東京から電車で1時間半ほどの場所に位置する千葉県いすみ市。

今回取材した「鹿カフェ」は海に近い大通りから山側に入った場所に佇んでいます。一見すると広くは見えませんが、一歩入ればキャンプ場も併設した広々とした空間。ツリーハウスもあり、どこか秘密基地のような雰囲気も漂っています。カフェは貸しスペースとして営業しているため、カレー屋さんやバーなどいくつかのお店が場所を借りて営業するスタイルです。



音楽家のオーナー | コロナ禍がきっかけとなって始めたカフェ


もともと代官山でインテリア雑貨屋さんをされていた店主の八重樫さん。その後、そのお店に集まるお客さんたちと音楽活動を始められ、現在でもDJとして活躍されています。


八重樫さんは以前、東京を拠点に生活されていましたが、15年ほど前から東京といすみを行き来する生活をスタート。いすみには自宅とは別の場所に、奥さんが畑をするための土地を、現在の鹿カフェがある場所に購入しました。しかしロケーションや利便性を考えていく中で、カフェや小さなキャンプ場にするのがよいのではないかというアイディアが浮かんできたといいます。


「鹿カフェのオープンはコロナの影響が大きかったと思いますね。コロナでDJの活動があまりできなくなってしまった時に、DJの映像を配信していたんです。せっかく景色が素敵ないすみにいるので、自然の中でDJをしている映像を配信すれば面白いかなと思って地域のいろんなところを回ってました。でもやっぱり実際に人前でやる方がいいなと思って、自分で人が集まれる場所を作ることにしました」


鹿カフェでの最初のイベントは、奥さんの知り合いの結婚パーティー。カフェの準備より先にパーティーの予定を決めていたため、場所を綺麗にしたり、トイレを作ったりと急いで環境を整えたといいます。基本的な形ができあがってからは徐々に欲しいものを作っていき、今後も進化していくそうです。



店内は古い山小屋をイメージした落ち着いた空間


八重樫さんは現在カフェとなっている建物を最初に見た時、古い山小屋風という印象を受けたそう。山小屋風の良さを活かした内装やインテリアを考え、カフェの空間づくりをされたとのことでした。鹿のフォルムが好きでご自身のベッドルームを鹿のインテリアで揃えていた八重樫さん。店名にもなっている「鹿」については特に深い意味はなく、山小屋風の雰囲気にも合うということで、鹿のインテリアを全部カフェに持ってきたことから名付けられたそうです。


流れに身をまかせながらもこだわりを感じさせるセンスの良さは、インテリア雑貨を生業にされていた八重樫さんの実力が感じとれます。店内にはご自身の音楽活動のポップなポスターが飾られた壁があり、店内の照明、配色、インテリアの配置など素人目にみても素敵な空間です。


鹿カフェの店名にはロシア語で「カフェ 鹿」と記載されています。


「以前からデザインとしてロシア語が気に入ってました。戦前から戦後にかけてロシアの文化が日本にたくさん入ってきた時期があります。その時期に文豪などが立ち寄るようなバーにはロシア語をデザインとして取り入れる時流があったんです。文化的な香りを醸し出せればいいなって思って」



いろんな面白い人たちがつながる、きっかけとなる場所にしたい


地域のカフェとのコラボや様々なイベントを開催している鹿カフェ。過去には、フリーマーケットや知り合いの歌手の方がミニコンサートを行うなど、さまざまなイベントが開催されてきました。八重樫さんがDJとして音楽を流して、みんなでゆっくり過ごすイベントもされているとのこと。そんな地域を盛り上げる存在となっている鹿カフェが今後いすみにとってどのような存在でありたいのかについて伺ってみました。


「いすみには本当にいろんなタイプの面白い人がいるので、そういった方々が集まって、つながりをもてる場所にしたいと思っています。実際、田舎生活って孤立してしまってる人が多いんです。1つの集団のなかでまとまってしまって」


八重樫さんがいすみでの生活を始めてから15年ほど。都内からきた当初は全く周囲とのつながりがなく、地域とつながり始めたのは奥さんが習い事の教室に参加したことがきっかけでした。


参加した教室には、当時仕事をリタイアした方たちや、移住してきた人たちが集まっていたそうです。そういった方たちと知り合っていく中でさらにサーファーの方たちや海外から移住してきた方、エコを突き詰めた暮らしをしている方など交友関係がどんどん広がっていきました。DJをされている八重樫さんは、多くの人とつながってパーティーや集まりに呼ばれるようになります。


「いろんなタイプの人たちとせっかくつながりを持てたので、そういう人たち同士がつながれる場所を自分が作れたら面白いかなって」


今後は、身内だけにとどまらず、東京など外部からのゲストを呼んだイベントも開催して出会いを生み出せる場所をつくっていくそうです。



店主一押しの料理を堪能できるカフェ

「カフェで提供される料理に関しては、自分でセレクトしたものなので、自信を持って出せます」と八重樫さん。


取材した当日はカレー屋さん「shanti kuti(シャンティクティ)」の営業日でした。カレー屋さんの店主の方はインドでの滞在経験があり、インドの伝統医学アーユルヴェーダを学ばれた経験があります。お料理にもアーユルヴェーダの知識を取り入れ、体に負担をかけない調理法、食材選びをされているといいます。


筆者はエビココナッツカレーとカシューナッツベースの野菜カレーをいただきました。週ごとに様々な味のカレーが楽しめるようです。素材にこだわり、ほとんど地元で採れた食材を使用しています。無農薬で新鮮な野菜を使ったサラダやサブジ(野菜の炒め煮)がついてくるのもうれしいポイント。チャツネ(ペースト状の調味料)やチリオイルまで自家製といったこだわりの詰まった本格的なカレープレートでした。 カフェに訪れたお客様にはどのような時間を楽しんでもらいたいかについて伺ってみました。


「普通のお店よりもゆったりとした雰囲気で営業しているので、昼休みの短い時間にきてパッと帰らないといけないといった方には合わないかもしれません。お店の周りを探索したり、店内でぼんやりしたり、そういう方に向いてますね。実際にそういった時間を過ごしている方が多いです」


この日もカレーを食べに地元のお客さんが多く訪れていました。初めて会ったお客さん同士がお食事中に会話を楽しんでいたり、カレー屋さんの店主の方と世間話をしていたり、ゆったりとした時間を過ごしていたりする様子がみてとれました。カレーを食べ終わってすぐ帰るという感じではなく、みなさん食後のコーヒーまでゆったりと楽しまれている姿が印象的でした。



東京、いすみ、糸島での3拠点生活


15年ほど前にいすみに拠点をもった八重樫さんですが、今は東京と九州の糸島、そしていすみの3拠点に自宅をもっているため、移住というよりかは3拠点生活という言い方が正しいかもしれません。ご本人は「3重生活」とおっしゃっていました。バブル時代は、日本各地様々なところを回ってガムシャラに働いていた八重樫さんご夫婦。その疲れが溜まってきて田舎生活を考え始めたのがいすみに拠点をもつきっかけだったそう。


「田舎暮らしを考え始めた当初は糸島が候補だったんです。でも、都内でも仕事があって、行き来するとなると距離的に現実的ではなくて。いすみがちょうどよかったんです」


コロナ前は1週間のうち、月曜〜木曜までいすみ、金曜〜日曜は東京で仕事という生活をされていました。そして、1ヶ月のうち1週間は糸島での生活。コロナ禍になってからはこのスタイルが崩れ、いすみで生活する比重が多くなっているそうですが、最近は3拠点での生活にもどりつつあるとのことでした。取材した当日も都内での用事があるため都内に向かい、数日後には糸島に行くとおっしゃっていた八重樫さん。精力的に活動されている様子が伺えました。そんな八重樫さんに3拠点生活のよさを伺ってみました。


「自分より20歳〜30歳くらい若い人と接点を持てるのが東京なので、彼らと一緒に音楽の仕事をすると新しいアイディアが湧いてきます。奥さんはヘアメイクの仕事を昔からやっていて今でも仕事でいろんなところに行っています。疲れたからなるべくいすみに帰ってきたいってよく言ってますよ」


日常の中に変化があり、そこから仕事のアイディアや活力が生まれている素敵なライフスタイルを送られています。仕事も普段の生活も存分に楽しまれている印象を強く受けました。


「糸島でもDJの活動をしています。長崎とか熊本とかに行っちゃって結局糸島にあまりいないなんてことも多いんですけどね(笑)」 


糸島は自然環境としてはいすみと似たところがありますが、全く違った景色や食べ物などが楽しめ、異なる魅力があるといいます。月に1週間だけしか行かなくても綺麗に保てるよう、糸島の自宅はマンションなのだそうです。



田舎暮らしの拠点探しは焦らず慎重に


物件探しが好きでいい土地を定期的に探しているという八重樫さん。田舎での物件探しについてポイントを伺ってみました。


「物件の目星がついたらとにかくしっかり調べたほうがいいです。私も物件を見つけてから3年くらいみて購入を決めることが多いんです。都内で暮らしている方にとっては、地方の物件は都内と比べて値段が安いので、すぐに購入を決めちゃう方もいるんです。いいところを見つけたと思っても焦らずじっくり、交通の便や景観、近所のつながりなどいろんな視点を持って考えてみるといいです」



今後も「本当に美味しい料理を提供してくれる方」と一緒に活動していきたい


最後に鹿カフェの今後について伺いました。


「鹿カフェは始まったばかりですし、とりあえずは、しっかり営業日を増やしたいと思っています。本当に美味しい料理を提供してくれる人を募集しています!」


現在、鹿カフェは週に2〜3日のカレー屋さんの営業と、夜のバー営業がメイン。特に田舎の地域では本当に美味しくなければお客さんにきてもらえない難しさがあり、味のチェックは厳しく行っているとのことでした。

「我こそは!」と自信のある方はぜひ鹿カフェの店主、八重樫さんに連絡をとってみてはいかがでしょうか。



■ 鹿カフェ


ホームページ

https://shikado.net/shika-cafe


住所

〒299-4613

千葉県いすみ市岬町三門107-3


お問い合わせ

info@shikado.net


営業日

・shanti kuti

基本水・木曜日

・夜のバー営業や週末のイベント

不定期


営業時間

・shanti kuti

11:30-14:30

※それぞれの営業日や営業時間については鹿カフェHP内のカレンダーをご覧ください。


shanti kutiのFacebook

@Shanti-kuti



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