印刷と紙パッケージの製造を行う株式会社ケイパック(大阪市生野区)は、印刷物の需要が減り続ける中、生き残りをかけて猫用遊具「neuneko BOX(ねうねこボックス)」を開発。


四辺の凹凸をはめ込んで組み立てられる正立方体は連結したり積み重ねたりして、猫が中に入って遊べるようになっています。再生紙を利用し、印刷技術とパッケージ製造で培ったノウハウが活かされているといいます。


「猫と飼い主の両方が喜んでくれる商品をつくりたい」と語る喜多雅敏社長から「neuneko BOX」への想いと、開発に至った印刷業界の背景について伺いました。



WEBの時代になって印刷物の需要が減り続ける中でも「職人たちの可能性を広げたい」

大阪市生野区にある中堅の印刷会社・株式会社ケイパックが、2022年から一風変わった猫グッズを開発・販売して話題になっています。


外観は正立方体の紙箱で、中央部にギザギザのついた穴があいています。しかも、この箱は四辺の凹凸をはめ込んで組み合わせただけのシンプルな構造。専用のジョイントで、連結したり積み重ねたりすることもできます。しかし、シンプルであるが故に、商品化するまでの道のりは遠く、猫カフェに持ち込んで猫に遊んでもらい、反応を見ながら10回以上の試作を繰り返した末に出来上がったそうです。


印刷会社が猫グッズの開発を手掛けた背景には、廃業と倒産が相次ぐ印刷業界の深刻な事情があったとのこと。 社長の喜多雅敏さんに伺いました。


「印刷業界が斜陽化している理由のひとつに、情報化がどんどん進んでいることが挙げられます。印刷物と聞いて一般の人がイメージしやすいのはチラシとか広告などの一般印刷だと思いますが、需要がどんどん少なくなっています。たとえば家電製品の取扱説明書は、従来は冊子でした。それが今ではQRコードでWEBにアクセスして閲覧したりダウンロードしたりするようになっていて、紙媒体が激減しています」


家電製品の取扱説明書もWEBへ移行しつつある


一般印刷の需要が落ち込んでいるせいで、同業者どうしで仕事の取り合いになっています。そうなると個人経営や家族経営の規模では、どうしても弱いといいます。印刷業界がそのような厳しい状況にある中、ケイパックが生き残っているのは、他社にはない強みがあるはず。


「印刷の他に、パッケージの製造をしています。パッケージとは、商品の外箱です。これの需要は落ちていません。それと、大阪は昔から、ひとつの工程だけを請け負う業者さんが多いです。印刷だけ、型抜きだけというように、いくつもの会社に分かれて、分業体制になっているのが特徴でした」


しかし、特定の工程だけの請負だと、関連する業者のひとつが倒れると連鎖的に倒れてしまうリスクがあります。


「当社では早い時期から設備を揃えて、初めから最後まで全ての工程を自社で行える態勢をとったので、比較的安定した経営ができていました」


しかし、パッケージは「商品ありき」で成立するもので、開封した後は捨てられてしまいます。「職人たちの可能性を、もっと広げられないか」と考えた喜多さんは、「オリジナルの商品を開発するしかない」という結論に至りました。


そして、猫用遊具メーカー「neuneko(ねうねこ)」を設立し、猫グッズの開発に乗り出したのです。


neunekoのロゴマーク


喜多さんの祖父が1950年に創業した当時は、家族の他に職人が1~2人いるだけの町工場だったそうです。創業以来70年余が過ぎ、今では工場を含めて3棟の社屋が並ぶ規模にまで成長した会社を、3代目の自分が潰すわけにはいかない責任と意地も喜多さんにはあったといいます。


「昔から、よくいわれませんか? 会社は3代目で潰れるって(笑)」


創業初期の頃(画像提供:ケイパック)



ペット用品は犬用が多かった

「正直に申し上げると、私が猫好きで、どうしても猫に関わることをやりたいと思って始めたわけではないのです。本業のパッケージ製造技術や生産設備を活用して、これまでとは違う事業をやりたいと、いろいろ探索していました。そんなとき、ペット関連に強い方と出会って話す中で、ペット用品をやろうと決めました」


喜多さんがペット用品の開発を模索し始めた頃は、世の中はすでに猫ブームといわれていました。


連結して使うことができる(画像提供:ケイパック)


「ペット用のおもちゃや用品類は、まだ犬用が多かったのです。新規参入するなら、競争相手が少ないところで始めようと考えたことと、いろいろなものに手を広げるより、初めから猫用に特化しようというコンセプトで始めました」


猫用品の開発を決めたら、次はどんな商品をつくるかが課題になります。新しい技術を導入するより、今もっている技術と設備を活用することが大前提でした。


「考えているうちに、四角い箱型で、しかも複数を組み合わせて使えるようなものが面白いのではないかということで、今ある商品の原形ができました」


形が決まると、次の問題は、猫が乗ったり動いたりしても耐える強度と、お客さんにとっての扱いやすさをどうするか。クリアすべき課題は尽きませんでした。


「できるだけ簡単な仕組みにしたいことと、実際に猫が入ったときに耐える強度をもつという、相反する要素を両立させるため、試行錯誤しながら検証しました。10回以上は試作を繰り返しましたね」


基本的な形を正立方体から変えることはありませんでしたが、細部の調整に時間がかかったといいます。


「商品の組み方とか、穴の大きさを変えながら試しました」


はじめに検討した組み方は、折り曲げ式でした。しかし折り曲げ式だと、正立方体の形はできますが、紙を厚くしづらいため強度が出ないそうです。


「ならば、それぞれの面ごとセパレートにして、それを組み合わせるようにしたら厚みも出せる。井桁式のように組んだら重量が分散されるし、説明書を付けなくても見ただけで組み方が分かるだろうということで、こういう組み方になりました」


6面すべて同じ形で、四辺の凹凸をはめ込むだけ。しかも強度があるといいます。厚さは2mmですが、厚紙1枚ではなく、3枚の紙を重ねて貼り合わせてあるそうです。さらに、表面にはフィルムを貼って防水加工を施してあるので、猫が粗相をしても中まで染み込みにくいとか。


「濡れたまま放置したらダメですけど、すぐ拭き取れば問題ない程度の防水になっています」


この形になるまで2年を要した(画像提供:ケイパック)


箱型ということは、猫が中に入ることを想定しています。出入りするための穴も、ただ開けてあるだけではないそうです。


「穴の内側にギザギザがあるのも、獣医師のアドバイスを受けたからです」


猫がよくやる行動のひとつに「マーキング」があります。物や人に体をこすり付ける、いわゆるスリスリする行動です。ギザギザをつけることで、ほどよいマッサージ効果を期待したといいます。また穴の大きさにも、試行錯誤がありました。


「はじめはΦ120(直径120mm)だったんです。猫は頭が入りさえすれば体も入れますから、Φ120で入れるはずなんですよ。ところが、入ろうとしない猫が多かった。そこでΦ150(直径150mm)に広げてみたら、Φ120で入ろうとしなかった猫も入ってくれました。何が違うのか、よく分かりません。猫に聞くわけにいかないし(笑)」


このような試行錯誤を繰り返しながら2年をかけて完成した商品は「neuneko BOX」とネーミングされ、2022年の夏にようやく発売に漕ぎつけました。


穴の大きさにも猫の好みがあるらしい(画像提供:ケイパック)



SDGsという言葉が出る前からエコロジーに配慮していたパッケージ業界

商品化された「neuneko BOX」は、原材料に再生紙が利用されています。


「バージンパルプを使用していない再生紙です。せっかく紙で新商品を開発するのですから、エコロジーにもこだわりたいと考えました」


じつはパッケージに関しては、SDGsという言葉が出る前から、業界全般で環境への配慮がされてきたといいます。


「この業界では、エコロジー的なことに興味をもっておられる会社が多かったので、必然的に意識するようにはしていましたね」


耐用年数は、猫がどんな使い方をするかで期間は前後しますが、1年を目安としているとのこと。


このギザギザが心地よい?(画像提供:ケイパック)


「中でじっと瞑想する子もいれば、飛んだり跳ねたりして遊ぶ子もいるでしょう。モニターさんの中には、1年を超えている例もあります」


紙製品だから、耐荷重も気になります。


「想定している体重は6kgまで。おとなしく乗っているだけなら、10kg前後は大丈夫ですよ」


じっとしていれば体重10kgくらいまでは乗れる(画像提供:ケイパック)


今年(2023年)「neuneko BOX」の発売から1年が経って、バージョンアップ版を考えているという喜多さん。具体的にどんなものになるかは、まだ明らかにできないといいます。 会社の今後について尋ねてみました。


「4代目になる予定の息子が、来年あたりに入ってくれるかなという段階です。従業員も27人おりますが、いわゆる職人的な人は、もう出てこないでしょう。業務的にも技術的にも、職人的な要素をなくしていこうとしています」


高度な技(わざ)をもつ職人は、たしかに大きな戦力になります。反面、その人が休んだら、たちまち仕事が回らなくなる事態に陥りがちです。喜多さんは「そういうことが、どうしても嫌だ」といいます。


「工場にある機械を、できるだけ誰もが扱えるようにしていきたい。誰もが同じレベルで扱うのは実際には難しいですが、なるべく1人があれもこれも扱えるようになることを目指して、教育している途上にあります」


現在の印刷工場



現代を生きる若い世代へのメッセージ

「我々がやってきた時代に比べると、いろいろな意味で意欲の薄い人が増えたのでは?」という喜多さん。


「欲が少ないのかもしれません。僕は欲が夢に繋がっていると思っています。そういう意味では、欲が少ないと夢にも繋がりにくいし、もっと貪欲に生きてほしい」


これはケイパックに入社してくる若い人に対してだけでなく、今の世の中全般を見渡して喜多さんが常日頃感じていることだとか。


株式会社ケイパック外観


喜多さんも会社を守るため、そして職人さんたちの可能性を広げるために「neuneko BOX」を開発しました。今後は、さらにバージョンアップを構想しています。


「neuneko BOX」のブランドコンセプト「猫とのくらしを一番に考える」の言葉通り、お客様から「本当に猫と飼い主のことを一番に考えているね」と認められるまでチャレンジを続けたいと、夢をもち続けています。




■ neuneko BOX


ブランド公式サイト

https://neuneko.com


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