札幌市白石区南郷通。北海道の市営地下鉄東西線「南郷7丁目駅」から徒歩2分。人通りの多い道に大きな看板と暖簾が目立つのは、昭和36年に創業した人気銭湯「美春湯」です。
時代の流れか、銭湯がどんどん閉店となっている中、SNSで情報を発信して営業を続ける美春湯の軌跡とこれからの展望を、2019年に後を継いだ美春湯3代目店主、中澤正貴(まさたか)さんにお話を伺いました。
銭湯について知ってほしい
美春湯は富良野、旭川、美瑛で銭湯を経営していた先代が、昭和51年に現在の場所にあった銭湯を改装してオープン。当時は札幌市内でも銭湯がブームだったため、その流行に乗って家族風呂を常設したり、改装時に当時としては珍しいサウナを導入したりするなど、時代の最先端を行く銭湯でした。
また、美春湯のある場所は水源池通(すいげんちどおり)と言われ、豊富に水が取れたことから開業当初より地下水を利用しています。軟水で肌に浸透しやすく、熱が逃げづらいため湯冷めをしないのが特徴です。
ですが、近年は銭湯に来る客も高齢化が著しく、どんどん客足も遠のいており銭湯業界は逆風が吹いています。
「銭湯に来てほしいって思ってもちょっと勇気がいるんですよね。特に若い人には得体の知れない存在だと思うので。あと、札幌市内の銭湯でもそれぞれ地下水の水質が違うので、実は結構お湯に差があるんです。でも、こういうのって知られてないんですよね。だから銭湯というものを知ってもらって“なんか面白そうだな”って感じたら来てくれればいいですかね」と中澤さんは語ります。
スーパー銭湯と銭湯は全く違う業種「安く1人で楽しめる」のが銭湯
筆者が美春湯の取材をする際、事前調査で「近年の温浴施設としてスーパー銭湯が流行していることも関係するのかな」と感じていました。ですが、中澤さんは「全くの別物で、被ってるとは思ってないです」と話します。
「美春湯ではサウナ代が含まれているのでワンコインです。食事処があるようなスーパー銭湯よりも安く利用できます。あと、家族で行くってなったらスーパー銭湯に行くと思うんですけど、銭湯は男女どちらも1人で来る方がほとんどです。1人でフラっと来ても周囲も1人なんで居心地が良いのが大きな違いだと思います」
その言葉どおり、化粧水、貴重品ロッカー、ドライヤー、マッサージチェアまでが無料で利用できるなど、安く快適に過ごせる工夫がなされています。
また、タトゥーや刺青が入っている人は温泉に入れないというイメージがとても強いですが、銭湯という“一般公衆浴場”はスーパー銭湯などの“温浴施設”と違い、タトゥーや刺青が入っている人でも基本的に入浴できるんだとか。
「“誰もが平等に清潔に保つことができる場所”というのが銭湯の基本なので、そのお店がNGにしてないのであれば基本的に入浴できます。これって意外と知られてないのかなと思います」
それ以外にも「自分の時間を大切にしたい」と1人カラオケならぬ1人銭湯を楽しむ個人、若い夫婦やカップルなど、想像以上に銭湯には様々な楽しみ方があります。
「美春湯の場合は家族風呂もあるんで、それこそ『タトゥーを入れていて、人がいるところに入りづらい』という人や、『足腰が不自由で周囲に迷惑がかかるから』という理由でご利用いただく方もいます。家族風呂といいつつ、1人のお客様が半数くらいですね。なんだったらスーパー銭湯のほうがよっぽど家族風呂らしいです(笑)」と笑顔で教えてくれました。
些細なコミュニケーションを大事にして心休まる空間を
また、中澤さんが大事にしていることの1つにコミュニケーションがあります。
「いらっしゃいませだけじゃなくて、今日は寒いねとか、帰るときにはおやすみなさいとかは積極的に言うように意識していますね。たった一言ですけどそういうのが今は全然ないなぁって。特に常連さんだと、気持ちよかったよーって声をかけてくれる人もいるんです。それは本当に嬉しいですね」
先代から銭湯を引き継いだ矢先、コロナ禍に見舞われましたが「少しでも興味を持ってもらえるように」と、2020年ごろから入浴剤を投入する様子をTwitterに投稿。今やフォロワーが8,000人を超え、twitterを見て来てくれる方が増加。若年層のお客さんが以前の3倍にまで増えたそう。
そんな古き良き銭湯の文化を継ぐ美春湯ですが、2年ほど前に大幅な改装工事を実施しました。
「昭和の文化ですけど今は令和なので、その流れに乗れるように意識しています。より居心地がいい場所となるように気を付けてますね」
以前は番台から着替えている場所まで全て見えるようになっていたため、仕切りを追加。若い女性が来ても安心して入れるよう工夫したり、よりリラックスできるように休憩スペースも大幅に改装。時代に合わせてお店を積極的に変化させています。
「浸からないと心の疲れは取れない」湯船に浸かる文化をもう一度普及させたい
この銭湯ならではの特長をもっと知ってもらいたいということでtwitterの発信を始めたんですか?と聞くと「というより、お風呂(湯船)に入ってほしいんですよね」と意外な回答が返ってきました。
「別に入るなら家のお風呂でいいんです。銭湯じゃなくても湯船があればどこでも。まぁ、ただちょっと気になったらウチに来てくれればなって思います(笑)。臭いとか汚れとか体の疲れもそうですけど、やっぱり湯船に浸からないと心の疲れも取れないので」
昨今はシャワーだけで済ませる人も多くなる中、湯船に浸かるという文化を浸透できるようにという思いを伝えてくれました。
最後に、美春湯についての展望を伺うと、
「続けるのは大変なんですけど、始めるのも終わらせるのも簡単なんですよね(笑)でも、あるものをずっと残すのは難しいけどやりがいがあります。なので、これから少しでも長く美春湯を続けるためにも、1人でも多くの人に来て欲しいし、銭湯について知ってほしいです」と、笑顔で応えてくれました。
銭湯、そして湯船に浸かる文化を次世代につなげるために、美春湯は今日も営業を続けています。
■ 美春湯
ホームページ
http://www.nakazawa-bldg.com/pb_miharuyu/
住所
〒003-0023
北海道札幌市白石区南郷通7丁目北5-16
電話番号
011-864-1754 (家族風呂 011-861-2254)
営業時間
13:45-21:45 (家族風呂 15:00-22:00)
定休日
水曜
駐車場
有 (14台)
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