福島県と聞くと、桃をはじめとした果物を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
福島県福島市には「フルーツライン」と呼ばれる道路があり、直売所や果物狩りができるスポットが多く並んでいます。今回はそのフルーツライン上に位置する「あんざい果樹園」を経営する、安斎一寿さんにお話を伺いました。
福島を代表する桃やりんごを育てる果樹園
(画像提供・Airbnb Ji-kkaページより)
あんざい果樹園は3代にわたって果物づくりを続けている果樹農園です。夏は桃、秋口からは梨と洋梨、冬にはりんごと、季節ごとにみずみずしくおいしい果物が実ります。
元々は梨をメインに栽培をしていたあんざい果樹園ですが、一寿さんが30代の頃に新しい試みとしてりんごを植え始め、現在ではりんごを栽培する面積の方が上回っています。
あんざい果樹園でとれたりんごを使った「りんごジュース」も代表的な商品の一つです。完熟した蜜入りのりんごだけを使い時間をかけて作られたジュースは、そのおいしさから地元のカフェやレストラン、また全国のファンや著名人からも多くの注文を受けているそうです。時期ごとに使用するりんごを紅玉、陽光、ふじと種類別で販売しているところにもこだわりを感じます。
果樹園といえば果物の栽培が主になるところ、あんざい果樹園では民泊「Ji-kka」を経営し、またさまざまなイベントを実施していることから、多くの人が集まっています。「あん果樹さん」の愛称で呼ばれ、SNS等でもしばしば話題にあがっています。
積極的に人を受け入れてきた経験
農業と聞くと農家の方が作物を育てて、特に人が集まるイメージはありませんが、あんざい果樹園には自然と人が集まる印象があります。その理由は「他人が入るのが嫌という考えが一切ない」という、安斎さんの柔軟さにありました。
実は、以前より積極的に海外からの農業系ボランティアを受け入れていたあんざい果樹園。20年ほど前から登録制農業ボランティアの「WWOOFジャパン」でホストをしており、さまざまな国から来た人たちと農業を通し、交流を深めてきました。
「うちの息子に、農業忙しいから誰か手伝ってくれる人いないかなーなんて言ってみたら、お父さんこんなのあるよって教えてもらって。ヨーロッパの方で盛んらしい。農業を手伝ってもらって、その代わり食事と寝るとこはうちが用意しますよっていうやつなんだよね。で、それいいなって思って」
WWOOFジャパンのホスト登録証
「イギリスやドイツ、フランス、アメリカ辺りから毎年人が来ていて。言葉については今みたいに携帯の翻訳もなかったからわからなかったけど、なんとかなったね」と安斎さんは語ります。海外ボランティアの人たちは、日本で回る農園が大体決まっており、そのボランティアを通じて全国のホスト同士がつながりはじめ、さらに交流の幅が広がっていきました。
しかし残念ながら、2011年に起きた東日本大震災以降、海外からボランティアで来る人の足は途絶えてしまいます。WOOFジャパンは退会しましたが、現在でも年間を通して日本全国から農業の手伝いに来てくれる人がおり、あんざい果樹園で過ごす時間に心を癒されているそうです。
古民家をリノベーションした民泊「Ji-kka」
「年取ってくるとさ、農業だけではだんだん大変になってくるから、新しいこと何かできないかなって。元々いっぱい人が集まる家だったんで、じゃ、Ji-kkaって名前で民泊でもやろうかって」
あんざい果樹園の敷地内には、築100年の古民家をリノベーションした一棟貸しの宿「Ji-kka」があります。長野県で空間デザインを手がけるReBuilding Center JAPAN.さんとたまたま繋がりがあり、リノベーションをお願いしたということでした。宿は名前の通り実家のような落ち着いた佇まいで、古民家ならではの風情を感じることができます。
(画像提供・Airbnb Ji-kkaページより)
新型コロナウイルスが流行する少し前から営業を始めたため、もしかしたら人が来ないかもしれないという懸念がありましたが、一棟貸しという人との接触が少ない宿泊スタイルが功を奏し、県内外から多くの予約が入っているそうです。取材当時は2ヶ月先まで予約でほぼ満室。レビュー数85件、星4.92と評価は高く、利用者の満足度が高いことが伺えます。
大きな庭の奥にあるツリーハウス
外には緑が生い茂る美しい庭や、「ほぼ日手帳」で有名なエッセイスト糸井重里さん発案のツリーハウスなどがあり、緑に囲まれた空間でのびのびと過ごすことができます。食事については持ち込みOKですが、庭での炊事が可能で、また立派なピザ釜も併設されていることから、外で作って食べるのもおすすめです。
近場には安斎さんもよく利用している高湯温泉や土湯温泉などの温泉街もあるので、温泉に浸かってほっと一息ついてみるのもいいのではないでしょうか。
庭ではマルシェやライブなどのイベントも
あんざい果樹園では緑豊かな大きい庭を貸し出して、年に数回ライブやマルシェなどのイベントを実施しています。マルシェではさまざまなジャンルのお店やワークショップ、ライブには安斎さんと繋がりがあるアーティストや著名な方も多く参加し、毎回盛り上がりをみせています。皆が楽しんでいる様子を見ることが嬉しいのはもちろん、安斎さん自身も「いつも楽しませてもらっている」とのことでした。
今年は敷地内にある「utswa.gallery あんざい」の周年記念の準備や、他のイベントについても話があがっているそうなので、今後のイベント情報からも目が離せません。
陶器や磁器、雑貨などが並ぶutswa.gallery あんざい
大切なことは人生を楽しむこと
本業である農作業だけでなく、次男がいる北海道を尋ね軽トラで旅をしたり、息抜きに京都へおいしいものを食べに行ったり、休みながらも人生を楽しんでいるという安斎さん。素敵な生き方に思えるとお伝えしたところ、その行動に至る背景をお話してくださいました。
「震災後、みんな人が出て行っちゃったり、悲しいことがいっぱいあったりして。もうこれからの人生は、楽しまないとだめだなと思って。色んな人とつながったり、わいわいイベントやったりして過ごそうと思ったんだよね」
「人生を楽しまないと。最低限の生活をして、何より楽しむこと。なんでも好きなことは今のうちにやるといいよ」と、思いを口にしていた安斎さんの顔には笑みが浮かんでいました。
あんざい果樹園の直売所
安斎さんは現在FacebookやInstagramなどSNSを駆使し、あんざい果樹園に関する情報を発信しています。また、普段から新しい情報を仕入れるよう日々心がけているそうです。情報を集める力はもちろん、新しいものを受け入れようという安斎さんの柔軟で前向きな姿勢が、あんざい果樹園に人が集まる理由へつながっているのではないかと、今回のインタビューで感じました。
皆さんも福島市にお越しの際は果物がおいしい時期を狙って、あんざい果樹園へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
■ あんざい果樹園
ホームページ
住所
〒960-2261
福島県福島市庭坂字原ノ内14
電話番号
024-591-1064
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