佐藤亜耶さんは“そふとめん”の名で、秋田県秋田市でイラストレーターとして活動しています。
SNSでは、佐藤さんがおいしいと感じた地元の飲食店のメニューをイラスト入りで紹介したり、4歳になるお子さんの育児漫画を描いたりと、読者にほっこりとした気持ちを提供しています。
また、企業から依頼を受け、コラム記事・フリーペーパー・観光パンフレットのイラストや漫画の制作も行っています。
今回は、佐藤さんが秋田の魅力を発信するきっかけになった出来事や、イラストを通して伝えたいことについて、お話を伺いました。
地元を離れたことで「秋田が好き」だと再認識
当時はデジタルが普及していなかったこともあり、ペンを使って紙に描くスタイル。手書きならではの温かみを感じさせるイラストです。
秋田市で生まれ育った佐藤さんですが、元々、田舎と呼ばれる秋田が好きではなかったそうです。
「高校を卒業したら、秋田を出たい!」
そんな思いで秋田を飛び出し、イラストを描くことが好きであったため、仙台のデザイン学校に進学しデザインの基礎を学びました。
学生生活ではなんでも手に入る便利な環境で暮らすことに不満はなかったものの、休暇で秋田に帰省すると、空気が澄んでいるのに改めて気づいたそうです。
「秋田駅は市の中心部ではありますが、建物の背は低いんですよね。かえってその街の雰囲気にほっとしたんです。地元から離れて、初めて秋田の良さを再認識したと同時に『私は秋田が好きなんだ』って気づきました」
そのような感情を持ち始めた佐藤さんは専門学校を卒業後、秋田に帰ることを決意したのです。
秋田の良いところを再発見!地元民に魅力を広げていく
秋田に帰ってからは、地元の書店で働き始めた佐藤さん。
ちょうど当時流行していた「レコーディングダイエット」(毎日の食事や体重を記録していくダイエット)に挑戦し、日記帳には文字でなく食べたものを描き始めます。これが意外にも、イラストレーターを仕事にするきっかけになったのです。
「食べることが好きで、食べものの絵を描くのは楽しかったですね。日記帳は誰に見せるわけでもないので、最初はなんとなく描くだけでした。それがだんだんと本格的になってきて、SNSにアップすると反響が大きかったんです。この出来事が、私がイラストレーターとして地域を表現するきっかけになりました」
好きなものを描く楽しさを知り、そして見てくれる人がリアクションをしてくれる嬉しさも感じながら、制作を続けたといいます。
それ以降には職場に持参したお弁当や、購入して食べたもののイラストを休憩中に描き始めます。自宅に帰ってから色塗りをし、写真を撮ってTwitterにアップをするように。秋田の魅力を発信するきっかけになるかなと思い、段々と地域の食べ物を増やしていきます。
長く地元に住んでいると、不自由さや嫌な部分が見えてしまいがち。だからこそ、もっと良いところを探していきたい! そのような思いから、地域のイベントに出向いたり、地元民だからこそ口にすることがないご当地グルメを食べたりする機会が多くなります。
「絵を通して地元の良いところを表現することで、私自身も秋田の良いところを探せるし、住んでいる人にもその魅力を広げていけるのかなって思っています」
愛情を込めたイラストだからこそ伝わること
佐藤さんのハンドルネーム“そふとめん”は、秋田の給食では定番のメニュー・そふとめんが由来となっているそうです。
「佐藤という苗字が多いので、何か違う名前をハンドルネームにしたいなって思っていました。ソフト麺は、ごぼうやお肉の入った温かいつゆに、袋に入ったソフト麺を入れてすすって食べるんですよ。“やわらかくてあたたかい、懐かしくてほっこりする”そんな表現がしたくてハンドルネームをそふとめんにしたんです」
“そふとめん”として秋田のグルメ情報をメインに発信していく中、佐藤さんのイラストが、2021年から秋田県のとある地域の観光パンフレットに起用されることになりました。Instagramでのグルメイラストの発信が、観光パンフレットの監修をする担当者の目に止まったのがきっかけだそうです。
実際にパンフレットを手にとった方からは「写真ではなく、絵で表現されていたことが珍しく関心を持った」「訪れた飲食店の店主に『パンフレットを見て来ました』と、声を掛けるきっかけづくりになった」などの嬉しいエピソードをもらえたと、嬉しそうに話してくれました。
「観光パンフレットのイラストを描くにあたって、観光・グルメスポットを取材するために、街全体のグルメをほとんど全て食べたんですよ。だからこそ、商品に対する愛情を込めて表現できましたし、それが手にとった方にも伝わったんだと思います」
お店そのものの印象をイラストに落とし込む
グルメのイラストは首都圏から依頼されることもあり、企業からの写真提供のみで商品を描くことも。
「実際に商品を食べられない場合にも、お店のHPやSNS、口コミを収集して『こんな味がするんだな』『こんな雰囲気のお店なんだな』という印象を、しっかりと吸収して描くようにしています。ただ正確に描くだけだったら、絵でなくたって写真でいいんですよね」
絵の場合、感じたことや特徴を強調して表現するように意識しているといいます。
「例えば見た目は普通のどら焼きでも、食べたときに生地がふんわりしていると思ったら、ふんわり感を誇張して描くんです」
商品だけではなく、店主や従業員、店内の雰囲気なども、感じるままに印象をイラストに落とし込んでいく。佐藤さんが一人のお客さんとして感じたことは、違った角度からの口コミとして、見る人の心に伝わっているのではないでしょうか。
絵の“線”にはその人の内面が表れる
自宅で仕事をするにあたり、佐藤さんは仕事モードのスイッチをオンにするため、エプロンを着用して作業に入るそうです。
「追い込まれる状況を意図的につくるため、やるべきことをタスク化し、できるだけスケジュールを立てて仕事をするように心がけています」
集中力の持続が難しいときには、あえて立ちながらPC作業をしたり、落ち着いたBGMを流したりすることがあるそうですが、リフレッシュのために好きな絵を描くことも多いといいます。
「私が個人で発信している内容は、子どものことだったり食べ物だったりがメインです。自分の好きなものを描いていると楽しいから、継続できているし、見ている人にとっても楽しいと感じてもらえていると思います」
佐藤さんは続けて言います。
「絵を好きになるって、好きなものを描くことだって思っているんです。だって、好きなものだったら向かい合えるから。字もそうですが、絵にもその人の性格が出るんですよね。特に絵を描くときの“線”は感情が出ますね。穏やかな気持ち、イライラした気持ち。その人の内面が右手から出てくるんです」
イラスト×デザインで幅広く地域の魅力を伝えていきたい
Instagramで綴られている娘さんとの日常の一コマ。見ていると、思わずやさしい気持ちになります。
現在4歳の娘さんの子育て中である佐藤さん。 我が子にも“地元を好きになってもらいたい”想いがあり、今後はイラスト制作だけでなく、他の分野と組み合わせて幅広く地域の魅力を表現したいといいます。
現在はデザインを学び、イラストレーターの仕事をこなしつつ、Web用バナーやHPのデザイン作成にも取り組んでいます。
「デザインスキルを向上させて、デザインとイラストと組み合わせることで、新しい表現ができるようになれればと思っています。ただ、今は育児も忙しいところもあるので、模索しながら方向性をじっくりと考えていきたいですね」
手帳に何気なく描いたイラストがきっかけで、自分の表現がたくさんの人の目に留まり、嬉しさを覚えた瞬間。文字でもない、写真でもない、イラストだからこそ伝えられることがある。
「おいしそう!」「懐かしい」「気持ちがほっこりする」
佐藤さんの描く秋田の魅力は、イラストに“いろどり”をのせて読者に届けられます。
自分の住む地域がどんなところなのか、そして良いところはどこなのか。何気ない日常でも、意識さえ変えれば、見える風景はより一層輝いてみえてくるでしょう。
みなさんも、佐藤さんの取り組みをきっかけに、自分の住む地域のおいしさ・楽しさを探しに出かけてみてはいかがでしょうか。
そふとめん(佐藤亜耶)さん
ポートフォリオ
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