福島駅から徒歩8分ほどの場所に「La Uníon」があります。ここは飲食と宿泊の機能を備えた、旅人とまちが交わる場所です。


福島市出身のオーナー・伊藤さんは、4年半かけて世界71カ国を自転車で旅したサイクリストです。伊藤さんが自分の足で世界中を見て周った経験から成るものが、このLa Uníonの随所にちりばめられています。 


2階はランチ営業をメインとしているカフェスペースと、宿泊客のレセプションです。


こちらでは伊藤さんが旅先で出会ったという多国籍料理や、各国のお酒を楽しめます。ランチや夕食だけでなく、宿泊者の方には朝食付きのプランもあるのでぜひ利用してみてください。


日替わりランチ「ウイグル風エスニック肉じゃが」


さらに階段を登った先、3階は宿泊スペースです。相部屋のドミトリールームと個室があるので、利用シーンに合わせて使い分けができます。


男女混合8人部屋のドミトリー


ドミトリールームにはベッド一台ごとにカーテンが備わっており、プライバシーが心配な人にとっても安心なつくりです。個室はダブルベッドとツインベッドを選べるので、どの部屋に宿泊しようか選ぶのも楽しみの一つです。


館内からはシンプルで洗練された雰囲気とこだわりが感じられます。伊藤さんは以前、デザイン性と配色が人気の無印良品に正社員として働いており、客室にはどこか無印良品に通ずる空気感があります。


ツインベッドルーム


宿泊者にはLa Uníonオリジナルデザインの「ウニコイン」なるものが手渡されます。ウェルカムドリンクと引き換えに使えるコインで、館内のカフェスペースだけでなく、対象となる周辺の飲食施設でのドリンク注文にも利用できます。有効期限はなく、また2枚で朝食と交換できるので、再訪した際の楽しみにとっておくのもいいかもしれません。


La Uníon内での交流だけに留まらず、新しいお店との接点や福島での出会いにつながってほしい、という思いがこめられています。ウニコインをきっかけに、新たな視点で福島の地を楽しんでみてはいかがでしょうか。


裏面は福島の原風景をイメージしたデザイン


カフェスペースでは「乗っ取り」と称した飲食店とのコラボイベントや、レンタルスペースにしてワークショップを開催するなど、さまざまなイベントが不定期で行われています。最近では飲食店への間貸し営業も始まり、La Uníonはますますにぎわいを見せています。


現在間借り営業中のタイ料理屋「タラヤ」のカオマンガイ



La Uníonが担う役割

La Uníonにはいわゆるゲストハウスやホステルといった表記がありません。La Uníonはどういった位置付けの施設なのでしょうか。


「僕なりの考え方ですけど、ゲストハウスは滞在した施設内でのコミュニケーションに重きが置かれている場所で、ホステルは旅行者が安価で合理的に宿泊する施設かなと。La Uníonは性質的にはホステルのイメージです。宿泊者同士で仲を深めるのも大事なんですけども、うちはよそから来た宿泊者が、まちの人たちと関わりを深めていく場所にしたいと思っています」


福島の人と宿泊客とのいい循環を作りたいという理由から、たとえば宿泊者用のキッチンなど、施設内だけでものごとが完結するような機能は省いています。


カフェスペースについては、逆に地元の人がここに立ち寄るためにはどうしたらいいかを考え、交流のための仕掛けとして飲食の機能を備えました。


「まちの外から来た人がよそ者の目線で歩くことで、福島の魅力を発見してくれます。地元の人にとっては、うちらが住んでるとこは魅力があるいい場所なんだなあと気付くきっかけに。お互い再評価しあうような関係性になっていくのが、旅行者と地元の人との良好な関係なのかなと思っています」


「まちやどって知っていますか?うちはまちやどを目指していて」


まちやどとは、まち全体をひとつの宿に見立て、宿泊施設とまちの事業所とをつなぐ考え方です。たとえば、新しく作った宿泊施設に大きい風呂を設置するより、元からある地元の温泉に宿泊客を案内することが、宿泊施設、旅行者、まちの全てにとっていい影響があるというものです。


「福島市で考えると、うちがレセプション。自然体験をしたければ福島市内にある吾妻小富士に行ってくださいとか、文化体験したければ美術館があるよね、とか。例えば UFOに興味があればちょっとした面白スポットがあったりするし、温泉もあります。すでにあるものを結んでいく、まちの観光案内所みたいな役割を担いたいです」


今年導入したレンタルeバイク



LaUnionを作った理由

「今自分にできることって何だろう、自分がまちで担える役割って何だろう、と宿をやる前に考えました」


La Uníonが出来る以前、福島駅周辺にはいわゆるゲストハウスやホステルがありませんでした。旅行者がまちを知るための機会が生まれにくい状態だと考えていた伊藤さんは、自分が持っている強みを活かす道を考えました。


「宿に何が必要か、他の人よりはそういうところの肝が少しは分かっています。そしてまちには旅行者が滞在体験するための拠点がありませんでした。飲み屋でそういう滞在体験ができたとしても、終電が来たらそこでおしまい。 自分が担える機能と、まちに足りない機能をマッチングさせた結果が、この施設です」


アルゼンチン・パタゴニア地方最南部にあるパン屋の一室


「ただ、根本の根本の根本で言うと、僕が旅の中で長く滞在し、好きだなと思ったまちにはやっぱりいい宿があった、というのがシンプルな理由です」


伊藤さんが経験した中で、滞在したまちを知る糸口になったのは「宿」でした。 ここには何もないと言う福島の人が多いと感じる中で、何もないのであれば自分で作っていくしかない、という思いがあったそうです。


「自分は高校からずっと外に出ていました。地元の人間でありながら、ある種よそ者の目線を持っています。よそ者の視点で、僕自身もこの福島を再発見したり、再編集していけるかもしれない。La Uníonを通じて自分自身がこの福島を肯定していきたいというのもあります」



旅の経験は物件探しにも

「結局のところ、自分の足で稼いだっていうのは、やっぱり旅の経験が大きく絡んでいるような気がします」


La Uníonは現在、福島駅から歩いてほど近い場所にあります。実は元々別の場所を候補に考えていましたが、さまざまな事情が重なり、計画が一度振り出しに戻ったという苦い経験も。ネットで調べても希望通りの物件が見つからなかった伊藤さんは、ここでも旅の経験を活かし、行動を起こしました。


「ネット社会だとネットに正解が載っていると思いがちですけど、実はそんなことがなくって。自分の足で回った先に何かがあるというのを信じる心も大事なんです。だから僕は町を歩こうと思って」


伊藤さんはこの界隈をひたすら歩き、自らの足で物件を探しました。この街の繋がりを見ながら候補地をあげていき、結果として現在の物件に決まりました。予定とは違う場所になりましたが、伊藤さんにとっては思いがけない出会いとなったそうです。


「ここは銀行街や県庁、繁華街とのグラデーションの境目のところで、まちのへそのような場所。そして元々は青年会議所だったビルなんです。地元をよくしていこうという人たちが使い、ずっとこのまちを見守っていた物件に出会えました。最初の物件とご縁が生まれず、自分自身で探した場所でしたが、ずっと大事にされてきた建物に出会えました。結果としてここに決まって良かったです」


自分の足で渡り歩いてきた伊藤さんだからこそ、巡り合うことができた場所なのだと感じました。 



タコスに救われてきた旅から得たもの

「極端な話ですけど、僕は“ポジティブな気持ちで作ってないタコス” に救われてきたんですよ」


La Uníonを作るきっかけをお伺いしたところ、一つの明確な出来事ではないけれど、と実際に経験した話を交えながら教えていただきました。


例えば、三日間野宿しないと町にたどり着けない旅。三日目の朝、午前中には着けそうですが、食料も水も少ないためセーブしなくてはいけない、と思いながら伊藤さんは自転車を走らせます。そんな時に地図に載っていない小さな集落と、タコスの屋台が思いがけず現れました。よかった、ちゃんとしたものが食べられると安心し、タコスをお腹いっぱいに食べます。そこからはよし、もう少しだから頑張ろうと足を動かし、無事目的の町へとたどり着きました。


約4年半の旅で、伊藤さんはただただ楽しかったという感想ではなく、思いがけないものに救われる経験を何度もすることで、旅を違った意味で捉えていました。


「でも、そのタコス屋さんは、今日も朝が来たから眠いけど開けるか、ともしかしたら全然“ポジティブじゃない気持ち”で、お店をオープンさせていたかもしれないですよね。自転車で旅をするって、実はとても贅沢なことで、一部の人しかできないことだと思うんです。そういう意味では道楽だと思っていて、自転車旅という自分の道楽にお付き合いをしてくれた“ポジティブな気持ちで作ってないタコス”に、僕は救われてきました」


「暮らしや生きていくことは、ただひたすらに毎日淡々と、そこに好きとか嫌いとかそういうものに左右されず、絶対的にあるものだと思っていますし、そういう暮らしに僕は救われてきました。あくまで道楽として、消費する立場として、少なからずそこを覗かせてもらった、触れさせてもらった期間だったと言えます」


暮らしから暮らしを巡る中で、色々なものが見えてきた部分もあり、次は自分がその暮らしを極めている側になりたい、と感じたそうです。伊藤さんも人間なので、今日はしんどいなと思いながら店を開ける日ももちろんあるそうですが「La Uníonがやっててよかった、助けられたと思う人もいるかもしれない」と考えながら、今日もお店を開けています。


「ただただ消費する旅から、今度は何かを生産していったり、暮らしというものを作っていくことをやりたい、と思えたのは旅の中の一つの学びでした。明確な一つの出来事ではないけど、心が動いたことかなと思います」



今後のLa Uníon

「世の中に対し、商売を通じて継続的に何か働きかけをしていくことが大事だと思っています。かつ自分が何でもやるのは結構難しいので、何かやりたいという人のサポートみたいなことを、ここを通じてやっていきたいと思っています」


福島で商いがよりたくさん生まれるようなサポートをしていきたい、と考えている伊藤さん。現在はカフェラウンジの間貸し営業をしたり、La UníonをDIYで作りあげた経験から県のリノベーション促進事業で講話を行ったりと、さまざまな取り組みを行っています。


構想段階ではあるものの今後やろうと思っていることもあるそうなので、今後のLa Uníonにも注目です。


伊藤さんからこれまでの旅の話や地域とつながるようなお話を聞けるのも、La Uníonに来たくなる魅力の一つといえます。


福島市に来た際は、La Uníonを通じて新たな福島を見つけに来てはいかがでしょうか。



■ La Uníon


ホームページ

launion.page


住所

〒960-8041

福島県福島市大町1-12 長谷川第2ビル


電話番号 

024-572-5838


Instagram

@launifuku


Facebook

@launifuku