秋田県能代市は、日本海に面した県北部に位置する中心都市でもあり、バスケットボールの強豪校があることでも知られています。
旧二ツ井町、現在は能代市二ツ井町ののどかな自然に囲まれた地域に住むのが、子育てサポートグループの運営・絵本・似顔絵製作などの活動をしている、たなかまりこさん。
たなかさんは小学6年生、4年生、3歳の三姉妹の子育てママでもあります。現在は能代市内の中学校で相談員として勤務をしながら、自身の活動である子育てサポートグループの運営、絵本・似顔絵製作などの活動を進めています。
結婚前は秋田市内のショッピングモールで勤務していましたが、勤務先の閉店と結婚のタイミングも重なり、退職。旦那さんの仕事の都合で、秋田市から能代市へ引っ越してきました。
今までずっと、自分に自信がなかったと話すたなかさん。
「学生時代のアルバイトも含めて、自分って仕事が出来ないなと思っていました。それもあって『自分は必要とされていないんだ』って思いながら生きていたように思います。でも子どもができて、子どもだけは私を必要としてくれたんですよね。そこから、子どもに関わる仕事がしたいと思うようになりました」
もっと子どものことが知りたい。ベビーマッサージだと、自分の子どもが大きくなっても子どもに触れられる。そんな理由もあってベビーマッサージの資格を取得したといいます。
ベビーマッサージ講座で一緒になった能代在住の先生と「能代のために何かやりたい」という気持ちが共通しており、2人で活動をすることになりました。それが2015年に立ち上げた子育てサポートグループ「ちゅちゅ」です。
当時は2人からのスタートでしたが、現在は約10人で活動しています。メンバーは能代市内に限らず、近隣の各地域から参加してくれているそうです。
自分の住む町をもっと良くしていくための活動
ちゅちゅの活動で、まわりから「能代の情報がもっとまとまっていたらいいのに」という声が上がりました。そこから「能代の情報をまとめるサイトを作ろう!」と、ホームページの制作がスタートしました。
ちゅちゅのホームページでは、地元で行われるイベントに病院・幼稚園の情報や、子連れで楽しめるお店紹介といった、情報の視点で子育てをサポートしています。
それだけでなく、ママと子どもが一緒に楽しめる講座や、転勤族ママ同士の交流会の開催など、幅広い活動を続けてきました。
しかし、コロナウイルスの流行により一時期、活動が途絶えたことも。
「活動をどうするか悩んでいた時期に、一緒に活動していた方が『コロナが流行っていても子どもは成長していく』と話していたことに、ハっとさせられました。そんな時期だからこそ、形を変えて何かできないかと考えたんです。そこで『リユースができる場を作ったら、短時間・飲食無しでできるんじゃないか』って思いました。ついでに言うなら、お部屋も片付いちゃうっていう利点もありますよね。そのような経緯があり、現在、講座は一旦お休みしてリユース事業の“ちゅちゅりゆーす”を進めています」
ちゅちゅりゆーすのイベントの様子
ちゅちゅりりーすは、子育て団体の助成金を活用していたそうですが、思った以上に訪れるお客さんが多く、現在は助成金を使わなくても実施できるようになりました。
そこで余った助成金をどのように活用するかを考えた際に「子どもの居場所づくりをやってみたい」と声を上げたママがいました。
ちゅちゅ自体が“ママがやってみたいことをカタチにする”をミッションに掲げていることもあり、子どもの引きこもり・不登校などの悩みを抱えるママの希望をカタチにするべく、居場所づくりの活動もスタートしました。
居場所づくり事業の「みんなの居場所」となった会場
居場所づくり事業の実施をすると、子どもに限らず、我が子の発達に悩む保護者も来てくれたそうです。
「参加者さんが不安や心配な気持ちを話すと、まわりの参加者さんや、私たちも共感するんです。そうすると、お互いに心が軽くなっていくんですよね。ここに行けば無条件に話を聞いてくれる。そんな場所にするために、定期的に開催していくことを目指しています。このような環境を、たくさんの人に作ってあげたいですね」
たなかさん自身も子育てに悩む時期に、子育て支援センターの職員さんに、同じように助けてもらった経験がありました。
「午前中から夕方までセンターが開いていたので、長女の就学前は毎日通い続けていました。初めての育児に不安だらけで、どうしたらいいかわからなくて。そこで職員さんが『わかるわかる』って、共感しながらずっと話を聞いてくれるんです。いつでも受け入れてくれる安心感やありがたみを、私自身が経験してるからこそ、この活動への思いがより一層強いのかもしれません」
絵を描くことに没頭した時期と絵本作品の誕生
能代に移住して10年ほどは、2人のお子さんを抱えながら、今の活動とは関係のない会社員生活を送っていました。
「働きながら子育てって本当に大変だと思います。この頃にも、ちゅちゅの活動やベビーマッサージの活動はしていました。でもそんな多忙な時に、ちょうど3人目を妊娠したんです。そこから『私は10年後20年後、どんな生活を送っていたいんだろう』と考えるようになりました」
安定した収入も絶対必要だけれど、自分が生きやすいように生きていたい。 あっという間に過ぎていく子供との時間も楽しみたい。 そこからたなかさんは、自分の好きだった、絵を描き始めました。
「3人目が35週くらいからおなかの中で成長が止まっていることがわかり、少し早めに入院し、出産することになりました。出生時の体重は2000gにも満たなくて、約3週間ほど入院となったんです。3人目でしたが、実はとても不安でした。でも、毎日おっぱいを病院へ届けるとき、サポートしてくれた家族、見守ってくれた病院のスタッフの方々のおかげで乗り切ることができました。退院の日、病院のスタッフの方からもらったお手紙が本当にうれしかったです」
その家族と、病院のスタッフになにかお礼がしたいと描いたのが「おっぱいちゃん」でした。元々、お話を考えるのが好きでいろいろなお話をいくつも書き留めていたといいます。
「絵本作家は頭の片隅にあった夢でもあったので、この機会に『あかちゃんってパンみたい』も一気に描き上げました。この頃からちょっとだけ自分が認められたような、私にもできることがあったんだなって思えたんです」
「おっぱいちゃん」の巻末には、出生直後から保育器に入った三女を支えた病院のスタッフに宛てた感謝の言葉が綴られています
さらにたなかさんが感じたのは、好きなことに没頭できるという“心の安定”でした。 絵の才能があるなんて素敵なことだと筆者が伝えると、思わぬ答えが返ってきました。
「絵は努力だと思っています。私だって才能はないと思います。中学校くらいから何枚も絵を描いて、上手い人と比べた時期もありました。でも『たなかまりこの絵がいいんだ』って言ってくれた方がいたんです。私が描いた絵なら、なんでもいいから欲しいって。そこで『上手くなることじゃなくて、私が楽しく描いていればいいんだ』って気持ちにシフトチェンジできました」
パステルと色鉛筆を使った優しい雰囲気が特徴の、たなかさんのイラスト作品。似顔絵製作の依頼も可能です
好きなことに取り組むことで、ワークライフバランスにも変化がありました。
自分の子どもが学校から帰ってきた時に「おかえり」を言ってあげられる環境にしたくて、週2回の短時間勤務を選択したたなかさん。それが、学校での勤務でした。教育機関であるため、長期休みに入ると仕事が休みになることから、子どもの時間に合わせることができるようになったといいます。
「勤務している学校にも、絵を飾ってもらっています。自分のこの絵で、今度は子どもたちを応援できるのかなって思うと嬉しくて。美術の時間に子どもたちに絵を教える機会を設けてもらったり、小学校に出向いてイラストクラブの先生もやらせてもらったり、いい経験をさせてもらっています」
絵を描くことから「教える」ことも増えたというたなかさんの活動。
子どもから高齢者までが気軽にできる“パステル和みアート”の講師資格もあり、子育て支援センター、高齢者施設、障害者施設、小学校をメインに出張レッスンを行っています。
「物価が高騰していく中、私たち母親も働かなければいけない状況になってきていると思います。でも、子どものことで何かあると、全ての負担がママにきてしまう。『子どもともっと向き合え』と言うけれど、働かなければいけない環境に矛盾を感じますよね。親が子どもの過ごし方を把握できない状況は、働くことを選択せざるを得ない世の中が、そうさせてしまっている部分もあると思います。これは能代だけに限らず、どこにでもある問題ですよね」
多岐にわたる活動から子どもや保護者に関わってきたたなかさんに、子育てがしやすい環境について伺うと、このように答えが返ってきました。
「子育てのしやすさってよく聞かれるんですけど“しやすさ”って何だろうって思います。子どもって結局、親に聞いてもらいたいし見てもらいたいし、認めてもらいたいし褒めてほしいっていう気持ちで溢れているんです。親に限らず、どんなときも大人が見守ってくれる環境であってほしいなって思っています」
自己肯定ができずに過ごしてきたというたなかさんは、お子さんの出産を通して自身に存在意義を感じるようになり、それと同時に幸せを見つけられました。
「一個のことをずっと続けられる人ってすごい!って憧れはあったんですけれど、自分はそれができない人だって、やっと気づきました(笑)そもそも、こんなに色々とできるなんて思ってもいなかったです。ただ、子どもたちが自分を必要としてくれたことで『生きてていいよ』って言われた気がしたんです」
ベビーマッサージやパステル和みアートの資格取得、イラストに絵本の製作、そして子育てサポートグループの運営と、多岐にわたる活動で、能代に住む親子を元気にしているたなかさん。
「自分の居場所を自分でつくった感じ」と、今のご自身を表現してくださいました。
縁があり住むこととなった能代で、明るい未来を切り開いていく子どもたちのことを、たなかさんはこれからも見守っていくことでしょう。
たなかまりこさん
(ベビーマッサージ・パステル和みアート・イラスト・絵本)
ブログ
https://ameblo.jp/ohisama-hinamari
■ 子育てサポートグループちゅちゅ
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