福岡県朝倉市にある創業118年の老舗・徳田畳襖店(とくだたたみふすまてん)。畳のオーダーメイド製作や、ふすまの張り替え作業などを行う畳店です。現在は3代目社長と共に親子で経営していますが、4代目となる息子の徳田直弘さんは、一風変わった活動で注目されています。


地域の祭りではマイクを片手にラッパーとして活動。展示会場ではアート作品を出品しているアーティストとして登場。そのどちらにも共通しているのが、畳に関する表現活動であることです。徳田さんには畳業界全体を盛り上げたいという、熱い気持ちがみなぎっています。



畳屋を継ぐつもりはなく、音楽の道を志した


お店では畳・ふすま・障子・網戸の張替えやオーダーメイド製作などを行う

平日は畳屋として、週末はラッパーやアーティストなどの表現者として。毎日精力的に動き回る徳田直弘さんですが、意外にも幼少時代には畳業を継ぐことを一切考えていなかったと言います。


「小さい頃はなんとなくパイロットやファッションデザイナーになろうと考えてました。親の仕事を継ごうとは思ってなかったですね」


そう語る徳田さんが物心ついて本格的に目指そうと思ったのは、音楽の道でした。高校時代に遊びで始めたヒップホップグループで、曲作りとDJを担当。一番ハマったのが作詞作曲で、夕方から外が明るくなるまで熱中し、どんどんのめり込んでいったと語ります。


工業高校を卒業した徳田さんは、半導体関連メーカーに就職。しかしリーマンショックの影響を受けて、自分の今後について考える時間がより増えたとき、もう一度音楽をやりたいと思ったそうです。大人になって悔いが残ることの無いようにと、仕事をきっぱりと辞めます。


「音楽のスクールに通うために、一年間派遣社員として工場に勤めてお金を貯めました。ヴォーカルスクールに通い出してからも、バイトと並行して音楽活動をやってましたね」


プロを目指していた徳田さんは、度々オーディションを受けますが、結果は今一つでした。


「本気でやっていたのですが、やはり音楽は厳しい世界だと痛感しました」


そうして悩んでいた時に、ヴォーカルスクールの生徒指導の先生と交わした、あるやりとりが人生の転機となったのです。



畳屋ラッパー「MC TATAMI」の誕生


地元・朝倉市のイベントで畳ソングを披露する、畳屋ラッパーのMC TATAMI

徳田さんには幼い頃から続けていた、ある決まりごとがありました。それはお世話になった人たちに、A4サイズの畳を渡すこと。ヴォーカルスクールの生徒指導の先生にも同じように渡したとき、徳田さんの家が代々続く畳屋であることを知った先生からこんな助言を受けます。


「あなた、畳屋になりなさい」


家業を継ぐことから逃れ、音楽の道へと進んできた徳田さんにとって、その助言は当初受け入れがたかったと言います。


「当時は畳業界が衰退しているとも感じていたので、なおさら興味がなかったんです。しかし先生はしつこく畳屋になることを勧めてきました」


徳田さんの音楽に対する強い気持ちを知った先生は、次にこうアドバイスしたのです。


「だったら、歌う畳屋になりなさい」


憧れだった音楽の道と、家業である畳業。その両方を取り入れた存在になるよう、助言されたのです。徳田さんはその時の率直な心境を明かしてくれました。


「歌う畳屋なんていう事例をそれまでに聞いたことがなかったので、戸惑いました。正統派の音楽を目指していたのに、ちょっとイロモノっぽくなってしまうと、自分が進もうとしている道から逸れてしまうのじゃないかとも思いましたね」


しかし先生のことばは単なる思いつきではなく、ある想いがありました。


「先生は、歌う畳屋になることで畳業界を盛り上げることもできると言ってくれました。そこには共感できたし、本当に強く勧めてもらっていたので、チャレンジしてみようと決心しましたね」


しかし音楽をやると言って家を飛び出した手前、素直に親へ畳業のことを聞けなかったという徳田さん。ネットで畳の歴史などを調べ、曲作りを開始します。そして完成した曲が「愛され畳」。「日本の畳は奈良時代から受け継がれ〜」という歌い出しから始まり、サビの「赤ちゃんから大人まで愛され畳」というフレーズが印象的な一曲です。


「この曲をライブで披露したら、ステージ上からお客さんの反応が明らかにこれまでより良いと感じました。ライブ後にも、お客さんから『おもしろいね』『またやってほしい』などとたくさん声をかけられて。素直にうれしかったです」


畳の歌を作ったことにより、畳そのものの良さにも気づき始めていた徳田さん。「畳の歌で人を幸せにしたい」「衰退している畳業界を盛り上げたい」という気持ちがだんだんと募っていきました。



家業に入り、ユニークな試みをいくつも行う


畳に使用する収穫したイグサを持ち運ぶ徳田さん

歌う畳屋さんになろうと決めた徳田さんは、まず親に畳屋を継ぎたいと頭を下げます。


「うちの親は、好きなことだったら人様に迷惑をかけなければなんでもやっていい、というスタンスでした。僕が畳屋を継ぎたいと言ったとき、向こうはびっくりしてましたが、最後には頑張りなさいと言ってもらいました」


徳田さんは親に教えてもらいながら、畳屋での仕事を覚えていきます。また畳学校へ週1で3年間通い、畳を手縫いする技術も習得したそうです。 


 歌う畳屋としての活動を始めたのは2013年から。畳業界の衰退の原因にPR不足があると考えていました。業界のことをもっと認知してもらうためには、自分自身でメディアに売り込むことが重要だと感じていたのです。


「うちの畳屋も100年くらい歴史があるけど、一度もメディアに出たことがなかったんです。まずはホームページを自分で作って、セルフブランディングを大事にしましたね。どうやったらPRできるか、ずっと考えてました」


初めてメディアに出たのは2015年。そこから数えて、今では150件以上の各種媒体に出たそうです。


「自分も当てはまりますが、畳店の取り組みは、話題性があっても業界内の拡散で止まっていることが多かったり、全国レベルの話題にはなっていなかったりするのが、もどかしいと感じています。まだまだ畳は可能性を秘めていると思うので、自分は【畳を表現する】という新分野で、畳の新しい文化を作りたいと考えています」


一見、畳とは関係ない分野にも参入し、畳のPRを行ってきた徳田さん。お笑い芸人の野田クリスタルさんによる企画を支援し、野田さん考案ゲームのプロモーションビデオにて畳店をアピールした内容を入れ込むなど、ユニークな取り組みが光ります。

MC TATAMIが参加した「スーパー野田ゲーPARTY/Nintendo Switch」の公式PV



アート活動にも精力的!徳田さんが考える将来像は?

お客さんにコール&レスポンスを求めるMC TATAMI

徳田さんはMC TATAMIの活動を行う中で、印象的な出来事があるそうです。


それは敬老会に歌いに行ったときのこと。いつものように畳の唄を歌うと、ラップ的なところは分からないと言われながらも、畳の話を通じておしゃべりが盛り上がったと言います。


「普段あまり喋らないおじいちゃんおばあちゃんが、ニコニコと笑顔で喋ってくださいました。自分と皆さんとの共通言語が【畳】ということで、昔の記憶を思い出したような感じでした。こうやって世代を越えて楽しく会話できるのが最高だなと思いました」


敬老会を主催した老人ホームの管理者からもとても好評だったそうです。


また、MC TATAMIならではの深い交流は若い世代とも。地元の朝倉市が豪雨災害に見舞われた際、久留米大学の学生たちと復興ソングを手がけました。久留米大学文学部の有志の集まりである「ckgz(チクゴズ)」とMC TATAMIで、復興支援ソングの打ち合わせを開き、楽曲の制作やミュージックビデオの撮影を行いました。


この取り組みも地元のテレビ番組などで何度も取り上げられています。

Mc Tatami with ckgzによる「いっちゃん好きばい」のミュージックビデオ

徳田さんは現在、音楽活動に加えて、アート活動も行っています。


畳の原料となるイグサを筆代わりにして絵を描き、作品は博多阪急で開催された個展でも展示販売されました。


博多阪急8階 ART SHIPでの個展の様子

今は地元の人にももっと活動を知ってもらいたいという気持ちも大きく、6月ごろに朝倉市で個展を予定しているそうです。アートの敷居を下げて、普段あまり芸術に関心がない人や地元の子どもたちにも気軽に来てもらいたいと語ります。


「自分の現在地を地元の先輩方や後輩たちに見てもらいたいと思っています。30代でまだまだ道半ば。今の自分を知ってもらい、これからさらに成長するきっかけにもしたいです」


なんとこの春から大学生にもなるという徳田さん。京都芸術大学の空間演出デザインコースに入学し、通信教育を受けるとのことです。


「現代の千利休になりたいと思っています。千利休といえば、器や茶室のプロデューサーというイメージ。一つの表現方法にこだわらず、新しい畳の使い方などを探ってみようかと。これは学び直しではなく、学び重ねです。学ぶことをドンドン生かしていきます!」


徳田さんは、これからまたさらにユニークな試みをしてくれそうです。畳を通じて様々な表現で発信し続ける、徳田さんの今後の活動が楽しみですね。



畳職人 徳田直弘|MC TATAMIさん


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■ 株式会社徳田畳襖店


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