継続は力なりとはいいますが、継続し続けることの難しさを改めて感じます。しかも、ただ継続するだけでなく、高いレベルで維持し続けることは並大抵の努力ではできません。
「自分たちのやり方を、時代に合わせながら楽しく続けていきたいです。答えなんてすぐに出てこないかもしれませんが、継続しながら自分たちなりの答えを見つけていこうと思っています」
そう語るのは、主に社会人で構成されたマーチング団体JOKERS Drum & Bugle Corps(以下、JOKERS)隊長の飯田素之さん。
メンバーの楽し気な雰囲気とキビキビした動作で観客を魅了し、観ている人たちを楽しく元気な気分にさせるJOKERSは、1989年の発足から30年以上に渡り第一線で活躍し続けています。
母体のないところから結成され、現在まで「唯一無二のマーチング団体」を謳って活動し続けているJOKERS。そこには、さまざまな苦労があるようです。
今回はJOKERS隊長の飯田素之さんに結成時の様子、現在の課題点や今後の展望などについて詳しく伺いました。
母体のないところからJOKERS Drum & Bugle Corpsを結成
公開リハーサル前日の全体での練習風景
「1989年に結成といっていますが、じつはその前に『Kyoto JOKERS』というチームで活動していました。私は『Kyoto JOKERS』の生き残りです」
Kyoto JOKERSとして活動を開始し、1989年のJOKERS結成時から現在もメンバーとして残っているのは飯田さんただ一人。飯田さんは現在隊長としてメンバーをまとめることに尽力しています。
公開リハーサル前日の隊形確認
今年2023年の活動メンバーは50人弱ですが、結成当時は今よりも少ない人数で活動をしていました。
「多くのチームは、高校のOB・OGの集まりであったり、教育関係のNPO団体であったりするのですが、JOKERSは何も母体がないところから作った寄せ集めのチームです」
メンバーの中には同じ高校で経験していた知り合い同士も何名かずついましたが、参加人数も少なかったため、母体・核になる団体はなかったといいます。
チーム名であるJOKERSは、トランプのジョーカーに由来するそうです。ジョーカーは他に類似することのない切り札であり、JOKERSも母体・核になる団体がないからこそ、唯一無二のチームであり続けているのかもしれません。
唯一無二の理由と唯一無二であり続けるための工夫
出番まで待機するカラーガード(フラッグ)
「JOKERSは唯一無二のチームです」
飯田さんは胸を張って言い切ります。前述したとおり、JOKERSは母体を持たない人たちが集まってできたチームですが、マーチング団体で母体のないチームは珍しい存在とのこと。
さらに、さまざまな地域から集まってきているメンバーで構成されている点も他のチームにはない大きな特徴です。
母体を持たないからこそ、さまざまな地域のメンバーにとっては入りやすい雰囲気なのかもしれません。現在は京都・大阪・滋賀・奈良・兵庫のメンバーで構成されていますが、過去には愛知県や関西以外の地域から通っていたメンバーもいました。
そして、JOKERSが唯一無二といえる最も大きな特徴が、オリジナル性へのこだわりです。
使用する楽曲はオリジナル曲のみ
JOKERSオリジナルの楽曲を演奏するメンバーたち
JOKERSが他のチームと最も大きく異なる点は、使用する楽曲にあります。
「演奏する楽曲は全て制作担当のスタッフが作曲したオリジナル曲です。曲のアレンジをするチームは多いと思いますが、オリジナルの曲を使用しているチームはありません」
現に、曲の完成度が高く、JOKERSの魅力を引き出しているように感じられました。オリジナル曲だからこそ、メンバー一人ひとりの個性を熟知し、より迫力のある仕上がりになるのでしょう。
外部の指導者を使わない
演技や内容も全て担当のスタッフで決めている
多くのマーチング団体では、外部の指導員に指導を依頼しているそうですが、JOKERSは曲の構成や演技、使用する道具についても全て自分たちで決めているとのこと。
「メンバーの中から何名かはスタッフとして指導側にまわってもらっています。ただ外部の指導者を入れていないだけでなく、高いレベルで実現できているチームはJOKERSだけではないでしょうか」
飯田さんも、気がつけば隊長に就任してから30年近くが経過し、近年は演奏よりもサポート側にまわることの方が多くなっているといいます。飯田さんを含むスタッフ側のメンバーも、必ずしも指導だけをしているわけではありません。ときには演技に加わるため、チームの演技を外から俯瞰して見られない場合もあります。
したがって、メンバー同士で切磋琢磨し、お互いに注意し合わなければなりません。厳しい中にも楽しさがあり、とても良い雰囲気のように感じられました。
母体がなく人数も少ないJOKERSでしたが、現在はさまざまな大会やイベントに参加をしています。
主な活動は年間4つのイベントや大会
公開リハーサルのために並べられた楽器
JOKERSの結成直後から現在に至るまで、ほとんど毎年出場している大会があります。それが、岡山市主催で毎年10月初旬に開催される「マーチング・イン・オカヤマ」です。
2023年大会で35周年を迎えるマーチング・イン・オカヤマですが、30回大会の際にJOKERSは25年連続出場チームとして表彰されました。
また、JOKERSは米原市の滋賀県立文化産業交流会館で毎年1月に開催されている「フィールドアート」にも、約20年間出場し続けているとのこと。
マーチング・イン・オカヤマとフィールドアートの2つは結成して間もない頃から出場していることもあり、メンバーにとっても特に思い入れの強いイベントです。
近年は横浜国際総合競技場(呼称「日産スタジアム」)で11月に開催されるDCJ(Drum Corps Japan)主催のAJC(All Japan Championships)にも毎年出場しています。
また、日本マーチング団体協会主催の全国予選である10月下旬の関西大会では、代表に選ばれると埼玉スーパーアリーナで開催される全国大会に出場できます。全国大会に出場するには、関西大会で6〜7チームが出場する一般の部で選出されなければなりません。
全国大会には過去に約20回の出場を果たしていますが、近年は人数が少ないこともあり代表に選ばれにくくなってきているといいます。
「100人以上いるチームと半分の人数しかいないチームが同じ土俵で演技するには、できることも限られるため厳しいです。でも、うちは大会での順位ではなく、楽しむことを一番の目標に掲げています」
大会に出場するなら良い演技・良い演奏をすることは当たり前であり、自己研鑽に励むことは大前提となっているそうです。チームとしては、自分たち一人ひとりが楽しみ、観客も楽しめることが最も大きな目標。
楽しむことを目標に、年度の締めくくりとしてJOKERSが主催するHCD(Home Coming Day)を毎年2月に開催しています。
HCDはJOKERSの単独開催ですが、他団体を招待したり一般参加者との合同演目を企画したりすることもあるそう。今年度は2024年2月25日に滋賀県草津市の体育館で開催予定です。
2023年度HCDのチラシ(2024年2月25日開催)
今年度は滋賀県での開催ですが、開催場所は固定せず、決まっているのは近畿圏内という条件のみです。
現在JOKERSとして参加している大会・イベントは上記の4つ。しかし、長年継続してきたこれらの大会やイベントへの参加も、年々厳しくなってきました。
頭を悩ませる2つの課題|メンバー数の減少と練習場所の確保
リハーサル途中に見せるメンバーたちの満面の笑顔
飯田さんは、30年以上続けてきたJOKERSの活動も、近年は継続が難しくなってきているといいます。
チームの大きな課題としては主にメンバー数の減少と練習場所の確保です。
コロナ禍以降はメンバーが減少傾向
メンバー数の減少により今まで以上に工夫が必要になってくる
結成時からメンバーの入れ替わりはあるものの、徐々に増加してピーク時には70人を超えるまでになりました。しかし、2019年に新型コロナ感染症が流行してからはメンバー数が減少傾向にあります。
「過去には未経験で入ってきた人もいますが、ほとんどが吹奏楽やマーチングの経験者です。私自身も高校時代は吹奏楽部でした。しかし、最近は吹奏楽未経験で入隊するメンバーは本当に減ってきています」
飯田さんは肩を落とします。高校の吹奏楽部でマーチングに取り組んでいたり、マーチングを専門にしていたりする学校は多くありますが、JOKERSのメンバーはなかなか増えないのが悩み。今年は高校卒業後に加入した新規のメンバーが5名入隊しましたが、それでもなおメンバー数は減少傾向にあるといいます。
「コロナ禍で大会やイベントの中止が相次ぎ、一般の人の目に触れる機会が激減しました。オンラインでの配信もありましたが、やはり生で見るのと同じような感動は与えられません」
取材では公開リハーサルを拝見し、実際の演奏・演技の魅力や迫力は、取材前に見ていたYouTube動画の10倍以上に感じられました。
2023年からは全ての大会やイベントがコロナ禍前の状況に戻っているため、メンバーの増加に期待が持てます。
約20年前に譲ってもらった楽器運搬用のトラックも維持費が必要
JOKERSは土日祝日だけに活動しているアマチュア団体です。運営は全てメンバーの隊費によって賄われているため、メンバー数の減少は死活問題と言っても過言ではありません。
チームを運営するには、会場使用料や楽器を運ぶためのトラックの維持費など大きな費用が必要です。特にHCDは入場無料で大きな会場を借りて開催しているため、予算を圧迫します。
メンバー数の減少や資金面については、今後も大きな課題となりそうです。しかし、それ以外にも大きな問題がありました。
練習できる施設の予約が難しくなってきている
体育館の床に整然と置かれた楽器と衣装(帽子と眼鏡)の様子
取材に伺った場所は滋賀県の最北端に位置する長浜市の体育館。高速道路を利用しても京都から約1時間半、姫路から約3時間もかかる場所です。どうしてこんなにも遠くの体育館を練習に利用するのでしょうか。
「最近は本当に練習できる施設の予約ができなくなってきています。この体育館は比較的予約が取りやすいというだけの理由です。最近では大きな音を出せる場所も少なくなってきました。来週はどこも予約が取れなかったので、南淡路での練習になります」
以前は年間を通して予約できる体育館をよく利用していたそうですが、システムが変更されたために予約が取りづらくなっているとのこと。コロナが落ち着いたことで、スポーツの大会が開催されることも増え、日中の体育館予約が難しいといいます。
「どこの団体も練習場所の確保には苦労しているようです。高校の部活動でも、他の部活動が使用するので自分の学校の体育館であってもなかなか使用できないと聞いています」
練習場所の確保については、引き続き担当マネージャーと情報交換を密にして対策を練っていきたいとのこと。
チームの継続には多くの課題がありますが、それでもなおJOKERSが継続できている理由は、年度初めの結団式にあるようです。
一年ごとのスケジュール計画によりメンバーの結束力を高める
公開リハーサルにて
「JOKERSでは、1年ごとの区切りでスケジュールを立てて動いています。毎年6月に結団式を行い、『今年一年間、2月のHCDまで出場可能ですか?』と確認してからその年のメンバーを決めています」
ほとんどのメンバーが社会人であり、練習と大会・イベントに参加し続けることは容易ではないでしょう。しかし、JOKERSでは過去30年以上、結団式後に途中で抜ける人はほとんどいませんでした。
6月の結団式で決意を固めたメンバーは、練習日には必ず参加し、4つの大会・イベントには出場しなければなりません。その積み重ねにより、チームとしての結束力は高まっているといいます。
パートの変更も自由で、メンバーの希望に沿う形になっているため、結団式を機に新たなパートに挑戦する人もいます。
また、スタッフとしてサポート側にまわる人材についても、結団式に合わせて決めるとのこと。
「スタッフは毎年更新してますけど、ほとんどが『今年もやりますね?』と確認をしている程度です。もちろん、スタッフも基本的には1年ごとの更新なので、新たにスタッフとして入ってくれる場合もあります」
レベルを維持しながら今の活動を続けたい
30年近くJOKERSの隊長を続けている飯田さん
JOKERSは文化系というより、体育会系のイメージが強いチームです。飯田さんは常日頃からチームの運営について、どのように継続していくかを考えているといいます。
「僕らの感覚ではわからなくなってきていることも多く、時代と合ってきていないと感じるようになりました。自分たちのポリシーを守りながら、高いレベルで維持していけるように、時代の変化に合わせて取り組んでいきたいです」
飯田さんは「昭和の人間だから今の若い人たちの感覚が理解できない」といいます。しかし、それを無視せずに、時代に合わせた形で維持できないかと模索中とのこと。
「欲張りかもしれませんが、自分たちの守るべきものは守って継続していきたいです。逆にそれがなければ続けていけないとも考えています」
飯田さんの話を伺い、長く続けることがいかに難しいかを感じたとともに、地道な努力こそが継続につながる力だと再認識できました。
■ JOKERS Drum & Bugle Corps
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