少子化の影響で学校の統廃合が進む中、廃校を利用した施設が増えています。今回ご紹介するキャンプ場「CAMPiece南足柄」もその1つ。誰もが集まれる場所を目指してオープンしたCAMPiece南足柄が考える、人や地域との関わり方とはどのようなものなのか。キャンプ場管理者である笹田校長と、運営母体である「運動会屋」広報の岩澤さんに伺ってきました。



「運動会のようなワクワクする社会」をビジョンに掲げる運営会社  

笹田校長(左)と岩澤さん(右)。  


CAMPiece南足柄は、旧北足柄中学校を利用した廃校キャンプ場。運営母体は「運動会のようなワクワクする社会」という熱いビジョンを持った、株式会社運動会屋という企業です。

運動会屋は、企業・団体の運動会のコーディネートや人材派遣など様々な事業を展開していますが、CAMPieceは地域共創事業の一環。「地域交流の活性」「観光力向上」「地域の魅力増加」「移住・定住者の増加」を目的としてキャンプ場を運営しています。



CAMPiece南足柄の「校長先生」は地元出身の元教員  

廃校となった「北足柄中学校」の学校銘板は今も残っています。  


そんなCAMPiece南足柄の校長先生である笹田さんは、北足柄中学校の卒業生。さらには、教員として長年教壇に立った本物の先生です。

廃校を利用したキャンプ場の運営について、笹田校長は「めちゃくちゃ楽しいです!」と語ります。


「自治会の仕事とかもしてきたし、どこが誰の畑であるのかがわかるぐらい、地域のことを熟知しています。自治会の人たちが『笹田が変なことを始めているぞ』と心配していることもあってか、地元の人たちもよくCAMPiece南足柄に足を運んでくれます(笑)」

そんな笹田校長が管理者として立候補してくれたことを、岩澤さんは「運命の出会いでした。」と話します。


「運動会屋が『旧北足柄中学校をキャンプ場にします』という回覧板を地域に流したとき、笹田校長は回覧板を見た瞬間にここで働くと決めてくれたそうです。笹田校長のもと多くの人を惹きつけて、この町全体を元気にしていきたいですね」

楽しそうにお話をスタートしてくれたお2人ですが、CAMPiece南足柄のオープンに向けた活動は苦労が絶えなかったようです。



すべて手作りでこぎつけたオープン  

業者を入れず従業員の手で作り上げたキャンプサイト。  


「なるべく経費を抑えるため、社員総出でオープンに向けた作業をこなしました。」と岩澤さん。東京や横浜、名古屋のオフィスから運動会屋の社員が手伝いに来ていたのだそう。


さらに笹田校長は「我が家からチェーンソーや草刈り機、林業用のはしごとか、いろいろな工具を持ち出しました。」と続けます。現役時代は技術科の教員であったため、様々な工具を所有しており、CAMPiece南足柄のオープン作業でこれらの道具が役に立ったそうです。


また、オープンに向けた作業中に水道の水が出なくなるというトラブルも。笹田校長は「水が出なくなったのは配管が割れたことが原因だったのですが、どこが問題なのか裏山に一生懸命穴を掘って探すという作業をしました。」というエピソードも話してくれました。


ほかにもキャンプサイト1つ1つの広さを計測してポイント付けをしたり、伸び放題となっていた学校周辺の草木を刈ったりといった様々な準備を経て、CAMPiece 南足柄は2021年7月にグランドオープン。「できあがったものを見たときは達成感がありました。」と、お2人は語ります。



運動会屋が来ると元気になる街づくり  

運動会屋では校舎を活用した取り組みも計画している。  


前述した通りCAMPieceは「地域交流の活性」「観光力向上」「地域の魅力増加」「移住・定住者の増加」を目的とした地域共創事業。どのような活動を通してこれらの目標を達成していこうと計画しているのでしょうか。

岩澤さんは「『運動会屋が来ると地域が元気になる』と思ってもらえるような街づくりをしていきたい。」と話します。


「校舎が使えるようになったら(※)地元のサークル活動に使ってほしいし、キャンプ場にはたくさんの子どもたちに来てほしい。地域住民や子供たちが集まる空間を作って、キャンプをしに来た人たちに『この近くに住んでみたいな』と思ってもらえたら。」と、地域への想いを語ってくれました。

※ 取材時点(2022年2月)では校庭を使用したキャンプ場事業のみが許可されていた。2022年4月に校舎の指定管理者として運動会屋が正式に指定され、北足柄地区活性化拠点施設「北中」としてオープンした。


笹田校長からは「地域の農家さんにも足を運んでもらえたり、協力してもらえたりしたら。」といった話が。

オープン後、地域の農家の方々が収穫したお米やレモン、芋などの農作物をたくさん持ってきてくれたのだそう。さらには来場者向けに、みかん狩りの場所提供を申し出てくれた人まで。


受付には地域で採れた農産物などが並びます。  


将来設置予定の売店には、地場産の農作物を提供してもらい、農家の利益につながるようにもしたいのだとか。「自治会長さんを始め、CAMPiece南足柄に皆さんとても関心を示してくれている。」と、地域住民への感謝の言葉も口にします。


さらに笹田校長は「地域の人の得意分野を活かしてもらえたら。」とも話します。

CAMPiece南足柄がある内山地区では毎年地域の文化祭を開催しており、写真や工芸など、様々な趣味や特技を持った人が多いのだとか。


「趣味の仲間が集まったワークショップや展示会は楽しそう。家庭科室を使って、地場産の野菜を使った料理教室を開くのも良いアイディアですよね。」と、住民の特技を活かした地域交流の形についても語ってくれました。


そのほかにも教室をワーケーションの部屋にしてみたり、体育館で体操教室を開いてみたりと、笹田校長の口からは数々のアイディアが語られました。



雇用を創出して住み続けられる街に  

笹田校長と従業員の高橋さん(左)は、北足柄中学校の同級生。  


運動会屋では、現在SDGsにも注目して活動をしているのだそう。その一環として、地域での雇用を創出し、住み続けられる街づくりを目指しています。


笹田校長は「10人いるスタッフの中で、南足柄市在住のスタッフは8人。そのうち私も入れて5人は近隣の内山地区の人なんですよ。」と、雇用創出の成果についても話してくれました。

さらに岩澤さんからは「運動会屋の社員は誰も住んでいなかったのですが、1名南足柄市に移住しました。」といったお話も。運動会屋の地域創生への本気度がうかがえるエピソードです。



来場者を楽しませるイベントがたくさん  

CAMPiece南足柄のInstagramをチェックすると、餅つき大会やハロウィンキャンプなど、楽しそうなイベントの様子が掲載されています。

笹田校長はイベントについて「基本的にはキャンプ場ではあるけれど、みんなが集まる交流の場でありたい。」と話します。


イベントは南足柄市に移住したスタッフを中心に、意見交換しながら企画しているのだそう。さらに、校庭に引かれたリレートラックの中はキャンプサイトではなく遊び場所としており、スタッフも来場者の方に混ざって遊んでいるのだとか。


「この間は即席でチームを作ってリレーをやりました。綱引きや玉入れもやりましたね。大人たちは最初、子どもたちの付き添いで参加している様子なのですが、いざ始まるとお父さん・お母さんたちの方が夢中になっていくので見ていて楽しかったです」と笹田校長。


リレーや玉入れなど、運動会で皆が経験した競技は何歳になっても楽しいもの。CAMPiece南足柄には、廃校の魅力を存分に活かし、来場者を楽しませてくれる魅力が溢れていました。



キャンプ場であり、誰もが集まれる場所でもありたい  

入り口付近のキッチンカーには子どもたちの絵も。  


インタビューを通して笹田校長の言葉には「いろいろな人が分け隔てなく集まれる場所にしたい」という想いが溢れていました。その想いは、教員時代の経験からくるものなのだそう。


「教員時代には、不登校になってしまった子や障がいのある子など、様々な子どもたちと関わりがありました」と、当時を振り返りながら笹田校長は語ります。

「近隣には通信制の学校もあって、不登校の子どもたちも利用しています。そういった子たちが集まれる時間とか場所を、CAMPiece南足柄が提供しても良いんじゃないかなと思っています」


また、CAMPiece南足柄がオープンした当初から、障がいのある子どもたちもたくさん遊びに来てくれているのだそう。「障がいのある子もそうでない子も、当たり前のように楽しく遊んでいるし、周りの人も気にせずキャンプを楽しんでいる。みんながそれぞれ普通に楽しく過ごせている光景は、見ていてすごく良いなと思います」と、来場者が自然体で過ごしている様子を教えてくれました。

笹田校長は「遊びに来てくれた子どもが『大きくなったらここで働きたい』と思って、将来ここに戻ってきてくれたら嬉しいですね」と笑います。


また、岩澤さんは「『運動会のような誰もが手を取り合えるワクワクする社会の創造』という理念を持って、誰1人取り残さない平和な社会を作りたいですね。」と、力強く語ってくれました。


キャンプ場であり、誰もが集まれる場所でもありたい。そんな想いを抱き発展するCAMPiece南足柄から目が離せません。





■ CAMPiece南足柄

「運動会のようなワクワクする社会」という熱いビジョンを持った株式会社運動会屋が運営する廃校キャンプ場。「CAMPiece」という名前は、真っ白なパズルのピースに利用者や地域住民の楽しい体験の色を塗り、それらをつなぎ合わせてCAMPieceというパズルを完成させたいという想いから名付けられた。千葉県内にCAMPieceの2校目・3校目が2022年5月に開校。


ホームページ

https://campiece.com/

  

住所

〒250-0131

神奈川県南足柄市内山2586 旧北足柄中学校


電話番号

080-7658-3096 


アクセス

東名高速道路「大井松田I.C」から20分。

または東名高速道路「足柄スマートI.C」から30分。


Instagram

@campiece_minamiashigara 


株式会社運動会屋ホームページ

https://www.undokai.co.jp/



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