クリスマスや誕生日など、お祝いの場を華やかに彩る、おいしいケーキ。クリームやフルーツがたっぷりと盛られたケーキは、年齢や性別を問わず、人々の心をワクワクさせてくれます。


しかし食物アレルギーがある人は自分が食べたいケーキを食べられなかったり、アレルギー対応のケーキしか選べなかったりと、我慢しなければならないことも。


キラキラ宝石のように輝くケーキを見ているだけではなく、小麦アレルギーのある人も実際に食べて喜んでもらいたい。そう思いながら毎日ケーキを作り続けるのは「Lilac」のオーナー、沖寬(おきひろし)さん。


Lilacのケーキは全て小麦粉不使用のグルテンフリーケーキです。


グルテンフリーのケーキを作るきっかけとなった出来事や、ケーキを作るうえで大切にしていることなどを伺いました。



小麦粉を使わないグルテンフリーケーキ

Lilacを紹介する前に、グルテンフリーについて紹介します。


グルテンとは、小麦粉に水を加えてこねてできる、タンパク質のことです。一般的なケーキの多くは小麦粉が使われますが、このグルテン(小麦粉)を使わないケーキが「グルテンフリーケーキ」です。


グルテンフリーとは、もともとグルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる病気の「セリアック病」を対象にした治療方法の一つでした。しかし、近年では海外セレブが健康のために取り入れた食事方法として紹介され、一般の人の間でもブームが起こりました。


グルテンフリーケーキの多くは、米粉やタピオカ粉などを使って作られます。


もともと小麦粉を使ったケーキを作っていた沖さん。


Lilacでは小麦粉を使わないケーキが、ショーケースに並んでいます。キラキラと輝くケーキは、見ているだけで幸せな気分にさせてくれます。


Lilacのケーキを作っているのは、オーナーパティシエの沖さんです。


沖さんはパティシエとして岐阜と名古屋のケーキ屋で10年ほど勤め、勤め先ではパティシエとしての知識や技術を厳しく叩き込まれました。


「当時は先輩からの厳しい指導で大変だと感じたこともありましたが、今になってみるとその経験が生きていると感謝しています」


今は人を雇う側になり、人を教育する大変さがわかったと話す沖さん。当時の自分に厳しい指導は必要だったと話します。


「時代の変化で、今は基礎から厳しく指導してくれるお店は少なくなったかもしれませんが、若いうちの苦労は悪くないと思いますよ」


焼き上げに使うオーブン


その後、日進市で自分のケーキ屋をオープンさせ、9年ほどお店を続けます。当時は一般的なケーキ屋と同じように、小麦粉を使ったケーキを作っていました。


日進市のお店をたたんだ後は、パティシエとして他のケーキ屋へ勤めに出ることに。その頃はまだ、グルテンフリーのケーキ制作に携わろうとは予想もしていませんでした。



グルテンフリーのケーキ屋を始めたのは知り合いの一言から

パティシエとしてすでに豊富な経験を積んでいた沖さんが、グルテンフリーケーキ制作を始めたきっかけは、知人からの一言でした。


「知り合いから『おいしくて小麦粉を使わないケーキを作ってほしい』と言われたんです」


これまで小麦粉を使ったケーキを作り続けてきた沖さんは、知り合いからの思いもよらぬ一言で、考えと行動が一変します。ケーキに使う素材や添加物について考えるようになり、グルテンフリーについて調べ始めます。


当時は勤めに出ていたため、仕事をしながら研究を続けていました。調べていく中で気づいたのは、グルテンフリーケーキがおいしくないことでした。


「当時、グルテンフリーのケーキは、味がイマイチでしたね。作ってから時間が経つとパサパサになってしまうことが多かったんです」


グルテンフリーケーキは「パサパサする」「味がおちる」などのイメージを持っている人も多いかもしれません。


小麦粉を使わないケーキを作る場合、小麦粉の代用には、主に米粉が使われます。しかし、米粉だけではパサパサした食感になりやすく、おいしいケーキは作れないのだとか。実際に、小麦粉を米粉で代替しただけのケーキは食感が悪く、味も落ちてしまいます。


材料や価格も大切ですが、何よりもケーキのおいしさにこだわりを持っていた沖さん。小麦粉以外の粉を使うと思うようなケーキが作れず、試行錯誤の日々を過ごします。


「米粉以外にもホワイトソルガム、キビ粉、タピオカ粉、葛粉、玄米粉などを配合しています。ケーキによってどの粉をどの割合で使うかなど、少しずつテストをしてきました」


小麦粉を使わなくてもおいしいケーキを作るため、開店前から何度も粉の配合を重ねてきました。



お客様に認知されるまでが大変

試行錯誤の末、お店に出せるクオリティのグルテンフリーケーキが完成。


2017年、愛知県名古屋市千種区に全てのケーキが小麦粉不使用のケーキ屋「Lilac」をオープンさせます。


しかし来店するお客様の数は、商売として成り立つものではなかったのだそうです。


ケーキの上に乗せるチョコレートのバースデーメッセージ


「開店してしばらくは、運営が厳しかったですね。月に何度もマルシェへ出店して認知度を高める活動をしていました」


浜松や三重、岐阜などさまざまなマルシェへ出かけていった沖さん。 沖さんの体は一つしかないので、マルシェへ出店するとLilacを留守にしなけなければなりません。あまり留守が続かないよう、徐々にマルシェの回数を減らしていきました。


そんなある日、東海地方ではよく知られているバラエティ番組で、Lilacがテレビの取材を受けることに。出演者が地下鉄東山線の本山駅から東山公園駅までを歩く企画で、Lilacが取り上げられたのだそうです。


番組内ではチーズタルトやシュークリームが紹介されました。テレビ放送の反響は大きく、多くの人から知られるようになったのだそうです。


「テレビの影響は一時的なものかと思いましたが、出演前と比べると格段に来客数は上がりました」


メディアで認知されてからは来客数が増え、それからはマルシェを減らしても経営が成り立つようになっていきました。認知度がアップしてからも、お客様がより満足できるよう、ケーキの改良を行っています。


「2017年のオープンから6年経ちましたが、今も配合のテストを続けています」


誰もが喜ぶグルテンケーキを作るために、改善を続ける沖さん。オープンしたばかりの頃はベストのグルテンフリーケーキが作れたと思っていましたが、今はさらにおいしく作れるようになったと話します。




おいしさと価格のバランスを大切に

米粉の種類はたくさんありますが、Lilacではあまり「無添加」や「産地限定」などにこだわりすぎないようにしています。それにはさまざまな理由があります。


「もちろん無添加や産地限定の米粉を使いたいですが、粉にこだわりすぎると原材料費が高騰してしまいます。米粉以外の材料も決して安くありませんし、高級な米粉を使ってしまうと、ケーキの価格に反映させなくてはいけません。そうすると誰でも食べられるケーキではなくなってしまいます」


Lilacのショーケースに並ぶケーキは、一般的なケーキの価格帯と大きな差はありません。


沖さんはおいしくて、誰でも食べられるケーキであることを大切にしています。


いくら良い材料を使っても価格が高くなりすぎてしまうと、グルテンフリーケーキを必要とする人の口に届かなくなってしまうからです。反対に安さばかりを重視すると、味が落ちる可能性もあります。


沖さんは価格と味のどちらかを我慢するのではなく、両者のバランスを考えて、材料選びを行っています。



ショーケースにあるすべてのケーキから選べる喜び

Lilacでは、小麦アレルギーのお子さんを連れたご家族がよく訪れます。


ある日、小麦アレルギーを持つお子さんがお母さんとやってきました。お母さんが「ケーキの中からどれでも選んでいいよ」と言うと、うれしそうにしていたお子さんの顔が印象的だったと沖さんは話します。


「一般的なケーキ屋だとアレルギーケーキの種類は少ないんですよね。だから目の前にたくさんケーキがあっても、限られたケーキの中から選ぶことが多いと思います。でもLilacではすべてのケーキの中から、子ども自身が食べたいケーキを選択できる。あのとき、ケーキを選ぶときのうれしそうな子どもの顔を見たら、こちらまでうれしくなったんです」


アレルギーのある子は、日頃から周りの人と違う食べ物を食べる機会が多く、それをストレスと感じる子もいます。小麦アレルギーがあっても、ショーケースにあるさまざまなケーキの中から選べたら、きっと心に残る思い出となるでしょう。


「自分だけ違うケーキを選ぶのではなく、みんなと同じようにたくさんの種類の中から選ぶ経験をさせてあげたいですね」


また親御さんからも「これまではアレルギーがある子どもだけ別のケーキを買っていたけれど、Lilacのケーキだとみんなで食べられました」と喜んでもらえたこともあるのだそうです。


Lilacではケーキだけでなく、お店を利用する人々の笑顔も作っています。



10年、20年と続けていきたい


最後に、今後取り組んでみたいことを伺いました。


「Lilacをこれからも10年、20年と続けていけたらいいですね。現実にするのは難しいかもしれないけれど、地方に移り住んで、畑を耕しながらカフェの経営もやってみたいかな」


今ほどグルテンフリーが広く認知されていない頃から、小麦粉不使用のケーキを作り続けてきた沖さん。これからも、多くの人を喜ばせるケーキを作っていくことでしょう。


そして今日も、Lilacのケーキはショーケースの中から小麦アレルギーのある子どもや大人を優しく迎えてくれます。




■Lilac


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