「長後(ちょうご)」は、神奈川県藤沢市の最北地域で、近隣には綾瀬市と大和市が隣接している街です。かつて江戸から昭和まで宿場町として人の往来が盛んだった長後は、発展する近隣都市に挟まれ、現在は衰退の一途をたどっています。


しかし、苦境の中でも衰退が進む街を元気にするため、「食」を通じ元気にするために頑張る人たちがいます。「シェアカフェ長後食堂」は日替わりで異なるお店がオープンする特色をもっています。地域活性化に大切な要素が詰まっている「憩いの場」です。


今回は、地域の憩いの場・シェアカフェ長後食堂を、関係者の皆さんへのインタビューを交えてご紹介します。加えて、長後食堂本店で毎週月曜日にオープンしている「ラーメン倉家」を訪問したレポートをお届けします。



「長後食堂」の成り立ち


今回、シェアカフェ長後食堂へ訪問した際にお話をいただいたのは、藤沢市長後で園芸業を営む、高見広海さんです。


高見さんは以前、同じ藤沢の北部にある「湘南台」地域で暮らしていました。現在は長後へ移り住み、お花を取り扱った園芸店とペットショップを営み、二足のわらじを履いています。そんな高見さんは、長後に住み始めてから、あるタイミングでふとしたアイデアを思いつきます。



「地域の憩いの場をつくる」がコンセプトの長後食堂

長後駅前(東口ロータリー)


高見さんが長後の街を見渡して気づいたのは、「食事ができる場所が少ない」ことでした。「交通の要所・宿場町」として栄えていた長後ですが、平成に入って以降、周辺の都市が発展していく中で衰退の一途をたどっています。「駅周辺を含めて、食事ができる・楽しめる環境がなかったのが寂しかった」と高見さん。最寄りとなる長後駅(小田急江ノ島線)の近隣を見渡しても、商店街はシャッターが降りたままの空き店舗が目立ち、活気に欠ける状況が続いています。


「食事ができるお店がなければ、自分たちで作ればいいじゃないか」と思いついた高見さんは、長後の街を変えるために動き出しました。「地域の『憩いの場』をつくる」をコンセプトに、長後食堂が誕生することとなります。



シャッターが下りたままの商店街を何とかしたい

長後食堂を立ち上げる際、真っ先に高見さんが目を付けたポイントはシャッターの降りている商店街です。長後の商店街はかつて、大手スーパーマーケットの店舗が出店し、飲食店や個人商店が立ち並んでいる生活がしやすい場所でした。ところが、近隣の都市が発展するのと引き換えに長後から人々が離れていき、スーパーマーケットは撤退。加えて、個人商店の閉店が相次ぎます。


「シャッターが降りたままの店舗を有効活用して、長後地域に住んでいる人々が交流できる『憩いの場』を作れば、昔から住むお年寄りや最近引っ越して来た人たちのつながりができるかもしれない。街が元気になって活性化へ結びつくと考えました」


高見さんは知人に紹介してもらった、商店街にある築60年以上の空き物件を借りることに決めます。同時に、長後食堂の第一歩を踏み出したのです。



「ひとつの実店舗で複数のお店」の発想から生まれたシェアカフェ

高見さんは協力・支援をしてもらえる人々を集め出店に向けた準備を進めていき、2016年に「シェアカフェ長後食堂」のオープンを実現させます。


お店の看板作りでは近くに住む子どもたちに手伝いをしてもらうなど、立ち上げから「憩いの場」になりつつあった長後食堂ですが、高見さんが考えついた運営方法は「シェアリング」でした。



ひとつの実店舗で、曜日や日にち、時間に応じて異なるお店が営業するというシステムを採用しています。例えば、月曜日のお昼に「ラーメン店」、金曜日の夜には「居酒屋」と別々のお店がオープンしています。


高見さんは実店舗を貸し出す側、「大家」の立場です。出店を希望するそれぞれのお店のオーナーさんから賃料を支払ってもらうシステムで長後食堂の運営を成り立たせています。1ヵ月単位でも、1日の単発だけでもお店を営業できるように環境を整え、出店希望者を募っています。


オープン当初はタイ料理店や蕎麦屋が出店し、以降異なるジャンルの飲食店が入居していきました。藤沢市内だけでなく出身在住を問わずに出店希望者を募るなど、気軽に地域活性化に参加できるように緩く条件を定めています。


これまで入居していたお店のオーナーさんに、藤沢市以外の出身・在住であった人もいたとのこと。今まで長後や藤沢と縁がなかった人でも飲食店の運営にチャレンジできる点は長後食堂の魅力の1つではないでしょうか。



2号店の出店に至るまで成長


オープンから6年が経過し、2021年には「2号店」を増設しています。「本店」から徒歩2分の立地にある空き店舗を借り、同じく出店希望者同士でのシェアリング形式を取り入れて運営しています。


2号店は食事以外にも、占いやネイル、子ども向けの英会話教室、アロマテラピーなど、暮らしに役立つサービスを提供するお店の出店も可能としました。また、パーティーなどイベントでの利用ができるよう、一般への施設貸し出しも対応しているそうです。


例えば、現在入居しているお店以外でも、キッチンカーで各地に出店しているパン屋さんが商品用のパンを仕込むために短時間のレンタルで2号店を借りているとのこと。飲食店以外の目的用途でも使えるよう、2号店には汎用性をもたせ、本店とは異なった新しい試みが行われています。長後食堂は2号店の出店に至るまで成長し、街のアイコンになりつつあるのではないでしょうか。



長後食堂に誕生した名物「長後こども食堂」


長後食堂にはシェアカフェ以外に「もうひとつの顔」があります。

それは「長後こども食堂」です。長後こども食堂の目的は、単なる子どもの食育支援だけではありません。「老若男女問わず、誰でも気軽に参加できるお食事会」をテーマに取り組みがされています。



地元の大学生が発案

長後こども食堂の発端は2016年11月にさかのぼります。シャッターが降りた空き店舗が目立つ長後の商店街に危機感をもった人々が集まり、対策会議が行われました。対策会議では、商店街の人々だけでなく、藤沢市で市政に関わる人も参加しており、長時間にわたって意見交換が行われました。


意見交換が行われる中で、アイデアに挙がったのが「子ども食堂」案です。地元の大学に通う学生が提案し、「子どもと大人がいっしょに過ごして食事を楽しめる」という発想から生まれました。



今では毎週開催される恒例イベントに

学生が提案した子ども食堂のアイデアは、早速実行に移されます。2017年1月、お正月イベントで「豚汁」を配るイベントを、現在の本店で実施しました。


イベント当日は地元の中華料理店から餃子の材料を提供してもらい振る舞うなど寄付や支援も多数集まり、イベントは多数の参加者で大成功を収めます。「60人の子どもや大人が集まり、店内は盛況でした」と高見さんは当時の様子を振り返ります。


「最初は1回だけやってみよう、と考えていたのですが、予想以上の反響や支援があって驚きました。『次はいつ(イベントを)やるんですか?』との問い合わせもあったので、引き続き毎月1回はイベントを開いていくと決めました」


高見さんは、子ども食堂のアイデアを正式に「長後こども食堂」と命名し、最初のイベント以降も月1回のペースで開催し続けました。現在では、本店で毎月第1日曜日の昼間、2号店では毎週水曜日の夜とそれぞれの店舗で時間枠を設けて長後こども食堂を継続して実施しています。



「誰でも気軽に来られるお店に」の精神は変えない

長後こども食堂は18歳以下の子どもは無料、大人は1回200円以上の寄付で食事に参加できるシステムです。メニューは毎回異なり定番のメニューから創作料理まで振舞われています。加えて、餅つきや流しそうめんなど季節柄のイベントも取り入れており、気軽に参加できるのも魅力です。


また、一般の企業や団体からは食材の提供を受けているほか、野菜など寄付を受けた品物を参加者に配布する取り組みも行っています。


今までの取り組みを踏まえて、今後の長後食堂はどう進めていくのか、高見さんは次のように語っています。


「『誰でも気軽に来られるお店に』という精神でやってきましたが今後も変えずに取り組んでいきます。長後こども食堂と聞くと、貧困に苦しんでいる家庭を想像するかもしれませんが、長後食堂でやっている長後こども食堂は『地域活性化』を目的にやっています。子どもと大人、お年寄りがいっしょになって食事をし、繋がりを作り続けていけたらと考えています。繋がりによって、衰退に苦しんでいる長後を盛り上げて元気にしていけたら嬉しいです」


高見さんがふとしたきっかけで「食事を楽しめる環境がない」と気づいたところから、衰退している地域を再び盛り上げるため始動したシェアカフェ長後食堂。あっという間に繋がりの輪が広がって地域に根差しています。長後地域、さらには藤沢を盛り上げる「憩いの場」として、今後の動向に注目していきたいお店です。



長後食堂でオープンしているお店の紹介

シェアカフェ長後食堂は現在、本店・2号店の2ヵ所にて、以下のレギュラー店舗がオープンしています。加えて「長後こども食堂」が随時開催中です。




ラーメン倉家

Twitter

@kuraie_yone

(本店・毎週月曜日 11:00-15:00)


大衆食堂 いとまや

Facebook

@itomaya.taisyuu

(本店・毎週土曜日 11:00-15:00)


みんなの居場所 れいんぼ~かふぇ@長後食堂

Facebook

@rainbowcafe.for.everyone

(本店・2022年3月より第4日曜日オープン予定)


占い&ネイル Kairi

https://ameblo.jp/shonan-ocean/

(2号店・曜日不定 ※予約制のサービス有り)


長後こども食堂

(本店・2号店、本店は毎月第1日曜日の昼、2号店は毎週水曜日の夜に開催)


レギュラー店舗に加えて、期間限定もしくは単発イベントでオープンしているお店もあります。随時SNSを通じて出店情報や長後こども食堂のイベント情報を発信しているので、SNSアカウントをフォローして情報をチェックしてみてください。


高見さんによると、飲食店や趣味を活かしたお店の出店や独立を考えている人、イベント・パーティーの会場として長後食堂の施設を使いたい人など、随時歓迎しているとのことです。長後や藤沢近隣の人で、飲食店の運営に興味があれば、ぜひお問い合わせをおすすめします。



利用店舗の1つ、「ラーメン倉家」のオーナーさんへインタビュー  

今回、シェアカフェ長後食堂の取材では、本店で毎週月曜日に営業している「ラーメン倉家」のオーナー、米倉道子さんにもお話を伺うことができました。高見さんへインタビューをする機会をいただいたのは、米倉さんとのSNS上での交流がきっかけでした。長後食堂のお話を伺ったことから、米倉さんより高見さんを紹介いただくに至りました。


ラーメン倉家は、過去にさまざまな飲食店で働かれていた米倉さんを中心に、お手伝いのスタッフさんを交えて、2名から3名で営業を行っています。米倉さんは横浜在住。長後食堂と出会うまでは長後および藤沢とは縁がなく、ラーメン倉家をオープンするまでの間は、他の飲食店で従業員として働いていたそうです。


「そろそろ自分で飲食店を開きたいと考えていたところ、知人の紹介で長後食堂を知り、参加させてもらうことになりました。週1回からでも出店できることに魅力を感じています」


お手伝いで来てくださるスタッフさんのサポートもあり、既に長後食堂での営業を始めてから4年が経つそうです。そして、米倉さんは次の目標も視野に入れて活動しています。


「長後、もしくは藤沢市内での出店を前提に、一週間フルタイムで運営するラーメン店を出店したいと考えています」と、熱く語ってくれた米倉さん。長後食堂を巣立ち、高く羽ばたこうと計画しているラーメン倉家の今後に注目です。


米倉さんが特におすすめしているメニューは「倉醤(醤油ラーメン)」と「鶏白湯」です。今回は取材に伺った時間が遅かったこともあり、試食が叶いませんでした。今度は個人でラーメン倉家に伺ったとき、実食してみたいと考えています。さまざまなメニューが用意されているとのことですので、選ぶ際に迷ってしまいますね。


なお、基本は毎週月曜日に営業しているとのことですが、臨時休業もあるそうです。営業予定はラーメン倉家のSNSアカウントで告知しているため、事前にチェックしておくとよさそうです。


「月曜日のみの限定でオープンしているラーメン店」であるラーメン倉家。気になった人はぜひ足を運んでみるとよいでしょう。みなさんの応援で、毎日おいしいラーメンを味わえるようになるかもしれません。



■ シェアハウス長後食堂


住所

・本店

〒252-0802

神奈川県藤沢市高倉650-4

・2号店

〒252-0802

神奈川県藤沢市下土棚471



電話番号

080-3428-8792


営業時間・定休日

SNSにて


アクセス

・本店

小田急江ノ島線長後駅東口より「あい・もーる商店街」方面へ徒歩3分

・2号店

小田急江ノ島線長後駅東口より「あい・もーる商店街」方面へ徒歩2分


Facebook

@aqua.chogocafe



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