大阪府大阪市に住む会社員のチャッピーパパさんは、どこの保護団体にも属さず、多頭飼育崩壊や飼育放棄あるいは虐待に遭っている犬を救う活動を、個人で行っています。


「救う」とは、必ずしも保護を意味するわけではなく、飼い主が飼い方を改善することでも良いそうです。しかし、飼育状態が酷い場合には、その場で交渉して引き取ることもあるとか。



飼育を放棄されるのは8歳~10歳の老犬が多い

「顔出しはNGでお願いします」というチャッピーパパさん。特定の保護団体には属さず、個人で13年間にわたって活動を続けています。活動資金も、すべて自腹だとか。


そこまでできる情熱は、どこから湧いてくるのでしょうか。「飼い犬に対して愛情がないのになぜ飼っているのか、理解できない飼い主がたくさんいるんです」と、チャッピーパパさんは憤りを露にします。


劣悪な環境下で飼い殺しに遭っている犬を、これまで60頭近く救い出し、家族同様の愛情を注いでくれる里親さんへ譲渡してきたそうです。


チャッピーパパさんが目にしてきた中で最もひどかった例が、2年前に保護した14歳のラブラドールレトリーバーでした。


工場で飼育放棄同然だった14歳のラブラドールレトリーバー(画像提供:チャッピーパパさん)


「工場の外に犬小屋はありましたが、それが物置に使われていて、犬が中へ入れない状況でした。ペットフードや水を入れるボウルもあるのですが、屋外なので雨水が溜まって汚れていました。飼い主さんは『こいつは番犬だ』とおっしゃるんです。家族とはおっしゃらなかった。ラブラドールの純血種が番犬なんて、どう考えてもおかしいです。以前は家の中で飼われていたんじゃないかな」


チャッピーパパさんが訪ねたときは、餌として生米が地べたに置かれていたそうです。


「その地べたも、工場から出る油で汚れていました」


工場から保護されたあと里親さんに引き取られて穏やかに暮らしている(画像提供:チャッピーパパさん)


話し合った結果、飼い主は「やっぱり、うちではこれ以上飼えない」というので、チャッピーパパさんがいったん譲り受け、後日、里親さんに引き取ってもらったのだそうです。


「今16歳になっていますけど、家の中でのんびり幸せに暮らしています。里親さんから、しょっちゅう写真付きで知らせてくださいます」


里親さんからはこんな写真も送られてくる(画像提供:チャッピーパパさん)


ほかにも、2018年の台風の最中、犬小屋が壊れるほどの暴風雨にもかかわらず家の中へ入れてもらえず、地面に踏ん張って耐えていた8歳の柴犬がいたそうです。 


「知らせを聞いて、台風が去ってから飼い主さんを訪ねました。その子も結局、飼い主さんが飼育を放棄されていたので、引き取りました」


幸いすぐ里親さんが見つかり、穏やかな日々を約5年間過ごしていましたが、本稿の取材を終えた数日後に里親さん宅で天寿を全うしたとのことです。


台風の最中に足を踏ん張って耐えていた柴犬(保護前の姿/画像提供:チャッピーパパさん)


チャッピーパパさんが見てきた範囲では、飼育を放棄される犬のほとんどが老犬だそうです。


「5歳以下の子はほとんどいませんでした。8歳~10歳の子が多いです。そういう飼い主さんって、子犬のときから飼っています。小さいときは可愛いから家の中で一緒に生活しているんですが、歳をとってくると世話に手間がかかるようになってきます。粗相をすることもあるでしょう。家を荒らされたり汚されたりしたくないから、外へ出すわけです。外飼いがいけないというつもりはありません。犬の体をきれいに手入れしてあげて、犬小屋の中も外も清潔に保って環境を整えている飼い主さんも多いです。しかし飼育放棄は、見たら分かります」


台風を耐え抜いて保護された後の姿(画像提供:チャッピーパパさん)



ある保護犬との出会いが保護活動を始めるきっかけに

チャッピーパパさんが保護活動を行うエリアは、主に近畿二府四県。しかし、受けた相談の内容によって、東は岐阜県、西は広島県まで足を伸ばすこともあるとか。また、保護する対象は原則として犬ですが、事例は少ないながら猫を保護することもあります。


「たとえ夜中でも、相談を受けたら車で出かけて行きます」

ただし、決して無理はしないともいいます。活動費用は全て自腹で、しかも単独で行っている活動なので、手に負えないと思ったら地元の保護団体に連絡を取って、引き継いでもらうのだそうです。


そこまで強い「不幸な犬を助けたい」という気持ちは、どこから湧いてくるのでしょうか。

「里親として、最初に迎えた犬との出会いがきっかけですね」


それは13年前、チャッピーパパさんがペットの里親を募集するサイトを見ているときでした。

「そのときはペットを飼いたいという気持ちはなくて、里親サイトって何だろうという好奇心で見ていたんです」


見ていくうちに、ある違和感を覚えたといいます。

「里親を募集している人は、個人が多いんですよ。保護活動に携わっているわけでもない一般の人が、子犬をたくさん抱えて里親を募っている。これは、どういうことかなと。自分が里親になってみたら分かるかもしれないと思って、応募してみました」


飼い主から送られてきた親犬の写真を見たとき、違和感が疑惑に変わりました。 

「体毛の色が、この両親からこの子が生まれるわけがない。明らかに、おかしいわけです」


よく調べてみると、どうやら自宅でたくさんの犬を飼い、子犬を増やしては里親を募って謝礼金を稼いでいる人が少なくないことが分かったそうです。


野良猫は目つきが険しい(画像提供:チャッピーパパさん)


きっと他にもそんな飼い主が他にもいるかもしれないし、不適切な飼育環境で苦しんでいる犬がいるかもしれないと考えたチャッピーパパさん。


「自分が何らかの活動をして、不幸な境遇にいる犬を減らせるなら……という思いで始めたことです」


ちなみに、そのとき引き取った犬は、今もチャッピーパパさんのもとで幸せに暮らしているそうです。


保護活動を始めたチャッピーパパさんは、「一般社団法人 日本国際動物救命救急協会」が行うペットの救命救急法を受講。犬に対する心臓マッサージ、怪我や骨折をしたときの応急手当、災害時の対応などを学んで「ペットセーバー」という資格を取得しました。


「心臓マッサージのやり方ひとつとっても、大型犬と小型犬ではやり方が異なります。また、首輪やリードを着けていない犬に、ロープを使って応急のリードをつくる方法も学びました。民間資格ですが、正しい知識を知っていたら助けられる命が増えます」


家猫になった元野良猫は顔つきが穏やかになる(画像提供:チャッピーパパさん)



飼い方を間違えている飼い主を説得する横で涙を流す犬がいた

チャッピーパパさんの活動は、たいてい相談を受けることから始まります。


「酷い環境で飼われている犬がいてかわいそうだから、何とかしてあげられないか」


現場を見た人から直接、あるいはチャッピーパパさんの活動を知っている人が間に立って、このような連絡が入るそうです。連絡を受けたら、まずは現状確認のため、そのお宅を直接訪問します。


「こんな事例がありました。行ってみたら、餌や水を入れるボウルは地べたに直接置いてあるし、それを洗った形跡もなく汚れたまま。首輪もリードもつけっぱなし。首輪には、狂犬病ワクチンを打ったことを示す注射済票もついていませんでした」


狂犬病ワクチンは法律で接種が義務付けられていて、首輪に注射済票を装着することになっています。


そんな飼い主さんに対して、チャッピーパパさんは飼い方の改善を求めます。もちろん、チャッピーパパさんには何の権限もありません。


体の手入れもされず飼い殺し状態だったマルチーズ(画像提供:チャッピーパパさん)


「犬を愛する者の1人として一言いわせていただきますけど……と、初めはやんわりと話しかけます」


飼い主の中には悪意がなく、知識不足のために飼い方を間違えている人もいます。そのような人は、比較的穏やかに聞いてくれるそうで、ときには飼育用品の買い物に同行したこともあるそうです。


一方で、飼い方が適切でないことを自覚している飼い主は、たいてい「あんたに、何の権限があるんだ!?」と反発してくるといいます。ときには玄関の扉を開けると同時に胸ぐらを掴まれ「また、お前らか。いったい何なんだ!」と怒鳴られることもあるとか。


「僕が訪問する前にも、他のボランティアさんが来て、何度か注意を受けたことがあるのでしょうね。僕は犬を飼っている者として、こういう環境が適切か不適切かっていうのをお尋ねしているのです。この子にとって、これが幸せな環境と思いますかと、あくまで冷静に接します」


散歩に連れて行ったり爪を切ったり、毛並みの手入れなど、飼い主としての責任を追及しても「うちの勝手だ」あるいは「金がないからできない」と言い訳をする飼い主には、その場で交渉して所有権を譲ってもらい、緊急に犬を保護するのだそうです。


「飼い主さんと話しているときの、犬の反応も見ています。飼い主さんが話しているときに尻尾を振っているか、あるいは耳の動きとか。ある家では、僕と飼い主さんとのやり取りを見ながら涙を流している子もいました」


保護されて毛をきれいにカットされたマルチーズ(画像提供:チャッピーパパさん)



責任をもって飼ってもらうため譲渡後は事前に連絡せず里親を訪問することも

保護した犬は病院で診察を受け、きれいにトリミングしてもらい、里親を募集するそうです。


保護団体の中には、家族にお年寄りや小さい子供がいたり、60歳以上の単身者だったりしたら譲渡しないなど、里親になれる人の条件を設けている場合があります。しかしチャッピーパパさんは、そこまで厳しい条件を設定していないといいます。


「高齢の単身者は、その人に何かあったときに犬の世話ができなくなるからダメですけど、譲渡先のご家族に、1人でも2人でもしっかりしている人がいればクリアしていいと思っています。24時間誰かが代われる環境にあるのなら、お年寄りや小さな子供がいても、僕の条件としてはクリアなんです」


チャッピーパパさんから里親さんへ譲渡する条件は、一見緩く見えるかもしれません。しかし譲渡する前には必ず里親さんのお宅を訪問して、愛情をかけて飼える状態か否かを自分の目で確認するそうです。譲渡した後も、引き渡して終わりではなく、こまめに近況報告を入れてもらうことも条件だとか。


「事前に連絡せず、抜き打ちで様子を見に行くこともしています」


里親さんへ譲渡する際に抜き打ち訪問は承知してもらっており、チャッピーパパさんが見て「この飼い方ではダメだ」と判断したら、強制的に犬を引き揚げることも厭わないそうです。


「どの里親さんもいい方ばかりで、強制的に引き上げた例は1件もありません」


またチャッピーパパさんは、保護犬を譲渡する際、病院の費用や譲渡までの飼育にかかった費用は一切請求しないといいます。


「保護した子が、里親さんの家で終生幸せになるのであれば、自分が負担した分を回収したいとは思っていません」



ペットショップで購入するより譲渡会で引き取ってあげてほしい

環境省の統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(動物愛護管理行政事務提要より作成/対象期間:2021年4月1日~2022年3月31日)」によると、対象期間に殺処分された犬は、「譲渡することが適切ではない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)」「譲渡先の確保や適切な飼養管理が困難」「引取り後の死亡 (飼育管理中の死亡)」を合わせて全国で2,739頭だそうです。


ペットを飼いたいならペットショップで買うより譲渡会を利用してほしい(画像提供:チャッピーパパさん)


「今犬を飼っている方は、できることなら家の中で飼える環境を整えてあげてほしい。近年の気候は、夏は酷暑で冬は極寒。これは、犬にも辛い環境です。これから犬を飼いたいと思っていらっしゃる方は、ペットショップやブリーダーさんからお金を出して購入するより、保健所や保護団体が主催する譲渡会に出ている子たちを引き取ってあげてほしいです」


また、チャッピーパパさんは、猫の「TNR」に関しても、もっと多くの人に知ってほしいといいます。


TNRとは「Trap(トラップ)/捕獲」「Neuter(ニューター)/不妊手術」「Return(リターン)/元の場所に戻す」の頭文字をとっています。捕獲して、不幸な子猫が増えないように不妊手術を施し、せっかく生まれてきた一代限りの命は全うさせてあげようと、地域で世話をして見守る活動です。


不妊手術を受ける猫は麻酔が効いている間に、オスは右耳、メスは左耳をカットされます。その形状が桜の花びらに似ていることから「さくらねこ」ともいわれ、不妊手術を受けた目印です。


耳のカットは不妊手術を受けた目印(画像提供:チャッピーパパさん)


年々減っているとはいえ、殺処分はまだ行われています。


劣悪な環境で日々を過ごしている犬や猫を少しでも減らすためにも、このような子たちが何故いるのかを学んでほしいと、チャッピーパパさんは切実に願っています。




■ チャッピーパパ


Instagram

@chappy_roi_aoi_shizuku_poodle