「ヨーロッパでは、ごみ拾いもレジャーとして認識されています。賛否両論ありますが、これからは日本国内でも、お金を支払って清掃活動に参加する『エコツーリズム』がひろまるでしょう」


そう語るのは、滋賀県彦根市在住で一般社団法人フードバンクながはま(以下、フードバンク)の代表理事兼、一般社団法人Moana(以下、Moana)の代表を務める前田智博さん。


Moanaの事業である「幸せのかけら拾い」で街なかや琵琶湖の清掃活動に取り組んでいます。


平日の昼間は会社員として一般企業に勤めている前田さんですが、気が付けば大きな団体を立ち上げるまでになっていました。


今まではボランティア活動を企画するようなタイプではない、一般的な20代後半の青年でしたが、あるきっかけによって止まっていた歯車が急に回り始めたようにボランティアや災害支援に勤しむようになります。


いったいどのようなきっかけでボランティアに携わり、Moanaを立ち上げるまでになったのでしょうか。フードバンクやMoanaの関係とともに詳しく伺いました。



「幸せのかけら拾い」を始めたきっかけ

「テレビを見ていたら、僕と同学年の人たちが東北に移り住んで震災ボランティアをしている映像が流れて、居ても立っても居られない想いが胸にこみ上げてきました。でも、何もできることが思い浮かばなかったので、犬の散歩のついでに近所のゴミ拾いを始めたのがきっかけです」


2020年、東日本大震災が発生してから10年が経とうとしていた頃のこと。前田氏が個人的に清掃活動をしている様子を「CLEAN作戦」と題してSNSに掲載したところ、友人から「一緒にやろう」と声を掛けられます。


2020年3月に友人と二人で行なった清掃活動にて(出典:Facebook)


その後、SNSを見た友人の輪はひろがり、少しずつ人数が増えていったとのこと。最初は月に1、2回の不定期の活動で、正式な組織ではなく名前もまだありませんでした。


いったいどのような経緯で「幸せのかけら拾い」としてひろがっていったのでしょうか。



ごみ拾いをポジティブなイメージにしたい


特大の幸せを拾ったと上機嫌な前田さん(出典:Facebook)


ごみ拾いには「汚い」「地味でつまらない」などのネガティブなイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。しかし、前田さんはかねてからごみ拾いに対するネガティブなイメージを払拭したいと考えていました。


「参加していたお子さんが『やったー!ハッピーやー!』と喜んでゴミ拾いをしていたんです。その言葉がヒントとなり、『幸せのかけら拾い』と呼ぶようになりました」


ごみを拾うことでその場所を利用する人が気持ちよく、幸せになります。さらに、ごみを拾った本人も清々しい気持ちになり、達成感も得られるでしょう。また、将来的なことも考えると、自分たちの地元を美しく保つことで、地元を離れた人たちがUターンするきっかけにつながるかもしれません。


現在、「幸せのかけら拾い」は商標登録として申請中とのこと。


「その一つひとつのかけらはごみではなく、拾うことで多くの人の幸せにつながります。そんな想いを込めた活動が『幸せのかけら拾い』です」と前田さんは続けます。


その後、「幸せのかけら拾い」は、定期的な活動へと変化していきました。



毎月1回の街なか清掃と3か月に1回の琵琶湖清掃活動へ


彦根市内での活動(出典:Facebook)


「幸せのかけら拾い」は月に1回の活動を続け、徐々に参加者も増えるようになってきました。清掃活動は、主に街なかや彦根城周辺など身近な場所で行なっていましたが、3か月ごとに琵琶湖清掃にも取り組むことになります。


月に1回の街なかでの清掃活動は毎回30人前後の参加者ですが、琵琶湖清掃を開催した際には100名近くが参加したこともありました。


また、日々の活動と同時に、彦根市社協地域づくりボランティアセンターの交流拠点「ボラカフェ」にて、オンラインのボランティア説明会に参加。活動内容の紹介や参加者募集などのPR活動を行ない、徐々に活動の幅をひろげました。


そんな中、前田さんは政府から新型コロナウィルス対策として支給された布マスクがほとんど使われていないことをニュースで知り、何かできることはないかと考えます。そこで思いついたアイデアが、未使用のマスクを回収して必要とする団体に寄付することでした。


「フードバンクながはま」のPR活動中の一コマ


そして、未使用のマスクを寄付する際に出会った団体が、フードバンクです。前田さんはマスクの寄付をきっかけに、フードバンクにも携わるようになります。


フードバンクは社協(社会福祉協議会)とも関係が深く、「社協」「フードバンク」「幸せのかけら拾い」が一つにつながり、活動の幅はさらにひろがりました。


さまざまなつながりと共にSNSを通じて仲間が増え始めた頃、彦根市社協のボランティア一覧に「幸せのかけら拾い」の名前も掲載され、新たな一歩を踏み出し始めます。



Moanaが考える新しい取り組み


琵琶湖清掃の様子(出典:Facebook)


前田さんは清掃活動を行なう際に後援という方法で、より大きな組織を巻き込もうと考えるようになります。


「『幸せのかけら拾い』は民間のボランティア団体なので、大きな組織は相手にしてくれないことがわかりました。そこで、ブランディング・プロモート業務を手掛ける株式会社Junod(ジュノー)からの提案を受け、一般社団法人として『Moana』の設立に至ります。先のことはまだわかりませんが、ゆくゆくは株式会社か合同会社にするつもりです」


最初はたった一人で始めたごみ拾いでしたが、現在は「環境省」と「滋賀県」から後援される事業になりました。Moanaの設立が決まった後に環境省副大臣、滋賀県の三日月知事との対談を行ない、後援が決定したといいます。


最終的には役員報酬が支払えるように資金繰りをしたいとの考えですが、現状では報酬が支払える状況ではありません。じつは、前田さんがMoanaを設立する本当の目的は、後援の獲得からつながる資金面への対応策でした。



企業のSDGsへの取り組みとして


琵琶湖清掃の説明をしている前田さん(出典:Facebook)


大きな組織からの後援は、さらなる事業展開に向けての足がかりに過ぎないといいます。


「企業からの協賛を得るためには信頼が必要です。そのために、環境省と滋賀県という大きな組織に後援依頼をしました」


前田さんの頭の中に描かれている未来は「エコツーリズム」の形態です。近年はSDGsへの企業の取り組みが問われるようになりました。観光業においても、SDGsの理念と併せて持続可能な観光が叫ばれるようになり、環境保全に取り組むことが求められています。


じつは、Moanaの活動では、一般企業とSGDsの橋渡しが可能です。


一般企業が環境保全の一環としてMoanaの事業に参画することは、企業にとってもメリットがあります。現在、数社の企業からスポンサー契約の話もあり、Moanaと各企業との間で協議中とのこと。


また、環境保全の流れは企業だけに止まらず、レジャーの考え方にも変化をもたらしました。



お金を払ってごみ拾いに参加


時には有志による炊き出しも開催される


「ヨーロッパでは、海の清掃活動をしながらホエールウォッチングをするツアーがあり、海外の旅行評価サイトでは5点満点中4ポイント以上を獲得しているほどの人気です。ごみ拾いだけではなく、レジャーと掛け合わせることで、新たな可能性がひろがると考えています」


ごみ拾いとレジャーを掛け合わせることでごみ拾いをレジャーの一貫として捉え、参加者は無理なく参加費を支払います。これは従来にはなかった発想です。ヨーロッパの「プラスチック・ホエール」と呼ばれるツアーの参加費用は25ユーロ(約4,000円)とのこと。


前田さんは、ボートに乗る際に乗車賃を支払ったり、テーマパークを利用する際に入場料を支払ったりするのと同じ感覚で、ごみ拾いにも参加してほしいといいます。


Moana設立のプレイベントとして2023年10月15日に開催した「幸せのかけら拾い」では、18歳以上の県外からの参加者には美化協賛金として1,000円を徴収したそうです。約30名の参加者の内、15名は県外からの参加でした。


ごみ拾いの後には有志による炊き出しが開催されることもあり、イベントの楽しみの一つとなっています。ただし、現在はまだレジャー要素は少ないため、今後はさまざまな挑戦をしていきたいとのこと。


「Moanaでは、琵琶湖でのSUP(サップ)体験やガイド付きの街歩きイベントなど、さまざまなレジャーと組み合わせることを検討中です。長浜、彦根辺りは歴史的にも興味深い地域ですし、近年は観光客も増えています。ごみを拾いながら街歩きをするのも楽しいと思いませんか?」


前田さんは楽しそうに語ってくれました。


笑顔でレジャーについて語る前田さん


アイデアはレジャーだけに留まりません。拾い集めたごみの処理について伺ったところ、思いがけない答えが返ってきました。


「ヨーロッパのプラスチック・ホエールでは、地元の家具会社と提携して参加者が拾ったプラスチックごみでオリジナルの家具を作る取り組みをしています。ですから、我々も集めたプラスチックごみを使って、服やアクセサリーなどのノベルティグッズを作って還元出来ないかと考え中です」


現在、地元企業に相談を投げかけて検討を重ねているとのこと。プラスチックごみを繊維にすることは技術的に可能ですが、ごみという性質上、単一の材質ではない点が難易度を増します。


簡単なことではないかもしれませんが、ごみを素材にして作られたものが記念品として手に入ることは、SDGsアクションであるリサイクルへの取り組みやイメージアップにもつながるでしょう。



「一緒にキレイに!一緒に幸せに!」が合言葉


守山市の第二なぎさ公園で開催されたMoanaのプレイベントにて(出典:Facebook)


前述のとおり、10月15日(日)にMoanaのプレイベントとして守山市の第二なぎさ公園において、「一緒にキレイに!一緒に幸せに!」を合言葉に「幸せのかけら拾い」を開催し、県内外から約30名の参加者がありました。


参加した人たちの声には、「1,000円だったら、払ってでも参加したいと思った」「思ってたよりたくさんゴミが落ちていてびっくりしました」「ゴミ拾いも、こうやってみんなで活動するのは楽しいです」などがあり、大好評に終わりました。


当日の様子はテレビやラジオ、地元の新聞などでも報じられ、さらに活動がひろがっていくことを予感させます。


「参加者の目標が100名でしたので、人数から見ればまだまだだと思います。しかし、『幸せのかけら拾い』が京阪神の方と一緒にできたのはとても意味があったと感じました。今後全国へ広めていくためのスタートラインに立てたという意味では、今回のイベントは大成功だったと思います」とのこと。


しかし、今回のイベントにはレジャー的な要素を取り入れられなかったことが残念だったといいます。今後は、プレイベントの反省を生かし、もう少しレジャー的な要素を取り入れながら楽しく取り組めるように工夫したいと、次回を見据えた話もしてくれました。


Moanaとして具体的な活動を開始するのは2024年を予定しているとのこと。まだアイデアも煮詰まっていない状態であり、今後どのように展開していくのかは未知数です。



今後は日本全国の水源に活動の場を拡大したい


琵琶湖をバックにMoanaの未来を語る前田さん


「Moanaはハワイ語で『大きな海』を表します。その言葉通り、『幸せのかけら拾い』の活動を大きな海、世界にもひろげていきたいと考えています」


大きな夢を語る前田さん。世界にひろげる前に、日本国内での事業展開が直近の大きな課題だといいます。


「今考えているのは、同じようなコンセプトを持って、北海道のサロマ湖や神奈川県の芦ノ湖など日本全国の水源に活動の場をひろげていきたいです。それから、大阪の道頓堀の清掃も楽しそうだと考えています」


世界各地で開催されている「サンタラン」は参加者がサンタクロースの格好をして走るチャリティーイベントですが、新たにMoana主催として同じように街なかをサンタの格好で清掃活動を行なうイベントも検討中とのこと。まずは大阪での開催を目指し、滋賀や京都にも展開していく考えです。


2025年には大阪・関西万博が開催されることもあり、Moana立ち上げ時には関西圏での取り組みに力を入れていきたいといいます。大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」であり、SDGsの達成に向けた取り組みが重要です。


Moanaのような地域活動の取り組みは、これからの社会に必要不可欠となるでしょう。今回の取材を通じて、水・心・体を綺麗にする必要性を再認識できました。




■ Moana


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