「これからも、地域密着で頑張っていきたいですね」


北海道札幌市、大通りやすすきのなどといった繁華街のベッドタウン「南平岸駅」から徒歩2分。閑静な住宅地にお店を構えているのは「さっぽろらぁめん くわの実」です。ひっそりと佇む全7席の小さなお店ですが、ランチタイムには店の外まで待つ人が出るほどの人気店で、近隣住民の食を支えています。

そんな「さっぽろらぁめん くわの実」の店主である桑原剛さんに、お店のこと、過去の人生について話を伺いました。



野球や歌に明け暮れた青春時代。飲食業に携わりラーメンの道へ

くわの実の看板 当初はラーメン屋っぽくない名前だということで、ここにラーメン屋があるという認知がされなかったそう。


「化石の町」として知られる中川町で生まれ育ち、学生時代は毎日野球に明け暮れるスポーツ少年だったという桑原さん。高校を卒業した後は実家のクリーニング屋を継ぐつもりでしたが、突然「継がなくていい」と卒業間際に言われ、進路を迷うことに。先生からの助言もあり、卒業後は東京の大学へ進学します。


次は何をしようかなと考えていたところ、周囲に歌を披露して評判が良かったためアコースティックギターを手に歌手活動をするなどの青春時代を送り、その時働いていた飲食店のアルバイトで「飲食って楽しいな」と思ったそうです。


その後、上京して10年というタイミングで北海道へ帰郷し、昼間はお蕎麦屋さん、夜は居酒屋さんになるお店に就職。奥様の真樹恵さんともそこで出会いました。

「そろそろ結婚を」と考えていましたが、そのお店では長時間の勤務や連勤が多かったのもあり「今後を考えると長く続けられないな」と悩んでいたところ、奥様が以前働いていたラーメン屋さんと縁があり、転職することになりました。


こうして、紆余曲折ありながら30歳という節目で結婚を機に、今までやったことのなかったラーメン屋での仕事がスタートします。



紆余曲折を経てラーメン店へ

くわの実の外装。ランチタイムに多いときは店の外まで行列ができていることも。


飲食店の経験は長かったですが、今までは居酒屋が中心だったため、麺をゆでたり、包丁で細かく具材を刻むなどのラーメン店ならではの作業に苦戦したという桑原さん。それでも、真面目にラーメン屋での業務をこなしていき、京都で新規オープンの店長を任されるなど、順調にキャリアを積み上げていきます。


ですが、単身赴任で家族を北海道に残している事に心配を抱き、帰郷するため10年勤めたラーメン店を辞め、北海道の人気ラーメン店へ転職。その転職した先で、くわの実の原型とも言える「すっきりとしたスープ」に出会います。長年勤めていたラーメン屋では、豚骨系の濃厚スープが持ち味だったため、真逆の清湯(ちんたん)スープに「なんだこのスープは」と驚いたそうです。


そこから、そのお店に勤めて数年後の2017年6月に、49歳で初めて自身のラーメン屋をオープンさせました。



「やりたいことをやるべきだ」と言われた気がした

黒醤油ラーメンは多くの玉ねぎチップが特徴で通常のラーメンより濃い味付け。


漠然と自分のお店を持ちたいとは思っていた桑原さんでしたが、ラーメン屋で修行するというようなイメージは無く、年齢や妻と娘3人のことを考えると現実的ではないと考えていました。ですが、くわの実をオープンする2年ほど前に同級生、父、当時勤めていたラーメン屋のアルバイトで可愛がっていた青年の3人が1年の間に帰らぬ人に。


立て続けに3つの訃報が届いた時、悲しみに暮れたのと同時に「“やりたいことをやらなきゃいけないよ”と言われた気がしました」と、1年後にお店をオープンすることを決意しました。その後押しがなかったらくわの実はなかったかもしれないと、桑原さんはしんみりと語ります。



苦節続きの新規開店。しかし、娘の発想で起死回生

くわの実のイラスト。桑原さん夫妻がモデルとなっている。


オープンをすると決めたはいいものの、今までは決められた味を素早く提供するというものから、自分の味を作らなくてはいけなくなった時に「自分はラーメンのことなんて何も知らなかったんだ」と痛感したといいます。

「試行錯誤の連続でした。正直、味にも自信がないままオープンすることになったと思います。本当に最初は暇で仕方がなかったです。1年半経って『もう店を閉じないといけないかな』と思っていました」と、閉店も覚悟するほどの状況に。


そんな時、娘が当時SNSで流行っていた「チーズダッカルビ」をラーメンに組み合わせてみたらどうかと発案し、家で作ってみたことがきっかけで「どうせ閉めるならいろんな事やってみようか」という思いから、期間限定メニューで発売することに。


すると「変わったラーメンがある」「北海道では初の試みだ」と口コミで話題になり、くわの実の名前が少しずつ知れ渡っていきました。住宅街の中にあり、そもそもラーメン屋があるということを知ってもらえていない状況でしたがそこから少しずつ客足が増えていきました。


「外からの新たな視点って大事だなと気づかされました。いつの間にか視野が狭くなっていくんだなと。このチーズダッカルビラーメンがなかったら、もうこのお店はないと思います」と語ります。



すっきりと飲み干せるラーメン

店主の桑原剛さん(右)と奥様の真樹恵さん(左)


くわの実の最大の特徴は、北海道特有の塩分が強い濃厚なスープではなく「飲み干せるスープ」。麺はスタンダードな縮れ麺で、癖がなくさっぱりとしたスープと麺、甘めに味付けされたチャーシューが美味しいラーメンです。1口目から食べ終わるまで味に飽きることなく、最後の1滴までスープを飲み干すことができる味には、桑原さんの強いこだわりがありました。


「最初は美味しい!って思っても、味が濃いと最後はしょっぱくなるし、最初に熱々を提供しても温度はぬるくなります。なので、最初から最後まで味の印象が変わらないスープを意識しました」


そのコンセプトを完成させるために「最初から最後まで味は変わらないか」を確かめるべく、試作の段階でも毎回1杯を完食して調整したため、スープを開発した2ヶ月で7kgも増加したのだとか。


その研究の甲斐もあり、近隣住民の老人もスープまで飲んでいくほど、すっきりと飲みやすいラーメンに仕上がっています。また、期間限定メニューも豊富で定期的にラーメンを開発しており、お客さんを楽しませています。


ラーメン屋でありながら、常連客に根強い人気の「あんかけ焼きそば」


具だくさんな「あんかけ焼きそば」


昔風の「タンメン」

野菜たっぷりの「タンメン」


らぁめん くわの実を窮地から救った人気メニュー「チーズダッカルビ」

知名度向上のきっかけとなった「チーズダッカルビ」


濃い味が好きな人に向けた「うちの店にしては濃厚な味噌らぁめん」


赤い辛味噌で、ピリっと辛い味付けの「うちの店にしては濃厚な味噌らぁめん」


などなど、今まで作った期間限定メニューは数知れず。季節に合わせて色々なメニューを作り、いつお店にきても飽きないように風変わりなラーメンを意識しています。常連客の中には、期間限定のメニューをチェックしてからお店に入る人もいるのだとか。


「期間限定ラーメンを食べて美味しかったから、次はどんなのが来るんだろう。って期待されているのを感じますね(笑)だからラーメン以外にも色々作ってみました。正直メニューを考えるのはすごく大変ですけど、その期待には応えられるようにと頑張っています」


お客様ファーストで、ラーメンに真摯に向き合う桑原さんの人間性が垣間見えるバラエティー豊かなメニュー達です。



地域に愛されるラーメンを


炒飯(大盛)と黒醤油ラーメン


くわの実はリピーター率も高く、常連になったお客さんは店主と顔見知りになり、「最近仕事でこんなことがあった」「子供が進学・就職した」などなど日常の会話に花を咲かせながら、ラーメンに舌鼓をうつなど和気あいあいとした雰囲気で、穏やかかつ緩やかに癒しの時間が流れています。ラーメンと店主のファンが笑顔でお店から出ていく。心とお腹を満たせるような、皆から愛されているラーメン屋です。


最後に、このお店をどのようにしていきたいかと聞いたところ「今のペースで続けていけたら、それが1番理想かなって思っています」と笑顔で桑原さんは語ってくれました。


南平岸駅の周囲には飲食店が少なく、近隣住民の台所事情を支えているくわの実。これからも地元のみんなに愛されるお店として、続いていくことでしょう。



■ さっぽろらぁめん くわの実


住所

〒062-0933

北海道札幌市豊平区平岸3条14-3-12第2協同ビル



電話番号

011-822-7711


営業時間

月・火・土・日

11:00-15:00

木・金

11:00-15:00 / 17:00-20:00


定休日

水曜日


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