でも十分やっていけます」
このように語るお2人からは、農業を心から楽しんでいる様子が伝わってきました。また、経済面においても兼業農家は魅力的だと話します。
「(奥様):主人が企業で働いて、生活に困らず畑に投資できる額を稼いでくれているので、万が一荒天で畑がダメになっても生きてはいける。ガツガツ農業をやらないと生きていけないということもないので、心にゆとりを持てています」
「(ご主人):野菜を出荷できるようになれば収入を得られるし、自身の食卓に並べることもできるので、経済的にもメリットがあります。収穫した野菜がB級品だとしても、友人におすそ分けすれば『ありがとう』と言ってもらえます」
ご主人は「育てた野菜を収益化できた時は嬉しい」とも話してくれました。
農業開始当初は、南足柄市内の道の駅への出荷のみでしたが、現在では直売所にも出荷できるようになり、収益が増えたとのこと。お2人のお話から、兼業農家では精神面・経済面において数多くのメリットが得られることがわかりました。
新規就農者の前に立ちはだかるハードルを下げたい
草木が生え放題の土地を紹介されることも珍しくないのだとか。
ここまでのお話で、南足柄市の農業参入システムや兼業農家の魅力を知ることができましたが、反対にデメリットはないのでしょうか。お2人に伺ったところ「農業開始時の開墾がかなり高いハードルになっている」とのお話が。
「(ご主人):2021年は、野菜を売るよりも畑を耕す方が多かったですね。新しく借りた土地を使える状態にするのには、かなりの時間と労力が必要になります」
「(奥様):新規就農者支援を利用した人の中には、最初の開墾で心が折れてしまい、農業を続けられなかった人がいるという話を聞いたこともあります」
さらに、新規で農業参入システムを利用した場合、前の所有者が直前まで畑をやっていた土地を紹介されることもあるようですが「荒れている土地を紹介されることの方が多い」とも話してくれました。また、資金面でのハードルもかなり高いのだとか。
「(奥様):例えば耕運機を買うとなった場合、一気に10万円以上の出費が生じてしまいます。また、盲点となりがちですが、支柱の調達もかなりの負担。1本100円程度だからそんなに費用がかからないと思っても、作る品種によってはかなりの本数が必要になります」
農業に必須の支柱代も馬鹿にならないのだそう。
このような現状を知り、新規就農者向けに機材の貸し出しや、耕した土地の提供といった、就農初期のハードルを下げる活動を計画しているとのこと。
「(ご主人):耕運機を私たちがお貸しするから、その分、種とか苗にお金を回してもらえたらと考えています」
ご自身の農業のことだけでなく、経験から問題点を見出し、農業のすそ野を広げていきたいという視点は興味深いものがありました。
農業を始めてから知った「耕作放棄地」
南足柄市だけでなく、全国で問題となっている耕作放棄地。
お2人は新規就農者にとってのハードルだけでなく、耕作放棄地に対しても高い問題意識を持っています。耕作放棄地について詳しく知ったのは、農業を始めてからだったとのこと。農業を通じて知り合った人たちから「もう畑を運営できない」という話を聞く機会が多々あるそうです。また、奥様が耕作放棄地に関心を示したのは、地元での経験も影響しているとのこと。
「私の地元では『うちではもう畑ができないよ』とおっしゃる農家がすごく多かったです。人が手を入れなくなると、里山が荒れていき、人の交流もなくなってしまうという認識は以前からありましたね」
地元で暮らしていた当時から荒れた里山を再生したいという想いを抱いていたそうですが、仕事に時間をとられ、なかなか活動できなかったとのこと。そのため「南足柄で、農業を通じて里山での活動に携われていることが嬉しい」と奥様は語ります。また、耕作放棄地に対しての活動は、農家の資格を得られてからより本格的に取り組みたいのだそう。前述した新規就農者をサポートする計画も含め、長く農業を続けられる環境づくりに尽力していきたいと話してくれました。
農業だけにとどまらないアイディア
幅広い視点を持つ宮脇ご夫妻。
最後に今後の活動について伺ったところ、農業だけにとどまらないアイディアを2つ話してくれました。
1つ目は、新規就農者向けの空き家の提供について。
「(ご主人):使われていない空き家と、南足柄市に移住して農業をしたい人をつなげるプラットホームを作りたいと考えています」
「(奥様):空き家の持ち主には『空いているなら貸すべき』という人と『知らない人に出入りしてほしくない』という人がいて、なかなか空き家を提供できない事情もある。ただ、貸したい空き家があるのにそのままという状況はもったいないと感じるので、農業をしたい人とマッチングができたら良いなと思っています」
南足柄市のホームページには「空き家バンク」のページがありますが、実際には紹介されていない物件が多数あるとのこと。ここにもお2人の広い視野が活かされています。
2つ目のアイディアは、足柄の地域情報サイトの作成。
「(ご主人):農業による利益のことを考えると、お客様が増えないと野菜が売れません。普段の仕事と農業をやりながらサイトを運営するのは大変ですが、お客様の呼び込みや足柄の地域振興のためにも、なんとか実現したいですね」
兼業農家を始める前にも、ご主人は様々なビジネスに挑戦してきたのだそう。その経験を活かしながら、足柄の魅力を発信していきたいと話してくれました。
様々な課題に目を向けながらも、日々の暮らしを楽しんでいます。
南足柄市の農業参入システムが導入された背景には、農家の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の拡大があります。これらの課題に目を向け、精力的に活動する宮脇ご夫妻から目が離せません!
宮脇ご夫妻
神奈川県南足柄市で兼業農家として活動。「自然と人をつなぐ」という活動名で、SNSで農業や暮らしについての情報を発信している。ご主人は様々なビジネスのほか、ホームレスの経験を持つなど異色の経歴を持つ。
ホームページ
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