観光で京都を訪れる人の立ち寄り先は、祇園、河原町、嵐山、有名な寺院というように、コースがほぼ定番化しています。ガイドブックにも、そのエリアの観光スポットが多く取り上げられる傾向があるようです。


定番コースから少し外れるかもしれませんが、西山エリアの落ち着いた風情を楽しみたいなら西京区がおすすめだと、フリーマガジン「西京じかん」編集長・阿部夏希さんはいいます。


「西京じかん」編集長・阿部夏希さん



ガイドブックに載っていない京都の魅力を発信したい

「西京じかん」は西京区を対象として住む人、働く人、活動する人、魅力あるお店、隠れた観光スポットなどを掲載する、春と秋に発行されているフリーマガジンです。


編集長を務める阿部夏希さんは京都市西京区出身で、創刊号から参加しています。


「創刊の準備から携わっているので、正確には2016年の秋くらいから活動しています。当時は先代の編集長がいて、私はメンバーでした」

それからほどなくして、阿部さんは副編集長に就任。

「そんなに大人数のチームじゃなかったので……」


ちなみに現在の編集部は、創刊号から一緒に活動している地域のメンバー2名とデザイナー、地元で知り合ったメンバーが加わった7名に。メンバーはそれぞれに本業をもっていて、フリーランスのデザイナー、イラストレーターなどのほか、編集長をしている阿部さんも、デザイナーとして企業に勤めています。


取材風景(画像提供:西京じかん編集部)


「取材からライティング、レイアウトまで自分たちでやります」


「西京じかん」が生まれたきっかけは、地元の情報を発信したいという阿部さんの強い想いでした。


「京都府の他の地域にも、『右京じかん』『山科じかん』など『○○じかん』シリーズがいろいろあります。もともと、大学時代から地元の魅力を発信するためのツールとしてフリーペーパー作りの構想を練っていて、社会人になってから『かつら帖』というタイトルで、100部ほど自作した冊子を配っていました。そんな活動の中で『じかん』シリーズを知る機会があり、『西京じかん』をやりたいと思ったんです」


一度、その想いを持って「右京じかん」の編集部に話を聞きに行ったところ、制作スタッフを自分で集めなくてはならず、基本的に独立採算ということも知ったといいます。


「そのときは自分でスタッフを集められると思えなくて、断念しました。その後、西京区主催のまちづくり座談会のような場で、『西京じかん』を作ろうじゃないか、という話があったらしく、先代編集長から記事を書かないかとお声かけいただきました。折しも同じ想いをもっておられて、うまくマッチした感じでした」


こうして2016年の秋に、先代編集長のもとで創刊号の準備が始まりました。


創刊号コンセプト(画像提供:西京じかん編集部)



一度取材したら別の取材先を紹介されることの連鎖で「取材ネタが尽きない」

スタッフはそれぞれに本業をもっているため、全員がいっぺんに集まることは少ないそうです。

「基本的に在宅で作業しています。必要なときに呼んで、来られる人と一緒に取材にいきます」


たとえば「西京じかん」の1ページ目にある「まちかど笑顔図鑑」は、地元のイベントやお店を取材するため、身近な人の情報が大事なので、地元をよく知るママさんスタッフに取材をお願いすることが多いといいます。


その次のページにある「西京たからもの図鑑」は、阿部さんが自ら取材・執筆しています。圧巻なのは、毎号左ページに掲載されているイラスト。阿部さんが描いていて、失礼ながらフリーマガジンに載せるのがもったいないほどのクオリティです。


西京じかん第10号より かつて市内を走っていた路面電車が保存されている「でんしゃ公園」のイラスト



西京じかん第10号「でんしゃ公園」に保存されている電車の中(画像提供:西京じかん編集部)


「絵の制作に集中するため、編集作業が済んでから校了までの3日間くらいで描きます。編集作業が残っていると気が気じゃなくなってしまうので……(笑)」


全16ページの中に、地元の情報がぎっしり詰まっている「西京じかん」。取材先はどうやって探しているのでしょうか。

「初めの頃は編集会議をやって、スタッフに『面白いところがあったら』という感じで、アイデアを出してもらっていました」


また、阿部さんは「西京じかん」を始める前から、京都市のまちづくり活動に参加していたこともあり、あるていどの人脈もできていました。


やがて号を重ねるにつれて「西京じかん」の存在が知られてくると、読者から情報が寄せられるようになってきたそうです。

「親切な方が、FAXとかメールで『こんな場所があるよ』って教えてくださったり、取材対象の人から『こんな人がいるよ』と紹介してくださったりして、どんどん広がって取材ネタは尽きないですね」

ときには「取材してくれませんか」と、自ら連絡をくれる人もいるとか。


西京じかん第4号「西京たからもの図鑑」より、西京区内に唯一残る銭湯「桂湯」の風景(画像提供:西京じかん編集部)



紙媒体ゆえの悩み。校了ギリギリに取材が入ることも

「取材は、基本的に2人1組です。インタビューをする係と、写真を撮る係に分かれます。両方を1人でするのは大変なので」

専属のカメラマンがいるわけではなく、2人のうち撮影の得意なスタッフがカメラマン役になるといいます。


「飲食店やスポーツ関連の取材では、できるだけそのジャンルが得意な人が来られるタイミングに合わせて、取材のアポを取るようにしています」


また、紙媒体ゆえの悩みもあるようです。「西京じかん」は3月末と9月末の年に2回発行されます。次号までに半年あるためゆっくり進行できるかと思いきや、現実はなかなか厳しいといいます。


西京じかん第5号「西京つどいびと」より、「啄木舎」にて自作チェンバロを弾く様子(画像提供:西京じかん編集部)


「春号を3月末に出すとしたら、年が明けた時点で3分の1くらいは作業が終わっているのが理想なんですが、なぜか毎回そうなりません。また校了ギリギリに、いい取材ができそうなタイミングが重なることもあります。それを取材して、すでにあがっている原稿を整理して、取材対象者に確認をとってといいう感じでいろいろなことを同時に進めるから、ドタバタしますね。夏だと8月に面白いイベントが重なることもあって、頑張って9月末に出す秋号に入れるか春号にまわすかの判断も難しい」


西京じかん第6号「春日神社の茅の輪くぐり」より茅の輪制作風景(画像提供:西京じかん編集部)



認知度が上がってきて「最新号はまだですか」と声をかけられることも

「西京じかん」は区内の店舗、区役所などの公共施設、鉄道の駅などに置いてもらい、訪れた人が自由に持ち帰ることができます。


「頼み込んで、置いてもらっています」

設置してくれる多くの場所があって始めて成り立つ活動のため、現在の「まちかど笑顔図鑑」のページは、「西京じかん」を置いてもらっている店舗を紹介されているそうです。


「誰かが配ってくれるわけではないので、最新号が出たら自分でスーパーカブに乗って、それぞれのお店へ配ってまわります。その道すがら、新しく開店したおしゃれなお店を見つけたら、日をあらためて訪問して『「西京じかん」を置いてもらえませんか』『取材も受けてもらえませんか』とお願いしています」


西京じかん第8号「バナナの旅」より(画像提供:西京じかん編集部)


「西京じかん」を置いてもらっている店舗は、現在約230店舗あるそうです。


「発行部数は1万部です。洛西に住んでいるメンバーが洛西地区を中心に3000部持っていってくれていて、残りを私が樫原(かたぎはら)、桂、松尾、嵐山へ配っています。西京区外・京都府外にもいくらか配布しています」


2017年に創刊して、今年3月末に最新号のVol.13春号が発刊された「西京じかん」。楽しみに待ってくれている人も増えたそうで、3月末と9月末が近くなると、「最新号はまだですか」と声をかけられることも。


「初めのうちは置いてもらうだけでありがたかったのですが、だいぶ認知されてきた感じです」 



取材先で人の縁を実感したエピソードもある

地域に密着した取材活動の中で、人の縁や繋がりを感じるエピソードにも出会います。


阿部さんは、とあるコレクターのご自宅を訪ねました。学術研究にも有用なコレクションが豊富にあって、実際に研究者が訪れることもあるそうです。


そこへ足しげく通う小学生がいて、専門知識を深めているとのこと。 コレクターも子供の頃、その分野で高名な先生の自宅へ通い、貴重な資料を見せてもらっていたとか。 2人の出会いは偶然かもしれませんが、筆者は地域密着型の情報誌だからこそ出会えるエピソードだと感じました。 


西京じかん原画展2022開催の様子(画像提供:西京じかん編集部)


ところで、「西京じかん」に携わるようになってから、阿部さんの中で地元に対する意識に変化はあったのでしょうか。


「西京区内には素敵なお店がたくさんあって、より大事にしたいと思うようになりました。『まちかど笑顔図鑑』のページは、以前は区内で開催されているイベントで出会った人たちの笑顔の紹介もしていたんですが、コロナの流行があってからは『西京じかん』を置いてくださっているお店の紹介にシフトしました。西京区では新しく開店する個人商店が増えているのですが、私も含め、住んでいても地元のお店を知らない、あるいは行ったことがない人たちが意外と多いので、むしろ良いんじゃないかなと思います」



「西京じかん」を継続することで街も人も少しずつ変わるもの

本業のデザイナーとして勤めている会社はフレックスタイム制のため、比較的柔軟に「西京じかん」に携われるという阿部さん。


「朝は『西京じかん』に割くことが多いです。取材が多い時期はフレックスのコアタイムがすぎてから、また『西京じかん』のために動くこともあります。副業ありきで転職していて、『西京じかん』に長く時間を取られそうなときは、前もって予定を調整しておきます」


継続が難しいといわれるフリーマガジン。「西京じかん」は、今後どのような展開をみせてくれるのでしょうか。


「続けることに意義があると思っています。西京区を紹介する媒体があることを楽しみにしてくれている人もいますし、続けることで取り上げられる人がどんどん増えていく。記事を読んだ人が、たまたま知人をみつけて『西京じかんに載っていたね』って声をかけられたら、載った人も嬉しいですよね」


西京じかん_第10号「樫原本陣さんお宝発掘会」より(画像提供:西京じかん編集部)


「『西京じかん』はできるだけ、細く長く続けたいです」


ちなみに、今回阿部さんをインタビューした場所は、樫原にある京都市指定有形文化財の「玉村家住宅・樫原本陣」。江戸時代には、参勤交代の大名が宿泊する本陣だったそうです。一度火災に遭って焼失しており、その後建て替えられてから200余年というお屋敷です。


その一角を「西京じかん」の事務所として今後継続して使っていくそうで、ここを足掛かりにしたアイデアもいくつか考えているとのこと。


「フリーマガジンをつくりたい人を対象にした、フリーマガジン講座をやれたらいいかもですね。この場所もそうですが、これから広報に力を入れていきたいお店や団体を手助けするような仕事とか。それらを事業として続けれられる状態にしたいです」


「樫原本陣」には昭和レトロな道具も保管されている


最後に、観光で京都を訪れる人へメッセージをいただきました。


「西京区を知らないと、何もないと思われがちなんですけど、同じ京都市内なので、何もないことは絶対にないんです。魅力を伝えるツールがちょっと少ないだけで。西京区、西山エリアにも長い歴史とともに築かれた文化圏があって、寺社仏閣もたくさん残っていて、名産品や土地の生業もあって、面白いお店もたくさんあって。それらを今まで繋いで守ってくださっている人たちがたくさんおられますから、できるだけ多くの人に知ってもらえたら嬉しいです」


ガイドブックに載っているエリアは誰もが足を向けるから、どうしても混雑しがち。インバウンドも、また増えてきました。静かな京都を味わいたいなら、西京区、西山エリアがお勧めとのことでした。


※「バックナンバーをご希望の方は、WEBサイトのお問い合わせからご連絡ください」とのこと。




■ 西京じかん


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