讃岐うどんで有名な香川県の真ん中あたり、中讃地域にある丸亀市。そんな丸亀市に2021年3月に誕生した施設が、丸亀市市民交流活動センター マルタスです。


「未来の丸亀を担う一人ひとりの「一歩」がここから」という願いが込められたこの場所では、日々、地域の活動に精を出す人々がコーヒーを飲みながら会議をしたり、参考となる本を探してみたり。またその話し合いの輪の中にはマルタスで働くスタッフの姿もあり、地域の人々と一緒に彼らも意見を出し合います。地域の人々とスタッフが一緒に悩みながら、活動の新たな方向性を模索する。このような日常がマルタスにはあります。


マルタス外観。壁面はガラス張りで日光が室内一杯に届く。


そんなマルタスが応援したい一人ひとりの「一歩」とはいかなるものなのか?

これについて、マルタスで広報を中心に、イベントの企画・運営、また本の選書を担当する昆憲英(こん・かずひで)さんにお話を伺いました。


インタビューから見えてきたのは、マルタスの想いだけでなく、昆さん自身の想いもありました。



マルタスの概要を伝えるスタッフお手製ボード。



人づくりは、地域から聞こえる「やりたい!」に寄り添うことから

「マルタスは一人ひとりのやりたいを支援する、一歩を踏み出すきっかけを作る場所。また、一人ひとりの想いをカタチにするだけでなく、そのカタチになった姿に影響され、自分も何かやってみようかなと思うきっかけになったり、新たな自分との出会いが生まれる場所を目指しています。沢山の人々の様々な想いが実現することで、マルタスに来る人はもちろん、このまちにとって何かプラスになればいいなと思う日々です」



真剣なまなざしの昆さん。


まちの未来を見据えながら、マルタスでの日々を過ごす昆さん。ただ、マルタスはまちづくりの拠点であるとはいえ、その根底にあるのは市民活動を通した人づくりであると昆さんは言います。


「こんなことをやりたい!という人が居れば、それを一緒に模索するというのが一番優先。やりたいことがある、こんなことをすれば街が良くなる、誰かのためになりたいと思って活動している方の視点を支援したい。これが僕らの一番大切にしたい価値観です」


だからこそ、抽象的な市民活動とはいっても、あくまでそこに宿る個人の思いに向き合いたい。これを念頭に、マルタスは地域の人々の活動を支援しています。


では、そもそも市民活動とはいかなるものなのでしょうか。それは昆さんによると、市民の皆様が主体であることを前提に、①市民自身の経験や知識を活かしながら、②誰かのため・地域のために継続的かつ営利を目的とせずに行い、③また誰もが参加できる活動のことを指します。マルタスでは、この考えのもとに日々ワークショップや展示活動等が精力的に行われているのです。



カウンター前のスペースでは、日々、スタッフが市民の相談に乗る光景が広がる。


このような活動へ地域の人々が実際に一歩踏み出すために必要なのは、「初めて」にトライしてみるという気持ち。事実、マルタスへ何かしたいと相談に来る人は、イベントなんて運営したことがない、自分の作品を展示したことがないなどの「初めて」を抱えた人も多いそう。


一方で、中にはマルタスで自身の作品を展示し、そこで生まれた繋がりから、他の場所で新たな展示の機会を得たなんて人も。これもまた違った意味で、当人には「初めて」の経験と言えるのかもしれません。マルタスで働くスタッフは、こうした誰かの「初めて」に向き合いながら、地域の人々の「一歩」に真摯に寄り添っています。



マルタス内に掲示された想いを伝えるパネル。



人々に豊かな生活を提供する仕事

こうしてマルタスで、文字通り一人ひとりと向き合いながら、彼らの支援に従事する昆さん。しかし、もともとは高専出身の理工系。そのため、就職活動では専門的な知識を活かして、パソコンを駆使するようなIT企業へ進む道もあったと言います。そんな昆さんがなぜ人々の「一歩」を直接手助けしたいと思ったのでしょうか。



地域情報が集約された棚。中讃地域の観光協会などが発行するパンフレットを中心に、地域での活動の参考にしたいイベント情報が載ったチラシも用意されている。



1階オープンラウンジ。軽く本を手に取るもよし、はたまたちょっとした打ち合わせにも良しなスペース。


「大学時代、芸術や哲学者たちに興味を持ち、ドイツを旅行することがあって。そのとき、ドイツ人の暮らしぶりが個人的にとても豊かだなと思ったんです。日常的にアートに触れたり、テラスで読書したり、路上でピアノを演奏したり、公園で誰かと話しながら散歩したり。それぞれがやりたいことをやってそう、というか。あとドイツ人がとてもフランクで、喫茶店で「どこから来たの?」と尋ねられたり。そんなときにどこか自由さを感じたんですね。だから日本でも、もうちょっとスローペースに、精神的に豊かになるきっかけがあってもいいのかなって」


ドイツへ足を運ぶきっかけとなったのは、芸術や哲学をはじめとした人文系分野の本を手に取ったこと。そして、ドイツで感じた豊かな生き方を多くの人に提案したいと思ったそうです。


そのようなときに就職先として選んだのが、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社。この会社は、マルタスの運営だけでなく、かねてから日本各地で新しい図書館の在り方を提案するなど、人々の暮らしに寄り添う企業でありました。この会社を通して、誰かが新しい暮らし方や生き方と出会うきっかけをつくる仕事がしたいと思った昆さんは、今、マルタスでの仕事を通してその想いを届けています。



「これって当たり前だったっけ?」と疑問に思える一冊を

そしてもう一つマルタスで忘れてはならないのは、多くの書籍。マルタスには開館当初よりジャンルは様々に約7000冊もの書籍が配架され、また今でもおよそ月間50冊程度の新刊がやってきます。マルタスでは、ゆっくり一人で本と向き合うことはもちろん、一冊を皆で囲んで意見交換することも可能です。



細かく分類された本たち。館内をぐるりと回ると、必ず気になる一冊と出会える。


「めっちゃしょうもないかもしれないですけど、イケメンの友達が本を読んでる姿が格好良くて。すごい羨ましい、ズルいと思って僕も本を読んでみようかなと」


本読み始めたきっかけが、ほんの少しだけ不純だったという昆さん。しかし、今や趣味として読書を純に愛するだけでなく、マルタスでの選書にも関わる日々。そして、そこには昆さんなりの本選びに対する想いがあると言います。まずマルタスのスタッフとして、市民活動に示唆を与える本を選ぶ、また本棚をパッと見た時に思想や傾向が偏らないように心掛ける。そのうえで、昆さん個人として本に託す想いもあるようです。


「この時代に必要だなと思える一冊を選びたい。僕個人の提案でもあるんですけど、時代に必要な学びを得られるかということを意識しています」



最近選んだ本を探す昆さん。


では、ずばりこの時代に必要な本とは?


「今までの生き方に対して「これって当たり前だったっけ?」と気づける、また当たり前になりがちだった考え方に対して、別の視点を持つことのできる本。僕が主に担当する哲学などの人文系の本については、これを意識して選書しています」


昆さんが考えるに、現代は価値観が多様化する一方で、先行きが見えづらい時代。だからこそ、当たり前に対して少し立ち止まり、疑問を投げかけられることが大切なのではないかと昆さんは思います。



料理本が並ぶコーナー。和洋中の食についてはもちろん、パン作りからビールの話まで種々の料理・レシピ本が並ぶ。


「マルタスにはレシピ本なども置いているし、それを求めている人が沢山いる。とはいえ、レシピのような実用的な本のあいだにも、新たな考え方を示すエッセイ本なども置いています。本棚を眺めることで新たな出会いが生まれるようにと心掛けながら本を並べています」


とのこと。だとすれば、きっと昆さんのチャレンジにもまた、読み手が新たな「一歩」を踏み出す力が宿っているのでしょう。



昆さんのオススメ「思いがけず利他」著者:中島岳志 出版社:ミシマ社



マルタスの、昆さんの、新たな「一歩」

2022年3月22日に開館2年目を迎えるマルタス。マルタスそして昆さんも、また新たな「一歩」を、ここを行き交う人々と踏み出します。



屋外のオープンスペース。晴れた日には屋外に子連れの家族たちが集まることもしばしば。


「今までのマルタスの取り組みとしては、市民活動を多くの方々に知っていただくこと、そして実際に活動していただくことに注力していました。次のステップとしては、これまで積極的に活動されてきた方々はもちろん、ここをふと訪れる方々にも自分の住んでいる街に目を向けてもらう。そして、地域に対して何かアクションをしたい・より良くしたいと思ってもらえるきっかけをつくっていけたらと。またSDGsのように、やはり時代に必要なモノやコトを知れる機会を多くの方と一緒に作り出していきたいです」


落ち着きながらも、真っ直ぐに、そして言葉の端々に熱を込めながら昆さんは語ってくれました。


地域の人々に寄り添おうとする熱い思いが、この柔和な笑顔に隠されていました。


もしかすると、新たな「一歩」を踏み出したり、「一歩」先へ進むチャンスというのは、昆さんが持つようなシンプルで純粋な気持ちにこそ眠っているのかもしれません。それはこの地域に住む人だけでなく、今を生きる全ての人々にとっても。



昆 憲英さん

1993年生まれ。福島県福島市で生まれ育つ。大学を卒業後、2017年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社へ入社。入社後は千葉県、山口県、宮城県、宮崎県で勤務し、2020年に香川県丸亀市へ。


■ 丸亀市市民交流活動センター マルタス

ワークショップやセミナーといった市民による活動の場であることはもちろん、これから何か「やりたい!」という人をサポート。7000冊近い書籍と共に約300の席を備えたオープンで落ち着きのある空間を提供。併設されたカフェから漂うコーヒーの香りを楽しみながら、「一歩」を踏み出す力をくれる新しい交流型施設。


ホームページ

https://marugame-marutasu.jp/

  

住所

〒763-0034

香川県丸亀市大手町2-4-11



電話番号

0877-24-8877


開館時間

9:00-21:30


休館日

なし・年中無休


アクセス

JR丸亀駅より徒歩10分

(無料駐車場有) 


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Instagram

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