福島駅から歩いて10分。県庁通りで一際目を引く外観の建物1階に、眼鏡屋「OPTICAL YABUUCHI(以下オプティカルヤブウチ)」があります。


オーナーの薮内義久さんはお店が入っている「ニューヤブウチビル」のテナントオーナーも務めています。ビルに入っているレコード店やフラワーショップ、食堂、ギャラリーはどれも一味違った体験ができる魅力的なお店ばかり。話題にあがることも多く、地元では知らない人はいない一角です。




作り手の思いがみえるプロダクト

オプティカルヤブウチは元々時計専門店であり、眼鏡屋に業態を変えながら146年受け継がれ、現在オーナーの薮内さんで5代目になります。


オプティカルヤブウチでは主に国内のメーカーやアーティストの眼鏡を取り扱っており、薮内さん自ら会いに行き仕入れる場合もあれば、作り手の方から声がかかりご縁につながる場合もあるそうです。


「『作り手の思いがみえるプロダクト』を仕入れています。思いがみえてるメーカーさんや作り手さんは光って見えるんです。もちろん思いだけでなく、ものづくりと一体になっているもの。面白い眼鏡がたくさんありますよ」


「面白い眼鏡屋さんも作り手さんも徐々に増えているので、 眼鏡の文化がまたさらに楽しいものになってきています。そういった人のプロダクトをどんどん扱って、色々な人に知ってもらって、その人たちがちゃんと日の目を見るようにしたいです」



薮内さんが手がけるオリジナルブランド「coya」

オプティカルヤブウチの特徴の一つに、薮内さん自身も眼鏡をデザイン、制作、販売している点があります。 ブランド名は「coya(コウヤ=荒野)」。接着剤や金属を使わず、テンプルやネジも全て木製にこだわった、世界に一本しかないハンドメイドの眼鏡です。


「いつも思ってるのは、作ってる時に『渡したくないな』と思うとこまで作り込むこと。お客さんが喜んでくれる姿をみると、よかったって思うんですけど、本当は手元に置いておきたいって思ってます」


同じ種類の木でも場所や木目によって硬さ、感燥具合、個体差など木の特性で作業内容が変わるため、薮内さんは常に木と対話をするように一つ一つ作り進めています。機械にはできないその過程に面白さを感じているそうです。


「曲木に向いてるところもあれば、向いてないところもある。色が変わってくるのもあれば、薄くなるのもあります。こういうのを作ってるとやっぱり面白いなと思いますね。本当最高です」


先日失敗したという一本ですが「逆に手元にあるのが嬉しい」と薮内さん



寄り添いながら、正直に伝える

「うちの企業理念の一つでもあるんですが、接客では『寄り添い』をしたいなと考えています。お客さんにはそれぞれ悩みがあるので、そこにどう寄り添っていくかだと思うんです」


最新の検査機器を使った度数検査や、眼の状態を把握するためのカウンセリング、購入後も丁寧なアフターサービスを行っています。環境を整え、必要な情報を伝えた上で寄り添いながら、いい眼鏡を長く使ってもらうための努力をしていきたいと薮内さんは話します。 


また眼鏡を通して新しい自分を発見してもらいたいという思いから、さまざまな種類の眼鏡を実際にかけてもらい、似合うかどうかをはっきり伝えることを常に心がけているそうです。


「かけたときのバランスの良さや悪さ、似合っているか似合っていないかについて、理由も併せて正直に伝えています。たくさんある中から選ぶのは結構難しいので、似合うものを全て並べて僕が感じたことを真正面で伝え、最後はお客さんに選んでもらいます」


似合っていないと伝えることに対して迷いはないのかとお聞きしたところ、力強い言葉が返ってきました。


「嘘ついてるよりいいですよね。 だって、なんでも似合ってるって嘘じゃないですか。それって信用にならない。お客さんと意見の相違があっても、似合っているか似合っていないか、なぜ似合うと思うのかをしっかり説明します。そこはプロなので」


また、従業員の方には押し売りは絶対にないようにと伝えているそうで、最後は楽しんでもらって帰ってもらえばそれでいいんです、と薮内さんは笑顔で語ります。


丁寧な検査やフィッティングだけでなく、寄り添う姿勢が伝わってくることや、嘘がない率直で客観的な意見を聞けることも、ここで購入したくなる魅力の一つなのではないかと感じました。



本当は眼鏡屋になりたくないと思っていた

「元々家が眼鏡屋さんだけど、いわゆる眼鏡屋さんになりたくなくて。何だったらイギリスから帰って来たくないと思っていたんです」


薮内さんは高校を卒業してから眼鏡の専門学校に通いましたが、以前からプロダクトデザインに興味があり、デザインについて深く学びたいという思いがありました。


残念ながら4代目である父・一弘さんの共感を得られずデザインの学校に通うことは叶いませんでしたが、代わりに1年間海外に行きたいと、薮内さん自ら貯めた資金で留学のためイギリスへ向かいました。


留学時代の一枚

今度は次第にここイギリスでデザインを学びたいと考えるようになりショートスクールにも通い始めましたが、父・一弘さんから「帰って来ないつもりなら店を閉める」と決断を迫られ、帰国を決意します。


「どうしようかなとは思ったんですが、自分の代で無くなってしまうのかと考えると、心苦しくて。それで帰ってくることに決めました」



ここで小さな街を作りたい 

当時ニューヤブウチビルのテナントが全て空いていたことから、帰国後はビルの店舗改装に携わることになりました。DIYに挑戦し、内装を自らの手で作り上げていく決心をした薮内さんは、ある可能性を抱いていました。


「このビルのテナントが全部空いてるなら、一個一個改装していって、時間をかけてもいいから小さな街を作りたいと思って。そこから発信ができれば、もしかしたらこの地域が変わっていくんじゃないかなと」


ハンマーを持って壁を壊す瞬間、壊したら後戻りできないという思いから少し躊躇したそうですが「とりあえずやってみて、諦めなければなんとかなるだろう」と決意が固まり、2階の壁を壊して最初のDIYを始めました。ここから4ヶ月もの間改装を続けたそうです。


改装前(左)と改装後(右)

「絶対にこの空間をかっこいいものにできる、というイメージがあったから、やった方がいいなと思えた。目標ができたらまず『イメージをすること』が大事。もし想像できなくても、それについて考え続けていると答えが見つかってくる」


たとえば店を日本一にしたいという目標があれば、何を基準に日本一とするのかを考え続け、現状とイメージを擦り合わせ、そこから進め方を考えることが「イメージが見えてくる」ことだと薮内さんは話します。


「組織を作るとか、日本一になりたいとか、壮大な目標っていうのはそういう細かいことを決めていかないと達成できないなと最近考えています。この方法が当たってるかもわからないけど、イメージし続けて、諦めないでやり続けます」



つながりたい人とつながるために

「本来であれば、ビルのテナント経営といったらどんな店でもいいから入ってもらいたいと思うもの。それをあえて我慢して空間を作り込んだ方が、ここに共感してもらえる人やここでやりたいと言ってくれる人とつながる、一番の近道だと思ったんです」


吉祥寺から移転オープンした「食堂ヒトト」

フロアを改装していく中で、ほとんどの店舗は声をかけてもらったことをきっかけに続々と店舗が埋まっていきました。ただ最後に残った5階のスペースについては、薮内さんの過去の経験を通してアートに関するフロアにしたいと考えていました。


「イギリスで感動したことの1つが、アートの身近さでした。ギャラリーがあちこちにあって、おばあちゃんが買い物袋を持ちながら、花を買うように絵を買っていく。それが若いアーティストたちの支援につながっているんです」


ギャラリースペース「オオマチギャラリー」

アートに対する文化の違いを知った薮内さんは「日本でもアートの身近さを肌で感じてもらいたい」という思いから、福島市を拠点に活動するアーティスト・金子潤さんと共同経営で「オオマチギャラリー」を作り、そして今のニューヤブウチビルを形にしました。


「これで全部完成はしたんだけども、本当はもっと改装とか色々なことをやりたいなと。ただ現時点ではメンテナンスと、もっとクオリティを上げていく方向で進めていきたいと思っています」


センスが光るフラワーショップ「Total plants bloom」



レコードコレクターが通う名店「LITTLE BIRD」



仕事は楽しく、遊びはしっかり

2階の立ち上げをして自分の店をスタートさせた薮内さんでしたが、実はそこでもまだ眼鏡への興味は湧かなかったそうです。 帰国後から気持ちが晴れないまま過ごしていましたが、知り合いの方からかけられたある一言により、転機を迎えます。


「知り合いから、『どうせ仕事はしっかり、遊びは楽しくって思ってるんでしょ』と言われて。当たり前じゃないですか、と返したら『それ逆だからね!仕事は楽しく、遊びはしっかりなんだぞ』と言われて。そんな風に考えたことはなかったので、ハッとしました」


「よく考えてみたら『自分の好きなことができなかったこと』に腐ってることに気付いて、それじゃプロダクトデザインで眼鏡を作ればいいと。普通に作るのも面白くないから、自分は木で作ってみたい。難しそうだけど楽しそうだなと思って、作り始めることにしました」 



ものづくりの楽しさに気付くまで

そこからものづくりをスタートさせ、プロトタイプをいくつも作りましたが、ある二つの出来事をきっかけに、改めて眼鏡づくりに向き合う機会が訪れます。


一つ目の出来事は、あるデザイナーとの出会いです。薮内さんが運営していた音楽イベント「FOR座REST」で出会った有名なデザイナーの方にプロトタイプを見てもらった際に、ストレートな厳しい意見をもらったそうです。


FOR座RESTでの一枚

二つ目の出来事は、同じ木の眼鏡を作るアーティストの作品を知ったことでした。ドイツのデザイナーで元家具職人であるアンドレアス・リヒトが手がける「ヘアリヒト」はフレームだけでなくネジやパーツが全て木で作られている眼鏡です。


ヘアリヒトの存在を知った当時、薮内さんが作る眼鏡は接合部、調節部分に金属を使っていたため、見た瞬間に衝撃を受け「あの人に勝てるわけがないから、作っても意味がない」と1年ほど眼鏡を作れなくなったそうです。


デザイナーの方に指摘された件もあったことから、目先にとらわれず根本的に眼鏡の作製について考える必要があると思い、薮内さんは自分の中の答えを探しました。


「考え続けていたら、あの人は部品を全て木で作っているけど、接着剤を使ってる。もし俺が接着剤を使わず作ったら、追いつけるかもって。面白そうだなと思うところから改良していき、今のプロダクトに近づいていきました。その辺りからまた眼鏡づくりって面白いなと」


実際に自らの手で眼鏡を作る中で、デザインの幅は自由なはずなのに薮内さん自ら型を決めてしまっていたこと、どのアーティストも苦労しながら作っていることなどさまざまな面が見えてきたことで、眼鏡作りの面白さや実際にやってみることの大切さを知ったそうです。


「うちの企業理念に『不屈』って入っていて。ちょっとダサいと思います。でも、途中でやめることが一番良くないなと。あまりにもやってできない時には途中で断念するのも必要かもしれませんが、諦めないでやっていけば、答えは見つかるなと思います」


オプティカルヤブウチの企業理念である「感謝、寄り添い、不屈」には洗練された店内の雰囲気とのギャップを感じましたが、これまでの薮内さんの経験や思いの根本となる大切なものなのだと感じました。



「楽しい気持ちで帰ってもらえたら大成功」

量販店と比べると高価な眼鏡が並んでいるオプティカルヤブウチですが、驚くことにお客さんの7割がリピーターです。ただお店の雰囲気に緊張するからか、お客さんからは「最初は入りづらかった」という意見もよく聞こえてくるそうです。それに対し、薮内さんはある思いを話してくれました。


「僕がいつも言ってるのは、買わなくていいから、楽しんでもらいたい。色々な思いがこもった眼鏡をかけて『こんな自分になれるんだ』と新しい発見につながる場所になればいいなと思ってるので、楽しい気持ちで帰ってもらえたら大成功だと思っています」


今回のインタビューを通して、ここに来るお客さんの多くは眼鏡自体に魅力を感じているのはもちろんですが、このお店が持つ温かい雰囲気と、寄り添ってもらえていると感じる会話があるからこそ、何度も足を運んでいるのではないかと感じました。


知らない自分に会いに、ぜひオプティカルヤブウチに足を運んではいかがでしょうか。



■ OPTICAL YABUUCHI


公式HP

eye-y.com


住所

〒960-8041

福島県福島市大町9-21


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