もし、あなたや大切な人が認知症になった場合、どうしますか? どこに相談すれば良いのか、どのような支援制度があるのか、わからない人も多いのではないでしょうか。


認知症カフェでは、この「どうしたらよいか、よくわからない」認知症に関するさまざまな情報を提供しています。


「ここは認知症カフェなので、認知症でお困りの方はもちろん、地域住民も一緒に楽しく交流する場です。ボランティアの方や専門職員が常駐しているので、認知症に関することは気軽に相談していただけたらうれしいです」


そう話すのは、名古屋市にある認知症カフェ「まちかどカフェ」の室長・西村久美子さん。


今回は西村さんに認知症カフェの目的や意義、認知症カフェに対する思いなどについてお話を伺いました。



認知症ご本人・ご家族・地域をつなぐ認知症カフェ

まちかどカフェは一般財団法人 名古屋市療養サービス事業団によって、公益事業として運営されています。まちかど保健室という事業の1つに「まちかどカフェ」があります。


まちかどカフェは2015年6月からスタートした、名古屋市内で初の認知症カフェです。年末年始と祝日以外の月、火、水、金の09:30〜12:00までオープンしています。


認知症カフェとは、認知症の人やその家族はもちろん、地域の人も参加できる交流の場のことです。         

  

現在まちかどカフェには、ボランティアが13名在籍しています。カフェの日はボランティアが2名と、名古屋市療養サービス事業団のスタッフ3名で運営しています。


まちかどカフェにはケアマネージャー資格などを保有した、専門家が常駐。料金は飲み物1杯とパン1個で100円。小さなワンコインで利用できるのも魅力です。


「まちかどカフェのコンセプトは『認知症の理解を深めて悩みを共有し、楽しく交流する場』です。だから、認知症当事者の方だけでなく、地域住民も加わります。オープンしない日や時間帯では、ご家族だけの交流会も設けています」


認知症カフェは医療の場ではないので、認知症の人に対して医学的なアプローチはしません。カフェへ訪れる人や地域の人、医療や介護の関係者を結ぶ「ハブ」のような役割を果たしています。



地域の人に知ってもらいたい

まちかどカフェの利用割合は、認知症の人とご家族が50%、地域の住民が50%です。


「認知症やご家族に来てもらうことも大事なのですが、地域住民に来てもらうことも重要だと考えています」


認知症ではない人や、身内に認知症の人がいない人にとっては、病気を理解するのは難しいもの。だからこそ、地域の人にもまちかどカフェへ足を運んでもらい、認知症について知ってもらうことが大切だと西村さんは話します。 


ある日、カフェがお休みの日に来店した人がいました。シャッターの前で困っていたところ、地域の人が声をかけてくれたのだそうです。声をかけた地域の人は、まちかどカフェが認知症カフェだとわかっているので「今日はお休みですよ。一緒に帰りましょう」と話をしてくれたのだとか。


もしここが認知症カフェだと地域住民に認知されていなかったら、その認知症の人は長時間待ち続けていたかもしれません。


入口の受付。温かい雰囲気で出迎えてくれます


認知症カフェはご家族にとっても、息抜きの場としての重要な役割があります。ご家族の中には辛い気持ちを吐き出したい、自分の思いを誰かに聞いてほしいと悩む人も少なくありません。


「認知症ご本人を、喫茶店へ連れていけないとおっしゃるご家族も多いですね。症状によっては、店内を歩き回る方もいるので、ゆっくりお茶をするのが難しいと。でもここは認知症カフェだから連れて来られると言われます」


一般的なカフェでは認知症について知らないお客さんもたくさんいるため、病気特有の行動を理解してもらえないこともあります。しかしまちかどカフェは認知症カフェ。認知症でも、安心して参加できる場なのです。



当事者だけでなく皆で支え合う世の中に

「私、認知症になりたくないんです」


このように、カフェで思わず口に出してしまう人もいるのだそうです。当事者の立場からすると、決してうれしい言葉ではありません。そんなとき、西村さんは優しく声をかけます。


「認知症になりたくないのはわかります。でもここは、認知症カフェです。認知症になっても来られる場所です。だからここには認知症やご家族も多くいらっしゃいます」と。


認知症は誰でもなりうる可能性があることも伝え、お互い理解していきましょうと、その都度話をしているのだそうです。そこで認知症の理解を深めていく人もいます。


認知症に関するさまざまな資料が展示されています


「これまでの認知症のイメージを払拭すると言いますか、ここで正しい認知症の知識を知ってもらえたらと思います。当事者になっても、誰もが来られる場所なのだということを伝えていきたいですね」



カフェは目的を達するための「手段」の一つ

まちかど保健室の講座の種類は豊富で、取り上げられるテーマはさまざまです。これらの企画は、担当していただく講師と西村さんが共に考案しています。


毎月たくさんの講座が行われています


「テーマについては、私がいきいき支援センター(名古屋市における地域包括支援センターのこと)の職員だったので、介護予防的な内容が浮かびやすいのかもしれません」


講座は大学の教授やメーカーの専門家に講師を依頼するなど、さまざまな人や組織と協力しています。その全てが、ボランティア(無償)で引き受けてもらえます。


逆に大学や病院が地域と連携したいと、西村さんに声がかかることも。近年ではお年寄りを狙った詐欺被害が多いため、警察と連携して講座を開催したこともありました。


講座を終えたあとは、有資格者の職員と西村さんが15分ほどかけて、介護保険制度の話をします。認知症に関する情報だけでなく、介護保険全体にまつわる内容となっています。


「せっかく講座に来てもらっているのだから、それだけで終わるのではなく、付加価値をつけたいと思っています。介護保険制度の話では『介護保険証持っていますか?』からスタート。制度やサービスの内容を、少しでも知ってもらえるようにしています。制度について全部知ってほしいというよりは、なんか聞いたことがあるな、程度のレベルで知ってほしいなと思っています」


たとえば家の中で転倒して入院となった場合、たくさんの説明を聞いたり契約を結んだりするなど、やらなければならないことがたくさんあります。ただでさえ体が辛いのに、一度に言われてもわけがわからなくなることもあるでしょう。


しかし「西村さんが介護保険のことを話していたな」と少しでも心に残っていれば、カフェのスタッフや身内に助けを求めたり、地域包括支援センターや役所へ相談したりできるようになります。


このような専門家による情報提供が、一般的なカフェと違うところだと西村さんは話します。


「コミュニケーションをとるだけなら、一般的なカフェでもよいのです。でもここは認知症カフェ。コミュニケーションの先にある情報取得だったり、相談だったり、認知症を知ってもらったりすることが本来の目的なんです」



まちかどカフェはカフェではなく「認知症カフェ」


周囲の人からは「認知症カフェ」という名前に抵抗がある、と言われることもあるそうです。ここが認知症カフェでなく、カフェだったらいいのにと言われることも。しかし西村さんは、ここは認知症カフェでなければならないと考えます。


「認知症カフェだから、コーヒーを飲むだけの場ではないんですね。認知症について、理解してもらう場なのです。そこはあいまいにしたくない、曲げたくないと思っています」


認知症カフェという前提をあいまいにしてしまうと、認知症を正しく理解してもらえなくなります。「認知症カフェ」の名前にこだわるのは、まちかどカフェがお茶をしたり交流したりするだけの場ではないからです。


「これから認知症の人はますます増えていきます。それで、増えていったら排除するのでしょうか?少し前まで、一緒に生活してきた人です。普通に会話してきた人です。症状にもよりますが、認知症は周りの見守りや声かけがあることで生きていける人も少なくありません」


高齢化に先立ち、国は「地域包括ケアシステム」を推進しています。「地域包括ケアシステム」とは介護状態になっても住み慣れた地域で、自分らしく安心して生活できる体制のことです。


しかしこの制度に、地域の意識は追いついていないのが現状です。「まちかどカフェには地域理解の第一歩としての役割がある」と、西村さんは話します。



横のつながりを大切にしていきたい


最後に、今後取り組んでいきたい活動について伺いました。


「認知症カフェは、まだ世間によく知られていない取り組みです。カフェで話をしておしまい、というイメージを持たれている方も少なくありません。実際にはいろんな講座を開催していますし、認知症についての情報も提供しています。それに地域とのつながりも大切にしていることを、多くの人に知ってもらいたいと思っています」


また西村さんは、認知症カフェ同士で連携していきたいと考えているのだそうです。まちかどカフェだけでなく、認知症カフェ業界全体を、もっと活性化させたいとのこと。


「箱はあっても、カフェとして機能していないところもたくさんあります。多くの認知症カフェは老人ホームなどの施設が運営しているのですが、なかなか人が集まらないなど、それぞれに課題を抱えています。それに地域の人が認知症カフェを理解していかないと、取り組みは広がっていきません」


西村さんは中学校や小学校で、認知症について講演することもあるそうです。子どもたちは一般的な認知症のイメージを持っていないので、西村さんの話を素直に受け入れてくれるのだとか。


「子どもたちはこちらが感動してしまうほど、みんな優しい。認知症に対して先入観がないから、素直なんです。だから、子どものうちから認知症の話に触れることは、とても大切なことだと思います」


このように「さまざまな場所と連携することで、多くの人の認知症理解を深めていきたい」と西村さんは話してくれました。


認知症を隠すのではなくオープンにすることで、偏見をなくし、正しい知識が広まっていくのではないかと感じました。その第一歩が認知症カフェ。お近くに認知症カフェがあれば、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。


今日もまちかどカフェではスタッフやボランティアのみなさんが、おいしいコーヒーとパンを用意して笑顔で出迎えてくれます。




■ まちかどカフェ


ホームページ

nrs.or.jp/office/machikado


住所

〒464-0055

愛知県名古屋市千種区姫池通3丁目20 LOTUS覚王山1階B