2022年12月10日(土)と11日(日)の2日間に、愛知県阿久比町の中央公民館で「あぐいっこTown」が開催されました。


あぐいっこTownとは子どもスタッフが町を運営し、町民の子どもたちが町で生活体験ができる「子どもタウン」のことです。公民館内を町と見立てて行われます。あぐいっこTownでは子どもが主体となり、大人が補助をしながら町を作っていきます。開催に至るまで、何度も話し合いを重ねてきました。子ども同士、また子どもと大人同士で意見が衝突することも何度もあったのだとか。


今回は愛知県阿久比町の子どもタウン「あぐいっこTown」を紹介します。大人スタッフの後藤由希子さんをはじめ、企画運営に携わるさまざまな方からお話を伺いました。



愛知県阿久比町は子育て施策に力を入れている町


愛知県阿久比町は名古屋から車で30分ほどの場所にある自然豊かな町ですが、電車やバスが発展しており、交通や生活の利便性が高い町でもあります。


阿久比町では子育て世代にうれしい、次のような取り組みがおこなわれています。


● 中学校卒業まで医療費が無料

● 全小中学校の教室にはエアコン完備

● 幼保小中学校一貫教育の導入

● ママを一人にしない子育て支援センター「あぐぴっぴ」

● 子育てを助け合うボランティア「あぐいファミリー・サポート・センター」

● あぐいっこTown


このように子育て施策が充実している阿久比町。あぐいっこTownは、どのような活動が行われるのでしょうか。



あぐいっこTownとは


あぐいっこTownは子どもたちが仮想の町の構想を練り、自分たちの手で作り上げていく取り組みです。基本的に、企画して町を運営するのは子ども。大人は子どもが決めたことを実現できるよう、フォローする役割があります。


あぐいっこTownだけで使える通貨は「あぐ」。町民は入場時に100あぐをもらえ、もっとあそびや買い物をしたい場合は自分で稼ぐ必要があります。


あぐいっこTownの中で労働をすることでお金を稼げる、まるで本当の町のようです。



その労働ですが、町の中には実際にハローワークが用意されており、求人情報から自分の好きな仕事を選び、働くことができます。


労働を終えて銀行へ行くと、お給料がもらえる仕組みです。


その際、隣接されている税務署で税金を支払わなければなりません。


労働の対価に「あぐ」がもらえ、お買い物をしたり遊んだりできます。


町には不動産屋があり、起業することも可能。100あぐを支払うことで自分の販売スペースが借りられ、自分の作ったものをフリーマーケットのように販売できる仕組みです。



そして、あぐいっこTownは町なので、町長もいます。


「町の様子を見て回っています。みんなのやる気を引き出すために、声かけもしています」


町長は選挙で選出されますが、今回は一人の立候補者で決まったとのこと。あぐいっこTownでは町民思いの、とても立派な町長が就任しました。



「子どもタウン」の始まりはドイツのミュンヘン


「子どもタウン」は、ドイツのミュンヘンが始まりです。7歳から15歳までの子どもたちが、自分たちで町を作り運営する取り組みを行っています。ミュンヘンの子どもタウンには、小さな都市という意味で「ミニ・ミュンヘン」の名がつけられています。ミニ・ミュンヘンでは自分たちの町の通貨を使い、その町にあるほしいものを購入したり、働いて税金を納めたりが可能です。


その取り組みが日本に導入されたのはおよそ15年前。ドイツとは違う社会制度や文化があるため、それぞれの地域に合わせた内容で開催されていることが多いようです。



クラウドファンディングで多くの人に認めてもらえたあぐいっこTown

あぐいっこTownは2016年に初めて開催されました。子育てサークル「むぎむぎ」のメンバーがミニ・ミュンヘンの存在を知り、「子どもタウンを阿久比でもやりたい!」と声をかけたことがきっかけでした。


2016年と2017年は町からの予算が下りましたが、2018年は予算が下りませんでした。


そこで阿久比町独自の制度「住民税1%町民予算枠制度」のわくわくコラボ事業を利用することになったのです。住民税1%町民予算枠制度のわくわくコラボ事業とは、町民のアイデアや思いを形にするための予算のこと。町民活動団体が自主的・自発的に行う、公益的なまちづくり事業を応援する阿久比町独自の取り組みです。採択された事業は、対象となる経費に対し、全額補助を受けられます。


あぐいっこTownの企画は無事審査が通り、住民税1%町民予算枠制度の予算で開催することとなりました。

「2018年は住民税1%町民予算枠制度を利用しました。しかし本来ならあぐいっこTownはボランティアではなく、町が主催する事業だと考えています。またそれに値する事業であると自負しています」


「2019年度は住民税1%町民予算枠制度を利用せず、他にもクラウドファンディングを立ち上げることにしました。最終的には総額275,500円の支援を受けることになったんです」


クラウドファンディングの結果をもって、あぐいっこTownはこれだけ多くの人が応援してくれる事業なのだと証明できました。実績を作り上げたことで予算要求の説得力が増し、再び町からの予算が下りることに。


2020年と2021年はコロナの影響により中止。そして2022年、2年ぶりの開催となりました。今回は町からの予算が下り、主催は町の社会教育課、業務は子育てサークルの「むぎむぎ」に委託されることとなりました。



子ども同士、子どもと大人でぶつかり合うことも


あぐいっこTownでは子ども達が考えて町を作っていくため、意見の交流が欠かせません。その中で意見が衝突し合うこともあったそうです。


「子ども同士で意見の食い違いからケンカになっても、大人はできるだけ口出ししないようにしています。思わず言いたくなっちゃうこともあるのですが(笑)」


スタッフが口出ししすぎてしまったときは、大人同士のミーティングでお互いを注意し合うのだとか。


「あぐいっこTownは子どもが主です。大人は学校の先生のように、立場が上ではなく対等なんです。だから子どもと大人がガチンコでぶつかり合うこともあります」


しかし中には意見が言えず、どんなことがしたいのかがわからない子も。そのようなときは、どのように対応するのでしょうか。

「子どもたちの話をしっかり聞くことが大事ですね。基本的に企画は子どもが考えます。でもやりたいことが見つからない子には、会話の中で思いを少しずつ引き出す援助をしています。 こんなことが好きなのかな、と思ったら『じゃあこうしてみようか』と声をかけるなど、誘導しすぎないように援助しています」


たまに子どもが間違えて、大人スタッフを「先生」と呼ぶこともあるのだとか。


「大人スタッフを先生と意識させてしまってはダメなんです。ここでは子どもと大人に上下関係があってはいけないので、“先生”と呼ばれると反省しています」



あぐいっこTownの当日の様子


開始時刻の1時間前から、お客さんは列をなしていました。


対象は小学校1年生から中学3年生まで。町に入るには、住民票の登録が必要です。基本的に保護者は入れません。保護者が入れるのは、あぐいっこTownを見学できる「観光ツアー」に参加する人のみです。



あぐいっこTownは5つのお店と、放送局や大人が参加できる観光ツアーも用意されていました。


お化け屋敷



プラ板作り



駄菓子屋



花屋



ゲームコーナー


これらの企画は、もちろん子どもたちが考えます。最初は30〜40個くらい、お店のアイデアが出るそうです。


「全ての企画ができるわけではないこと、予算が限られていることを子どもたちに伝えます。そうすることで子どもたちは運営できる企画を選んでいきます」


お店の持ち場担当は、子どもたちで決めていきます。しかしお店によっては人数に偏りが出ることも。


「そんなときでも大人はほぼ関与しません。子どもの主体性に任せています」


大人が役割を割り振らなくても、子ども自身で人数が足りないお店に移動したり、友達をあぐいっこTownのスタッフに勧誘したりしているそうです。


「あぐいっこTownでは、活動していく中でうまくいかないことがあります。しかし、たとえ失敗しても、たいしたことではないのです。子どもが自分たちで考えることが大切だから」


失敗しても自分たちでやったという事実は残ります。次の活動につなげられるかもしれないし、あぐいっこTownとは別のところでその失敗が活きるかもしれない。 失敗を恐れずに活動するのが大事だと話します。



子どもたちの成長を感じられた半年間


スタッフのミーティングは月に2回、企画から開催までの約半年間にわたって行われます。あぐいっこTownは多様な子どもが参加します。意見は持っていても、なかなか言えない子。逆に自己主張が強い子、さまざまです。


個性のある子どもが集まる中で、このようなエピソードもあったそうです。


「もともと意見の主張を得意とする子がいました。第一回目の会議から、私は◯◯したい!と意見は伝えられるものの、人の意見はあまり聞けなくて。でも開催直前の会議で、他のスタッフに『これはどうしたらいいかな?そこはどう思う?』と聞くようになったんです」


会議を繰り返す中で、その子は人の意見にも心を寄せるようになっていったそうです。このように子どもの成長を間近で見られるのがとてもうれしいのだと、大人スタッフの方が話してくれました。


「もし、あぐいっこTownの取り組みの中で何かを感じ、それがその子の成長につながっているのだとしたら、うれしいですね」 



あぐいっこTownを終えて


あぐいっこTownを終えたあとの感想を伺いました。


子どもスタッフからは「成功してよかった」「考えるのが大変だったけれど楽しかった」などの意見がありました。一方「意見を聞いてもらえなかったときは悲しかった」と、正直な感想も寄せられたそうです。


「子どもが作る町とはいえ、あぐいっこTownは町の運営です。事業として活動していく以上、楽しいだけではやっていけません。本当のまちづくりのように、意見の衝突も避けられず、思い通りにならない出来事もあります。できるだけ嫌な思いをしないで過ごしてほしいと思いますが、これからの生活であぐいっこTownの経験を活かしていってほしいとも思います」


そして大人スタッフは「子どもスタッフの成長が見られた」「団結力が増していった」との意見がありました。今後の課題にも目を向けられており、より成長したあぐいっこTownの開催が期待できることでしょう。 



最後に


あぐいっこTownは両日ともに大盛況。たくさんの子ども住民があぐいっこTownに訪れました。 最後に、後藤さんから今後の夢を伺いました。


「今は私たちがボランティアでやっていますが、いずれは大学生や高校生スタッフに運営を任せたいと思っています。大人スタッフは予算を集めたり、会場を確保したりと裏側に回る形ですね」


大人は裏側でいい。子どもや学生が主体的に町を運営していってほしいという思いが、一貫してあるようです。


開場時間の少し前に、ハローワークで子どもたちが打ち合わせをしていました。前日の反省を活かし、こうしたほうがいいのではないかと、みんなで話し合っていたのです。


子ども同士で意見を出して、よりよいものを作り上げていく場面を垣間見られました。そこに、大人の援助は必要ありませんでした。


「阿久比町では高校生になると、多くの子が別の市や町へ進学するようになります。知らない町へ行き、知らない人が多い中で生活することになるでしょう。そこであぐいっこTownの経験が少しでも活かされてくれれば、こんなにうれしいことはありません」


開催までの会議を通して、子どもスタッフは主体性や社会性を学んでいきます。また町民の子どもたちは、あぐいっこTownに参加することで社会の仕組みを学びます。


あぐいっこTownは、これからもたくさんの子どもたちを喜ばせ、成長させてくれるでしょう。今後のあぐいっこTownや阿久比町の子どもたちの成長に期待です!



■ あぐいっこTown


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