心音Booksではオーナーが厳選した、犬や猫の本が棚にずらりと並んでいます。飼い方やしつけの本をはじめ、無添加ごはんの作り方や人の絆を描いた物語など、そのラインナップは多岐にわたります。


なぜこんなにもたくさんの犬や猫に関する本が並んでいるのでしょうか。


「これまで私たちは学校でさまざまなことを学んできましたが、犬や猫の飼い方については実はあまり知りません。だから多くの人に正しい飼い方を知ってほしいと思い、犬・猫の本を集めたんです」


犬や猫を飼うのに資格は必要ありません。しかし命を預かる以上、知っておかなくてはならないことがあります。


今回は書店経営を通して、犬・猫と人、そして街をつなぐ取り組みをされている村田亨さんからお話を伺いました。



犬・猫と人と街をつなぐ書店「心音Books」 

心音Booksは地下鉄東山線本山駅から歩いて1分のところにある、犬・猫に特化した書店です。


2匹までなら、犬や猫も飼い主と一緒に入店できます。(心音Booksは建物の2階にあり、ケージに入れるか抱っこして階段を登ることが入店のルールです。)


店内には犬や猫が過ごせるスペースも用意されています。


入り口から入ると左手に大きな棚があり、手前には動物愛護に関するチラシが、奥には犬・猫に関する本が並んでいます。


本は販売だけでなく、貸し出しも可能となっているのが心音Booksの大きな特徴です。

※一部、貸し出し不可の本もあります。


「大手の書店でも、これほど犬・猫の本を取りそろえているところは少ないんじゃないかな。見つけやすく読みやすいように、並べてあります。犬・猫の飼育は楽しいことばかりではありません。夢のあるキラキラした本だけではなく『老い』や『死』など、飼育の現実を知ることができる本も取り扱っています」



1日に65匹の犬や猫が殺処分されている現実

現在日本では、1日に65匹もの犬や猫が殺処分によって命を落としています。


参照:環境省自然環境局 総務課 動物愛護管理室


殺処分とは、保健所や動物愛護センターが引き取った犬・猫等の動物を致死させることです。殺処分の理由には譲渡が適切ではないと判断された、適切な譲渡先が見つからない、収容に制限があり飼育できないなどがあります。


ペットショップで犬や猫を購入したものの育てられなくなり、飼い主の手によって保健所や動物愛護センターへ持ちこまれるケースも多くあるのだとか。また最近では人間の高齢化に伴い、飼い主の入院やホーム入居のため、手放される犬や猫も後を絶ちません。


しかし、保健所や動物愛護センターにも収容の限界があり、全ての犬・猫を飼育・譲渡できるわけではないため、殺処分をせざるを得ないというのが現状です。


そんな命の危機にある動物を救いたいと、保護活動を行なっている人もいますが、人もお金も物資も少なく、十分な活動ができない団体も多いようです。


村田さんは動物を救いたい、そして保護団体の力になりたいとの思いから、心音Booksを開業しました。



心音Booksを始めたきっかけは保護犬・保護猫との出会いから

村田さんは、奥様、元保護犬の祭ちゃんと元保護猫の法被ちゃんの2人+2匹暮らし。


2匹との出会いについて伺いました。


(画像出典:READYFOR『人と犬と猫をつなぐ「心音BOOKS」+「一箱本棚」プロジェクト』https://readyfor.jp/projects/shinonBooks)

「祭は私たち夫婦が東京に住んでいるときに、保護団体から引き取りました。祭には2匹の兄弟がいて、みんな翌日には殺処分されるところでした。処分されるギリギリのところで保護団体が助けてくれて、ご縁があったんです。そして法被は大阪に住んでいるときに出会いました。種子島で多頭飼育崩壊になっていたところを、大阪の保護団体が保護してくれ、その譲渡先を探しているときに、ご縁がありました」


多頭飼育崩壊とは、飼い主が動物を無秩序に大量繁殖させた結果、飼育ができなくなることです。そんな過酷な状況下で、法被ちゃんは必死に生き延びました。


(画像出典:READYFOR『人と犬と猫をつなぐ「心音BOOKS」+「一箱本棚」プロジェクト』https://readyfor.jp/projects/shinonBooks)

祭ちゃんや法被ちゃんと出会ったとき、お二人は保護団体の方々の苦労を目の当たりにしました。お金も人もモノもない中で活動されている保護団体がたくさんあることを知り、なんとか力になりたいと思ったそうです。


「殺処分が減れば保護団体の仕事も少しは軽減される。そのためには、飼い主に終生飼養してもらうことが重要です。だから正しい飼育方法や、楽しく暮らすための情報を伝えていきたいと思いました。少しでも動物飼育の啓もう活動がお手伝いできたらと」


心音Booksでは、売り上げの一部を保護団体へ寄付しています。街の本屋はどんどん潰れているのが現状。名古屋市でも例外ではありません。書籍は利益率が低く、書店は経営が難しいのだそうです。


書店経営によって犬・猫を守りたい。しかし継続してやっていけるのだろうか……と不安になっていたところ、「一箱本棚」の取り組みを知りました。



棚のオーナーになり、本を貸したり売ったりできる「一箱本棚」

心音Booksでは本の販売や貸し出しとともに「一箱本棚」という制度を取り入れています。


一箱本棚とは、決められた料金を支払うことで、自分だけの本棚をレンタルできるオーナー制度のことです。


一箱本棚では本を置いて販売したり、貸し出しをしたり、自分のお店を宣伝したりと利用方法はさまざま。


「一箱本棚は人間のぼんのうの数(108個)あるんです。これはたまたまなんですけどね」


心音Booksは開店に伴い、クラウドファンディングで約50人の支援者から、約78万円の支援を受けました。クラウドファンディングにはさまざまな種類がありますが、社会活動支援に強みがあるサイトを選びました。


多くの人に支援された理由を伺うと「犬・猫保護活動に加え、動物と人と街をつなぐ本屋というコンセプトが支持されたのでは」とのこと。


お店には、支援された方のネームプレートが飾られています。


クラウドファンディングで支援してくださった方を紹介しています。

「心音Booksへ足を運べない人には、郵送で本を送ってもらっています。スリップはスタッフが書いて、棚の様子を写真で撮影してオーナーさんに確認してもらっています」


クラウドファンディングの支援者は、名古屋近辺の人ばかりではありません。棚の半分くらいは関東在住のオーナーで、村田さん自身、一度もお会いしたことがない人もいるのだとか。


「有名な作家の本なら大型書店やインターネットショッピングサイトで、購入できます。しかし、そうではない作家さんの本とは出会えないことも多い。絶版になり通常の本屋では購入できなくなった本を置いている人や、少し難解な専門書を置いている人など、それぞれ個性があっておもしろいですよ」


毎月ミニ新聞を自身で発行し、自分がお勧めする本について紹介している人もいます。路上で生活する人に、売り上げが一部還元される雑誌を置いている人も。


「この本を一箱本棚に選んだ理由をメッセージカードに書き、本に挟んで貸し出しをしている人もいます。そしてその本を借りた人がメッセージカードを読み、本の感想を書いて返却する。そうすることで感想のキャッチボールができるんです」


このように、直接対面しなくても、メッセージのやり取りをすることで、オーナーと利用者のコミュニケーションが生まれます。一箱本棚だからこそできる、本を通じた人と人とのつながりと言えます。


「先日は付箋を大量につけて返却された人もいました。返却時に付箋を取ろうとされていたのですが、この付箋はオーナーが見たらきっと喜ぶだろうなぁと思って、つけたままにしておきました」


気持ちよく利用してもらうため、貸し出しのルールはあります。しかし心音Booksではそれにとらわれすぎず、人と人が交流できる場を大切にしています。



ワークショップや個展などの企画も開催

心音Booksではワークショップや個展も開催されています。


取材でお邪魔した日は、作家・田中麻耶子さんの個展が開催されていました。企画は犬と猫にまつわるものが多いのですが、一箱本棚のオーナーからアイディアを提案されることもあるのだとか。


「これから心音Booksを多くの人に知ってもらい、ここを利用して楽しい企画展ができたらと思っています。本を借りた人同士で感想を言い合うような取り組みも面白いですね。隣に星屑珈琲さんがあるので、ママがコーヒーを飲んでいる間に子ども向けの本の読み聞かせをするのもいいかも」


そう話す村田さんの目は、夢中になってあそぶ子どものようにキラキラしていました。


今後も心音Booksの企画から目が離せません。



今後、名古屋市動物愛護推進員として活動開始

2023年3月から、村田さんは名古屋市動物愛護推進員として活動を始めます。


名古屋市動物愛護推進員とは、犬・猫等の動物の愛護や正しい飼い方について、地域の理解を深めるための活動を担うボランティアのことです。


犬・猫の殺処分方法については、厚生労働省から「動物の殺処分方法に関する指針」が出されているものの、実際には各行政に任されているのが実情なのだそうです。


名古屋市は動物愛護に力を入れており、現在殺処分はほぼ行われていません。しかし毎日のように殺処分が行われている自治体もあります。


「殺処分がほぼない名古屋市の犬・猫が全て幸せかというと、そうではないと思っています。たとえば保護猫の場合、子猫は見た目がかわいいので引き取り手はあるけれど、大きくなると引き取ってもらえない現状があります」


定期的に譲渡会が行われているものの、成長した犬・猫は引き取り手がなかなか現れないそうです。


「動物愛護が進んでいる名古屋市でも、やれることはたくさんあります。私が名古屋市動物愛護推進員として活動することで、できることを提案していきたいですね」


名古屋市では街ぐるみで野良猫を見守る「地域猫活動」も行われています。具体的には避妊去勢手術やトイレの設置、エサの管理などを行います。


「もともと飼われていた猫や犬は、自分でエサをとることができません。食べ慣れない虫や生き物をとって食べると、お腹の中に寄生虫がわく恐れもあるのです。だから人間が定期的にエサや水をあげる必要があります」


現在の名古屋市のルールでは、基本的にえさを置く場所は一戸建てに限られています。管理人がOKと言っても、現在の名古屋市のルールではマンションには置けないのだそうです。


「少しでも多くの犬や猫が救われてほしいですね。野良犬や野良猫がより快適に過ごせるよう、お手伝いしたいと思っています」



これからは店舗を増やし、よりたくさんの犬や猫を守りたい

最後に、今後の夢を伺いました。


「本屋がどんどん減っているので、心音Booksを一つのパターンにして、店舗を増やしていきたいと思っています」


理由は、収益が上がれば、より保護団体の支援ができるようになるからです。又、本棚オーナーさんはお近くにお住まいの方が多いので、店舗を増やしても競合になることが少ないと思われるからです。


「ここが人の集まれる場所になれば、街ぐるみで犬や猫とつながれます。人と人同士の点と点から、さらに広がっていけるようなつながりを大切にしていきたいですね」


取材中、訪れたお客さんの一人ひとりに声をかけて、丁寧に説明されていたのが印象的でした。


心音Booksオーナーとして、また名古屋市動物愛護推進員として犬・猫のために活動を続ける村田亨さん。今日も「全ての命が尊重されますように」と願いながら、お客さんを迎え入れています。



備考:名古屋市動物愛護推進員


備考:地域猫活動



■ 心音Books


公式HP

shinon-books.meisho-hp.jp


住所

〒464-0036

愛知県名古屋市千種区本山町4-74-1 IB本山2A


アクセス

名古屋市営地下鉄東山線・名城線「本山駅」1番出口北西へ徒歩1分


Twitter

@sanponowa_21


Instagram

@shinon_books


村田さんのFacebook

@tooru.murata.14