介護エステは、高齢者や障がい者の手足や顔へのタッチケアを施す施術の一つです。


エステと名がついていますが、美容のための施術ではなく、あくまでも介護の側面に重きが置かれた整容に特化した支援と位置づけられています。デイサービスや老人ホームなどの施設では、保険外サービスとして施術が提供されています。


介護エステの魅力を発信し、北陸を中心にケアセラピストとして5年以上活躍されている「ここいろ」の中上さんにお話をお聞きします。



介護職、リラクゼーション職を経て介護エステの道へ


もともとは在宅介護やサービス付き高齢者住宅で職員をしていた中上さん


― 介護エステという言葉は初めて聞きました。言葉の組み合わせから介護とケアマッサージの要素が合わさった施術だとイメージしています。これまでにどんな方を対象に、どんな活動をなさってきたのですか。


介護施設へ訪問して月に2〜3回ほど施術をしています。福井県越前市のデイサービス施設「いっしょ家」には、5年くらい前から通っています。そこで、高齢者や障がいがある人へお一人10分から15分程度の手足や顔のケアをするのがメインの活動です。


そこで施術をするのは身体に麻痺がある人や、知的な障がいがある人、もうすぐ98歳を迎える女性など、さまざまですね。毎回顔を合わせているうちに距離が近くなって、施術中にはいろいろな話をしています。


― もともと介護のお仕事をされていたのですか?


そうです。介護福祉士として、訪問介護や施設介護に携わってきました。スタッフとして働いているとき、思うように体が動かなくなって外出をあきらめたり、シワが増えた顔を見て「わたしなんか」と自信をなくしたりしてしまう方をたくさん見てきたんですね。


そういう方たちが自分らしく日々を過ごせるよう「介護士としてお手伝いがしたい」と思っていても、現場では利用者一人ひとりにじっくり向き合う時間が十分に取れず、ジレンマを感じていました。そこで、一度介護から離れて、リラクゼーションマッサージの仕事をするようになりました。


あるとき、介護エステの言葉を耳にして、「わたしがやりたかったことはこの仕事だ」と直観的に感じたんですね。すぐに岐阜の本部へ行き、養成講座を受講してケアセラピストのキャリアをスタートさせました。


富山型(年齢や障がいの有無を問わず誰もが利用できる)のデイサービスを展開する「いっしょ家」に訪問しました


― 実際に始めてみていかがでしたか?


施術中の10分間は、目の前の一人の方に向き合って、じっくり話を聞きながら、肌に触れることができます。そのおかげか小さな変化にすぐに気が付きやすくなったと感じますね。たとえば、フットケアをしているときは「爪が伸びているな」とか「装具が当たってアザができているな」とか、そういう気づきがあります。


施設のスタッフに気づきを共有して、喜んでいただくことも多いです。スタッフの目が届きにくいところにも気づけるのは直接肌に触れてケアができる介護エステの大きなメリットの一つだと思います。



介護エステで一番大切なことは肌への触れ方


こわばりがちな手や足に優しく触れて血流を促します


― 実際に介護エステをされている施設に先日一緒に訪問しました。その日の様子を振り返っていきましょう。一人目は脳性まひの男性でしたね。


身体に麻痺があると、どうしても手足の先が冷えやすくなるので、ハンドケアやフットケアで血流を促します。デリケートな皮膚を傷つけないように、優しい力で触れるのが健常者への施術との大きな違いであり、介護エステの一番の特徴ですね。触れ方には気を使いますし、養成講座でもまず第一に触れ方を学びます。


「ブルースの社交ダンスが得意」とにこやかに会話する利用者と中上さん


― 二人目の女性は、施術後に鏡を見ているときの笑みが印象的でした。表情だけでなく声のトーンも明るくなっていましたよね。


年を重ねると、鏡を見る機会がほとんどなくなるんですね。エステでは施術の終わりにアイブロウやリップを塗ることもあって、鏡で顔を見てもらうようにしています。お化粧をした自分の顔を見て、気持ちが明るくなるのはわたしたちも同じですよね。


エステがきっかけで、鏡を見てみようかな、家でもスキンケアをしてみようかな、と思うようになると、せっかくきれいになったから出かけてみよう、という気持ちが芽生えます。介護エステが自立支援と位置づけられているのはそのためです。


爪にお湯で落とせるマニキュアを塗っていました。毎回の楽しみになっているそうです


― 最後に施術をしたのは、まもなく98歳を迎える女性でしたね。


とても明るい方で、今も昔もモテていらっしゃったんだろうなぁと、うらやましくなりますね。長く生きていらっしゃる分、懐が広いなぁと感じることも多いです。会うたびにこちらが元気をもらえます。


― 施設の方の反応はいかがですか?


利用者の反応を見たり声を聞いたりしていた女性スタッフが「わたしもタッチケアをやってみたい」と興味を持ってくれました。そのままハンドケアとフットケアの資格を取って、時間があるときにケアを実施しているようです。


その様子を見ていた理事長から「事業所全体で介護エステを実施したい」と声をかけていただいたときはとてもうれしかったです。いっしょ家では、ほとんどのスタッフが介護エステの講座を受講し、積極的に取り入れてくださっています。



個々の色をいつまでも大切にできる社会へ


木のあたたかみを感じる館内で利用者それぞれが思い思いの時間を過ごしています


― 介護の現場に長く関わっている中上さんが、大切にしている価値観はなんですか?


年を重ねたり、障がいがあったりすると、できないことが増えて「どうせ無理だから」と諦めてしまったり外出が減ったりしてしまいます。ただ、自分ではできないだけで、誰かの手を借りれば実現できることばかりなので、自分らしくいることを諦める必要は一つもありません。


どんなに健康な人でも、加齢や病気などで今当たり前にできていることができなくなる日が必ず来ます。手を貸す人、貸してもらう人が順番にめぐっているだけです。そういう気持ちで介護に携わっていきたいですし、そう考える人が増えると良いなと思っています。


楽しそうに鏡を見る二人。明るい表情を見て中上さんもうれしそうです


― ケアセラピストとしてチャレンジしたいことはありますか?


介護エステは保険外サービスなので、無償で提供できるサービスではありません。施設から「ボランティアでやってほしい」と声をいただくこともありますが、それでは継続が難しいですし、十分な価値が提供できません。


自立支援のためのアプローチだとわかっていただければ、もっと需要も高まっていくかと思います。いっしょ家のように事業所のスタッフ自身がケアを学んで現場で使ってくれるようになるのが理想的ですね。介護エステを通して一人ひとりに向き合う時間を取ることで、利用者の本音を聞きやすくなるのではないかと思っています。


― 最後に、屋号の「ここいろ」に込めた思いをお聞かせいただけますか。


どんなときでも自分らしく、個々の色を大切にしてもらいたいといった願いを込めています。「仕方ない」と思ってあきらめていたことを、「やってみよう」と思うきっかけを与えられる力が介護エステにはあるので、肌に触れることを通してそれを伝えていきます。


― 一度離れた介護の現場に、介護エステを通してもう一度向き合う中上さん。その姿勢から「ここいろ」に込める想いの強さを感じます。中上さんのケアを受けて、顔色も表情も明るくなった人たちを見て、わたしの心もじんわり温まりました。





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