前回の取材記事:新潟県南魚沼市でスッポン養殖を手掛ける井口陸弥さん 起業からの手応え、そして将来の夢とは!?
井口陸弥さんは現在29歳、新潟県南魚沼市在住です。2021年に「株式会社魚沼スッポン」を設立しました。
地元の高校卒業後、北海道の大学に進学。大学卒業後は都内企業での営業職に就いていましたが、2021年、南魚沼市へUターンし、養殖事業を手掛けることを決意。
大学時代にアワビ養殖に携わった経験もあり、井口さんの祖父が掘削したという南魚沼市の実家の敷地に湧出している温泉も活用できることから、スッポンの養殖に取り組むこととなりました。
池の完成後に本格的に養殖がスタート 忙しさは10倍に
大学で学んでいたアワビ養殖では、事業として製品化までこぎつけたものの、実際の市場では韓国など海外からの輸入物も多く、国内産よりも安価に販売されるため、井口さん曰く「勝負にならなかった」とのこと。
スッポンを選択した理由は、販売する上で海外産や他企業との競争が少なかったり、初期投資も低く抑えられたりすること、さらに水ではなく温泉の利用により通常よりも短い期間での成長・出荷が可能になったりすることだったそうです。
2021年秋の事業開始から1年半ほどは、飼育実験として敷地内にある建物内に設営された水槽で養殖が行われてきました。
2023年の5月、屋外に幅5メートル、長さ30メートル、高さ1.2メートルの大型水槽が完成。この「池」が出来たことで、本格的にスッポンの養殖がスタートすることとなりました。
今年5月に完成した養殖用の池
「池が出来てからは、それまでと比べて日々の忙しさは10倍になりました。それまでは事務仕事などパソコンと向かい合うことがほとんどだったのですが、6月からは現場での作業が始まりました」
池が完成して以降の、毎日の仕事量の変化について井口さんはそう語っています。
今年の6月20日、約1000匹のスッポンを池に放す「池入れ式」が行われ、販売に向けた養殖を開始。水泳のプールのような巨大な池で数多くのスッポンを扱うため、それまでの作業環境と大きく異なることは言うまでもありません。
この池入れ式には、南魚沼市長などの関係者や県内外のマスコミも招かれ、井口さんがこれまでの経緯などを説明する記者会見も行われました。
数多くの質問に答えながら「ようやくスタートラインに立てた」と意気込みも語っています。
他にも、スッポン養殖ビジネスの展望を力強く語るなど、経営者として、そして地域を盛り上げるという使命を担う若者として、堂々とした立ち居振る舞いをみせていました。
記者会見で事業の説明を行う井口さん
きちんと責任をもって育て切ることが僕の役割
飼育環境で温泉を活用する他に、魚沼スッポンの特色として挙げられるのが、「酒粕」です。
酒どころとしても有名な南魚沼市にある、酒造メーカーから購入した酒粕を日々スッポンに与える餌に混ぜることで、地域の資源を活かすことができ、さらにブランド価値を高めるという大きなメリットとなります。
もちろん、池の完成後は餌の準備も、これまで以上に時間を要する作業になっていると井口さんは話してくれました。
「餌は毎日、朝に練って作ります。1000匹分ですから、これまでとは比較にならない量です。池の掃除や設備の管理なんかも定期的に行なっており、同時に事務作業もこなします。事業所は自分も含めて3人従業員がいるのですが、池での作業のほとんどを自分が行っています」
池には、完成から間もなく、屋根も取り付けられることに。もちろん、ここでも井口さんは作業に加わっています。カラスやフクロウなどからスッポンを守るという、獣害対策としての目的や温泉の保温にも効果があるそうです。
「せっかくスッポンを池に入れても、放っておいて大きくなるわけではありません。毎日毎日、餌をあげて、温泉の温度なども細かく管理するなど、きちんと責任をもって育て切るというのが僕の役割であり、事業としての目的です。もちろん、それが一番難しいことなんですけど」
池に屋根が取り付けられた様子
また、飼育実験は1年を通して行っていましたが、池での養殖は春から秋までとなるそうです。通常、スッポンは冬の期間は冬眠に入り、一般的な養殖では出荷まで4~5年を要するところ、魚沼スッポンでは温泉で育てることでおよそ半年で成長させることができ、秋での出荷が可能となります。
それでも、事業としての養殖は本格的にスタートしたばかりであり、今年2023年の秋が井口さんにとっては初めての出荷。今後を見通しても、まだまだ不安も尽きないようです。
「当たり前ですけど、きちんと育てて売り切る、秋・冬に資金を回収するというのは大切なプロセスです。きちんと育てるということは本当に難しいところであり、病気や獣害対策にも常に気を配る必要があります」
目指すは2万匹の養殖
「高級食材として知られるスッポンを多くの人々に味わってもらいたい、日々の食卓に届けたい」、そんな想いを抱きながら、スッポン養殖に取り組む井口さん。
商品として料理店などへの出荷の他、一般の消費者向けには、家庭でも簡単に鍋物として食べることができるように、カット済みの形で販売されるとのこと。
さらに、酒粕を混ぜた餌で育ったスッポンは商品のネーミングも特徴的。身の綺麗さ、成長速度などにより「よっぱらいスッポン」「吟醸スッポン」、最上級の「大吟醸スッポン」と、3つのグレードに分けて出荷されます。
規格外品は缶詰としての販売される計画もあり、まさに誰でもスッポンが手軽に味わえる、身近なものになることは間違いありません。
もちろん、池の完成、事業開始は井口さんが語るように、あくまでもスタート地点。出荷・販売の他にも、大きな目標があると井口さんは語っています。
「養殖環境の規模拡大を目指しています。現在は1000匹程度を養殖していますが、 これを1万匹、2万匹まで増やしたいと考えているんです。敷地いっぱいに池を作れば、2万匹は可能だと思ってます」
まさにケタ違いの、壮大な目標を抱いているように見えますが、すでに具体的なイメージを描いているようです。
「今回完成した池のサイズでは、現在養殖している1000匹が限度なんです。来年は現在の池の3倍の大きさのものを作って4000匹くらいまでを育てたい。そして、4、5年くらいで1万匹を養殖できるようにしたいですね」
池入れ式ではマスコミや地元の人など、参加者の手によってスッポンが池に放されました
忙しい日々ではさまざまな方法でリフレッシュも
魚沼スッポンは2021年の事業開始時より県内外の各種メディアで紹介され、池の完成についてもさまざまな媒体で伝えられました。
井口さんは若き経営者として、破竹の勢いで事業を推し進めていて、養殖にまつわる作業の他、現在はPR活動などにも汗を流す日々を送ります。
それでも井口さんは、自分の時間も大切にしていると言います。今回の取材では井口さんの日常についても伺いました。
「僕は多趣味で、サウナに行くことや、お酒も飲みに行くことが好きで、夏は海に行くこともあります。最近は休みが少なくて大変ですけど、それなりに時間を見つけてはサウナにも行っています。会社を立ち上げてからは忙しいですけど、大学時代の友達もよく遊びに来てくれますね」
注目と期待を集め、多忙な日常を送る中でも決して仕事ばかりの生活ではないことが伝わります。
他にも、経営者ならではのコミュニティが支えとなり、メンタル面でリフレッシュできると教えてくれました。
「同じ新潟県内で活動する異業種の起業家、経営者との繋がりも大切にしています。業種は違えども、お金の話題や人を雇うことなどは、同じ感覚で話し合うことができます。今まで多くの経営者の方と知り合えているので、そういった皆さんと交流することも楽しみの一つですね」
バイタリティに溢れ、大きな夢も描く井口さん。SNSでも井口さん個人や会社の活動の様子が発信されています。
また、今年11月には、スッポンの本格的な販売、出荷が予定されており、注文は公式サイトを通じても可能だそうです。
家庭の食卓で、みんながスッポンを手軽に味わえる。そんな日常を世の中に広めるため、井口さんの努力、奮闘はこれからも続きます。
■ 株式会社魚沼スッポン
公式HP
本社住所
〒949-6765
新潟県南魚沼市岩崎558−1
電話番号
070-3268-6455(代表番号)
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