大きなライフイベントである妊娠に出産、そして子育て。 育児中だからと、諦めなければいけないことがあると感じている方は多いのではないでしょうか。
合同会社チェリッシュの代表・加藤未希さん(トップ写真・下段中央)は、男の子3兄弟のママであり、子育て中に疎外感を感じていた一人でもあります。「ママだからこそ楽しいことをしたい!」という気持ちから始めた子育てサークル「チェリッシュ」は、設立7年にして「合同会社チェリッシュ」へと法人化。
ママ達が持つ強いパワーと地域の支えの中で、加藤さんが思い描き続けてきた子育て支援を形にしてきた経緯について、お話を伺いました。
「子育てをしながら楽しいことがしたい」を自分でやってみよう
運動不足になりがちなママに向けた、ヨガレッスンの様子。時間や子どものことを気にせずにリフレッシュできます。
加藤さんは高校卒業後、得意だった水泳と子ども好きであることを活かして、プールのインストラクターとしてアルバイト勤務をしていました。2年ほど勤めた後に妊娠が発覚し、長くお付き合いをしていた旦那様とご結婚。21歳で出産を経験し、そのまま専業主婦となりました。
「若くして家庭に入ったから、まわりは働き盛り、遊び盛り。子どもが大好きだから、子育てを苦に思ったことはないんだけれど、ちょっと置いてけぼりな気分にはなったかな」
どこかで孤独感を感じながら、子育てに忙しい日々を過ごしていました。 そんなある日、子育て広場に行った時に出会ったのが、現・チェリッシュ副代表の中山沙耶さん(トップ写真・下段右から2人目)。
「彼女とはママ友として出会ったんだけど、すぐに意気投合!話をしていくうちに『子どもがいるからこそママができることをしよう!』って盛り上がって。2012年にママ友3人で立ち上げたのが、チェリッシュだったの」
当時、秋田では珍しかったベビーマッサージの資格を持っていた中山さんと、ママフィットネスの資格を取得した加藤さんで、誰もが参加できるママ向けレッスンイベント開催の構想を広げたといいます。
子育てサークルの活動で感じたママ同士の繋がり
ママと子どもの絆の繋がりを連想させるさくらんぼ(チェリー)と、頑張るママ達にリフレッシュしてほしいという願いから「チェリッシュ」が名づけられました。
チェリッシュのコンセプトは「子どもを連れてママ自身も楽しむ」こと。
ベビーマッサージやフィットネスだけでなく、フラワーアレンジメントや料理教室、ヨガといったイベントを企画し、月に1回開催することから始まりました。ママ向けであるのは、子ども連れでもゆっくり過ごせるよう、安心の託児付きであること。これはチェリッシュのメンバーの「こうだったらいいよね」の声を反映させて決めたそうです。
「最初は自分の子育ての一環としての、自己満足の世界だったのかもしれない。そのうちに、月1回だったイベントがどんどん増えていって、ついには週5日にまでなっていたの(笑)」
2〜3年とイベントを続けていくうちに、サークルとしても人数が増えていったといいます。
「最初は3人でのスタートだったけれど、参加者であるママ達から『子育て支援に関わりたい』『資格やキャリアはあるけれど、子育て中だと活かせない』っていう声が聞こえてきて。子どもを預かる代わりに、講師としてイベントの協力をしてもらっているうちに、参加者がスタッフになって、人数も10人くらいに増えていったかな」
このころ加藤さんは第2子も出産しており、子ども達をおんぶに抱っこをしながら参加者と花見をしたり、コミュニティセンターで集まったりと活動を楽しんでいました。
このようにママ達と繋がりを持ちながら月日が経っていく中で、一つの分岐点が訪れます。
ボランティア活動から子育て支援をする“会社”への転換期
子育て支援としての活動をしていく中、加藤さんを含めた同じ世代のママたちの子どもは、幼稚園に入園する時期となりました。空き時間もでき、そろそろ働かなければいけないと考え出した加藤さん。
「チェリッシュを辞めたくないけれど、このままボランティア活動だけをしているわけにもいかない。それなら、チェリッシュを働けるような会社にしようと思ったの」
そこで拠点先として名乗り出てくれたのは、現在のチェリッシュカフェ敷地内にある、スポーツクラブの職員さんでした。チェリッシュの活動に共鳴し、施設内にある会議室を貸し出してくれたのです。
立ち上げから3年経った2015年、その会議室のスペースを子育てサロンとしてオープン。しかし“会社”としての継続をするには、一つの重大な問題点がありました。
「子育てサロンという場所ができたことは良かったけれど、それでお金をもらうことはできないって思った。今までは好き勝手にボランティア感覚でやっていたけれど、お金を生み出すとなると維持費や運営費、人件費も掛かるわけで、運営していく難しさを改めて感じたかな」
どうしたらお金を生み出せるかを考えた加藤さんは、子連れで外食をすることの大変さを思い出しました。
「子連れの外食は、子どもが走り回ったり他のお客さんのテーブルに行ってしまったりなんて、ママにとってはよくあること。だからこそ『ママがストレスなく、ゆっくりと食事を楽しめる場所にもしていきたい!』って思ったんだ。飲食店で働いた経験すらなかったけれど、色々と調べて、何もなかった子育てサロンにキッチンを作ったの」
ママ友に会いに行く感覚で、気軽に立ち寄れるチェリッシュカフェ。ハイハイ時期の赤ちゃんにも安心のクッションフロアー床に、おもちゃスペースを含んだゆったりとした空間が広がります。子育て中のママであるチェリッシュスタッフが常駐しているので、時には子どもの見守りをしてもらいながら、ゆっくりとランチを楽しめます。子育てについての悩みや相談も聞いてくれるので、ママの集いの場としても活用できるコミュニティスペースでもあります。
補助金や営業許可の申請、ごはん作りが得意なママ達の力も借りて、みんなで協力しながら翌年の2016年に「チェリッシュカフェ」をオープンしました。
「イベントだけの参加でもいいし、ランチ付きレッスンを選択してもいいし。もちろんランチだけの利用も大歓迎!ママのペースでチェリッシュの活動を楽しんでもらうスタイルが徐々に確立されていったのは、この頃からかな」
加藤さんをはじめとするチェリッシュのスタッフで、自分たちの思うことを少しずつ形にしていったのです。
保育園開園をきっかけに法人化
認可の小規模保育園として運営をしているチェリッシュ保育園では、0・1・2歳児の子ども達がアットホームな環境の下、伸び伸びと過ごしています。
スタッフそれぞれが、子どもを抱っこ・おんぶをしながら運営を続けてきたチェリッシュカフェ。スタッフの子どもが段々と大きくなっていくうちに、おんぶをしていても泣き続けてしまっていたり、参加者同士の子どもでケンカをしたりということも出てきたそう。
「なかなかスムーズに運営ができなくなっていって、自分たちの子どもを預かってくれるスタッフが必要だって感じたの。子育て中のママのためにイベントをやっているのに、スタッフである自分自身の子どもはないがしろにしているってことが、なんだか矛盾しているなって思って」
ですが、人件費も掛かるしどうしようかと悩んでいるタイミングで、新たに追い風が吹きます。
「たまたまカフェの下の階にある物件が、テナント募集を始めたの!自分の子どもを保育園に預けることができれば、ママが働けるし、子どもも我慢しないで伸び伸び過ごせるんじゃないかって考えたんだよね」
そこで認可の小規模保育園という形であれば、県からの給付金で人件費を抑えられることを知った加藤さん。しかしいきなり園児が集まるわけでもなく、赤字を覚悟するようにとの声もありました。
「園児が集まらなければ、保育園をつくっただけで運営にも届かない。でもそこで、スタッフの子どもを集めただけでも、最低限である定員の6人っていう園児数をクリアできるよねって話になったの。それならできる!って、みんなで喜んだよ」
こうして保育園開園の夢は、実現へと向かっていったのです。今まで以上に“運営をしていく”ことが重要になるにあたり、個人事業として行っていたチェリッシュを、法人化するという覚悟が決まった出来事でもありました。
チェリッシュの強い想いを広げていく
編集未経験のママ達の力で創刊したフリーペーパー「CHERISH」。営業や取材・記事の作成や誌面デザインなど、現在ではスタッフ3〜4人が編集部の仕事を行っています。
2022年4月、チェリッシュは保育園の開園に続き「学童保育チェリッシュスクール」を開所しました。当時は赤ちゃんだった子ども達が小学生となったことで、ママ達が早番・遅番に対応しづらくなり、同時に子ども達の長期休み中での働き方についても悩む時期となりました。
「児童館も早い時間から開館しているわけでもないし、仕事が終わる時間が遅いと、留守番中の子どもが心配だし。学童を作ることができれば、子どもの居場所もできるし、ママが安心して働ける環境ができるよねって話していたの」
チェリッシュはスポーツクラブの敷地内ということもあり、水泳にダンス、サッカーや体操など様々なスポーツを習うことができます。 学童に通いながら習い事ができる面でも、日々の送迎が難しい親御さんに喜んでもらえているそうです。
「チェリッシュスクールではサッカー体験をしたり、けん玉の先生に来てもらってけん玉教室をしてみたり。チェリッシュカフェでの学童向けのランチの提供や、近隣のラーメン屋さんとコラボをして、みんなで外食をしたこともあったな」
子ども達の思い出づくりができるように、そしてママ達の負担がないようにと、随所に心配りがみられる学童保育です。
初心を忘れずに、これからもチェリッシュを“自分色”に染めていきたい
取材をした日、カフェがクローズしてからも、キッチンスタッフであるママ達がホッと一息つきながら賑やかに会話を楽しむ様子がみられました。中には、第6子である赤ちゃんをおんぶしながらホールに立つママの姿も。
「ただの飲食店だと、お客さんに話しかける光景ってあまりないと思う。 チェリッシュカフェのスタッフは『ママ友づくりがしたい』って気持ちが強くて、友達に会いに来るような感覚を大切にしているの。ママ・子どもの名前を覚えるのはもちろんだし、イベントでは必ず全てのママに声を掛けようって、スタッフ間でも話をしているんだ」
スタッフの中でも、モヤモヤを感じたらすぐに話し合って改善をしていくことで、良好な関係を築き続けることができているといいます。
「21歳で初めての子育てを始めて、何がいいのか悪いのかも分からない状態だった。チェリッシュの活動を通して色々なママの子育てを見て、一人のママとしてたくさん学び取ることができたの。私が日々、楽しい生活を送れていることも、チェリッシュの活動のおかげだと思っている。チェリッシュに救われたし、生きがいにもなっているんだなって感じているよ」
ママ友3人でスタートをした、小さな子育てサークルから10年。
そして更に次の10年に向けて、加藤さんはこう答えてくれました。
「チェリッシュ保育園は小規模施設だから、0・1・2歳児までしかいられない園なの。これからは未満児だけでなく、3歳以上も通える保育園が作れたらいいなって思っているよ。そして今後、子ども達がもっと成長していったときに、私たちだっていい歳になっているだろうしね。自分たちの活動をしつつ、次の世代にも繋げていきたいなって思っているの。みんなで笑いながら言ってるんだけれど、最終的には私たちが看てもらう『介護施設でも作ろうか』なんて言ってるよ(笑)」
コロナ禍で再沸しつつある“孤育て”が広がる中、チェリッシュに行けばいつでも人との関わりや楽しさ、そして温かさに触れられる。
「ママだからこそ、楽しいことをしよう!」
ぶれないコンセプトとスタッフの想い、そしてママ達のエネルギーと繋がりは、未来の子育て環境を更に大きく変えていくに違いありません。
■ 合同会社チェリッシュ
公式HP
住所
〒010-0065 秋田県秋田市茨島4丁目3-36
秋田アスレティッククラブ内
チェリッシュカフェ
秋田アスレティッククラブ2階
チェリッシュ保育園
秋田アスレティッククラブ1階