閑静な住宅地の一角に佇む「不動産&Cafeひまわり不動産」は、植樹に囲まれた隠れ家のような雰囲気のお店です。
見た目では、不動産であることは全く分かりません。ドアを開けると、ゆったりとした時間が流れ、非日常空間と珈琲の良い香りが広がります。 ドリンク類はもちろんのこと、ワッフルやクロッフル、プリンとデザートメニューも取り扱っています。
ふと店内にあるドアが目に入ると、そこには「株式会社ひまわり不動産」と会社名が印字されたプレートが。アパートのお部屋探しや土地活用の相談・打ち合わせができるスペースが、カフェ内に併設されている珍しい不動産会社です。
お客さんとして通っていた馴染みの喫茶店
不動産&Cafeひまわりの建物自体、以前は近所の住民や付近で働く人々の癒しの場所として親しまれていた喫茶店だったそうです。代表取締役の石黒大樹さんも、この喫茶店によく訪れていたという常連客の一人でした。
「元々この建物は、20年もつづく喫茶店だったんです。私は開業をするまで、ずっとハウスメーカーの営業として勤めていました。仕事の合間のちょっとした時間だったり、仕事で心が疲れてしまったりしたら、いつもこの店でオーナーのママさんに愚痴を聞いてもらっていましたね」
オーナーとだけでなく、常連客との会話とおいしいコーヒーで、一息つけられる場所。ふとした時にふらりと訪れることのできる、石黒さんにとって処方箋のような喫茶店だったのかもしれません。
前オーナーから引き継いだ「人と人をつなぐ場所」
石黒さんの奥さんは専業主婦生活を長く送っていましたが、今は幅広い年齢層のお客さんとの会話で、楽しく仕事ができていると話してくれました。
人々のコミュニティの場でもあった喫茶店は、約20年の月日を経て閉店をすることが決まりました。ある日、石黒さんが喫茶店を訪れた際に、オーナーから思わぬ提案をされることになります。
「不動産屋をやるなら、この場所を貸すからやってみてはどう?」
勤続年数を重ねるごとに、これからの人生を考えていくようになっていた石黒さん。不動産屋としての独立も考えていた頃でもあり、その話を引き受けたそうです。とはいえ元々は不動産屋としての開業だったはずが、喫茶店のスぺースを借りられるために、奥さんがカフェの運営をしていくことになりました。
「カフェをやりたい!から始まったのではなく、あくまでメインは不動産屋。だから『なぜカフェと不動産を一緒にしたか』というと、自分たちの想いでというよりは、タイミングとご縁でそのようになっていった感じです」
その後は、カフェの開業のために、夫婦でコーヒーをメインで提供するカフェや喫茶店巡りをしたそうです。
「今はコンビニのコーヒーでも、それなりのクオリティで安く気軽に飲める。私も会社員時代はよく飲んでいて『コーヒーにそんなにお金を掛けられない』と思っていたのですが、カフェ巡りをしていると、どこのお店もなかなかのお値段がするんですよね。うちの場合は不動産がメインで、カフェに気軽に来て、いずれは不動産に繋がれば……というスタンスなので、利用しやすい価格で提供できるようにしています」
一年かけて変化していったカフェメニュー
三種類のフルーツソースとドリンクから好みを選ぶ「ナタデココ入りフルーツドリンク」。ごろっとしたフルーツとナタデココの食感が楽しい一品です。
はじめのうちは、コーヒーや紅茶、仕入れたケーキからのスタートだったというカフェメニュー。
「味の再現性が高いのはサイフォン式のコーヒーだと、前オーナーさんから聞きました。ドリップだと蒸らし加減だったり、お湯の注ぎ加減だったり色々とあるみたいで。最初は、そんなことも知りませんでした」
前オーナーさんだけでなく、コーヒーの仕入れ先の担当者にコーヒーのことを聞いたり、ご自身でも調べたりしながら淹れ方を学んだといいます。
「昭和の喫茶店ブームの時に、働き世代だった方たちがけっこう詳しくて、お客さんから学ばせていただくこともあります。コーヒーカップを揃える時にも、お店の雰囲気に合うものや、誰でも好まれるようなものと思って選んだんです。そうしたらお客さんから『飲み口の薄さがいいね』って言ってもらったことがありました。口当たりの良さがカップの飲み口で変わるなんて、コーヒーが好きな方はそこまで分かっているんだなって感じました」
カフェを始めてからも日々勉強しながら、コーヒーの奥深さを感じているそうです。
「Instagramを見て来てくださった若い年齢の方は、コーヒー以外のドリンクを頼まれるんです。カフェインが苦手な方が多いような印象でした。それもあって、コーヒーじゃないメニューも増やそうとなったんです。フルーツドリンクやレモンスカッシュ、クリームソーダと今ではドリンクも豊富になってきました」
デザートメニューは、ワッフルやクロッフルを中心としたもので、季節によってフルーツやテイストを変えて提供しているそうです。
困りごとがあった時にひまわりを思い出してもらえるきっかけに
ひまわりのメイン事業である不動産屋。用がないと入ることはない不動産は扱う額も大きく、慎重に選ばないとだまされやすそうと、マイナスイメージを抱きやすい業種でもあります。
「不動産選びは、人づてで紹介されることも多いと思います。でも、自分が満足できる人を紹介してもらえるかとなると、そこは分からないですよね。紹介されたからこそ断りづらいことなんかもある。不動産って、自分の目で確かめて依頼をしようっていうのがなかなかできない業界なんですよ。でも、ここならお茶を飲みながら、どんなところなのかを観察してみようという気持ちで来られるのかもしれないです」
「ひまわり不動産では、この人にだったらお仕事を頼める」と思えるきっかけになるのが、カフェなのかもしれません。
「不動産を意識していないカフェのお客さんが、どこかの場面で不動産に頼み事をすることがあったり、知り合いに『知っている不動産屋はないか』って聞かれたりするかもしれない。そんな時に『いつも行っているカフェが不動産屋もやっているんだよね』って、そこでご縁が生まれることもあるんじゃないかと思います」
不動産スぺースは、カフェ店内から繋がっています。
心から「ごちそうさまでした」が言える自分に
カフェを始めて最も変化を感じたことについて、奥さんが答えてくれました。
「どこの飲食店に行っても、心から『ごちそうさまです』と思えるようになりました。自分自身も作り手になったことで、人が作ってくれたごはんのありがたさが実感できるんです。いろいろな想いを持って作ってくれているんだっていう感謝の気持ちを、今まで以上に感じられています」
また、お店を始めたことでお客さんからの心遣いをいただける場面も。
「コロナ渦でまだ油断ができない時期のことでした。あるお客さんがおしぼりを使った後、それを袋に入れてしばってくれていたんです。私たちが片づける際に直接手に触れないようにと、感染対策というか、思いやりですよね。その日から私たちも、自分たちがお客さん側の時には真似するようになりました」
自身が飲食店を利用する際の目線が変わり、より一層の“感謝”を感じられるようになったのも、開業して変化を感じた点だといいます。
お客さんにとってほっと一息できる場所であり続ける
少しずつリピーターも増えてきて、前進していると感じられるのが嬉しいと話してくださった石黒さん。
「今までずっと不動産業界だけにいたので、飲食店は知らない世界。何曜日だと忙しいとか、天気が悪いから暇かというと、そうでもない。人の出入りが読めないという意味では面白いです。前職時代から異業種の方との関わりはありましたが、今までの客層でない方もいらっしゃるので、若い世代の方の様子を見ているだけでも楽しいですね」
取材当初は、まもなく開業から一年を迎える頃でもあり、今後のひまわりについてお尋ねしました。
「お店や会社を大きくしたいという考えは、今のところないです。あまり背伸びせずに自分の器でできる範囲で、来た人が喜んでもらえるお店をできるだけ長く続けられたらって思います。前職時代のお客さんや仲間も含めて、この場所がちょっと一息つける場所であり続けることが、一つの目標かもしれませんね。サラリーマンのほうが安定はしているのでしょうけど、何年後かに、この道を選んで良かったって思えればいいのかなって思います」
「最近、仕事にちょっと疲れてしまった」
「誰かにこのモヤモヤを聞いてほしい」
心の栄養が足りていない、どこか気持ちが落ち着かない。 そんな時にほっと一息、深呼吸をできる場所であるのが、不動産&Cafeひまわりなのではないかと思います。
■ 不動産&Cafeひまわり
公式HP
住所
〒010-0916
秋田県秋田市泉北3丁目8−4