「お客様が喜ぶコンテンツ作りや、接客レベルの向上は常に心がけている」と語るのは、自動車販売をメイン事業とした株式会社ファミリーを営む、吉田正さん。
岐阜県可児市と各務原市で2店舗を展開しながら、コインランドリーやフィットネスジムなども運営しています。
吉田さんは2代目社長であり、先代の社長は吉田さんのお父様。しかし、先代社長が進めてきた事業内容から大きく路線変更しながら、会社規模を拡大してきました。
2006年に先代社長から吉田さんが会社を受け継いだ時、従業員は9名。そこから現在は、200名近くもの従業員を抱える会社に成長させたのです。
そんな吉田さんに、お客様の満足度向上のためにどのようなことを考え、実行してきたのか、話を聞きました。
豊富な在庫車が揃っている
従業員に振り向いてもらうため、登録済軽・未使用車専門販売を開始
吉田さんが社長を務める株式会社ファミリーは、登録済未使用車の販売が事業の中心。登録済未使用車とは、走行距離が100キロ以内・登録期間が1年以内の中古車のことです。届出済未使用車は故障の心配が少なく、車検も2〜3年残っています。
さらに、新車よりもお値打ちです。株式会社ファミリーは登録済未使用車の中でも、軽自動車の販売に特化した戦略で、創業以来事業を拡大してきました。
吉田さんが軽未使用車専門販売を始めたのは、従業員に振り向いてもらうためだったといいます。お父様から会社を引き継ぎ、吉田さんが社長になったのは26歳の時でした。
「当時9名の社員がいましたが、全員が先代社長の方を向いていました。私の言うことを、誰も聞いてくれない状況です。『私の方を振り向いてもらうためには、結果を出すしかない!』と思い、当時全国的にトレンドだった軽未使用車専門販売に手を出しました」
吉田さんが社長に就任した1年後の27歳の時、軽未使用車専門販売へ舵を切ります。軽未使用車専門販売で業績を伸ばしていた業者に訪問し、ノウハウを吸収。他の会社で勉強したことを応用して自分の会社で試し、徐々に会社規模を拡大していきます。
自動車に興味が持てず、8ヶ月で専門学校を退学
現在は自動車販売会社を経営している吉田さん。しかし学生時代は、自動車にそこまで興味はなく「あの車の見た目がかっこいい!」と思うことはありましたが、自動車にそこまで興味はなく「車の構造を勉強したい!」とは思わなかったそうです。
「高校を卒業して整備士の資格が取れる学校に入りましたが、8ヶ月で辞めてしまいました。『家業を継ぐ可能性が少しでもあるなら、資格を取っておいたら?』という、両親の勧めから、専門学校に入学。しかし、車のメカニズムに全く興味が湧きませんでした。さらに『自動車のすべてを学びたい!』という熱い想いを抱く同級生たちとも、話が合わなかったです。なので、すぐに学校を辞めてしまいました」
それでも吉田さんが自動車販売会社を経営しているのは、仕事自体を好きになったからです。お父様から会社を受け継いで、試行錯誤しながら仕事をすると、次第に商売が好きになったといいます。
普通車専門店とガソリンスタンド
トレンドが移ることを考え、普通車の未使用車専門店をオープン
株式会社ファミリーは軽自動車のみに特化しているのではなく、普通車の未使用車専門店も運営しています。
軽自動車の未使用車専門店をオープンした時は、トレンドが軽自動車でした。しかし、今後は普通車がトレンドになる可能性を考慮し、普通車の専門店オープンを決めたのです。
「今後、トレンドが普通車に移ることは十分に考えられます。普通車と軽自動車の税金や、保険代も変わらなくなってきています。さらに、普通車市場へ電気自動車の普及も進むでしょう。普通車のトレンドが来る時に備えて、軽自動車と普通車のどっちにも強くなっておきたいです」
健康に特化し、忙しい人を手助けするユニークな車屋
可児店と各務原店には、カフェとフィットネスジムが併設されています。これらが併設されている理由として、株式会社ファミリーは「健康に特化した車屋」がコンセプトであるからです。
「カフェでは、健康に良い商品を提供しています。チアシード入りの米粉ワッフルや、生野菜や果物をブレンドしたスムージーが人気です。さらにフィットネスジムで体を動かして身体能力の低下を防げば、お客様は健康になり、さらに運転寿命も伸びると考えています」
カフェの従業員たち
また可児店は、コインランドリーも併設しています。共働きの家庭が増えるなど、時間がなくて悩む人が増加傾向です。忙しい人たちを少しでも助けるため「待ち時間を有効活用してほしい」という、吉田社長の配慮があります。
「可児店の向かいには、ガソリンスタンドもあります。アプリ経由でクーポンを配布するなど、地域最安値でガソリンを販売中です。ガソリンスタンド運営に必須の資格は社員に取ってもらい、SNSなどを使ったPRも社員に任せています」
日頃の感謝を伝えるため、お客様感謝祭を毎年開催
毎年、出店やダンスステージなども用意したお客様感謝祭を開催しています。1日に2,000人〜3,000人が来場する、地域の人気イベントであり、事前にDMで配布した抽選券を使用して、景品付きのくじ引き大会も行われます。
「お客様へ日頃の感謝を伝えたいと思い、感謝祭を開催しています。今までは弊社可児店で開催しておりましたが、年々規模が大きくなってきました。そこで2023年10月の感謝祭はナゴヤドーム約2個分の公園を借りて、開催予定です。これからも規模が大きくなってきた時に、地域で一番大きな祭りにしたいと思っています」
社長就任後3年は資金繰りで苦労し、黒字倒産の危機も迎えた
現在は200名近くの従業員を抱え、様々な事業に進出している株式会社ファミリー。しかし吉田さんが社長に就任した最初の3年は、資金繰りで大変苦労したといいます。
「『軽未使用車専門販売を始めよう』と思った時、既に始めていた会社を調べていました。すると、比較的小規模で事業をしている会社ばかりだったのです。なので、他の会社よりも在庫を増やして事業を行い、大規模な販売戦略を取ることで差別化を図ろうと思いました。しかし在庫を増やすには、相応の投資が必要です」
未使用車の在庫を揃えるためには、中古車よりもお金がかかりますが、お客様からの入金は納車をするまでもちろんありません。しかし、店舗に在庫車がないと集客はできないため、ディーラーには支払いを行う必要があります。
「社長に就任して1〜2年目の時だったので考えが甘く、在庫金額分の借り入れができれば良いと考えていました。しかし実際には、在庫金額の3倍以上を用意しないと円滑に経営できないことがわかったのです」
車は売れて黒字が出ているのに借金が支払えず、黒字倒産の危機を迎えたといいます。しかし吉田さん自身の資金を使ったり、銀行に1度断られても再度融資のお願いをしたりして、なんとか危機を乗り越えます。
経営理念が掲げられている
「家族ならどうする?」がマニュアルを超えたサービスを生み出した
株式会社ファミリーの経営理念は「家族ならどうする?」です。この経営理念は、社名から思い浮かんだといいます。
この経営理念を決めた当初は「お客さんと家族ぐるみの付き合いをする」といった意味合いでした。しかし今はこの経営理念が、社員全員の行動指針にもなっていて、ある時マニュアルを超えたサービスを生み出したのです。
「言葉が喋れないお客様がご来店され、筆談でお車の契約をされました。納車を迎えた日、そのお客様を担当していた社員が覚えてきた手話で会話をしていたのです。そういったマニュアルは、存在しません。しかし『家族ならどうする?』といった視点でお客様との関わり方を考えた結果、マニュアルを超えたサービスが生まれたと思います」
また株式会社ファミリーの社員は、業務を上手くこなせない社員に対しても「家族ならどうする?」の経営理念に基づいた関わり方をするといいます。
例えば、自分の子供が自転車に乗れなくて悩んでいるのに、家族なら放っておくことはしません。褒めたり、厳しく接したりしても成果が思い通りに出ない社員には「家族ならどうする?」を念頭に置いた、一人一人の個性を生かす指導方法が効果的だといいます。
「お客様の声」から生まれたサービスがあることがわかる
社員発信で始めた取り組みの1つが「お客様の声」の掲示
吉田さんにとって仕事のやりがいは、社員の成長だといいます。社員自らが、お客様が喜ぶようなサービスや仕組みを提案して実践してくれることに、幸せを感じるようです。そのため、社員が自由に仕事ができるような環境づくりを心掛けています。
「店舗の壁には『お客様の声』を貼っています。この取り組みは、社員発信で始めたものです。お客様にアンケートを取り、お客様にいただいたご意見と、ご意見に対する回答を見える化しています。『お客様からの意見を取り入れたサービスを作ろう!』という社員の気持ちが感じられて、嬉しいです」
「お客様の声」を見ると、株式会社ファミリーにとってプラスの意見だけでなく、マイナスな意見も掲載しています。しかし、マイナスな意見を修正した取り組みがセットで紹介されているのです。
よって、お客様の意見を取り入れたサービスが店舗内の随所に見られ、お客様が店舗に来やすくなる雰囲気があります。
マーブルタウンの時に作成したフラッグ
地域の子供のため、定休日にマーブルタウンを主催
吉田さんは、地域の子供たちへのキャリア教育にも力を入れております。
取り組みの1つとして「マーブルタウン」があります。マーブルタウンとは、小学生の子供たちだけで作り上げる、仮想都市です。
まず子供たちは自身で職業を決め、そこで働くと「マーブル」という通貨がもらえます。例えば、おもちゃ屋さんと職業を決めたら、自分で作ったおもちゃを売って、マーブルをもらうのです。もらったマーブルの20%を税金として納め、投票で選ばれた大臣が税金の使い道を決めます。
基本的にマーブルタウンは子供たちだけで運営され、大人が関わってはいけません。マーブルタウンによって子供たちが自分の頭で考えて、自分で物事を選択できる力がつきます。
「マーブルタウンは年に一度、定休日に弊社の店舗で行います。いつも遊んでいる友達以外と絡んだり、早く社会を体験したりすることで、地域の子供には生き抜く力を育んでもらいたいです。私は元々『地域の子どもを立派に育てたい!』という願いから、学校の先生になりたいと思っていました。学力不足で先生になる夢は早々に諦めましたが、マーブルタウンを主催することで小学生に影響を与えられているのが嬉しいです」
「地域の子供たちが立派に育ってほしい!」という思いから、子供向けのイベントを主催している吉田さん。
さらに年に1〜2回、中学校に呼ばれて道徳の授業も行います。先生になれなくても、学生時代に抱いていた夢を叶えた姿に、筆者は感銘を受けました。
数々の表彰状
会員制度の充実と接客レベルの向上を目指す
吉田さんは今後「お客様が喜ぶコンテンツをどんどん増やしていきたい」といいます。
例えば、株式会社ファミリーで車両を購入したり車検を受けたりするとランクが上がる、会員制度の充実です。会員ランクが上がれば上がるほど、ファミリーのサービスをお得に受けられます。
「会員ランクが上がればガソリンを安く入れられたり、車両メンテナンス時の割引額が大きくなったりします。お客様には『ファミリーで車を買わないともったいない!』と思ってもらいたいです。そのためにも、車検の待ち時間などにできたら嬉しいコンテンツを、常に考えています」
常にお客様の満足度向上を目指している、吉田さん。会員制度の充実を目先の目標としながらも、接客レベルを今よりも高めていきたいと考えています。
そのためにも、月一程度で吉田社長も出席して、社内会議を行っています。
「『当たり前のことを当たり前にやろう』という言葉がありますが、人によって『当たり前』の定義は異なります。直近の会議では『当たり前』の認識を擦り合わせるために、社員同士で意見の交換を行いました。社員全員の接客レベルを上げるために、基準を擦り合わせる場は欠かせません」
店舗内の様子
これからも自動車販売だけにとらわれない
26歳で従業員9名の株式会社ファミリーを受け継ぎ、現在は200名程度の社員を抱える会社に成長させた吉田さん。さらに地域の子供達が立派に育ってくれることを願い、ボランティアで子供の成長を育む取り組みを行っています。
自分の事業だけでなく地域の発展にも取り組む姿に、筆者は心を打たれました。
これからも自動車販売を軸にして、お客様の満足度向上や地域の活性化にどのように取り組んでいくのでしょうか。吉田さんの活動から、目が離せません。
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