アフロヘヤーにニコニコ笑顔。そんな佇まいが印象的な若者が、今、香川県丸亀市で日々奮闘しています。「馬場商事」代表・馬場健誠さん、25歳。


「僕の人生は今、ドラクエの主人公みたいなんですよね。いろいろな人と繋がって、そうして場ができて。それが結果的に「まち」になるのかもしれませんね」


ただ、そんな勇者は実は人間臭くて、人情派。馬場さんがこれまで続けてきた冒険、またこれからの旅路について伺うと、彼自身の想いや事業にかける熱意、そして丸亀というまちに対する愛着が見えてきました。

馬場商事・入口


※ドラクエ:ロールプレイングゲームシリーズ『ドラゴンクエスト』の略称。どのシリーズでも概ね、主人公である「勇者」が冒険の中で仲間と出会い、切磋琢磨しながら旅を進めるというストーリー展開になっている。 



「家や事業所を選ぶ」に関わるということ

冒険の勇者こと馬場さんのメインの仕事は何と言っても丸亀市を拠点とした不動産業。馬場さんのおじいさまの没後は廃業していた「馬場商事」を2021年に復活させ、家屋や事業所などの不動産の仲介を行っています。


そんな不動産業というお仕事について 「家を選ぶ、売るって人生においては本当に大きなイベントじゃないですか?商売をする事業所を選ぶなんていうのも同じくで。特にビジネスは場所によって、その商売がうまくいくか否かさえ変わってきますしね」 とアフロヘヤーからは一見想像もつかない真面目なトーンで語る馬場さん。


ただ馬場さん自身は昔から「根は真面目」というタイプの人間らしく、その証拠に小学生時代に毎日書き留めたという連絡帳を見せてくれました。



小学生時代の連絡帳。今でも馬場商事の事務所で大切に保管している。


もっともこのアフロヘヤーもとにかく面白いことにチャレンジしたいという気持ちが大部分を占めているとはいえ、そこには「広告費をなるべく掛けずにまちの人に認知してもらうため」という戦略的な側面も隠れていると言います。


そのおかげか馬場さんからは 「家や事業所を選ぶといった人生において大事な場面に関わるという仕事は、本当に根っからのチャランポランでは務まらないと思いますね。だから、この仕事はたぶん僕に向いてると思います」 という鋭く、そして仕事への熱意も垣間見えます。



お客様も「みんな」の1人

こうして今、香川県丸亀市にて不動産業で勝負する馬場さん。では、そもそも馬場さんという人間はいかなる方なのでしょう。


馬場さんとお話をしていると、何度も何度も「みんな」という言葉が出てきます。「みんなで集まる場所を作りたい」「みんなあっての僕なんです」と。そのせいか、馬場さん自身は自分について 「結局、僕は超寂しがり屋さんなんですよね」 と語るほど。そのうえ、一人の経営者として時には孤独に事業と向き合う時間も必要とはいえ、それはあくまで「みんな」と過ごす時間があってこその話だと付け加えてもくれました。


「お客様も一度会ったら、友達になりたいと僕は思っています」


きっと馬場さんにとっては、日々のお客様たちも「みんな」のうちの1人。だからこそ、そんな友達への物件紹介は、一般的な不動産探しとは大きく様相が異なります。


「『このお客様とあそこの大家さんやったら、気が合うやろな』なんてことはよく考えますね。たとえば先日も、DVから逃げてこられたというお客様や親子関係が上手くいかず一人暮らしを始めるという方がいらっしゃって、そうした方々にはとっても情に厚い大家さんの物件を紹介させていただきました」


一般的もしくは大手の不動産屋ならセンシティブすぎて首を突っ込まないというお客様の身の上話。ただそこを聞き出すからこそ、本当に最適な物件を紹介できるはず。そのため、馬場さんは「お客様と物件」という相性のみならず、「お客様と大家さん」のマッチングも不動産屋として気にかけていると言います。


挙句の果て「ウチの場合はここでお客様の恋愛相談に乗ることもあるんですよね」 と照れながら語る馬場さん。ただそのはにかみの裏には、一歩踏み込んだ話になっても空気を壊さないようにする工夫もあります。たとえば、打ち合わせ場所としてカウンターではなくL字型に配置されたソファスペースを活用したり、話しやすいムードを作る音楽を流してみたり。


この「みんな」が集まる商談スペースには、馬場さんの心配り、そして事業者としての心意気が隠されているのです。


馬場商事・商談スペース。右手のソファにお客様を案内しているとのこと。



祖父の遺伝子が宿る孫

この「みんな」が集う状況は、先代であるおじいさまの時代から受け継がれている馬場商事の雰囲気でもあります。


「おじいちゃん時代の馬場商事は、本当に色んな意味で『グチャグチャ』でした。事務所は物だらけで整理されていない。またお客様もグチャグチャで、どこの不動産屋さんで相手にしてもらえなかった生活保護を受給されている方やホームレスの方もよく来ていましたね」


生前のおじいさまは、とびきりの情が熱い心の持ち主。馬場さん曰く、おじいさまは「どうにもならん人をどうにかしてた人」。その思いやりは河川敷に捨てられた犬や猫にも向けられるほどだったと言います。そのため、孫時代に入った馬場商事にも、ときおり当時の馬場商事を求める方々がやってくることがあるそうです。


「少ないとはいえ、そうした生活に苦しむ方がいらっしゃったときは、僕もおじいちゃんのようになんとか『どうにかしています』」


おじいちゃんのスピリットは、どこかで受け継いでいきたい。ここにもまた彼の「みんな」を大切に思う気持ちを感じることができます。


おじいさま時代の馬場商事(写真提供:馬場健誠)



ワクワクは「誰もトライしない」に宿る

こうして丸亀の「みんな」の相談に乗る馬場さん。


ただ、もともと馬場さん自身は、人生で自分が不動産業を営むとは全く考えていなかったと言います。事実、大学卒業後、東京で海外赴任を希望し入社したのは人材紹介の会社でした。ただ一方で、入社後すぐから新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい始めます。そして、コロナ禍が理由で勤め先の海外展開も取りやめになってしまいました。


当時はまだまだコロナが世界に広がり始めた2020年。大学時代も英語サークルで代表を務めていただけに、海外で働きたいと強く意気込んでいた馬場さんは、その可能性が閉ざされてしまったこと、そして海外事業再開の見込みが立たないことを理由に会社を去ったと言います。


そして、次に選んだのが、まさかの地元丸亀市での不動産屋としての起業。あれほどまでに海外に憧れていた若者がなぜここまでローカルともいえる仕事を選んだのでしょうか。


「僕にとっては、この地元での起業が誰もチャレンジしないであろう挑戦だったんです」


馬場さんにとって、最もワクワクするのは「誰もトライしない」に出会ったとき。当時の馬場さんにとって、東京の会社に居残り、海外行きのチャンスを待つよりも、地元に帰って新たなビジネスを生み出していくこと方が、大きな好奇心を覚えたと言います。


とはいえ、大学時代に不動産について学んだこともなかった馬場さん。それでも当時の馬場さんには「不動産業での仕事なんて考えたこともなかったので、これはこれで面白そうだな」と不安さえもがワクワクになっていたそうです。



誰かの転機・きっかけを提供する

他方で、人材紹介業への志、そして不動産業へのチャレンジには双方に通底する馬場さんの想いがあります。海外で働きたかったとはいえ、そもそも人材紹介業を志したのは「人の転機に関わる仕事がしたい・誰かの人生を楽しくするきっかけを提供したい」という気持ちから。不動産業もまた、住む場所を決め、働く場所を考えと人生における転機を迎えようとしている人々をみつめます。


それは馬場さんの先の言葉を借りれば「人生において大事な場面」に他なりません。だからこそ、誰かの人生の転機・きっかけになる不動産業という仕事もまた馬場さんにとっては海外でのチャレンジと同じくらい、いやそれ以上に大きなやりがいがあるようです。


そして何より彼自身もまた自分自身以外の誰かに人生のきっかけを与えてもらった1人。


「大学時代のとある先輩は常にハッピーという人で、何度も『大丈夫、大丈夫。いける、いける』と声を掛けてくれました。今はその先輩のおかげもあり、僕自身が先輩のようにいつもハッピーでいれば、僕に影響を受けてくれる人も居るのではと思っています。次は僕が誰かのきっかけになれればと」


だからこそ、彼にはやはりアフロへヤー以上に笑顔が似合うのかもしれません。


馬場さん自身はもちろん、事務所からもハッピーで遊び心に溢れた雰囲気が感じられる。



出会いを生み出す秘密基地PROJECT

そんな馬場さんが不動産業の常識を超えて挑戦していること。それは、丸亀市内のボロボロの古民家を活用した「僕らの秘密基地PROJECT」です。


「古民家って実は仲介や売買してもあまりお金にはならないだけに、多くの不動産屋は取り扱わないことが多いんです。それならば、逆に僕はトライしたい。価値がないとされていたものに、価値が付くってワクワクするじゃないですか」


馬場さん、そして馬場商事が掲げるポリシーは「みんなで一緒にバカなことを」。多くの不動産業者から見れば馬鹿げたチャレンジだとしても、それでいい。そして何より、このプロジェクトには多くの「みんな」に参加してほしいと言います。


僕らの秘密基地PROJECT・イメージ(画像提供:馬場健誠)


ただ一方で、そこはやはりクエストの主人公たる所以なのか、馬場さんは謙遜も忘れません。


「色々言うけれど、僕に何ができるわけでもないんですけどね。デザインもできない、こまめな事務作業も苦手。僕にできるのは『これ、やろうぜ!』って旗を揚げ、そして心の底から『すまん、手伝ってくれ』と言うことだけなんです」


秘密基地があれば、様々なスキルや自分なりの「好き」を持った人が集まるかもしれない。そうした人々が自然と手を取り合い、互いの弱点を補っていく。それが延いては、人生におけるきっかけや転機になるのではないか。


「実はというと、香川に戻ってきたとき、僕はひとりぼっちでした。それでも様々な出会いがあって、その人たちのおかげでなんとか楽しみながらここまで来れた。だから、誰しもが所属できるコミュニティを提供できれば、多くの人の人生は楽しくなるんじゃないかなと思っています」


人々の出会い、そしてそのきっかけを生み出す。それこそが、この秘密基地プロジェクトの根幹にはあるようです。


秘密基地PROJECTの他、ホットドックの販売等の企画も不動産業の垣根を超えて行っている。



このまちで見届ける人生の変わり目

「みんな」を愛し、様々な難題に挑戦する日々。加えて取材の最後には、「みんな」についてだけでなく、自分のまちに対する想いも語ってくれました。


「こっちで商売を始めたことで『まいど』なんて言える人が増えてきた。そのせいか、商売を始めてからの方が、自分のまちをより好きと思えているかもしれません」


もっとも地元丸亀をどうにかしたい!なんて考えている訳ではないという馬場さん。それでも、事業を通じて出会った人々のおかげで、このまちを面白くできればと思うようになってきたとのこと。「みんな」と一緒に面白いと思えることを続けていく。そのような輪には、また新たな人が集う。そうしたことの積み重ねこそが、「まち」なのではないかと馬場さんは語ります。


そして何より馬場さんには 「誰かの人生が楽しくなるきっかけを作りたいというのは、ずっと変わらない」 という信念がある。つまり、目の前で人生の変わり目を見届けるということ。そのような馬場さんだからこそ、「みんな」を愛するだけでなく、その「みんな」が集うまちにも愛情を向けられるのでしょう。


さて、取材を終えた筆者は、馬場さんがこのクエストの真の勇者となったとき、馬場さんは手の届かない存在になってしまうのではないか?と勝手に「みんな」の不安を想像しています。


ただ一方で、本物の勇者は住民Aのような雰囲気で、ひっそりそのまちの中に溶け込んでいるのかもしれないとも思えてもいるのです。


なぜなら 「これから色んなことにトライしていきたいとはいえ、究極的には、近所の子の自転車を修理してあげられるような「まちのお兄ちゃん」でありたいんです」 とその勇者が語るので。




■ 馬場健誠さん

1997年、香川県丸亀市生まれ。京都産業大学を卒業後、東京にて人材紹介業を行う企業に就職。その後、丸亀市で不動産の仲介・売買を扱う馬場商事を起業。現在は本業の傍ら、まちのコミュニティづくりにも精を出す日々を送っている。ちなみに馬場商事の設立記念日は「ババ」にちなんで8月8日。


Instagram

@baba.shoji


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@25_moca



■ 馬場商事


住所

〒763-0022

香川県丸亀市浜町25-1


電話番号

0877-22-8078