新潟県小千谷(おぢや)市にある山本山は、標高336メートル、頂上部が高原となっており展望台も備える、新潟県内でも有数のビュースポットです。山本山の頂上にある「やまもとやまCAFE 本」を営んでいるのは橋本実樹さん。


東京都出身で、4年前に地域おこし協力隊として小千谷市へ移住しました。隊員としての任期を終えた後も、新潟県内に留まり昨年から本格的にカフェを開業、自然に囲まれながらその土地の魅力が詰まった料理を提供しています。広い空の下にある少し変わった名前の素敵なカフェで、橋本さんから興味深いたくさんのお話を聞くことができました。



自然の中でゆったりと過ごしてもらえたら

昨年7月にオープンした「やまもとやまCAFE 本」。広く大きな窓から外の雄大な景色が眺められる店内にはジブリの曲が流れており、どこか懐かしい雰囲気に包まれています。


お店では、小千谷市や新潟県内の食材が豊富に使われている料理やスウィーツを揃え、中でも野菜がたっぷり入った「やまもとカレー」はお店の看板メニューです。


お店の人気メニュー「やまもとカレー」


また、壁には本棚が置かれていて、カフェの店名にもあるように、そこには小説や絵本など、さまざまな種類の書籍が。テーブルやソファーの他にも、読書用のスペースがあり、食事以外でも楽しい時間を過ごすことができる、まるで友達の家に遊びに来たような感覚を味わうことができます。


「自然の中で、鳥のさえずりなどを聴きながらゆったりと本を読んで、過ごしてもらえればなと思って本を置きました」


その言葉通りに、清々しい景色を感じることができる、自然の緑や綺麗な空気に囲まれたカフェは山頂にある憩いの場として、地域のみなさんや、観光客など多くの人々が足を運んでいます。


外の景色が楽しめる、広々とした明るい店内


本棚には600冊以上の本が並ぶ



子供の頃から体験していた自然、農業との触れ合い

橋本さんは学生時代のアルバイトや、大学卒業後の就職先でも農業関係の業務に携わってきました。そして2018年には地域おこし協力隊の一員として新潟県小千谷市に移住、初めて訪れたこの土地でも地域の農業支援などの活動を行うこととなります。


「おばあちゃんが秋田に住んでいるんですけど、小学校の夏休みで遊びに行ったとき、何度か野菜の収穫や水やりといった、畑仕事のお手伝いをしたことがありました」


これまで長く携わってきている農業と接することとなったきっかけを伺うと、子供の頃の思い出を話してくれました。東京都出身の橋本さんにとって、小学校の頃の夏休みの思い出がその後の人生の指針となり、自然や農業とのつながりが深まっていくこととなったそうです。


「高校生の頃、進路を考えた時に、食とか農業に関わりたいという考えが過ったんです。たぶん、子供の頃、おばあちゃんの家で体験した農業の記憶から、そういう想いが生まれたんだと感じています」


大学在学中は日本各地で住み込みのアルバイトで農業に接していた橋本さん。大学卒業時には、迷うことなく農業の道へ進むことを選択。また、憧れを持ち続けていた田舎暮らしを実現させるため、地元である東京以外の土地への就職を決めます。卒業後は、大学時代のアルバイト先の一つだった三重県内の農業法人に就職し、収穫や出荷作業、スーパーへの配達、商品陳列など、農作物を直接扱う業務をこなす日々を送りました。


社会人として生活を送る中で、より農業と自然への思い入れが深くなっていった橋本さんはその後、地域おこし協力隊へ応募。現在生活を送る新潟県小千谷市へと移ることになります。


山本山高原から眺める景色


「最初は地名の読み方もわからなかった」と当時を振り返ってくれた橋本さん。活動する移住先として数ある選択肢の中から、小千谷に決めた理由を聞くと意外な答えが返ってきました。


「特に小千谷に思い入れがあったわけではないのですが、自然の中で暮らしをしてみたいという思いが強かったのと、何より、雪国に住んでみたいとも思っていたんです。特に下見もすることもなく、面接で初めて小千谷に来ました。その時の地域の雰囲気など、フィーリングが合ったので『ここに来たい』と強く思ったんです」



都会から移住、初めての小千谷での暮らし

2018年の5月から協力隊として小千谷市山本地域で活動を開始し、栽培支援や稲作の補助などの農作業に携わっています。住み始めたばかりの頃に感じた、地域の印象をこう振り返っています。


「この地域のみなさんは控えめな人が多いなという印象を受けました。山本地域は当時、協力隊を受け入れるのが初めてだったということもあったと思うんですけど、初めの頃は話しかけられることが少なく、お互いに探り探りという感じで接していたことを憶えています。それでも、地域行事に参加したり、近所の人からお野菜を貰ったりしながら少しずつ溶け込んでいき、みなさんとの距離が縮まっていきました」


また、小千谷は日本でも有数の豪雪地帯。橋本さんも初めての雪道の運転に苦労するなど「冬、生活する上では大変だなと感じました」と語ります。都会からの移住者にとって慣れるまで長い時間を要する、雪深い冬の小千谷での生活。しかし、橋本さんは雪との関わりを喜びに感じる部分が大きいようです。


「ここに来て初めてスキーも滑って楽しかったですし、かまくらも作ってみました。東京に住んでいたので雪は珍しいんです。だから今でも雪が降ると嬉しいんですよ!」



カフェを通じて地域の魅力を発信  

山本山では2000年代初めまで「小千谷山本山高原スキー場」の営業が行われていました。それまで、スキー客の休憩所として利用されていた建物が、2006年のスキー場閉鎖以降、使用されないままとなっていたのです。その建物が、橋本さんによりカフェへと生まれ変わることとなります。


「協力隊の活動時、高原にあるブルーベリー畑でも作業していたことから、その存在は知っていました。当時は、何も使われていなかったため、もったいないなと感じていたんです」



山頂で獲れるブルーベリーを使ったデザート


一昨年、すでに移住から2年が過ぎていた橋本さんは建物を活かす方法として、地域の農産物を使った料理などが楽しめるカフェを開くことを思い立ちます。最初は協力隊の活動の中で、3ヶ月間の「チャレンジショップ」という形態の期間限定営業を行い、その後、カフェの本格経営を決意。協力隊任期終了後、昨年7月の開業を目指すことに。


「最初の3ヶ月の限定営業でみなさんに喜んでもらえたことで、協力隊での活動が終わった後も、カフェをやろうと決心しました。小千谷や新潟県には美味しいものがいっぱいあるので、その魅力を発信したいと想いもずっと持っていたんです」


開業までの準備期間は僅かだったものの、多くの人の支援もあって、2021年7月の本格オープンに辿り着きます。橋本さんは開業に至るまでをこう振り返ってくれました。


「本当に大変でした。内装などを整備しながら、お金もかけられなかったので、店内の机やいす、ソファーなどは廃校になった小学校から譲り受けたものを使っていますし、食器の返却棚は使われなくなった桐タンスを再利用しています。レジ台は知り合いの人に作ってもらいました」


さらに「オープン1週間前になってもお店の看板も出来ていなかった」というように、最後まで慌ただしい状況が続いたものの「やまもとやまCAFE 本」は無事、オープンを迎えます。橋本さんの熱意、そしてその想いに賛同してくれた人々の支えもあり、山本山の新たなシンボルが誕生することとなりました。


カフェでは地域のデザイナーによる小物やアクセサリーの販売も



常にワクワクドキドキしていたい

橋本さんは「やまもとやまCAFE 本」とともに、小千谷市の隣である長岡市内でもう一件のカフェ「tsugu」(長岡市中島5-8-6 木・金・土曜営業)も営んでいます。こちらは体験農園と連携したカフェとして、野菜の収穫や植え付けを体験できるお店であり、同じく昨年から営業が行われています。


学生のときには、大阪までたこ焼きを食べにヒッチハイクで出掛けた思い出や、島根県まで宿を決めないまま向かい、地元の人の家に泊めてもらったこともあったそうです。


「昔から思い立ったら行動する性格であり、常にワクワクドキドキしていたいんです。今後は、体験農園にも力を入れたいとも考えていて、いずれは農家民宿なんかもできたらいいなと思っています」


溢れんばかりの橋本さんのバイタリティには、ただただ驚かされるばかりです。



橋本さんのアイデアが詰まった見た目も鮮やかなカフェのメニュー



お客様からは「カフェを始めてくれてありがとう」と感謝も

山本山高原は、秋には雲海がみられる他、白虹やブロッケン現象といった高地や高山で起こる自然現象がよく観測されることでも知られています。菜の花やひまわり、そば畑などもあり、四季折々の表情が楽しむことができ、ドライブコースとしても最適。平日でも山頂は多くの人で溢れます。


山頂からみえる雲海


この自然豊かな山本山、そして小千谷に移り住み過ごしてきた生活を橋本さんはこう振り返ります。


「もともと、知り合いがいない土地だったのですが、こうやってお店を続けられているのは、大勢の手伝ってくれるみなさんが居てくれるおかげなんです。今もたくさんのお客さんから喜んで頂いていて『ここをカフェにしてくれてありがとう』という言葉をかけて頂きますし、スキー場があった時以来に山本山に来たというお客さんも多く、そういう交流も楽しいですし本当に嬉しいです」


冬季間は休業になり、営業期間は11月下旬までの営業とのこと。現在は秋の風景も色濃くなってきており、街並みから離れた場所にある「やまもとやまCAFE 本」は、まさに四季の魅力を感じることができる場所。最後に橋本さんはお店と、山本山への想いをこう語ってくれました。


「お店をやって良かったなと思っています。あのとき、もし始めていなかったら、出会えていない人もたくさんいましたし、カフェをきっかけに色んな人との繋がりもできました。新潟県内でも山本山のことを知らない方もたくさんいると思うので、そういうみなさんにも、ここの魅力をもっと発信できたらと思ってます」




■ やまもとやまCAFE 本


ホームページ

bookyamamotoyama.wixsite.com


住所

〒949-8721

新潟県小千谷市山本1485-16(山本山高原山頂)


営業日

日曜日・月曜日(5/1〜11/28までの予定)


営業時間

11:00-16:00(15:30LO)


Instagram

@yamamotohon


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やまもとやまCAFE 本