映画はいつの時代も私たちに感動・驚き・悲しみ・笑いなど、多くの感情を与えてくれます。映画館で映画を観ることは趣味という方も多いのではないでしょうか。しかし映画作品には夢中になっていても、なかなか館内の造りを注意深く見ることは少ないでしょう。


今回ご紹介する、広島県広島市の中心地に構える「八丁座」は、百貨店である福屋八丁堀本店8階に2スクリーンを有した映画館です。館内を和で統一し、その世界観に引き込まれてしまう魅力はまさに、唯一無二の存在です。


八丁座の館長・戸川銀幕部長に、八丁座を設立した経緯・館内のこだわり・今後の展望について伺いました。



広島の中心地に設立した経緯


まず八丁座の戸川銀幕部長に、広島の中心地に八丁座を設立した経緯に迫りました。


「もともと、私たちは鷹野橋(広島の中心地から数キロ離れた場所)で長い間運営をしていました。その当時は中心地にもたくさん映画館があったんですが、時代の流れとともに映画館がなくなっていきました。街中に映画館がないと寂しいねと話し合い、せっかく敷地もあるので八丁座を立ち上げました」


こうして八丁座は、2010年11月26日に設立されました。映画館がなくなるという経験は、人々にとっての楽しみが一つなくなるということ。街の映画館が減っていく現代で、八丁座は人々に喜び・楽しさ・感動を提供する、救世主だと感じました。


そんな八丁座は「和で統一された、唯一無二の映画館」。他の映画館にはないこだわりがたくさん詰まっています。館内に入った瞬間から、目に入る和の世界観に魅了されること間違いなしです。




こだわりの館内は、江戸時代の芝居小屋をイメージ

館内のイメージは、江戸時代の芝居小屋。江戸時代は、街の人々が気軽にお芝居を楽しんでいた時代です。八丁座には「江戸時代のように、現代の人にも気軽に映画を楽しんでほしい」という想いが、込められています。


館内のデザインは、広島出身の美術監督・部谷京子(へやきょうこ)さんが担当されたそうです。 劇場内の後方に吊るされている提灯は部谷さんによって紹介された、東映京都撮影所のスタッフの方が制作したもの。


ずらりと並んだ提灯。 江戸時代の芝居小屋の雰囲気が感じられますね


館内はこだわりが詰まっていますが、その中でも特にこだわっているところは座席だそう。広島県の木工家具メーカーである、株式会社マルニ木工が手がけています。


戸川銀幕部長は「主役はお客様なので、椅子は特注で作っています」と話し、「人々に、ゆったりリラックスして映画を楽しんでほしい」という想いが込められています。


フカフカの素材にゆったり幅のあるシートは、映画を見るには最高の居心地の良さを提供してくれます。実際にお客様からも「他の劇場にない椅子で、座り心地が抜群」と評判も良いのだとか。


リラックスできる座席に楽しい映画。日常とは違うひとときが楽しめそうですね。



広島らしさも取り入れて唯一無二に

館内には「広島らしさ」も取り入れられています。


広島の特徴を顕著に表してるのが、劇場に続く扉。この扉は、日本の映画製作を行っている東映株式会社で京都撮影所を担当されている方が制作されました。


広島県にある樹木・モミジをイメージして描かれていて、館内に入って奥に進んでいくほど、モミジが紅葉していくデザインになっています。金屏風に描かれたモミジの絵は、見る人に安らぎを与えてくれ、八丁座ならではの存在感のある扉です。


また、お手洗いにも細かいこだわりが。男性を「殿」、女性を「姫」と称した行灯が吊るされていて、江戸時代を彷彿とさせます。


そして、洗面ボウルは、宮島焼という焼き物が使われています。宮島焼きはシンプルかつ清楚な雰囲気をもち、宮島にある厳島神社参拝の縁起物として焼かれたものです。


広島の特産品も取り入れることで「広島にある唯一無二の映画館」という誇りを感じられます。



個性的で細かなおもてなしにも注目


現代の映画館は、デジタル化が進み、ディスプレイ表示が多くなっています。しかしながら八丁座では当日上映される映画のタイトルは毎週手書きで書いているそうで、迫力のある白い文字で書かれた看板にも注目です。


また、映画を見ながら何かを食べることも映画観賞の楽しみでありますが、フードメニューにも特徴があります。


なかでも筆者が驚いたメニューは、館内でてまり寿司が食べられるそうです。見た目もとてもかわいいてまり寿司は、とても人気があるそう。取材でお邪魔したときも、いい匂いがしていました。和の空間で、てまり寿司を食べながら映画を見られる経験は、他の映画館ではあまりできないのではないでしょうか。


さらに特徴的な点は、客層が老若男女問わず訪れる一般的な映画館に比べると、八丁座の年齢層は高めとなっています。それは八丁座が、広島県を代表するデパート・福屋内に位置しており、福屋の客層が影響しているといえるでしょう。また、デパート内に建物がある環境上、男女比は女性がやや多いそうです。買い物も映画も楽しめる環境は、とても魅力的ですよね。


映画を見たお客様は、実際にスタッフに「とても楽しかったよ!」と直接声をかけることもよくあるそうです。お客様がスタッフに声をかけやすい理由として、戸川銀幕部長は「スタッフも映画が大好きだからではないでしょうか」と話します。スタッフとお客様、映画好き同士で話が弾んでいる様子も珍しくないのだとか。スタッフの皆さんが、映画が大好きで詳しいからこそ、お客様もつい映画の話をしたくなるのでしょう。


お客様との距離が近く、寄り添った、八丁座ならではの光景だと感じました。

 


上映でほとんどCMを流さない理由

驚くことに、八丁座では館内で企業・映画の予告編共に、ほとんどCMを流していません。流れているとしても、地元の企業のCMを流す程度だそうです。


CMをほとんど流さない大きな理由としては「映画の世界観を感じてほしいから」とのこと。今から見る映画と違うジャンルや雰囲気の映画のCMが流れていると、気持ちが薄れて、全く関係ない映画に影響されてしまう人もいるでしょう。そのようなことが起こらないように、映画の雰囲気に合わないCMは流していないそうです。


八丁座の心遣いが、人々により映画を楽しませてくれています。




来場者を増やすため新たな試みも

「コロナ渦になって2年が経ち、めっきり来場者が減ってしまった。なんとか以前のように来場者を増やすためには、若い層にも来ていただきたい」と戸川銀幕部長。


若い人に来場してもらうために、いまも試行錯誤をしているのだそう。


そのような中で、2022年から夜のみ音楽系の番組を上映する試みが行われています。お客様のニーズを考え、ピッタリ合う番組を上映すると、長蛇の列ができるほど人気になることも。「ファンがいるジャンルの音楽番組を上映し、良い反応もかえってきている」と話す戸川銀幕部長の表情からは、確かな手ごたえが感じられました。


「我々もいろいろと勉強して、若い客層を増やしながら活性していきたい」と最後に熱い意気込みを語っていただきました。


広島にある唯一無二の映画館で、特別なひと時を過ごしてみませんか?




■ 八丁座


公式HP

johakyu.co.jp


住所

広島県広島市中区胡町6-26 福屋八丁堀本店8F 


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八丁座


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