大分県別府市の別府タワー近くにある元旅館に、若者や学生起業家が共同生活する、起業家シェアハウス「SEKIYA.so」があります。


「地方だから起業は難しいかな」「やっぱり大分県では夢を叶えるチャンスはないのかな」と、やりたいことや夢があってもあきらめてしまう若者も少なくありません。


今回は若者に“夢をあきらめてほしくない”と起業支援をしている「SEKIYA.so」代表の寺本聖さんにお話を伺いました。



起業家シェアハウスが生まれたきっかけはゼミナールの事業計画

SEKIYA.so代表の寺本聖さんは自身も現役の大学生でありながら、学生(Z世代)起業家シェアハウスを創業しました。


大学のゼミナールで事業計画を立てるという課題から、起業家シェアハウスの構想が生まれました。


元旅館の雰囲気を残したSEKIYA.soの正面玄関


「高校時代から家族以外との共同生活を経験していて、誰かと生活をすることが日常であり、当たり前となっていました。大学3年生の時にふと高校時代を振り返ったんです。自分の中でシェアハウスってすごく大きなもので、人生の一部だなっていうところに気づきを得ました。そこで、シェアハウスを事業計画にしようと思いました」


「地元を離れた学生は孤立しやすいです。特に地方の学生は、都市部に比べて多い傾向にあります」


地方は首都圏や大都市に比べると大学間の交流が活発ではなく、学生同士の交流や相談する場が少ないことが要因に挙げられます。


「大分の学生が孤立しやすい原因は、大学間の地理的距離が遠すぎて、交流ができないことにあります。自分が通う大学のカルチャーのみに依存してしまうところが孤立を生んでいます。いざ相談したいってなった時に、東京の大学ならSNSでの発信や活動の場が発達しているので探しやすい。この人に会いに行けばいい、この場所に行けばいいってわかりやすいんですけどね。学生目線からいうと、イベントはあるものの、なかなか入り口となる情報が入らないんです」


孤立する学生の相談場所を作りたい、起業したい学生に「地方だから、大分じゃ無理かな」と格差を感じてあきらめてもらいたくない。そんな想いから学生の起業支援と交流の場であるシェアハウス「SEKIYA.so」の構想が生まれました。



関屋リゾートの林社長との出会い


SEKIYA.soの外観。1階は利用者の交流スペースと温泉、キッチンなど。2階の広間はワークショップや作業部屋として。3〜5階が居住スペース


大分の将来と地域活性化を目指す人材の育成と人脈づくりを目的とした「OITAイノベーターズ・コレジオ」という勉強会があります。起業の構想を練っていたときに、この勉強会を知り、参加したことがきっかけで「関屋リゾート」の林社長と出会いました。


関屋リゾートは、別府市を拠点とした個性的な宿泊施設を展開している、約120年の歴史がある会社です。SEKIYA.soの拠点となっている“元旅館”のオーナーでもあります。


勉強会をきっかけに、林社長が寺本さんのビジネスに賛同。すでに閉業してしまっていた「関屋旅館」の建物を提供してくれたことで、2021年に起業家シェアハウスとして始動することになりました。



挑戦を当たり前にする


代表の寺本さんは、大学を休学して台湾留学やフィリピンIT企業での1年間のインターンシップを経験しました。何でも興味があることには挑戦するアグレッシブな寺本さん。起業以外にも、休学をして留学することもやりたいことの一つだったと語ります。


フィリピンIT企業でのインターンシップでは、企業で働くことの大変さを知ることができました。コロナ禍ということもあり、業務内容や生活面でイレギュラーな対応を迫られることもあったようです。


このような経験やITスキルがSEKIYA.soの経営に活かされており、立ち上げ期におけるホームページの作成やSNSを活用した情報発信がスムーズに進んだそうです。


また、IT企業でのプロジェクトリーダーの経験を活かし、チームでのイベントをする際やシェアハウス利用者へのマネジメントもしています。経営者でもありながら、シェアハウス内でのメンバーとは共同生活をする仲間であり、良き相談役でもあります。



セミナーやワークショップ開催で学生起業家を支援


2階の大広間でワークショップが行われる  


SEKIYA.soには、共同生活を送りながら同じ志しを持つ仲間と交流し、切磋琢磨できる環境が整っています。まだ具体的な事業計画が決まっていなくても、仲間と積極的に交流することで視野を広げられるだけでなく、経験豊富なメンターにも相談ができるため、じっくりと将来を見据えることができるのです。


また、起業家や投資家、法律専門家など多方面で活躍されているゲストを招き、月に1回イベントを開催。 具体的な事業計画の立て方や資金調達など、実践的なワークショップで起業スキルを学ぶことができます。


過去のワークショップの様子(写真提供:SEKIYA.so)


起業スキルを養えるだけではなく、ゲストや参加者とのつながりが広がるので、思ってもみなかったビジネスチャンスに巡り会えることも。起業実現への第一歩がみえてきますね。


過去のワークショップの様子(写真提供:SEKIYA.so)


さらにシェアハウスの利用者だけではなく、起業をしてみたい学生ならば気軽に参加や交流ができるセミナーやコミュニティ、カフェバーなどを企画・運営しています。


起業はハードルが高いイメージですが、興味の段階で気軽に参加できるイベントや場所があるのは嬉しいですね。


寺本さんが企画している中でも、最も大きな規模のイベントが大分市内で毎月開催している「Cafe&Bar LUIDA」です。Cafe&Bar LUIDAは40名規模のイベントで、学生は1回500円前後で参加できます。イベント内容は起業に関する勉強会と交流、イベント内で知り合った人とその場で事業マッチングまで行うというものです。


これまでの3回の開催を振り返ると、学生や起業家など年齢や立場が違う参加者同士のコミュニケーションの活性化に苦労したと語る寺本さん。


過去に開催された「Cafe&Bar LUIDA」の様子(写真提供:SEKIYA.so)


「参加者同士のコミュニケーションを活性化させ、実際にマッチングまでもっていくのは大変でした。いかにイベントの中で関係構築を築いていけるのか」


決まった時間内で関係を深めていき、具体的な商談にまで発展させるのは簡単なことではありません。参加者同士が相手に興味を持ち、会話が長続きしやすくなる雰囲気づくりが大切です。


「はじめにアイスブレイクを入れていますが、なかなか参加者同士で会話を始めづらいです。初めましての相手と会話を続けるハードルが高い。多くの参加者に事業マッチングまで進んでもらうのが今後の課題ですね」と語る寺本さん。参加者同士の紹介をして仲介役になってしまうことが多いそうです。


イベント開催を重ねていくと、課題がみえてきます。年齢や立場が異なる参加者に対応できそうな、コミュニケーションをしやすい雰囲気づくりやスムーズな事業マッチングの方法を少しずつ模索していきます。


「勉強会やイベントの参加者には、したいことや夢はあるけれどまだ行動に移していない人や、事業内容は決まっていないけれど起業に興味があって意欲的に学びたい意思がある潜在的起業家が多いです。そんな学生が積極的に学ぶ機会や場所、選択肢を作れている手応えがあります」


イベント回数を重ねたことにより、徐々にこのような手応えを感じているようです。


また、コミュニティに参加している人同士でつながりを広げていき、起業のきっかけになりそうな新しいことを起こすムーブメントが巻き起こっているそう。コミュニティの中から新しい発想や面白い取り組みが生まれています。それぞれの想いが形になるのが楽しみですね。



SEKIYA.so利用者の1期生から多くの起業家が生まれた


1階にある利用者の憩いのスペース


シェアハウス自体は半年ほどの利用が多く、ほとんどの利用者が大分県内の大学生です。別府市にはいくつか大学がありますが、立命館アジア太平洋大学(APU)の学生が多く利用しています。毎月50人ほどの人が入れ替わるそうです。頻繁に人が出入りするのはSEKIYA.soならではの特徴です。


「『ここに入ってから色々なつながりができた』『身近に話せる人が増えたり、仲間ができたりして住んでよかった』は1番聞きますね」と、利用者の反響について語る寺本さん。


SEKIYA.soは元旅館ということもあり、天然かけ流しの温泉に入れることが醍醐味です。ゆっくりと温泉に浸かると日々の疲れが回復できそうですね。


天然かけ流しの温泉


「元旅館の特性を活かした温泉がついてるんです。やっぱり温泉はいつでもリラックスやリフレッシュできるので、生活の一部になっています。それに仲間と温泉に入りながら語り合える。『シェアハウスを出ると温泉がなくなるから寂しい』みたいな声もありますね」


温泉に癒やされながら、活発な活動をしている利用者たち。現在は3期生にあたります。実は、SEKIYA.so利用者の1期生から多くの起業家が現在も生まれているそうです。中には法人化までした学生も。


「これから起業していこうと行動している利用者はすごくたくさんいますね。コミュニティ全体の1割ぐらいはそういう意欲的な人たちです」


夢に向かってまい進できるSEKIYA.soから、続々と起業家が生まれています。




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【後編】“地方だからできる”学生起業支援のロールモデルを大分から全国へ