高齢化と後継者不足に長く悩まされる日本の農業。そんな中「援農」と「野菜の定期購入」を組み合わせ、地域の人々で地域の農業を守り、農業の新たな様式と価値を提案するコミュニティ『ニュー農マル』が鎌倉リーフのサポートのもと、発足しました。

ニュー農マルは農作業を農家以外の方がサポートすることで、農家には人手不足の解消を、農業を体験したい消費者には農業スキルの会得をという双方へメリットがある農業マッチング「援農」を提案しています。また野菜の定期購入を組み合わせることにより、更なる農業界の悩みを解消しようと活動しています。

今回は『ニュー農マル』代表の河野竜二さんにお話を伺いつつ、編集部 I が実際に援農を体験するため、拠点である鎌倉野菜市場かん太村へ伺ってきました!



『ニュー農マルプロジェクト』を始めたきっかけ  


河野さんはもともとご自身の地元である湘南エリアでイベントを開催したり、地域の情報を発信するなど様々な活動をされていました。その活動の中で鎌倉野菜のことを取り上げる機会があり、鎌倉市関谷にある野菜直売所『鎌倉野菜市場 かん太村(かんたむら)』のオーナー・田村さんに出会ったそうです。


その後、新型コロナウィルスの影響により河野さんが行うイベント等は開催が難しい状況となり、同様に田村さんも野菜を卸していた飲食店が営業できず運営が厳しい状況になっていました。イベント等が無くなったことで手の空いた河野さんは、気晴らしも兼ねて田村さんの畑を手伝うようになります。その中で汗をかき体を動かす農業の楽しさに気付き、農業が抱える問題に目を向ける様になったことで「もっと鎌倉の農家さんをサポートしたい」と思い始めます。


また、コロナ禍ではリモートワークが進むなど働き方も変わってきており、住居を都市部にする必要性が見直され、自然を求めて住まいを変えたり、自給自足・家庭菜園を行いたいという人も増えています。ニュー農マルの拠点である鎌倉市の隣、藤沢市の転入率は極めて高く、全国3位となっています。

農家への支援だけでなく、都市部からやってきた農業に興味がある人や、食育の一環など様々な「農」や「食」に対するニーズを満たす活動をしたい、との思いからニュー農マルプロジェクトが始動しました。



日本の農家が抱える問題

鎌倉の農家に限らず、全国的に農家の高齢化は深刻です。後継者がいない農家が多く、長期にわたり大きな問題となっています。

鎌倉の農家は「都市型農業」と言われ大きな農園などは無く、住宅地の中に農地がある農家がほとんど。取り扱う作物の多様化により一つの作物をたくさん作ることが難しく、生産性が低くなりがちです。

また、近年増えているゲリラ豪雨、台風などの気候変動により生産量が少なくなってしまい、安定的な収入を得ることが難しい状況もあります。この様な厳しい現状の農家を子や孫に継がせたくない……という思いを持つ方も多いのだそうです。



人手不足の解消と農業体験をマッチングする「援農」への取り組み


日々の草むしりやハウスの片付け、収穫・出荷作業など作物を育てる中に不随する仕事は、高齢になられた農家さんではかなり大変。特にハウスの片づけなどの重労働は、1人だと2~3日かかってしまいます。しかし、例えばそこに15人の人手があれば2~3時間で終えることができるのです。


このように、今、手を必要としている農家さんに、そこに必要な人手(農業体験をしてみたい人)を送り出すというサポート体制が「援農」という支援です。この援農によって鎌倉農家全体の生産性を向上させる事も、ニュー農マルの目的のひとつです。



鎌倉の農家収入を安定的に、サブスク農業体験とCSA


鎌倉の農業を持続可能なかたちにしていくためには、人手不足の解消と同時に、新しくお金を産むシステムを作ることが必要だと代表の河野さんは考えました。援農を通じたサブスクリプションにおける農業体験の提携だけでなく、「地域支援型農業」と呼ばれている『CSA』に着目します。


CSAとは「Community Supported Agriculture」の略称で、消費者が生産者に代金を前払いして、定期的に作物を受け取る契約を結ぶ農業のことを言います。例えば、1年間で農家と会員契約をして前払いで支払いを行います。その農家の会員となった消費者は農家より月2回季節の野菜セットを受け取ることができる、などの例が挙げられます。

引用:マイナビ農業


この仕組みにより農家の年間の安定収入を確保できるとともに、会員には土付き、泥付きでもOKだと事前に告知をしておけば、農家側は出荷時の梱包作業の手間を省くこともできるのです。アメリカやヨーロッパではすでに定着している取り組みですが、日本ではまだまだ成功事例が少ないのが現状です。


ニュー農マルでは、かん太村で販売している鎌倉野菜+農業体験をセットにすることで独自のCSAを確立させ、鎌倉の農家を支えながら、地域の食を守っていこうとしています。まだ日本ではなじみの少ないCSAという取り組みですが、鎌倉野菜のブランド力やオーガニック等、食の安全に感度の高い人が多く住む鎌倉エリアという土地柄もありこの活動に多く人が賛同しています。



フレキシブルに気負わず農業。ニュー農マルメンバーの活動と参加への思い

ニュー農マルの活動内容は主に以下の3つです。


①「援農」( 鎌倉農家さんの農作業サポート ) 

② 自分で農園を耕し、自分で野菜を作る

③ 安全安心な野菜を作って食べて販売する


「チームメンバーは20代~40代の男女で構成されています。鎌倉周辺の地元だけでなく東京都内から来るメンバーも2~3割います。ニュー農マルの活動は、行けるときに行けば良いというフレキシブルさなので、気負わなくても良いというところも魅力です。」と河野さん。


メンバーは農家のお手伝いがしたいという目的だけでなく、自分で野菜を作ってみたい、子供を自然に触れさせたい、将来農家になりたいから勉強したいなど多種多様。農業体験で体を動かして良い汗をかきたい!というエクササイズ的な目的の方もいるそうです。


農業というと少し厳しくて大変というイメージもありますが、こんなに気軽に参加できる場があれば、最初の一歩を踏み出しやすいですね。



『鎌倉野菜市場 かん太村』を拠点に


鎌倉関谷にある直売所『鎌倉野菜市場 かん太村』。援農支援に出動する際にはここが集合場所になっており、ニュー農マルの拠点となっています。かん太村では地元で生産された鎌倉野菜を直売で購入することができます。普段スーパーでは見かけない珍しい野菜もたくさん!料理教室やファーマーズマーケットなどのイベントも開催しています。

また、新鮮でおいしい鎌倉野菜を使ったカレーや天丼などのランチや、野菜たっぷりのお弁当も販売しています。



今回の取材時にも鎌倉野菜がたっぷり乗った彩り豊かな美味しいカレーをいただきました。


かん太村の区画内には大きな畑があり、ニュー農マルはその1区画(約25m×25mの畑)で農業を行っています。畑の耕し方、野菜の作り方を、かん太村及び協力農家さんに教えてもらいながら、自分の力で野菜を育てることができるスキルを身に付けることが目的です。

食品自給率が低い日本において自分で食料(野菜)を生産できる=生きてくためのスキル、ともいえるのではないでしょうか。作った野菜はかん太村の直売所で販売もしているとのこと。タイミングが合えば、ニュー農マルのチームメンバーが手塩にかけた新鮮野菜を買うこともできます。



ニュー農マルの「援農」を体験!

今回、ニュー農マルで実際に行われている援農体験にも参加してきました!まず最初に、援農へ参加するメンバーはかん太村に集合し河野さんより本日の作業概要の説明を受けます。



本日参加のメンバーは大学生、社会人、子供と一緒に参加のお母さん、そしてめぐりと編集部と様々です。土の付く農作業なので、援農参加時には動きやすく汚れても良い服装で参加することが推奨されています。長靴を履いてらっしゃる方も何名かいました。



本日の作業現場へGo!

ニュー農マルが行う「援農」は地元鎌倉の農家を対象にしているので、ご近所の農家さんへ伺うことがほとんど。車に相乗りして向かうこともあるそうですが、今回はかん太村から徒歩15分程のところにある農家さんだったので、みんなで歩いて向かいます。今日初参加の方や初対面同士のメンバーもいましたが、歩きながら会話をするうちに現場へ到着するころにはすっかり打ち解けていました。



本日の「援農」はきゅうり収穫後のツル下ろし


本日の援農作業はきゅうり農家さんで収穫後に行う、残ったツルを外すというお手伝いです。

ハウスの天井には洗濯物干しの様にロープが渡してあり、そこからさらにロープが垂れ下がっています。きゅうり栽培はきゅうりがツルを上に伸ばしやすい環境を作る必要があるため、その垂れ下がったロープにツルが巻き付く様、栽培します。


このハウスでは次の作物を育てられるよう、収穫後のツルを片付けます。ロープに絡みつき枯れたツルを地面に下ろし、1箇所にまとめ、ハウスの外に出し処分。本日の援農はこの作業です。

農作業というと、畑を耕したり、作物に水をあげたりといったイメージを持ちがちですが、こういった収穫後の片付けも欠かすことのできない大切な農作業です。



簡単そうに見える作業も意外と大変

さっそくきゅうりのツルを下ろしていく作業をスタート。頭の高さほどあるツルをひとつひとつ、引っぱり下ろして行きます。



きゅうりのツルは細かなトゲのような産毛があり素手で触ると危ない為、軍手は必須。枯れてパリパリに乾いているツル自体は軽いのですが、広大なハウス内に無数にあるように感じるほど、かなりの物量です。

終わりが見えない……!これはたしかに1人で作業するとなるとかなりの時間がかかってしまいそうです。また、ツルを下ろすという簡単で単純な作業に見えますが、バンザイのように両手を高く上げる動きが多く、肩や腕が上がりにくくなっている高齢の方には負担が大きいでしょう。このような作業を「援農」という支援で効率化することで、農家の方の負担を軽減することが可能になります。



あっという間に作業完了。これが援農の力!

枯れたツルがすっかり無くなり、すっきりとしたハウスの様子をご覧ください!



今回は10人ほどで作業を行い、ものの1時間ほどですっかり綺麗になりました。自分たちの手で綺麗になったハウスを見るのは、なんだかとても気持ちがいいものですね。ハウスが陽の光を取り込んでほんのりと暖かいこともありますが、冬の寒い日でも作業によって軽く汗ばむくらい体もポカポカになり、エクササイズ的な農作業を思いがけず体感することができました。



農家の抱える問題をポジティブに解決するニュー農マル

取材に伺い「援農」の農作業体験を通じて、人手不足や高齢化で農作業がままならないという農家の抱える問題を直に感じました。そんな問題を、双方にメリットのある「援農」という形でポジティブに解決をしていこうというニュー農マルは、これからの日本の農業の明るい光に思います。直接農業に触れて学べる機会が「援農」で増えることも、我々消費者にとっても嬉しいことですね。

また、消費者に農業体験・農業スキル・安全な食の確保、生産者には援農支援・CSAでの安定収入と、双方に喜ばれる形で農家の抱える問題を解決しようとするニュー農マルの新しい取り組みは、日本の農業の新たなスタイルになる予感がします。


ニュー農マルの取り組みに興味を持たれた方は、援農・農作業体験会などもあるそうなので、ニュー農マル公式サイトのお問い合わせフォームより是非とも連絡をしてみてください。

農業が少し身近に感じられるようになりますよ!



■ ニュー農マル


ホームページ

http://new-normal.co.jp/


鎌倉野菜市場 かん太村

https://www.kamakuraleaf.com/philosophy/kanta-village/


住所

〒247-0075

神奈川県鎌倉市関谷685-1



電話番号

0467-47-7475


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