今回は千葉県いすみ市にある高秀牧場に取材させていただきました。高秀牧場は周りを田んぼに囲まれた大自然の中にあります。牧場では、新鮮なミルクを使った美味しいジェラートや国際コンクール入賞経験のあるチーズがいただけます。今回は高秀牧場代表取締役の馬上さんに牛へのこだわりやお客様に伝えたい思いについてお話を伺いました。



循環型酪農を行う県内でも珍しい牧場


高秀牧場は田園風景が広がる千葉県いすみ市の大自然の中にあります。1983年に馬上さんのおじいさんによって創業、生乳の出荷専業をされていましたが、2012年にチーズ工房、2016年からはジェラートと菓子の製造、カフェの経営を始めるなど、6次産業化に取り組んでいます。


牧場内にある「ミルク工房」では、牧場で大切に育てられている牛を眺めながら自家製のチーズ、牛乳を使ったデザートやお食事が楽しめます。


高秀牧場は、千葉県内でも珍しい循環型酪農に取り組む牧場です。牛の排泄物を資源として再利用するべく、自社で処理して堆肥にしています。その堆肥で育った牧草や作物を再び牛が食べ、再度牛から排泄物として排出されるというサイクルを繰り返します。


高秀牧場では地域の稲作農家さんに、牧場で再利用して作られた堆肥を使ってもらうことで、地域にも貢献しています。食用の米の価格がどんどん下がってきているという背景がある中、収入を上げたい稲作農家さんと、国産米を牛の餌を作るのに利用したい牧場の需要と供給がマッチしているとのこと。稲作農家の方と協力をして地域一帯で好循環を生み出すことができているそうです。



美味しいジェラートやチーズを作る高秀牧場の牛へのこだわり


馬上さんに牛へのこだわりを伺ってみました。


「まずは牛の健康が第一です。牛が健康でいてくれるから毎年赤ちゃんを産んで、赤ちゃんを産むからミルクがでてというサイクルができるんです。これは牛が健康だから繰り返せるんですよね」


牛は出産しなくなって、ミルクがでなくなると、その時点でお肉として出荷されてしまいます。できるだけ牛に長生きしてもらいたい、元気でいてもらいたいという思いのもと、牛の健康管理を一番大切にしています。


高秀牧場では、約170頭いる全ての牛に名前をつけているそう。出産に偶然立ち会ったお客さんが名前をつけてくれることもあります。毎日搾乳に携わっているスタッフはほぼ全頭の牛の名前を覚えているそうです!



餌作りへのこだわり


牛の健康を守るために特にこだわっていることが、牛が毎日食べる餌作りです。高秀牧場では、餌に使用する材料において、輸入品を減らす心がけをしています。牧草をできるだけ自分たちで作り、将来的には餌の国産化100%を目指しています。現在のところ一部輸入しているものもありますが、全体では75%ほど、草類だけだと95%くらいは自分たちで作っているとのことです。


一般的に餌に使われるとうもろこしや大豆などの穀類は、海外から輸入されることが多くあります。しかし、高秀牧場では国産食品を作る際に出る副産物を、輸入物に置き換えて使っています。国産食品から出る副産物とは、お醤油の搾りかす、お米を精米したときに出るぬか、米粉、ビールの搾りかすといったものです。食品のかす類は通常、食品廃棄物として捨てられていますが、牛の餌に使用することで再利用することが可能になります。いろんなものをバランスよく食べさせることで牛の健康維持にもつながり、でてくるミルクの質もよくなるそうです。


また、餌を自社で作ることにより、海外から輸入するよりもコストを抑えることができます。さらに大切な牛が食べる餌が、誰によって作られたものかわかるというのは、酪農家にとって安心要素になるとのことでした。


しかし実際、牛を育てるには大量の餌が必要となるため、自分たちで全て作ることは容易ではありません。広大な土地が必要となるため、北海道や海外に比べて土地が狭い千葉県の酪農家にとってはすごく難しいことなんだとか。 


今回は、実際に餌を作っている田んぼや畑も案内していただきました。牧場の周辺には広大な畑や田んぼがありますが、そのうちの一画で材料となる作物が作られています。


取材に伺った5月の中旬頃は、ちょうど堆肥をまいたばかりでした。畜産農家は一般的に糞尿の処理に困るそうですが、高秀牧場では畑の堆肥に全て使用しているため、足りないくらいなのだとか。このあと畑をおこして、とうもろこしの種をまく作業をすると教えてくださいました。


牧場の畑では、春と秋に牧草、夏にはとうもろこしを作っています。田んぼでは稲を育て、稲刈りが終わったら二毛作として今度は田んぼで牧草を作っていきます。狭い土地を工夫して使いながら、国産の餌作り100%に取り組まれている様子が伺えました。


また、高秀牧場は他の牧場に比べて酪農のスタッフが多いのも特徴です。ほとんどの牧場では餌を輸入していますが、牛の餌となる作物を育てる農作業を行う分、スタッフを増員しています。現在、酪農に携わっているスタッフさんは8名。馬上さんのご家族3名とスタッフの方5名で170頭の牛の世話をしています。毎日やらなければならない搾乳の作業は、大人の牛に発生する作業。高秀牧場の場合は大人の牛が80頭ほどなので、本来、スタッフの数は2〜3名で足りるそうです。それだけ餌作りにこだわっているということがよくわかります。


牧場スタッフさんの1日のスケジュールも教えていただきました。1日の始まりは朝の5時。牛の搾乳や朝ごはん、牛舎の掃除などを9時ごろまでに済ませます。昼間は主に畑作業を10時から15時頃まで。その後、再び17時30分から21時頃まで搾乳の時間があるといいます。農業界でも働き方改革があり、ご家族の方以外のスタッフさんは午前中から夕方まで働く方と、お昼から夜まで働く方の2部に分かれて牛のお世話をしているそうです。



高秀牧場こだわりのジェラートやチーズ


牧場内のカフェ「ミルク工房」では、搾りたてのミルクを使って作られたジェラートやチーズ、ピザやカレーなどの食事を楽しむことができます。


1番人気のジェラートはミルクのジェラートとのこと。筆者はミルク味と季節のフレーバーである、はちみつレモン味をいただきました!牛舎を見渡せるテラスで牛を眺めながら濃厚なミルクの味わいを堪能できます。ミルク工房では常時12種類のジェラートが取り揃えられ、そのうちの半分くらいは季節ごとに入れ替えられています。


チーズの1番人気は「草原の青空」というブルーチーズ。筆者は自宅でワインと合わせていただきました。ブルーチーズがそこまで得意ではない筆者ですが、ミルクがブルーチーズの独特な香りをまろやかにしてくれており、大変食べやすく感動しました。2015年に国際コンクールでも賞を受賞したことのある人気のチーズ。リピーターの方も多いというのも、納得の商品です。ぜひ高秀牧場を訪れた際はゲットしてみてください!


実力の高いチーズを作っているのは、現在2代目チーズ職人として活躍している大倉さん。もともと大手の乳製品メーカーで働いていたそうです。将来自分のチーズ工房を持つという夢を持ちながら、毎日美味しいチーズ作りに励んでいます。 チーズは職人の腕がどんなによくても、原料のミルクが美味しくないことには絶対に美味しいチーズは作れないのだそう。

大倉さんは、高秀牧場のミルクを信頼し、チーズ職人としてのキャリアを高秀牧場でスタートさせました。初代のチーズ職人の方は現在独立し、高秀牧場のミルクを使いながら自身のチーズ工房でチーズを作っているそうです。



ジェラートやチーズを買いにきていただいたお客様にとって牛や酪農家のことを知るきっかけとなれたら嬉しいです


高秀牧場がカフェを始めたきっかけは牧場を訪れるお客さんに牛を見て欲しい思いがあったからなんだそうです。しかし「牛を見にきて欲しい」とだけ伝えてもお客さんが集まらないため、ジェラートやチーズなど美味しい商品を開発して、牧場に足を運んでもらえるようにしたとのことでした。


「牛乳とか乳製品って生活には身近だと思いますが、意外と酪農や牛についてはみなさん知らないことの方が多いと思うんですね。牧場にきてくれたお客様には、牛乳を使った商品には、必ず牛という生き物の命やそれとともに仕事をしている酪農家という存在があるということを身近に感じてもらえたらなと思っています」 


店内には牛の生態や循環型酪農についてまとめられた掲示物が所々にあります。 


「お客様には、ジェラートやチーズなどを求めていらしていただいてますけど、私たちが1番見ていただきたいと思っているのは、牛や掲示物なんです。牧場に来たついででいいから見て欲しいなと思います」


馬上さんの牛への愛情は、牛舎を案内していただいた際、牛に話しかけたり、戯れたりする様子から伝わってきました。 


馬上さんは幼い頃から酪農に携わってきました。ご両親が牧場で働いてたので、保育園の時から牧場の手伝いをされていました。馬上家の家訓は「働かざるもの食うべからず」だったといいます。


「弟が2人いるんですけど、私が小学校2年生のときに両親から『今日から牛の世話をお前ら3人に任せる』と言われたんです。学校から帰ってきたら宿題や遊びよりも優先して仔牛にミルクをやってという幼少期を過ごしてきましたね」


そんな幼い頃から酪農に携わっている馬上さんだからこそ感じることのできる牛に対する思いを語ってくださいました。


「牛のお世話をしていると毎日いろんなことがあるんです。出産があったり、長年可愛がってきた牛の出荷をしなきゃいけなかったりと。牛を見送らないといけない時は、命というものについて考えさせられます。食べ物は全て命があったものをいただいているんだなってことを、酪農をやっていてすごく感じるんですよね。そういう気持ちを少しだけでもうちの乳製品を通してお持ち帰りいただければなと思います」 


最後に今後の高秀牧場について伺いました。現在は食品を通してお客様に酪農や牛の魅力を伝えていますが、今後はグッズ製作にも取り組んでみたいと考えているそうです。また、農業宿泊体験事業も考えているとのこと。


「今は、酪農家を目指す方のための酪農体験をやっているんですが、もう少し幅広い方がお楽しみいただける宿泊事業をやってみたいなと思っています。酪農体験に参加した子供たちの中から将来酪農家になりたいって子が出ると嬉しいですね」 



■ 高秀牧場


ホームページ

https://www.takahide-dairyfarm.com/


住所

〒298-0106

千葉県いすみ市須賀谷1339-1


電話番号

0470-62-6669


ミルク工房 営業時間

10:00-17:00(ラストオーダー16:00) 


定休日

木曜日


Facebook

@takahidecheese


Instagram

@takahidebokujou



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