大分県は、国から指定された伝統的工芸品として「別府竹細工」が有名です。2年間で竹工芸を基礎から学ぶ「大分県立竹工芸訓練センター」があり、竹工芸産業の活性化や後継者育成を目的としています。


大分県立竹工芸訓練センターで技術を学び、竹職人として活動の場を広げているヒラヤマ フミさん。


今回はヒラヤマさんのご自宅兼工房で、竹工芸に興味を持ったきっかけや訓練センターで得たこと、作品のこだわりや今後の展望について伺いました。



四代田辺竹雲斎先生のインスタレーションを見て竹工芸に興味を持つ


省スペースの玄関に彩りを添えてくれる「花籠 むかふ」


ヒラヤマさんは、2018年に開催された四代田辺竹雲斎先生の作品展示会「線の造形、線の空間−飯塚琅玕齋と田辺竹雲斎でめぐる竹工芸」を見る機会があり、それから竹工芸に興味を持ったという。


四代田辺竹雲斎先生は、伝統的な茶道具や竹のインスタレーションで世界的に活躍されている竹工芸家です。


インスタレーションとは、正式名称を「インスタレーション・アート」といい、1970年代以降に台頭した現代美術のジャンルです。展示空間を含めた全体を作品とする手法で、アートに触れたことがない人でも直感的に楽しめるのが魅力と言われています。


「田辺竹雲斎先生という世界的に活躍されてる方がいらっしゃって、その方のインスタレーションを見に行って衝撃を受けました。展示部屋をめいっぱいに使って表現されていて、螺旋階段と吹き抜けの空間に上から下まで何メーターあるんだろうかという圧倒されるような巨大な作品なんです。竹でこんなに大きな作品もできるんだなと」


四代田辺竹雲斎先生のインスタレーションは巨大な作品が多く、世界的に高く評価されています。作品から表現される生命力と竹自体の自然美や生命力を感じられます。


「作品をよく見てみると昔からある形でもなく、新しい形があるわけでもなくて、でも斬新という感じでした。インスタレーションは、伝統に囚われることなく作家が好きに表現できるんだなと。すごく楽しそうでやってみたいと思い、竹工芸に興味を持ちました」


そこからヒラヤマさんは、実際に竹工芸作りに挑戦していきます。


「自分でネットで調べたり本を買ったりして、どうやって竹を編むんだろう?こうすればいいのかな?と試行錯誤をして、技法を習得しようとしていました。でも、全然進まないんです。周囲に聞ける人もいないし、本や動画を観ても、途中でわからなくなってしまうんです。1年かけてやっと1作品できたかなぐらいで、誰かに聞けるといいのになとずっと思っていました」



交通事故がきっかけで大分県立竹工芸訓練センターへ入学


同じ「花籠」でも編み方とヒゴの太さの違いにより異なる作品になる


当時ヒラヤマさんは、学校法人の人事や理事会の運営などの仕事をされていたそうです。


田辺竹雲斎先生のインスタレーションを見て以来、仕事の傍ら独学で竹の編み方を試行錯誤していた折、2020年に交通事故に遭ってしまいます。事故で右腕を負傷してしまい、しばらく不自由な生活を余儀なくされました。好きなバイクを売り払い、このまま仕事を続けるのか自問自答をくり返すことに。 


「普通はそのまま仕事を続けますよね、特に仕事に不満もないし、ずっと安定したお給料が貰えるんだから。でも、いざ自分が死ぬかもしれないと思うとすごく怖くなって。やり残していることがあるから死ぬのが怖いんだなって気がつきました。それからは旅行したり、疎遠になっていた友達に会いに行ったりして、終活みたいなことをしていました」


明日死ぬかもしれないような経験をすると、本当の自分は何をしたかったのかが見えてくるのかもしれません。


「それまであまり趣味が長続きしたことはなかったんですけど、竹は事故に遭う前から2年 近く独学でやっていました。こんなに大好きなことを見つけられたのに、このまま死んだら絶対後悔するって思いがすごく強くなりました。それで、訓練センターの存在は元々知っていたので、いま受けなかったら後悔するから受けてみようと思いました」


事故から2ヶ月後には、大分県立竹工芸訓練センターの試験を受験することを決意します。そして翌年2021年の試験に見事合格し訓練生として通うことに。


大分県別府市にある大分県立竹工芸訓練センターでは1年に1回、毎年2月に試験が行われます。試験内容は、中学卒業レベルの数学と適性検査、そして面接です。竹工芸を美しく理想のイメージに仕上げるためには数学の知識が必要なため、簡単な数学ができるかをテストされます。しかし、結果には面接の内容が重視されるようです。


12名の定員(入校年度4月1日時点で39歳以下)に対して、毎年30名前後が受験。2年間の学費は全額大分県の負担のためかかりません。近年の男女比は3:7くらい。ヒラヤマさんのクラスも同じ比率です。


「訓練センターで学ぶと、視野も広がるし作業効率もすごく良くなり、試行錯誤して独学で生み出した作品は確実に自分のものになるので強みになる。けど、教えてもらわないとわからないことも多いので勉強になる。それに同じものを作っていても訓練生によって個性がある。そういう場面に触れられるのがいいですね」


竹の編み方を独学で習得した経験があるヒラヤマさんならではのアドバイスです。もし、竹工芸に少しでも興味があるのなら迷わずに受けて欲しいとの想いを吐露します。


「倍率はすごいですけど、是非受けて欲しいです。本当に強い気持ちがあるならば合格します。私は面接で他の人と差をつけるしかないと思って、人生で1番攻めてたんじゃないかというくらい気合を入れました。面接では『卒業してから最初の数年はお金がないのは分かっています、そのために貯金をしてきました!』という感じで、どれだけ自分がやりたいのか『死ぬまで竹工芸を続けるつもりです』って熱意を伝えましたね」


独学で勉強していたことに加え、ヒラヤマさんの竹工芸への熱い思いが合格に繋がったのでしょう。 



大分県立竹工芸訓練センターのカリキュラム


2年生のオリジナル作品の課題で作ったお気に入りの「八ツ目バッグ まどか」


1、2年生共通で学科(座学)と実習の2つがあり、1週間のほとんどは実習がメインで、合間に座学を挟むカリキュラムです。


1年生は、大分県の竹工芸の歴史から「別府竹細工8種類」と呼ばれる基本の編み方や染色・塗装まで幅広い内容を学びます。


基本の編み方は「四つ目編み」「六つ目編み」「八つ目編み」「網代(あじろ)編み」「ござ目編み」 「松葉編み」「菊底(きくぞこ)編み」「輪弧(りんこ)編み」の8種類です。編み方を組み合わせると、200種類以上の編み方ができます。 


2年生はオリジナルのデザインを作り、作品の展示やプレゼンテーション(制作発表会)、企業や工房などでの現場実習を経てカリキュラムは終了です。


ヒラヤマさんは、革の持ち手が付いた買い物籠「八ツ目バッグ まどか」を制作し、先生や周りの評判も良かったことで、改良を重ねて製品化を目指しています。


卒業生の全員がどこかの企業や工房に就職できるわけではなく、就職先が無く、フリーで活動をしながら竹の道へ進む方もいるそうです。しかし、竹の道一本で生活していくのは難しいため、竹工芸とは関連のない仕事をしながら、活動している方もいます。



「竹工房オンセ」で師匠に従事しながら技術を教わる


2年生で作った作品の一部


ヒラヤマさんは、幸いにも就職先が決まり大分県宇佐市安心院にある「竹工房オンセ」で先生に従事しながら技術を教わっているそうです。


別府市内には指導がある工房はないため、月曜日から土曜日まで毎日、別府市から安心院まで片道40分をかけて車で通っています。ガソリン代がかかるため工房に通うだけで生活費の多くが消えるそうで、貯金を取り崩しながら生活をしています。


「自分も技術が向上するし、先生のお手伝いができるからやりがいは感じますが、なかなか厳しいなと思います」 



竹工芸の後継者不足


「菊底編み」の籠の底


ところで、伝統芸術は全国的に後継者不足が深刻化しており、竹工芸も同様です。大分県内では時に別府市と竹田市で竹工芸(竹細工)が有名ですが、教える側が高齢化のため体力的に厳しくいつまで教えられるかわからないという理由で、新たな弟子入りを断っているのが現状です。


「仕方のないことなんですけど、どうしても教える側にも年齢のギャップがありますよね。昔の高度経済成長期の頃は作れば売れるような時代で、花籠1個作れば何万円でも売れたそうです。 バブルが弾けて急に売れなくなって……、昔から続けている人はなんとか生き残ったという状態です。今は40代、50代が若手と呼ばれていて、これを私たち新人が埋めていかないと本当に竹工芸の技術がなくなってしまう」


新たな後継者が育たない状況が慢性化していると感じます。若い世代に少しでも、製品を使ってもらい竹工芸に興味を持ってもらえるように、大分県立竹工芸訓練センターの近くにある「別府市竹細工伝統産業会館」で定期開催されているワークショップや不定期開催の県主催の普及イベントなどを続けていくのが良さそうですね。



私は竹作家ではなく竹職人


置型照明「おぼろ」


ヒラヤマさんは、自身を竹作家ではなく竹職人と言います。


「自分を作家とは思ってなくて、竹職人になりたいと思っています。両者は考え方が違うと思っていて、 作家はデザイン性の強いものを作る傾向にあります。また、たくさん作るとなったら時間もコストもかかります。アイデアが大事。芸術性が高い分、少数精鋭の作品を作るのが作家かなと思うんです。逆に、日常的に使いやすいものを作るのが竹職人だと思っています。100個、 200個の発注にも答えられるのが職人の強みかなと思います」


今は竹職人として知名度を確立していきたいと意気込みます。


「イベントや展示などで作品を発表しながら販路を拡大するのが1番大事かなと思っています。 大量生産・即納品という力が大事なので、作業効率を上げていきたいです。今は竹の端やいらない材料で曲げの練習をしていて、この前は早く作れるように300個ぐらい練習しました」


訓練生の頃は数日〜1週間かけて1個作っていたものが、いまでは1日に1、2個は作れるようになったそうです。


「私は日常的に使える作品を作っているので、数ある中から自分の作品を手に取ってもらえることが嬉しいです。作品を通してその人との繋がりができた気がします」


日常的に使える作品だからボロボロになるまで毎日使って欲しいという思いが強くあります。



編むよりもヒゴ作り作業に時間がかかる


竹割り包丁竹を割っている様子


作品作りはヒゴを編むよりも、その工程に入る前のヒゴ作りに最も時間がかかります。大きな竹を油抜きの工程を経て乾燥させるまでに約2~3ヵ月。


乾燥させた竹をヒゴにするためには、目的の厚さや幅になるように竹割り包丁や専用の道具を使い、手作業で1本ずつ割いていきます。竹を割いていくためには手の感覚が重要。練習を繰り返して、手の感覚だけで目的の厚さや幅が作れるように覚えていきます。


この機械に細くした竹(ヒゴ)を通して、厚さを均一にしていく


1つの作品で何十本何百本とヒゴを使い、編み方やデザインが複雑になるほど大量のヒゴが必要になります。数百本のヒゴを作るのに数日は必要だそうです。


その後のヒゴを編む工程では、数時間〜1日でできることもあるため、全体の工程の割合としてもヒゴ作りは地味ながら時間がかかるうえに神経を使う作業です。


ヒゴの束


「何もないところからだんだんと形になって作品が完成する瞬間が好きです。これで終わりってなった時が1番やりがいを感じますね。しんどかった気持ちが一気に全て浄化されます」


1つの作品を作るのに1日〜数日はかかるため、短時間の気分転換やある程度時間が取れるときには好きな映画鑑賞、生け花をしているそうです。


また、憧れの作家やレベルの高い作品に触れることで日々のモチベーションを上げています。


「レベルが高い作品を見ると、頑張ろうって気持ちになります。頑張るって言葉は好きじゃないですけど、 高い位置に目標を置いた方が完成した時の出来や気持ちも違うと思うんです」


第25回全国竹芸展で入賞した作品​​ 「盛皿 蓮華」竹を編むのではなく、同じ角度に曲げて竹を重ねて作った作品で綿密な曲げの計算と高い技術が必要


ヒラヤマさんは見た目だけではなく、実用品として使用するときにガタつかない綺麗な作品作りにこだわっています。


竹工芸の表面側(表の見える部分)に、竹の一番硬い表皮を使います。表皮は見た目もさわり心地もツヤがあってなめらかです。


作品の内側は物を入れることを前提としているため、一般的にはヤスリなどで処理しません。もちろん手が触れても怪我や引っ掛かりがないようにされています。訓練センターでも内側はそこまで気にする必要がないと教わったそうです。しかし、使う時に内側も手で触れるため、表面と同じような内側があってもいいのではとの思いから、ヒラヤマさんはさわり心地を大切にしています。


「全部、表側も裏側も角を取るようにしています。使う側もさわり心地がいい方が使いやすいですし。この違いは実際に手に取ってもらい、説明をしないとわかってもらえないですよね。オンライン販売だとそこがわかってもらえないから、難しいところです」


第45回日本新工芸展にて入選した「漣 サザナミ」


このような丁寧な作業で、第45回日本新工芸展にて花籠を出品し、見事入選を果たしました。入選した「漣 サザナミ」はヒラヤマさんの作品の中では大きな部類です。 綺麗で繊細な見た目の花籠です。



竹工芸を活性化させ、いずれはオーダーメイドの作品を作るのが目標


ヒラヤマさんイチオシのビールの個数や大きさ、高さに合わせて作られた「お出掛け籠 のがけ」


「焼き物のお皿ってだいたいどの家にも1枚はあるかと思うんですけど、竹工芸も焼き物みたいな身近な存在になると業界が少しは活性化するかなと思っています。 持っていない人が使いやすいものを作っていきたいです。使う人の思いを込めれば一緒に成長していくと思うので、そこも楽しんでもらいたいです」


日常的に使える籠や、花籠などから自身の作品や竹工芸の良さを広めていきたいそうです。


「まずは大分で販路を拡大していきたいと思っていますが、竹工芸が身近にあるからなのか安くしないと売れないです。東京で売ると不思議と倍以上の値段でも売れるんですよね。今は地道に活動していきます」


大分と東京では、竹工芸の価値に違いがあることに驚きました。


ヒラヤマさんは竹職人として知名度と販路の拡大をしながら、5年以内に個展を開くことが小さな目標で、大きな目標はオーダーメイドの作品を作ること。


「いずれは依頼者が欲しいと思っているもの、オーダーメイドの作品を作りたいですね。その人の思いを引き出すのが気持ちいい。理想の形を一緒に追求するような、あなたの考えているデザインを形にしますという作品を作りたいです。 依頼者の頭の中にあるイメージを再現できたら楽しいし憧れがありますね」



竹工芸は仲の良い友達


最後にヒラヤマさんにとって、竹工芸はどのような存在か伺いました。


「竹工芸は仲の良い友達みたいな気持ちでいつも接しているんです。好きなことだし、生活の一部でもあります。一生をかけて付き合っていくから、なるべく仲良く一緒にやっていけるよう、関係が悪化しないように気を付けています」


1つの作業を何時間もしていると、竹工芸との関係が悪化しそうになると言います。関係を悪化させないように、マルチタスクで逃げ道を用意したり、時には好きな映画を観たりする理由がこれに当てはまります。


「竹にも悪い竹があって、曲げようとすると割れることがあります。この子は言うこと聞かないなって。付き合い方は人と一緒ですね」 と笑顔をみせるヒラヤマさん。


ヒラヤマさんの挑戦はこれからも続きます。 いつの日かヒラヤマさんこだわりの竹作品が、全国に世界に広がり、竹工芸が日常にある風景が訪れることでしょう。




ヒラヤマ フミさん


Instagram

@fumi_hirayama



■ 竹工房オンセ


公式HP

https://www.take-once.com/



■ 大分県立竹工芸訓練センター


公式HP

https://www.pref.oita.jp/site/280/