「かわいい」。これほど、誰にでも、そしてどんな場面にでもフィットする言葉は他にないかもしれません。子犬も、雑誌の表紙を語るスーパーモデルも、なんなら居酒屋で飲んだくれるおじさんだって「かわいい」なんて呼ばれる今日この頃。


ただそんな中で「かわいいって、自分だけでなく、他者のことも思えている状況だと思うんです」 と語るのは、香川で「かわいい」をモットーにイラストレーターとして活躍する村山幸さん。「かわいい」って簡単に口にしてしまうけれど「かわいい」ってそもそも何だろう?そんな疑問を胸に、村山さんが「かわいい」に秘める思いを取材しました。



「かわいい」ってなんだろう?

「これもかわいい、あれもかわいいと私も思うけれども、私が考えるかわいいとは何か違うなと感じることは沢山あるように思います」


有り余るほどの「かわいい」が世の中を埋め尽くす今日。そうした日々の中でその言葉は一体どのような状態を指すのでしょうか。無意識のうちになんとなく使われている言葉だとすれば、それは実は極めて空虚な言葉なのかもしれません。また「かわいい」と口にしている自分をかわいいと思っているだけなら、それはまさしく虚しさそのもの。


そうした疑問の元で、村山さんが思う「かわいい」について尋ねてみると 「私が思う『かわいい』は、自分だけでなく、相手に対しても思いが向いている状態なんです」 という回答が返ってきました。では、いったい相手に向けられた「かわいい」とはいかなるものなのでしょう。



「かわいい」で生み出す、やる気や勇気

「私の場合、自分以外の何かや誰かの問題を解決しようとしている姿に究極的に『かわいい』と感じているんだと思います」


たとえば、それは村山さんの息子さんが自分の使った皿を台所まで片づけにくるといった場面。村山さんからすれば彼の行動は「お母さんを手伝おう」という村山さんを想って行ったもの。そうした姿を「かわいい」と感じた時、村山さん自身は「誰かのことを想って行うことが『かわいい』に繋がるのかもしれない」と感じたそう。


そのため、現在もイラストを通じて「かわいい」を表現する時は、ただ漠然とそれを伝えるだけではなく「お客様が『かわいい』を通して、なるべく多くやる気や勇気を感じてもらえれば」 と考えながら日々の制作に勤しんでいるそうです。

村山さんが日々SNSで発信するイラストシリーズ「パスプラくまの今日は何の日?」(画像提供:パステルプラネット)



企業理念にも込められた「かわいい」

実はこのような「かわいい」の有様だけでなく、そのパワーをも村山さんに教えてくれたのは、またもや息子さん。


「息子の行動に何となくでも『かわいい』と言っているうちに、本当に息子のやっていることが可愛らしく、そして母と子の仲の良い雰囲気づくりができるようになったんです」


これは息子さんが、村山さんに自分の絵を「これ見て!」と持ってきたときの話。家事や仕事で忙しかった村山さんは、漫然と「かわいいね」と口にしていたそう。そうすると、彼はまた喜んで「これはどう?」と違う絵を持ってきます。そうしたやり取りの中で「かわいいね」はもちろん、ときには「すき」なんて言葉をなんとなく返す村山さん。


ただ不思議なことに漫然とでも「かわいいね」「すき」とっているうちに、本当に息子さんの行動が愛おしく、まさしく「かわいい」「すき」と思ったそうなのです。もともとは軽いあしらいとして、息子の機嫌を損ねないために口にしていただけの言葉。ただ、とりあえずでも「かわいい」と発しているうちに、そこには穏やかで仲睦まじい雰囲気が発生していました。


「もしここで『忙しいから、あっちに行ってて』と言っていれば、息子との雰囲気は壊れていたかもしれません。相手や相手の取り組みをとりあえずでも認めてみることで、自分も相手も心穏やかになるんじゃないかなと思います」


そして、この息子さんとのやりとりは、村山さん自身が代表を務める合同会社パステルプラネットの企業理念の「ー かわいい!すき!で、なかよし! ー」に繋がりました。



イラストを仕事にするなんて諦めていたけれど

こうして日々、自分ならではの「かわいい」イラストでお客様と向き合う村山さん。では、なぜ村山さんはイラストレーターという職を選んだのでしょうか。村山さん曰く、その選択は夢を追いかけるというよりはむしろ、苦肉の策だったと言います。


村山さんは幼い頃から絵を描くことが好きで、高校時代は美術部に所属。しかし、大学時代は好きな絵を学ぶのではなく、建築系の学科に進学。卒業後は家具を中心に扱う商社にて10年ほど勤務していました。その後、次の職を得たのが香川県。その当時、まだイラストレーターとしては活動しておらず、システムエンジニアやゲームプログラマーとして働いていたそう。


そんな村山さんに転機が訪れたのは2021年。コロナ禍もあり社会に閉塞感を覚え始めた村山さん。そして、自身の置かれた環境も相まって、当時勤めていた香川の企業を退職することにしたそうです。そんなときトライしてみたのが、昔好きだったイラストを使った仕事。自分でスマホアプリを作成し、そのアプリの挿絵を描く。またこれに加えて、少しずつネット上でイラストを発表する日々を過ごします。そんな中、現在もパステルプラネットで一緒に活動するスタッフと出会い、本格的にイラストレーターとしてのキャリアをスタートしました。


「好きだったけれど仕事にはならないと諦めて遠ざかっていたイラストが、今、少しずつ身近になってきています」


現在は、合同会社パステルプラネットの代表として、香川県観音寺市を拠点に企業のポスターやロゴ、自治体などのパンフレットの挿絵などの作成を請け負っています。


香川県観音寺市「五郷たんけんマップ」。香川県観音寺市の地域おこし協力隊と協働で、子ども向けのマップを作成(画像提供:五郷里づくりの会)



お客様の人生に思いを馳せて

また、村山さんがイラストをお客様と一緒に作っていくにあたっては、実はちょっと不思議な心がけがあるそうです。


「冗談みたいな話かもしれませんが、鮮魚店様とのお仕事の時はお魚をたくさん食べるとか、お客様の好きなミュージシャンの音楽をたくさん聞いてみたり。またボランティア活動に関するお仕事は、こちらもボランティアとしてお客様の活動に参加することもあります」


地元の鮮魚店「アオハタ鮮魚店」に納品したポスター(画像提供:パステルプラネット)


村山さん曰く、お客様の状況に身をゆだねることで、相手の人生に思いを馳せてみる。相手が興味を持っていること、好きなことを村山さんなりに理解しながら、それを「かわいい」イラストに乗せていくのだといいます。



イラストは自己表現だった

そんな村山さんも幼い頃や学生時代を振り返ると、絵やイラストは他人のためというよりも、むしろ自己表現に近かったそう。本人曰く、村山さん自身は驚くほどに口下手でとてもシャイ。ただ、それでもどこかで「自分の絵を見てほしい」と思っていたのも確かでした。


「口下手だけど、本当は皆とはワイワイしたい。ただ、それが上手くいかないことが多くて、もどかしさを感じていました。そんな時、絵やイラストはもどかしい気持ちを解消したり、誰かに何かを伝える手段だったんです。だから、特に色々と考え事の多い中高生の頃は、自分が感じたことを絵やイラストで表現したがっていたように思います」


実際、今でもときどきは自己表現としてのイラスト作りは続けているそうです。


「たとえば、家でダラダラしている私をキャラクターに乗せて描いてみたりもします。ダラダラ人間であるというのは隠したい事実でもあるけれど、同時に下手にしっかり者と思われても困っちゃうので、イラストを通してせめてでも自分の表と裏を一致させられれば」


たとえば、そんなキャラクターの一つに「さっちゃん」がいます。「さっちゃん」は現在村山さんが自身で定期発表しているミニマンガ『キラキラたましい子』の登場人物です。


左が主人公の「たましい子」、右が「さっちゃん」(資料提供:パステルプラネット)


『キラキラたましい子』はnoteにて定期発表中(資料提供:パステルプラネット)


「私そのものを登場人物にしちゃうと私自身を表現できないけれど『さっちゃん』を通せば何となく表現できる気がします。『さっちゃん』だけでなくても、熊や馬、様々なキャラクターを通して自分を伝えようとしています」



「かわいい」イラストが紡ぐ「なかよし」の輪

他人のためにも、自分のためにも描いてきたイラスト。そのようなイラストを描き続ける日々の中で、村山さんは今新たな目標を見出しつつあると言います。


「夢物語かもしれませんが、私やパステルプラネットの活動がきっかけで自分自身も知らないような繋がりが生まれ、そこから新しい活動がスタートしていくなんてことがあれば嬉しいなと思います」


目指すのはイラストを通じて、村山さんも知らないような人間やコミュニティの繋がりが生まれてくること。そして、イラスト自体についても「ニーズに答えるということとは矛盾する部分もありますが、私らしさみたいなものを少しずつお客様からご依頼いただいたイラストに盛り込んでいけたら」 と意気込みを教えてくれました。


子育て中の親子向けのウェブサイト「たんけん!本のまち!」と『キラキラたましい子』のコラボレーション企画。SNS上での繋がりから実現した。(資料提供:パステルプラネット)


最近は実際、お客様から「村山さんの動物のイラストが好きで、それを描いて欲しいんです」なんて言われることもあるそうです。そのようなイラストはもちろんお客様のために描くものではあるけれど、一方で、まさしく村山さんらしさが表れた作品でもある。そうしたときに、イラストはお客様と村山さん自身のどちらか一方にだけ利益をもたらすのではなく、双方にやる気を生み出すものになっていくのでしょう。


村山さんと、村山さんがイラストを通して表現する「かわいい」を「すき」と言ってくれる人が居る。そんな関係を「なかよし」と呼ぶのかもしれません。


合同会社パステルプラネット企業理念(画像提供:パステルプラネット)



■ 村山幸さん

1984年佐賀県鳥栖市生まれ。幼少期から絵が好きで、中高生の頃は美術部に所属。大学卒業後は家具をメインに取り扱う商社にて勤務。その後、知人の誘いでイラストレーターとしてのキャリアを香川でスタートする。現在は香川を合同会社パステルプラネットの代表として、香川拠点に企業・地域活動のロゴやポスター、パンフレットの挿絵などを手掛けている。


■ 合同会社パステルプラネット


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