全国的に空き家の数はこの30年間で約2倍以上に増加し、大きな問題となっています。滋賀県長浜市でも約2,000から3,000軒の空き家があり、今も増え続けている状況です。
長浜市では空き家問題への対策として、危険な空き家の解消や空き家の利活用・流通の促進に向けたさまざまな対策を実施しています。
「いざない湖北(正式名称「長浜市移住定住促進協議会」)」は、空き家を活用した移住定住促進や空き家バンクの運営を受託する団体です。
空き家バンクは、不動産業のように家の売買を行なう業者ではありません。移住希望者 をはじめ空き家を活用したい人と、空き家所有者をつなぐ架け橋としての役割を担って います。
今回は、いざない湖北で移住コンシェルジュとして活動する矢島絢子さんに、長浜市の空き家問題や移住の受け入れ状況などについて詳しく伺いました。
長浜市移住定住促進協議会「いざない湖北」とは
矢島さんもライターとしてかかわった「移住の手引き」
取材に伺った先は長浜市役所の「未来こども若者局」。以前の名称は「ふるさと移住推進室」でしたが、今年度から部署名が変更になったとのこと。
こちらの部署は、移住・定住関係を促進し、高校生・大学生などの若者世代を応援する部署です。進学や就職で地元を離れて活動する人たちにも、長浜市に誇りを持ち関わり続けてもらえるように取り組んでいます。
矢島さんが所属する「長浜市移住定住促進協議会」、愛称・通称「いざない湖北」は未来こども若者局に事務局を置く団体です。
矢島さんは2021年の協議会設立の際に長浜市から委託を受け、現在はライターの活動をしながら、移住コンシェルジュとして相談活動をしているとのこと。
滋賀県の中でも湖北地域(彦根市・米原市・長浜市)に特化したローカルライターとして、地域の情報を発信している矢島さん。湖北地域の歴史・文化・地理については知見があり、長浜市とも長い付き合いがあったことで、白羽の矢が立ちました。
移住コンシェルジュは「お見合いおばさん」
「お見合いおばさん」とたとえて説明をする矢島さん
移住コンシェルジュは、移住希望者や空き家利用希望者からの相談をはじめ、空き家バンクの物件紹介、希望者と空き家の所有者とをつなぐなどの役割を担っています。
「すごく極端に言うと『お見合いおばさん』のような存在だと思っています。移住希望者や古民家に住みたいという人と、空き家の持ち主さんを引き合わせ、お互いの条件が合うようにマッチングする役割のようなものです」
移住はお金の問題だけでなく、長期的に人や地域との付き合いが必要です。お見合いおばさんとしてはお互いの立場に立って考え、うまくマッチングできるように細心の注意を払わなければなりません。
いざない湖北では移住定住支援ポータルサイト「ナガハマキャピタル」を運営。空き家バンクに登録されたすべての物件情報を掲載し、移住のための各種情報も紹介しています。
長浜市空き家バンクに登録されている約100件は氷山の一角
見学会で築50年の空き家の説明を受けている様子
長浜市内の空き家の所有者にとっては、住む人がおらず放置しつつある家屋の活用をめざす形につながります。 現在、同市の空き家バンクには100件程度の登録があります。ただし、空き家であればどのような物件でも登録ができるわけではありません。
「今にも倒壊しそうな家を空き家バンクに登録するわけにはいかないので、市から委託を受けた空き家アドバイザーが調査を行なったうえで、活用可能な物件をバンクに登録しています」
1年間におおむね20軒程度が空き家バンクを通じて売買されているとのこと。いざない湖北の取り組みが空き家の流通を促し、移住者の増加にもつながっていることは確かでしょう。
「ただ、長浜市には空き家が2,000軒から3,000軒あると言われてまして、その中の100軒が登録され、年間20軒程度が売れたところで、氷山の一角に過ぎません」
矢島さんは渋い顔を見せます。
不動産屋と大きく異なる点は、長浜市という地域を気に入り、その地域で楽しく暮らし続ける購入者を対象としているところ。そのため、サイト上には販売価格や住所などの具体的な情報は記載せず、移住希望者の事情や希望内容を聞いたうえで情報を提供するシステムとなっています。自治会への加入も条件です。
移住コンシェルジュは自治会と移住希望者のパイプ役
長浜市に移住をした人々からは、トラブルを聞くことはほとんどないのだそう。
「みなさんうまく地域とお付き合いいただいているものと考えています」
空き家バンクの物件を購入するにあたっては、いざない湖北の立ち会いのもと、必ず当該自治会から会の活動について説明を受けてもらう場を設けています。自治会への加入に際し、地域の事情や多くのルールをあらかじめ理解しなければなりません。説明を受ける事でお互いに納得でき、移住後の良好な田舎暮らしにつながります。
しかし、相談にくる人の事情はさまざまなため、売買直前まで話が進んでも御破算になることもまれにあるといいます。
同じ長浜市内でも地域によってルールが異なる
見学会では地域住民から声をかけられることも
「地方に移住することは、物を買うというだけではありません。我々がそこの緩衝材となって、自治会がうまく移住者を受け入れられるような体制を作ったり、移住する人もうまく地域に解けこめたりするようにお手伝いをさせてもらっています」
長浜市の面積は広く、自治会も多いため、地域によってルールも大きく異なります。移住者の受け入れも自治会によってさまざまです。移住者に長浜のことをよく知ってもらうと同時に、地元地域側にも移住者を快く受け入れていただけるようにとの思いで、日々地道に活動しています。
古民家の購入には修繕費も必要
空き家に置かれたままの近江箪笥
空き家バンクの物件価格は、100万円台から1,000万円台までさまざまです。物件によっては、現状のままでは住めない、快適さに欠けるといったケースも有り、購入後に修繕費用や部分的な解体費用などがかかります。
しかし、空き家バンクでの売買ではローンでの契約ができません。したがって、購入の場合には、修繕費を含めた費用を予算として用意しておく必要があります。
「よくあるパターンでは、『予算は200万円しかありません』という方が200万円の物件の購入を検討されます。実際に住もうと思うと、不便に感じる部分や傷んでいるところも多い状態です。しかし、200万円の予算では修繕費を含めた費用を出せず、移住を断念するケースがあります」
実際、低い予算で問い合わせる人も多いといいます。ただし、修繕の必要性については、利用する人の価値観によるため一概にはいえません。
「たとえば水回りの快適さを求める人の場合、台所や浴室、トイレが使いづらいと感じれば修繕が必要でしょう。一方、そのままでも住めるという方もいらっしゃいます。極端な例では、汲み取り式トイレの物件でも良いという方もいらっしゃるくらいです」
予算や費用も含め、移住希望者と物件のマッチングを支援することも、移住コンシェルジュの大切な仕事です。
長浜市が移住先として人気がある理由
古民家をリノベーションした店舗
前述のように、いざない湖北では年間約20軒の物件売買がありますが、全国的に地方移住の関心は高まっています。
「移住したいとおっしゃる方は、三重県、京都府北部、滋賀県と県をまたいで探されるケースもあり、そうしたなかで長浜で良い物件のご縁があったからと移住を決められる方もいらっしゃいます」と矢島さん。 しかし、詳しく話を聞いてみると、長浜市の物件が選ばれている理由がわかります。
長浜市では程よい田舎暮らしができる
土地が広く蔵や家庭菜園ができる畑もある古民家の見学
長浜市は山間地、農村地、平野部、琵琶湖岸部と、広域ならではの多様な地域の個性がある一方で、どの地域からでも国道に出やすく、郊外型の大型スーパーや病院へのアクセスが容易となります。
長浜市の物件は田舎暮らしをしつつ、ある程度は快適な生活ができるという点で喜ばれているようです。田舎暮らしの移住先候補としては住みやすい地域といえます。
また、山や琵琶湖、日本海へのアクセスも近く、アウトドアやウインタースポーツ、サマースポーツも楽しめることも人気の理由です。
「琵琶湖のそば、余呉湖のそばに住みたいという方は多いです」と矢島さんは話します。
移住者はセカンドライフと子育て世代に分かれる
古民家をリノベーションした経験者に話を聞く様子(見学会にて)
移住相談を受ける世代層は、セカンドライフを楽しみたい60歳以上の人たちと、40代前後の人たちに二分するとのこと。
サラリーマンを引退し、セカンドライフとして好きなことをして暮らしたい、好きなところに住んでみたいという人が多いそうです。一方、40代前後の人には、子育て世代や田舎暮らしをしながらカフェやゲストハウスを開業したいという人に分かれるとのこと。長浜市では自然と触れ合いながらの子育てにも最適です。
「中には、雪が降るところで暮らしたいという方もいらっしゃいます。そういう方には、『まずは積雪のあるときに物件をご見学されてはどうですか?』と勧めます」
移住元として多い地域は中京圏や関西圏ですが、海外から移住する人も多いといいます。欧米系の人には日本の古民家が人気とのこと。海外から移住を検討している人には投資家や資産家が多いそうで、今後はさらに、さまざまな地域からの移住者が増えるかもしれません。
移住者を受け入れない選択肢は無い
長浜市の現状について語る矢島さん
長浜市は都市部以上に人口・子どもの減少が激しく、すでに高齢者ばかりになってきています。国勢調査によると、長浜市の人口は2005年の約125,000人をピークに減少し続け、2025年には110,000人にまで減少する見込みです。
もはや「移住者はイヤです」「他所の人を受け入れられません」などと言ってる場合ではないと矢島さんはいいます。
「『地域に馴染もう』『この地域にとどまりたい』と前向きな思いで来られてる方がいらっしゃるのなら、『歓迎して受け入れましょう』と促すのも我々の仕事です」
長浜市の施策や移住コンシェルジュの働きかけが功を奏し、少しずつ移住者を受け入れやすい雰囲気になってきています。実際、今までは移住者に否定的だった地域でも、受け入れる方向に進んでいるとのこと。
人口減少社会となった現代は、多くの課題と向き合わなければならない転換点にあるといえます。持続可能な社会を実現するには、一人ひとりの協力がなくては成り立ちません。今こそ、地域住民と移住者が互いに手を取り合い、地域の文化や歴史を守っていくときではないでしょうか。
■ いざない湖北
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住所
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滋賀県長浜市八幡東町632 長浜市役所4階 未来こども若者局