「あらゆる問題や病気の根底には、無自覚な心の傷があると考えています」
そう語るHyca(はいか)さんは、福井県敦賀市でボイストレーニング教室「TAKEYA Vocal Lesson(タケヤ ボーカル レッスン)」と書道教室「竹屋書道教室」を開講しています。
また、音楽専門出版社リットー・ミュージック運営「歌スク」のボイストレーナーや、ライバー、ゴスペルディレクターとしても活動中です。
TAKEYA Vocal Lessonには、心に傷を抱えているような生徒さんも通っています。かつてはHycaさん自身も音楽や自分自身の存在に思い悩んだ過去がありました。
しかし、ハリウッド式Belting発声法(以下Belting)と出会ったことで大きな変化があったといいます。メンタルの重要性に気づき、2022年にはニューヨーク開催のイベントでメンタルヘルスについての講演も行なったほど。
Hycaさんに大きな変化をもたらせたBeltingとはどのようなものでしょうか。詳しく伺ってきました。
Beltingは心を解放してくれる唯一の術
招待された式典のゴスペルライブにて(画像提供:Hycaさん)
HycaさんがTAKEYA Vocal Lessonを開講したのは2014年のこと。しかし、日々迷いながらのレッスンだったと振り返ります。
「レッスンを始めてから、歌が嫌いになっていた時期もありました」
そう語るHycaさんですが、2018年には福井県内初の「Beltingを採用したボイストレーニング教室」としてTAKEYA Vocal Lessonを再出発させました。
世界基準の発声法「Belting」との出会い
Beltingとの出会いについて語るHycaさん
Hycaさんは長い間、自分と海外アーティストの発声方法の違いに疑問を抱いていました。海外アーティストは地声感があるのに高音で伸びやか。それでいてパンチ力もある歌声が魅力です。しかも、高音にもかかわらず、まったく苦しそうな感じはしません。
「海外アーティストの発声を聞いて、『ここまで違うのは何かおかしいぞ』と感じていました。骨格や発音だけではない、何かがある……と」
あるとき、Hycaさんは海外アーティストの発声方法が世界基準の「Belting」であることを知りました。DIVAと呼ばれ世界的に認められる歌姫たちの力強く伸びやかな高音、ロックシンガーやゴスペルシンガーなどのハイトーンボイスのことを「Beltしている」と表現し、この発声方法を「Belting」といいます。
ロサンゼルスでBeltingを教えている先生が、タイミングよく一時的に日本でレッスンをしていると知り、Hycaさんはすぐに受講を決めました。当時は日本でBeltingを指導できる人がいなかったどころか、Belting自体がほとんど認知されていなかったそうです。
Hycaさんは、先生が来日するタイミングでの直接レッスンに加え、オンラインレッスンなどを経て、約1年間かけて新たな発声方法を習得しました。
Beltingはテクニック以上にマインドが重要
ライブで熱唱するHycaさん(画像提供:Hycaさん)
「みなさんが憧れるミックスボイス(地声のような声の強さを保ちつつ裏声のような高音域を出す)などの発声方法も、自分の声を知らなければ喉を痛めたり、自分の感情とは全く異なる声となったりしてしまいます。Beltingは人間本来の発声の土台となり、全てにつながるものです」
Beltingは健康な人であれば誰でも習得が可能で、声帯のトレーニングなどによって話すように歌え、自分の本来の声を引き上げるものです。
誰でも習得が可能とはいえ、技術的にかなり難しいのではないでしょうか。
「実はテクニック的な部分はほんの20%くらいで、重要なのはマインドです」
Hycaさんの口からは、思いもよらない答えが返ってきました。恩師からはテクニック以上にマインド面の重要性を学んだといいます。
Beltingと出会ってからマインドの大切さに気づいたHycaさんは、元々物事を深く探求するタイプでもあり、本格的に心理学・メンタルケア・マインドコーチに関する勉強に取り組み始めました。
Beltingによって人生観が変わった人も
ボイストレーニング教室でレッスン中のHycaさん
Hycaさんの教室に通う人たちは「世界に通じる発声方法を学びたい」「自分の声を見失ったので取り戻したい」「カラオケが上手になりたい」など様々な目的を持っています。
目標を達成することはもちろん、中には目標を大きく飛び越える人も。ただカラオケが上手になりたいと通い始めた人が、翌年にはライブ活動をするようなケースもあるそうです。Beltingによって人生観がガラッと変わったと語っているとのこと。
「声と心と体は密接に関わっています」
自分との信頼関係がうまく築けずに劣等感に駆られている人でも、Beltingに取り組むことで感情を解放し、一つ一つの行動も変わるという。
「自信がなければ、当然自信の無い声になります。また、出るかな?出ないかな?と迷っている状態では思ったような声は出ません。つまり、「なりたい」ではなく「なる」と決めなければ何も叶わないのです」
光の速さで変化した経験を基にマインドを指導
Hycaさんは、感情のままに歌うことはシンプルなようで非常に難しく、マインド面が重要といいます。
しかし、ボイストレーナーのレベルは様々であるため、一般的なボイストレーニングの教室でマインドに関することまでを指導に取り入れている教室はほとんどありません。
「私自身がマインドの重要性を学び、光の速さで大きく考え方が変わったのです。その後の人生にも大きな変化がありました」
Hycaさんは、マインド面についてもう少し客観的かつ専門的に学びたいと考えるようになったそうです。そして、現在はHycaさん自身が感じたこと、学んだことを全て生徒さんたちにも還元したいとの思いで指導に取り組んでいます。
「重要なのは、本当の自分って何だろうなという部分です。感情を抑え込み解放できていない自分や生きづらさの感情を、歌で健康的に気持ちよく解放していくことで、人生をより豊かにしていきましょうという考えが本質です」
一方、「どうして解放しなければならないのか?」との疑問を抱く生徒さんも多いという。
疑問を抱く生徒さんは、自分自身では気がつかないような深層心理に何らかの問題を抱えている場合があります。たとえば、幼いときから抱え込んでいる怒りや、「自分はこうでなければならない」と外部から植え付けられた価値観など。
つまり、自分自身を縛り付けている怒りや価値観などの鎖によって感情を抑え込んでいる状態です。抑え込んだ感情を、最初から好んで出す人はいません。Hycaさんはいいます。
「歌は誰も傷つけることはありません。平和的に感情を解放できるものです。人を傷つけるのではなく、歌で感情を解放することで、むしろ共感する人や救われる人もいるかもしれません」
感情を抜きにして、本当の自分の声を出すことはできません。喉に負荷をかけずに、健康的に声を出せれば理想的でしょう。そのためには、まず自分と向き合わなければならないとHycaさんはいいます。
中には生きていくことに希望を見出だせないような人や、ありのままの自分を愛せない人もいます。消えて無くなってしまいたい人もいるでしょう。そのような生徒さんに対しては、信頼関係をじっくり築き、できる限りメンタル面のサポートにも取り組んでいるそうです。
自分の中の嫌悪感を認めることから始める
ゴスペルグループのライブで熱唱するHycaさん(写真右)(画像提供:Hycaさん)
「自分が寿命を全うするときには、『楽しかった』と言って死にたいと思っています」
「ああ、楽しかった」となる鍵は、嫌悪感とうまくバランスを取ることだとHycaさんはいいます。嫌悪感とは、他人には最も触れられたくない部分。言い換えるなら、「自分が我慢していること」に対して心が反応している状況です。
Hycaさん自身にも、他人には絶対に触れられたくない部分がありました。たとえば、人を振り回す行動をしている人がいると、嫌悪感がむき出しになったといいます。
この嫌悪感に苦しんだとき、Hycaさんは自分の深層心理と向き合い、「(自分は)もっと甘えたり頼ったりしてみたかった」といった心理が表面化されたそうです。
このようなことは生徒さんにも共通してあることでした。嫌悪感が感情をブロックし、思うように表現ができません。しかし、Hycaさんは、嫌悪感を無理に取り除く必要はないといいます。
まずは自分の中に嫌悪感があることを知ること。そして、嫌悪感があっても自分が本当に出したかった感情を出せるようになることです。重要なのは、嫌悪感と感情を解放するバランス。
ある生徒さんは、自分の中で感情を抑え込み、うまく表現ができずにもがいていたといいます。Hycaさん自身も自分の中の嫌悪感を認め、感情を解放できたときには喜びを感じられたそうです。
現在は自身の経験を元に、生徒さん一人ひとりに寄り添い、時間をかけてトレーニングに取り組んでいるとのこと。
また、上記の点も含め、ボイストレーニングと書道には共通点があるといいます。
ボイストレーニングと書道の共通点
ライブ前の心得「心と繋ぐ」(出典:Instagram)
上の写真はHycaさんがライブ前に書き、インスタグラムに掲載した作品です。作品の写真とともに「バラバラに離れた心と体と声を呼吸で繋いでいく」と投稿していました。
Hycaさんは心の乱れが書に現れていると語ります。常に色々なことを考えてしまうタイプで、無にならなければ書けないとわかっていても、なかなか無にはなれないという。思考がいっぱいになると心も乱れるため、瞑想なども取り入れているとのこと。
しかし、最近は、「無になるのは無くなることではなく、シンプルになることだ」と考えるようになったといいます。シンプルになれば、一番伝えたいことだけを伝えられるようになるそうです。
想いを表現して伝えるという点においては、音楽も書道も同じなのかもしれません。Hycaさんに、音楽と書道との共通点について伺いました。
Beltingはスポーツ、書道は精神
Hycaさんは6歳から書道を始め、15歳で日本習字生徒部の最高位である8段を取得。2020年には教授資格も取得しています。
そんなHycaさんは書道と歌について、「Beltingはスポーツで、書道は精神。全部通じていると思います」と語ってくれました。Hycaさんは自分の感性や感覚を信じられなかったため、感情を上手く表現できなかったそう。
先ほど紹介した「心と繋ぐ」の書について尋ねてみると、「ここまで書けるようになったのは、ここ2〜3年のこと」といいます。
「歌も字も自分との信頼関係が如実に現れるものです。もし、思った自分になれないのなら、感情だけでも持ってくるようにすることで歌えるようになります」
心に余裕がなくなると、書道で心を鎮めてバランスを保っているとのこと。Hycaさんにとっての歌と書道は車の両輪。どちらが欠けても成り立たないようです。
書道教室では生徒から学ぶことも多い
Hycaさんが指導する竹屋書道教室は、他の一般的な書道教室とは少し異なる点がありました。 一般的に書道教室は静かなイメージがあります。しかし、竹屋書道教室は静かなときばかりではありません。
子供たちの中には「静かな教室は逆に萎縮する」という子や「自分が集中していれば、うるさくても気にならない」という大人顔負けの集中力を発揮する子もいます。したがって、無理に静かにするのではなく、人の邪魔をしなければ良いとのこと。
また、竹屋書道教室では、生徒同士でお互いに添削や教え合いをしています。ルールは、褒めることを基本にして、指摘をしてもよいのは一ヵ所だけというもの。この方法を取り入れてから、今までとは違った視点で見られるようになったそうです。
Hycaさんも「私が本当に未熟なので、たくさんのことを子供たちから学び、常に成長させてもらってます」といいます。
ボイストレーニングや書道は人生の喜び
ゴスペルのMV撮影にディレクターとして指示をだすHycaさん(画像提供:Hycaさん)
Hycaさんはこれまで、ゴスペルグループの一員として、またディレクター業務にも携わってきました。しかし、身体は資本との考えから、ゴスペルグループとディレクターの活動に、今年で一旦区切りをつけるとのこと。
「ボイストレーニングと書道に共通するのは、人生の喜びを実感するための成長です。これからも、その軸だけはブレないようにしていきたい」と、熱い想いを語ってくれました。
また、才能や能力に個人差があるのはしかたがないと前置きしたうえで、「自分という最大の味方がいるということを知り、それぞれに前を向いて歩んでほしいです」といいます。
Hycaさんは今後もボイストレーニングと書道を通じて多くの人の成長を見守りつつ、自身も研鑽し続けることでしょう。
■ TAKEYA Vocal Lesson
公式HP
https://takeya-s95.amebaownd.com/
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