美味しいカクテルを味わいながら、読書も楽しむことができる。

新潟市中央区にある「Bar Book Box STORE」 はそんなお店です。


お洒落な椅子やテーブルが置かれている店内は、落ち着いた明るさの照明に照らされており、壁際にはウイスキーなど数多くの洋酒がズラリ。さらに、小説、エッセイ、ノンフィクションのハードカバーや文庫本、写真集などが、まさに「手に取ってみてください」と言わんばかりに棚や机に置かれ、店内の至る所で本に触れることができます。


お店のオーナーであり、バーテンダーとしてお酒や季節のノンアルコールカクテルを提供する豊島淳子さんに、お店の魅力やこれまでの活動などについてお話を伺ってきました。


店内には洋酒が並び、テーブルや棚には書籍も



本とお酒は似ている

東京や新潟市内でバーテンダーとして修業を積んできた豊島淳子さんは、2019年より現在の店舗を構え、営業を開始しました。ブックバーというスタイルの発想は、言うまでも無く、豊島さん自身が本に囲まれて生活を送ってきた経験がベースとなっています。


「もともと小っちゃい時から、本が好きでした。両親も本をよく読んでいて、家にもたくさんの本がありました。自分も『好き』という自覚も無いくらい、本は身近にあるものだったんです。読むことも好きですし、買うのも好きですし、本に囲まれた生活を続けてきて、本に助けられたこともありました」


活字に触れることが好きな人間にとって、本はやはり特別な存在。豊島さんにとっても同様であり、幼少期から書籍に接してきたことで自らの人生に大きな影響を及ぼすこととなりました。


「知らないことも知ることができるし、困ったときも助けてくれる存在でした。もちろん、人間の友達も心強いんですけど、本は欲しい答えが見つかるだけでなく『友達が増えていく』というような感覚で、さらに別の情報にも繋がっていく。単純に読んでいて楽しいということも含め、私にとって重要なツールであり、強い味方だったんです」


本を通して様々な考え方が培われてきた豊島さんは、親の転勤もあり、高校までを長野や栃木、そして新潟で過ごし、その後は東京の大学へ進学。卒業後はアルバイトをしていたことがきっかけとなり、都内のバーに勤務、バーテンダーとしての経験を積むこととなります。


その中で「本とお酒は似ている」という想いが生まれたと振り返っています。


「お酒も本も、必要な人にとっては本当に楽しめるものであり、それはその時々によって求められるものが変わると思っています。そういう時にバーテンダーという仕事は図書館の司書さんの様に、目の前の人が必要なものを考えて提供する、皆さんのオーダーやリクエストにお応えすることが一つの役割であり、そういう楽しさがあると、若手の頃に先輩の仕事をみながら感じることができました」



さまざまなタイトルの本 販売用のものも



東京から新潟に拠点を移し、移動式ブックバーも開業

東京都内で長く勤めていたバーで体制が大きく変わるタイミングが訪れたことで、豊島さんは高校時代を過ごしていた新潟市を生活拠点とすることを決意。東京を離れ、新たな地、環境でバーテンダーとしてさらに成長を遂げることとなります。


「ちょうど東京に来て10年ほど経過していた時期であり、このままだと東京でしか住めない、働けないという気がしたんですね。東京だけだと視野が狭まるんじゃないかとも考えていました。30歳手前という、若手としてちょっとした節目の年齢でもあったので『新潟にいってみようか』と決断しました。高校時代を送った場所でもあり、東京以外では一番、生活する場所としてイメージできたのが新潟市だったんです」


新たに新潟市内に移り、バーテンダーとしての修行を続けていた豊島さんは、心に秘めていた想いを形にすることとなります。若手時代から、漠然としながらも抱き続けていた「自分のお店を持つ」という夢を現実のものとするため、2011年、移動式バー「Bar Book Box」をスタートします。


当時の勤務先で働きながら休日などを利用し、専用のカウンターとお酒各種、そして本棚、書籍も揃え、市内各所に出向くという活動を開始し、移動式ブックバーの道を歩み始めることに。豊島さんは、東京で出会った「一箱古本市」等の古本イベントから、移動式バーという発想が芽生えたと言います。


「小さな箱に好きな古本を詰めるだけで誰でも販売できる『一箱古本市』が面白そうだなと思って、自分も参加していたんです。そうしているうちに『一箱で本屋さんができるなら、バーをやっても良いんじゃない?』という謎の発想が生まれました(笑)今思えばここも一つのターニングポイントだったとも言えます。私の中では自然な発想だったんですけど」


その柔軟且つ、自由な考えから生まれた、移動式の「Bar Book Box」。現在、ビルの一室に構える店舗「Bar Book Box STORE」での営業を行なうようになっても、イベント会場等では移動式バーを開店し、多くの人々にカクテルや本を楽しむ機会を提供しています。


移動式バー「Bar Book Box」



出店先でカクテルを作る豊島さん



バーとは別のイベントも企画・主催 こだわりは「量り売り」

バーテンダーとして経験を積み、自身の店舗も構え、お店に足を運ぶ人々にお酒や本の魅力を伝えてきている豊島さんは、バーの営業以外でも興味深い活動を行なっています。それが「たねをまく ちいさな量り売りマーケット」です。


飲食店や農業を営む人たちが、それぞれの店舗のメニューや自然栽培で育てた農作物を「量り売り」で販売するマーケットであり、こちらも豊島さんのイメージが基となって2021年に立ち上げられました。これまで「Bar Book Box STORE」で行なわれてきた他、店舗以外が会場となる時もあり、今年1月には新潟市文化財「旧小澤家住宅」で開催されています。


主催者の豊島さんも参加者の一人として、マーケットを案内するマーケットガイドを担当しながら「たねをまく」の運営を行なっています。



「たねをまく ちいさな量り売りマーケット」の様子


「新潟に来て以来、色んなイベント会場等でバーを出店してきました。そうしてきた中で『大きくないイベント』をやりたいと思っていたんです。小さい規模のマーケットにすることで、皆さんがゆっくり話したり、色んなものを直接手渡したりできる場所になると感じていました」


出店者、そして訪れた人たちがより密にコミュニケーションをとることができるマーケット。 そして「量り売り」についても、それぞれが会話をするための最適な「ひと手間」だと豊島さんは言葉を続けます。


「量り売りという形にすることで、作り手とお客様との間に自然とコミュニケーションが生まれますし、より深いやり取りが行なわれると考えています。品物を購入するだけでなく、お店の人やお客様同士で食材の食べ方を教え合い、また『来月にはこんなものが出るよ』といった会話も行なわれていて、それが本来のマーケットの姿だなと思っています。きっと、昔の市場なんかもそういう場所だったのではないでしょうか」


品物を購入するためには、容器や袋などを持参する必要があり「他のお店とは違い、手間がかかるんですけど皆さん楽しんで準備してきてくださるんです」と笑顔を見せる豊島さん。


他にも、イベントについて「ここで行なわれるコミュニケーションや人と人との触れ合いが積みあがっていくことで、世の中は良い方向に向かうんじゃないかと感じます」と想いを話してくれました。



お客様が楽しみ方を見つけてくれる場所

新潟市内に構える店舗名「Bar Book Box STORE」。同時に、この一室は「リトルライトシアター」とも名付けられており、バー以外のイベントで多くのお客様が訪れ「たねをまく」で活動する際の拠点にもなります。バーとは別のフレームを設けることで多彩な色を持ち、より多くの魅力を感じることができる空間となっています。


また、現在のバーとしての営業時間は13:00のオープンと、一般のお店と比較してもやや早めとも思える時間帯。2020年からのコロナ禍で飲食店の営業時間が制限された時期をきっかけに、現在の時間が設定されました。


また、市の中心となる新潟駅からも若干の距離があり、歓楽街からも離れた場所にお店が構えられています。それでも周辺にはいくつもの企業や、病院、大学、市役所が林立しており、昼間でも人通りも多い地域。時間帯に関わらず開店後は「Bar Book Box STORE」にさまざまなお客様が足を運び、有意義な時間を過ごします。


「時間帯もバーとしては珍しい営業スタイルなんですけど、色んなお客様がいらっしゃってくれるんです。何というか、生活の中で昼間の時間を上手に使おうと訪れてくださる人たちが多いと感じていて。例えば、就職活動の合間に一息入れに立ち寄って、ノンアルコールカクテルを楽しんでもらった学生さんもいました。私からみても思いがけない利用の仕方で、お客様がこのバーの新しい楽しみ方を見つけてくださっているんです」


本とカクテルをあしらったお店のロゴ


また「うちのお客様はこの場所を面白く使ってくれる、『面白い人』が多いですよ」と笑顔をみせる豊島さん。さらに、お客様と関わることがバーテンダーという仕事の魅力だと教えてくれました。そして、その想いを現実のものとして形作ってきたことで、多くの人が集う場所が生まれてきています。


「人はそれぞれ色んな価値観があり、私自身、知らないことがたくさんあります。だからこそ、人の話を聞くことが面白いと思っていて。商売柄、色んな人の話を聞く機会が多いところが、バーの仕事の面白い部分だなと感じています。これからも色んな人の話を面白く聞ける場所を作っていきたいです」


足を運ぶ人にとって憩いの場となるだけでなく、豊島さん自身もバー営業をはじめ、自身が手掛ける活動を楽しんでいる様子が伺えます。


今回の取材で最後に聞いた、これからの目標を「まずはバーを続けていくこと」と言葉に力を込めながら、こんなイメージも描いているようです。


「より物事を知ることができ、体験できる機会や場所を広げていく、そういった取り組みをさらに行なっていきたいなと思っています。他にも本の作者の方をお呼びするイベントも企画していきたいですね」


今回伺ったお話は、豊島さんがこれからも実現させたいという多くのアイデアで溢れていました。


そして、「Bar Book Box STORE」はお酒や本を楽しむことができる他、足を運ぶだけでも「面白い」と感じられる場所だと確信したインタビューとなりました。





■ Bar Book Box STORE


住所

新潟県新潟市中央区東中通1番町86-21 トールビル3F


Facebook

Bar Book Box


Instagram

@barbookbox


Instagram「たねをまく ちいさな量り売りマーケット」

@tane_wo_maku_market