宮城県には全く別の仕事で来ました。異業種の経験を基に、独立を決意しました
宮城県に位置する、仙石線岩切駅から歩いて10分ほど。穏やかな住宅街の中に、オープン以来地元メディアからの取材も多く、話題になっているラーメン屋「鶏華(けいか)」があります。
店主は、鈴木聡明さん。ずっと飲食の世界にいたというわけではなく、様々な業種を経験した後、今のお店を開かれています。鈴木さんは、元々県外に住んでいて、宮城県には当時の仕事の関係で来る機会があったそうです。 最初にこれまでの経歴を伺いました。
鈴木さんは1981年生まれの41歳。18歳で専門学校を卒業後、洋食の世界で5年ほど働いていたそうです。その後、一旦飲食を離れて国際的な物流の仕事を経験したことで海外に興味を持ち、20代後半にオーストラリアへ3年間留学。留学後は、5年以上家電量販店に勤めており、その時に鈴木さんの異動先として選ばれたのが宮城県でした。
当時は東日本大震災後の復興バブルもあり、宮城県にも活気が戻り始めた時でしたが、鈴木さんが宮城県に来て1年目に、今回の独立を決めるきっかけとなった大規模なリストラに遭ってしまったそうです。
「その時に誰かに雇われるというのが本当に嫌になりました。結果として置き去りになってしまったようなものなので。ただ結果として、これからは自分でやろうって思うきっかけになりましたね」
「ラーメンは徹底的に特化して突き詰めれば必ず勝機がある」
30代半ばでリストラに遭い、鈴木さんがこれから新しく始める大きな賭けとして選んだのは、ラーメンの世界。
「洋食の世界にいましたがだいぶブランクもあるし厳しさも知っていたので、不安がありました」
洋食といってもパスタやピザなど料理の幅はとても広く、改めて極めるには時間がかかってしまいます。実際にその世界に身を置いていた経験から、難しさ、大変さを本当に理解されていました。
「ラーメンの世界に関しても、簡単にいかないことはわかっています、ただ、とことん一つのことを突き詰めて特化すれば自分にも勝機があると思いました。徹底的に特化することが自身の強みでもあり、一番大切にしていることです」
完成した鶏華主力のラーメンは「あっさり」と「濃厚」の2種類
10人の中で3人にハマれば勝ち。それが特化できた結果になる
鈴木さんが特にこだわっているのは”スープ”とのこと。店名にもある“鶏”にこだわり、地鶏やスーパーでも売っているような一般的な鶏など何種類も使って試行錯誤を毎日繰り返し、3ヵ月もの時間をかけ、ようやく納得できる“あっさり”と“濃厚”2種類のベースができました。
「特化するということは、万人受けするような味ではなくて、本当にその味を好きな人がリピートしてくれる味を作ることです。10人いて、8人9人が受け入れる味は個人店ではなく、チェーン店など大手の味。特化すると半分は受け入れてくれないと思いますが、3人にハマれば勝ちだなって思えます」
ラーメンはこだわりのスープを基に、醬油ベースにしています。試作品で味噌も作ったそうですが、好き嫌いがはっきりするくらい本当にコアなファンがついたそうです。 また、提供するメニュー内容は決めていて、今後はセットメニューやランチメニュー、テイクアウトのメニューの追加も考えているとのこと。
「お店の両隣に保育園があるので、お子さんのお迎え帰りにテイクアウトで餃子を買って帰るとか。夕飯のメニューにしてもらえたら嬉しいですね」
「あっさり」は鶏と醬油が香る優しい味
「濃厚」はしつこさがないので濃厚なのに食べやすい。鶏の旨味を贅沢に感じられる味
鶏華という店名は、イメージが降りてきた
鈴木さんはラーメンだけではなく、「鶏華」という店名や内装にもこだわりを見せています。
「店名はシンプルで覚えやすい名前にしました。ここに来た1年前の秋ごろ、天気が本当に良くて。お店の日当たりもすごく良いので、キラキラしたイメージから『華』という文字が浮かびました。そこに、こだわりの「鶏」と合わせて『鶏華(けいか)』。語呂で経過ともかけています。まだまだオープンしたばかりで、途中経過なので」
10店舗ほど物件の内覧をして今の物件に出会うことができ、内装にもこだわったそうです。
「海外旅行が好きなんで、特にイタリアのアルベロベッロというところの街並みが白くて、すごく綺麗で行ってみたいなぁって思っています。今はこのご時世で、中々旅行にも行けないので、店内の雰囲気を少しでも近づけたいと思いました。それから花も好きなので、店内に置いています」
清潔感を感じる内装は、余計な柱を外して解放感のある空間にして、店内には光がたくさん入るように工夫しています。
「平日はサラリーマンなど社会人の方がよく来店されますが、土日などお休みの日は圧倒的にお子様連れなど家族で来店されるお客さまが多いです。年配のお客さまも来店してくれますね。小上がりも元々は畳でしたが、思い切って改装しました」
ファミリー向けに改装した小上がり
店内の入り口にも観葉植物があり、清潔感のあるオシャレな空間を創っています
IT化出来るところは、極力IT化する
基本的に鈴木さん1人でお店を回すことが多いので、IT化できるところは積極的に取り入れているそうです。
「ラーメンを作ることはもちろんですが、自分の仕事に集中できるので、注文や会計はスマホやタブレットを活用しています。取引先もIT化している業者を選ぶことで、発注業務も簡略化できます」
家電量販店で働いていた時の知識や経験が、現在の経営にとても役に立っており、業務効率化でお客様にとっても利用しやすいお店を目指しているとのことです。
スマホで入った注文内容が厨房内のタブレットとレジに飛ぶ
特化したお店だからこそ、お客さまを大事にしたい
貴重な厨房内も見せてくれました
オープン以来、多くのお客さまが来店していますが、来店してくれたお客さまのことを特に大事にされています。
「鶏華は鶏に特化しているからこそ、相性の問題がどうしてもあります。鶏が苦手な方も、もちろんいらっしゃいますし。だからこそ、鶏のラーメンと言えば!で鶏華に来店してくれるお客さまのことを大事にしています」
「あっさり」「濃厚」こだわりのスープの素
特化しているからこそ、本当に鶏華の味を気に入ってファンになってくれたお客さまのことは大事にしたい。 鈴木さんのこだわりが目に見えて形になるのは、実際に鶏華のラーメンを食べたお客さまの声や、リピーターとしてお店に来店してくれるお客さまそのものです。
厨房からも店内を見渡すことができるので、解放感があります。カウンター席も日当たりが良く明るいです。
宮城県は食べ物が美味しい!魚介は特に美味しい
鶏華は店舗兼住宅ということもあり、宮城県に来てから10年ほど住んでいるとのこと。改めて鈴木さんに宮城県の良いところを聞いてみました。
「宮城県は食べ物が美味しい!特に魚介が本当に美味しいと思いました。それから、今まで食べたことがなかった縮み野菜には衝撃を受けました。あと、宮城県の人は繋がりの意識が強いように感じますね」
宮城県は海に面しているので漁港が多く、街中の朝市でも新鮮な魚介類が安く手に入ります。飲食の経験が長い鈴木さんだからこその気づきでもありますね。
東日本大震災で被害を受けた港町も、復興により今では少しずつ活気が戻ってきています。
「実は鶏華のロゴ作成をしてくれたのも、震災ボランティアで出会った人です。当時は言い合いもしましたが、今では良い仕事仲間です。それから、ラーメン屋でバイトをしていた時に、業者さんとの繋がりができましたし、試作品を作ったときに食べてもらったりもしていましたね」
東日本大震災があったことで、ボランティアなど多くの人が東北に訪れた結果、鈴木さんのように人と人の繋がりが多く生まれたように筆者自身も実感しています。
最初と今では、見えている景色が違う。今までの経験が今の集大成
2022年に鶏華をスタートしたばかりですが、鈴木さんにこれからの夢や展望を聞いてみました。
「食べるのも飲むのも好きなので、これからも何らかの形で食にはずっと関わり続けていきたいですね。商品の特化はこれからも突き詰めていきたいです。店舗も4店舗くらいは増やしていきたいですし、洋食もやってみたい。飲食に関わる人間として世界中の美味しいものを見つけたいし、日本から世界に美味しいものを発信していきたいです。それと、工夫すること、遊び心を持つことも大切にしています。新しい情報が蓄積されていくのは楽しいですね」
店名と同様、鈴木さん自身もまだまだ途中経過でやりたいこと、挑戦したいことがたくさんありました。
洋食店やアルバイトをしていた飲食業での経験、留学で学んだコミュニケーション能力、家電量販店で身に着けた営業力や数字に対する意識。そして人との繋がり。これまでの鈴木さんが歩んできた集大成が「鶏華」という店舗にしっかりと形として現れていました。
これからも、食の世界に特化し続ける鈴木さんの活躍に注目です。
■ 鶏華
ホームページ
住所
〒985-0851
宮城県多賀城市南宮庚申203
電話番号
022-355-9230
営業時間
火~土 11:00-15:00、17:00-21:00
日・祝 11:00-18:00
※ラストオーダーは営業時間30分前です
定休日
月曜日(祝日の場合は次の平日が定休)